鹿児島県の学力向上に向けて-学校改善支援プラン-

鹿児島県検証改善委員会(鹿児島学力向上推進委員会)

はじめに

 鹿児島県においては、学力の向上に向けて「基礎・基本」定着度調査の実施や中学校学力向上推進事業、家庭学習60・90運動などの様々な施策が展開されている。
 このような中、平成19年4月に国語、算数・数学に関する学力や学習状況に関する全国学力・学習状況調査が実施された。この調査には本県のすべての小学校6年、中学校3年の児童生徒が参加し、その調査結果が10月に公表された。
 この調査の目的は、実施要領によれば、全国的な義務教育の機会均等とその水準の維持向上の観点から、教育の結果と課題を検証し、改善を図ることである。
 本報告書は、鹿児島県全体の検証改善サイクルの一環として、まず、本調査における国語、算数・数学の教科の学力や地域や学校規模等の特性、児童生徒の学習・生活習慣、学校の取組等に関するデータや「基礎・基本」定着度調査の結果等を分析すると共に、本県のこれまでの諸施策を検証し、学力向上のための施策や学習指導のあり方等について課題や改善方策を提言したものである。

1 検証改善委員会の体制について

 鹿児島県学力向上検証改善委員会(以下、「検証改善委員会」という。)は、鹿児島大学教育学部長である河原尚武を委員長として、鹿児島国際大学大学院の学識経験者1名、県PTA連合会等の小・中学校関係者2名、経済団体の代表者1名、鹿児島市及び市町村教育委員会の教育長代表者2名、小・中学校長代表者2名、県総合教育センター代表者1名、県教育委員会代表者1名の計11名から構成される委員会である。
 また、本委員会の他に、特に鹿児島大学教授を中心とした調査分析作業部会を設け、検討を行った。
 検証改善委員会については、10月から3月まで4回、調査分析作業部会については、11月~2月まで5回開催し、学校改善支援プランをまとめた。

2 全国学力・学習状況調査の結果概要

 検証改善委員会では、本県の全国学力・学習状況調査結果について、次のようにまとめた。

(1)各教科の結果概要

  • 1 公立小・中学校は全国の結果と同様に知識に関する問題(A問題)は概ね理解しているが、活用に関する問題(B問題)については課題が見られた。
  • 2 国語は小・中学校のA・B問題とも全国の平均をわずかに上回るが、数学はA・B問題とも全国平均をわずかに下回り、その差は、小学校B問題で最大2.2パーセントであった。
  • 3 全体的に無答率が低いことから、本県の児童生徒の解答意欲の高さがうかがえた。

(2)生活習慣・学習習慣についての結果概要

  • 1 本県の児童生徒の学校外での勉強時間は、全国の児童生徒より若干多く、一日のテレビやビデオの視聴時間は少ない状況である。
  • 2 通塾率は低く、今住んでいる地域の行事へもよく参加している。
  •  本県の児童生徒は、総じて基本的な生活習慣が備わり、落ち着いた生活を過ごしているようである。

3 全国学力・学習状況調査の結果分析について

 次に、本県の調査結果を検証改善委員会で詳細に分析した結果を課題等も含めて述べる。

(1)各教科の分析

[小学校国語]

  •  漢字の読み書きや指示語、接続語などの基礎的な知識や技能は概ね定着。
  •  内容や文章構成を理解した上での要約や、視点を明確にした書き換えが苦手。
  •  主として「知識」を問う問題では、
    • 1 辞書の効率的な活用の定着が不十分。
    • 2 スピーチの条件として、場に応じた声の大きさや速さについては理解。聞き手の表情や反応を確かめながら話すことは不十分。
    • 3 物語文の登場人物の心情の読み取りについて、表現がどの視点で書かれているのか理解が不十分。
  •  主として「活用」に関する問題では、
    • 1 話し合いを進める上での司会者の役割の理解が不十分。
    • 2 叙述を踏まえた上で、理由をとらえ、要約することに課題。
    • 3 二つの文章を比べて読み、評価し、自分の考えをまとめることに課題。
    • 4 全体をとらえたり、表現の意味を熟考したりするような読み方は不十分。

[中学校国語]

