高知県学校改善支援プラン-確かな学力の育成を目指して-

高知県検証改善委員会

はじめに

 子どもたちに「確かな学力」を身に付けさせ、学力向上を図ることは、本県の教育にとって大きな課題であり、平成9年度から18年度までの土佐の教育改革においても最重要課題として位置付け、取り組んできた。
 平成19年度においては、子どもたちの確かな学力の育成を目指して、学力向上拠点形成事業や学力向上フロンティア事業をはじめ、研究指定校による実践研究を推進してきた。また、中学校に焦点を当てた学力向上の取り組みとして、中学校授業力向上や数学の授業改善に特化したプロジェクト事業等の取り組みを行い、教員の授業力向上を図ってきた。
 このような中、4月に全国学力・学習状況調査が実施され、この調査結果から、あらためて基礎的な知識・技能の定着についての課題やそれを実生活に活用する力に課題があることが明らかになった。
 さらに、これまでも本県の課題として捉えてきた中学生の学力低下が、本調査結果からさらに明らかなものとなり、この課題を解決することは本県の教育施策における喫緊の課題と位置づけられた。
 これを受け、本検討委員会では、調査結果を様々な角度から分析し、調査結果から見える本県の子どもたちの学力の現状と課題、さらにその改善策について検討を行った。

1 検証改善委員会の体制について

 本県の検証改善委員会は、「高知県学校改善支援プラン検討委員会」の名称で、本山町教育長である岩塚忠男氏を委員長として、推進委員会と専門調査委員会の2つの委員会で構成し、分析・協議を行った。
 推進委員会は、県内の大学教員、小・中学校長及びPTA関係者、市町村教育委員会関係者等、12名の委員から構成される委員会である。また、専門調査委員会は、高知県教育委員会事務局の指導主事15名を中心としたワーキング部会であり、推進委員会への分析結果の報告を行った。

【高知県学校改善支援プラン検討委員会】

2 学校改善支援プランの概要

 調査結果から見える本県の子どもたちの学力の課題として、特に中学校における学力の定着状況において、知識・技能やこれらを活用する力ともに大きな課題が見られた。
 さらに、質問紙調査結果からは、家庭学習の時間や宿題をしている割合の全国との比較において、大きな課題があるという結果が明らかになった。
 このことから、その改善策の検討をするうえで、次の4つの視点から学校改善を図る必要があると考えた。

  • (1)学校における組織的な学力向上
  • (2)教科の枠をこえた中学校授業力向上
  • (3)国語、算数・数学における指導方法の工夫改善
  • (4)学習意欲の向上と学習習慣の定着のための学習環境づくり

3 全国学力・学習状況調査の結果分析について

 本県の全国学力・学習状況調査の結果分析において、以下の点が明らかになった。

(1)学力の状況

  • 1 小学校の国語と算数の平均正答率は、ほぼ全国水準であるが、中学校においては国語A(基礎)問題以外は全国水準を下回っており、特に、数学B(活用)問題は全国水準を大きく下回っている。
  • 2 小・中学生ともに、基礎的な知識や技能を実生活等で活用する力が弱い。
  • 3 無解答率は中学生において全国と比べて高くなっている。特に、B(活用)問題や記述形式の問題は無解答率が高い。
  • 4 市町村や学校によって、学力の定着状況や取り組みに格差が見られる。

〔課題〕

  • 1 小学生段階と中学生段階での、学力の定着状況の格差が大きい。
  • 2 小学生においては、基礎的な知識は概ね身に付いているが、読解力や書く能力等、応用力は十分に身に付いていない。
  • 3 中学生は、基礎的な知識とその基礎的な知識を活用する力の両方ともに身に付いておらず、特に数学は分数の割り算や正負の四則計算など数学の土台となる基礎的な計算問題や簡単な代数の問題ができていない生徒が多い。

(2)児童生徒の学習や生活の状況

1 基本的生活習慣

 朝食を毎日食べることや睡眠時間の状況は、全国とほぼ同様である。

2 家庭学習

  • ア 学校の授業時間以外で1日当たり1時間以上勉強している割合は、小学生は全国とほぼ同様であるが、中学生は全国と比べて著しく少なくなっている。また、勉強を全くしない中学生の割合も全国と比べて多い。

    <学校の授業時間以外に、普段(月曜日~金曜日)、1日当たりどれくらいの時間、勉強をしますか>

    【小学校における全国との比較】
    【中学校における全国との比較】
  • イ 予習をしている小・中学生の割合は、ともに全国と比べて少ない。
  • ウ 宿題をしている小学生の割合は全国とほぼ同じであるが、中学生の割合は全国と比べて少ない。