  •  国語学習の基礎科目としての大切さを理解し、学習意欲も高く解答に当たっての無答率も低い。
  •  漢字の読み書きは、正答率が高いものもあるが、全般的には定着が低い。
  •  図表、グラフ、写真などの資料から、共通点を探したり、相違点を説明したりする力の育成が必要。
  •  自分の考えを記述する問題への取組や文章を朗読する際の読み方の工夫等についても指導が必要。
  •  文章を話の展開に沿って二つに分けた場合の朗読の工夫について理解が不十分。

[小学校算数]

  •  四則計算や身の回りの量と測定、図形の性質など基礎的な知識・技能は概ね定着。
  •  変化の様子を調べることや、事象を数学的に考え、解釈したり、必要な情報を取り出して考えたりする力は不十分。
  •  算数Aと算数Bの相関から活用の力には知識が不可欠。知識の多さと活用する力との関連性は不明確。
  •  小数の情報の意味理解を基に問題場面から演算決定する力を身に付けさせることが必要。
  •  二つの変わる数量の関係を調べて表にまとめたり、その表から変化の規則性を読みとったりする力を身に付けさせることが必要。
  •  物事を数量、図形などに着目して観察し的確にとらえたり、情報を分類・整理して適切に選択したりすることに課題。
  •  事象を数学的に解釈したり、ある事柄を基にして筋道を立てて考えたり、その過程を説明したりするなどの学習経験が必要。

[中学校数学]

  •  計算や式の値を求めることや、一元一次方程式の解法の技能などは定着。
  •  文字式の意味、文字式を使った説明、方程式などの式の変形はやや不十分。
  •  式から性質を読みとったり、説明したり、式が条件に合うかどうかを判断することが苦手。
  •  平面図形の性質など基礎的な知識理解は良好。
  •  実感を伴った空間図形の性質の理解、例えば、空間の辺や面の垂直、平行関係や円柱と円錐の関係の理解等に課題。
  •  証明に関する事柄の理解、例えば、図形の証明の性質を記号で表現したり、証明の誤りを指摘したり修正したりすること等の理解に課題。
  •  比例や一次関数等の基礎的な知識理解に関しては概ね定着。
  •  反比例や確率の理解に課題。
  •  数量の関係を理想化したり実際のデータを単純化したりして、数学的に表現することなどに課題。

(2)学習状況調査の児童質問紙における特徴ある結果

  • 1 本県の児童生徒は全国に比べて小・中学校とも家庭学習1時間以上の割合が高い。
  • 2 本県の児童生徒は全国に比べて小・中学校とも通塾率が低い。
  • 3 一日あたりのテレビゲームやインターネットを2時間以上する割合は全国に比べて低い。
  • 4 本県の小・中学生は、家で食事をするときは、テレビをいつも見ている割合が全国より高い。
  • 5 本県の小・中学生は、全国に比べて地域の行事に積極的に参加している。

(3)学習状況調査の学校質問紙における特徴ある結果

  • 1 算数・数学の授業で、習熟の遅いグループに対しての少人数指導や個別指導を行っている割合は、小学校は全国とほぼ同じであるが、中学校はやや全国より高い。
  • 2 算数・数学の授業で、習熟の早いグループに対して発展的な内容の指導を行っている割合は、中学校で全国に比べてやや高い。
  • 3 授業を伴う校内研修は、小学校は年7回以上が全国に比べて少ない。
  • 4 PTAや地域の人々が学校の諸活動にボランティアとして参加する割合は、全国に比べて高い。
  • 5 保護者や地域の人々の意見を参考にして学校の教育目標を作成している割合は、全国に比べて高い。
  • 6 家庭への定期的な連絡法として、学級便りまたは学校便りを発行する割合は、小学校、中学校とも全国に比べて非常に高い。

(4)地域や学校規模の特性と平均正答率との関係に関する分析

1 地域規模による学力の傾向

 中核都市においては、本県は国語Bがやや高く、その他はすべて同程度である。中核都市を除くその他の地域においては、本県は中学校数学がやや低いが、その他はすべて同程度である

2 学校規模による学力の傾向

 小・中学校とも平均正答率に大きな差は見られないが、学校教育法施行規則第41条・第79条による標準学級(12学級から8学級)に該当する小学校の平均正答率は県の平均とほぼ同じであり、中学校では県平均よりやや高い数値になっている。

3 学級規模による学力の傾向

 小学校では児童数による平均正答率の差はほとんど見られないが、中学校では、他の規模と比べて、7人以下、13~20人規模の学校でやや高く、8~12人、21~25人、26~30人規模の学校でやや低い傾向を示している。

4 複式学級を有する学校の学力の傾向

 小学校の各教科の平均正答率は、算数B以外の教科はすべて県の平均正答率をわずかに上回っているが、複式学級を有する学校とそうでない学校の平均正答率は同程度である。

(5)児童生徒の学習・生活習慣と平均正答率との関係に関する分析

1 学習習慣・学校生活に関して

  •  小学校では、「平日の学習時間」が「2時間以上3時間未満」と回答した児童は、国語Bの平均正答率が高く、「3時間以上」と回答した児童では、国語B、算数Bの平均正答率がやや高い。
  •  中学校では、「3時間以上」と回答した生徒はすべての教科において平均正答率がやや高く、「2時間以上3時間未満」とした生徒も国語Bと数学A、Bでやや高い。
  •  小・中学校ともに、「30分未満」、「全くなし」と回答した児童・生徒は、国語A・B、算数(数学)A・Bの平均正答率がいずれも低い。

2 学習塾での勉強に関して

  •  「学校の勉強より進んだ内容や、難しい内容を勉強している」と回答した児童生徒は、小学校で国語B、算数A・B、中学校で数学A・Bの平均正答率が高い。
  •  「よく分からなかった内容を勉強している」と回答した児童生徒は、平均正答率がいずれも低い。
  •  「塾に通っていない」と回答した児童生徒は、小・中学校とも中学校数学A・Bを除くすべての教科の平均正答率が全国とほぼ同じ程度である。

3 生活習慣について

  •  「学校に持っていく物を確かめる」において、「している」と回答した児童生徒は、小学校で国語B、中学校で国語B、数学A・Bの平均正答率がやや高い。
  •  「あまりしていない」、「全くしていない」と回答した児童生徒は、小・中学校とも、国語A・Bと算数(数学)A・Bのすべての平均正答率が低く、全国と同様の傾向にある。

4 地域・社会への関わりについて

 小学校・中学校問わず、ほとんどの項目において、「全くない(当てはまらない)」と回答した場合においてのみ、国語A・B、算数(数学)A・Bのすべて(ほとんど)の平均正答率が低い。

5 自己・社会性について

 「ものごとを最後までやりとげてうれしかったことがあるか」については、小・中学校ともに、「どちらかといえば当てはまらない」「当てはまらない」と回答した場合において、国語A・B、算数(数学)A・Bのすべての平均正答率が低い。

6 自然・生活体験について

 小学校・中学校問わず、ほとんどの項目において、「全くない(あてはまらない)」と回答した場合においてのみ、国語A・B、算数(数学)A・Bのすべて(ほとんど)の平均正答率が低く、全国とも同傾向である。

(6)学校質問紙の内容と平均正答率との関係に関する分析

1 就学援助費を受けている子どもの割合と学校の平均正答率との関係

 小・中学校ともに就学援助費を受けている子どもの割合による平均正答率の差はほとんど見られない。

2 児童生徒が熱意をもって勉強をしている学校と平均正答率との関係

 小・中学校を問わず児童生徒が熱意をもって勉強していると回答している学校の方が、平均正答率が高い傾向が見られる。

3 キャリア・スタート・ウィークの実施と学校の平均正答率との関係

 連続する5日間の職場体験学習を実施している中学校は、平均正答率がやや高い傾向が見られる。

(7)平均正答率の高い学校と低い学校に見られる特徴

 本県では、正答率の高い小学校30校、中学校20校、低い小学校30校、中学校20校(ただし、受検者数9人以下の学校を除く)について、その特徴を調べ、次の項目で差があった。

[児童生徒質問紙]

  •  勉強をする時間を自分で決めて実行していますか
  •  家で学校の宿題をしていますか
  •  家で学校の授業の予習をしていますか
  •  家で学校の授業の復習をしていますか
  •  学校の授業時間以外に、ふだん(月曜日から金曜日)、1日当たりどれくらいの時間勉強しますか
  •  土曜日や日曜日など学校が休みの日に、1日あたりどれくらいの時間、勉強しますか
  •  家や図書館で、ふだん(月曜日から金曜日)、1日あたりどれくらいの時間、読書しますか
  •  学校のきまり(規則)を守っていますか
  •  学校に持って行くものを、前日の朝に確かめていますか
  •  ものごとを最後までやりとげて、うれしかったことがありますか
  •  将来の夢や目標を持っていますか
  •  「総合的な学習の時間」の授業で学習したことはふだんの生活や社会に出たときに役に立つと思いますか

[学校質問紙]

  •  児童(生徒)は、熱意をもって勉強していると思いますか
  •  児童(生徒)は、授業中の私語が少なく、落ち着いていると思いますか
  •  児童(生徒)は、礼儀正しいと思いますか
  •  児童(生徒)に対する算数(数学)の指導として、家庭学習の課題(宿題)を与えましたか
  •  学校図書館図書標準が達成されていますか

4 学校改善方策案

 検証改善委員会では、3で述べた分析等を受けて、学力向上施策等に関する改善方策案を以下のようにまとめた。

(1)学力向上施策等に関する改善方策案

  • ア 学校現場での授業改善
    •  効果的な教育課程の編成
    •  習熟の程度に応じた適切な指導方法の確立
    •  補充指導、発展指導の工夫
    •  特別支援学校の教育課程の工夫
  • イ 学校マネジメントの在り方
    •  学力向上アクションプランの策定・実施
    •  具体的な目標や解決策の精選と評価結果の検証・改善
    •  学校評価ガイドラインの作成
    •  市町村教育委員会による指導
  • ウ 指導主事等の指導の在り方
    •  積極的な学校訪問指導
    •  課題の大きな学校への支援
    •  学校の改善につながる指導
  • エ 研修の在り方
    •  行政研修等(校外研修)における工夫
    •  校内研修の見直し
    •  管理職のリーダーシップ
    •  模範的な授業例等の動画での提供
  • オ 研究指定の在り方
    •  実態や変容の的確な把握
    •  運営面での負担軽減
    •  研究成果の共有化
    •  指導上困難のある学校の研究推進
  • カ 中学校学力向上推進事業等の在り方
    •  学力調査結果との相関分析及び検証
    •  事業終了以降の研修体制の確立
    •  学力向上研究員の継続活用
    •  家庭学習の充実
  • キ 指導資料(鹿児島ベーシック)の在り方
    •  鹿児島ベーシックに関する取組の紹介
    •  鹿児島ベーシックの内容改善
  • ク 「基礎・基本」定着度調査との関係
    •  総合的な学力の把握
    •  調査問題の積極的活用
  • ケ 進路指導の在り方
    •  啓発的体験学習の推進
    •  進路指導と学業指導
  • コ 学力向上に向けた小・中・高連携
    •  小・中学校の連携の拡充
    •  中・高校の実践的な連携

(2)児童生徒の生活習慣、学習習慣に関する改善方策案

  • ア 児童生徒の学習・生活習慣
    •  家庭との連携の更なる充実
    •  小・中連携の促進
    •  魅力ある教育活動の実践
    •  全職員による児童生徒の指導体制の確立
    •  体験活動の充実と地域の人材活用
  • イ 家庭学習の在り方
    •  家庭学習定着に向けての基本方針策定
    •  家庭との連携
    •  家庭・地域への啓発
  • ウ 学習に向けての環境づくり
    •  学校の活性化へ向けての教職員の取組
    •  地域ぐるみで子どもを育てる環境つくり
  • エ 部活動に関する取組
    •  学校の基本方針に基づく部活動等の徹底
    •  部活動顧問による学習指導

(3)諸条件の整備その他に関する改善方策案

  • ア 人事管理の在り方
    •  課題が大きな学校への教員配置の工夫
    •  学校への加配措置の工夫
    •  指導力の優れた教員の活用
    •  教職員の人事評価制度の活用

5 学校改善方策案を受けての取組

 4で述べた学校改善方策案は、各学校の現状や教育委員会の施策等について課題を明確にし、これからの各学校での取組、市町村教育委員会での取組、県教育委員会での取組等を具体的に示している。各関係者においては、それぞれ危機意識を持ち具体的な対策を立てるとともに、検証改善サイクルのシステムを構築し、実効性を高めていくことが大切である。

6 おわりに

 本報告書「鹿児島の学力向上に向けて」(-学校改善支援プラン-)を県内小・中学校及び各市町村教育員会、教育事務所(支所)、関係教育機関等に配付するとともに、概要版は県教育委員会のHPで広く広報に努めていただきたい。
 検証改善委員会としては、学校改善方策案の具現化がなされ、本県の児童生徒の学力向上の礎となることを期待しているところである。

(参考)

平成19年度学力向上検証改善委員会報告書〈概要〉
(※鹿児島県ホームページへリンク)

-- 登録:平成21年以前 --