    <家で学校の宿題をしていますか>

    【高知県における小・中学校比較】
〔課題〕

 本県の中学生の25パーセントの生徒が授業以外で1日当たり学習する時間が30分より少なく、全く勉強していない生徒も1割以上いる。
 また、宿題や予習をしている割合も全国と比べて少なく、家庭での学習が十分に定着していない。

3 学力との相関

  • ア 国語や算数、数学の勉強が「好きである」、「大切である」、「よく分かる」と思っている小・中学生ほど平均正答率が高い傾向が見られる。
  • イ 「家庭学習・学習時間」「学習に対する関心・意欲・態度」「規範意識等」「基本的生活習慣」に関する質問に肯定的な回答をした小・中学生ほど平均正答率が高い傾向が見られる。
〔課題〕
  • ア 家庭学習につながるような授業づくりが必要である。
  • イ 家庭・地域と連携して家庭学習の習慣を定着させる取り組みが必要である。

(3)学校の取り組みの状況

1 研修

  • ア 小学校においては、講師を招聘して校内研修を行っている割合は全国と比べて多い。
  • イ 中学校においては、基礎学力定着のための研修等を行っている割合は全国と比べて多い。しかし、教科に関するより専門的な研修が小学校に比べると少ない。
  • ウ ICTを活用した授業のための研修を実施している割合は、全国と比べて非常に少ない。
〔課題〕

 特に、本県には小規模校が多く、教科担任が1人の中学校が多いため、複数の教員で切磋琢磨する機会に恵まれておらず、教科の専門性を高める研修が十分に行われていない。

2 開かれた学校づくり

  • ア 小・中学校ともに、児童生徒による授業評価や、保護者や地域住民による外部評価はよく実施している。
  • イ 自己点検評価結果を学校運営の改善に生かしている中学校の割合は、全国と比べて少ない。
  • ウ 小・中学校ともに、学校の教育活動についてホームページを開設して情報提供を行っている割合は、全国と比べて非常に少ない。
〔課題〕

 評価結果が改善策に十分反映されていない。

3 学力との相関

 小・中学生が「熱意を持って勉強している」「私語が少なく落ち着いている」「礼儀正しい」と認識している学校ほど、平均正答率が高い傾向が見られる。

4 学校改善支援プランについて

 学校改善支援プランは、教員が授業力を高め、子どもたちが、「確かな学力」を身に付けるために、高知県として重点的に取り組んでいくものである。
 各学校や市町村教育委員会でも、学校改善支援プランの視点を柱として、子どもたちが意欲的に生き生きと学ぶために課題を整理し、改善のための具体的な取り組みを推進していく必要がある。このことを踏まえて、県教育委員会に次の4点についての提言を行った。

(1)学校における組織的な学力向上

  • 1 組織としての取り組みの弱さに課題がある。学校長のリーダーシップのもと、学力向上のためのPDCAサイクルの確立を図る。
  • 2 校内研究体制を見直し、組織力を向上させる。
  • 3 研究のリーダーとなる教員を育成し、教員の意識改革を図る。

(2)教科の枠をこえた中学校授業力向上

  • 1 中学校においては、授業を中心とした実践交流を推進する。
  • 2 全ての教科において、授業の基本となる学習展開(授業のスタンダード)を作成する。
  • 3 国語科のみならず全ての教科において、「読む力」や「書く力」を育成する指導方法の工夫改善を行なう。
  • 4 生徒が授業で活躍する授業づくりのために授業力の向上を図り、授業改善を行う。

(3)国語、算数・数学における指導方法の工夫改善

  • 1 国語の学習においては、様々な文章の内容・情報を的確に読み取ることや、文章の中から読み取ったことを書き換えたり、自分の考えを書きまとめたりする活動を行なう。
  • 2 算数・数学の学習においては、知識・技能の定着のために、基本的な問題の反復を行い、また、その学習内容を活用できる力を育成する。

(4)学習意欲の向上と学習習慣の定着のための学習環境づくり

  • 1 授業と家庭学習のサイクル化を図り、家庭や地域と連携して学習環境づくりに取り組む。
  • 2 学び方や学ぶ意味が実感できる授業づくりに取り組む。
  • 3 義務教育9年間で、小・中学校、家庭の役割を見直し、連携して学力向上を図る。
  • 4 中学校の部活動の取り組みを見直し、家庭での学習時間を確保する。
【学校改善支援プランの構想図】

5 学校改善支援プランを受けた取組について

 学校改善支援プランの周知を図るために本年度はまず、次の説明会等を実施し、全国学力・学習状況調査結果の分析結果と学校改善支援プランについての説明を行った。

1 市町村教育委員会への説明

  • ア 市町村教育長会での説明(12月)
  • イ 市町村指導事務担当者会等への学校改善支援プランの周知(12月)

2 小・中学校教員への説明

  • ア 高知県校長会での全国学力・学習状況調査結果の説明及び学校改善支援プランの周知
  • イ 全国学力・学習状況調査結果説明会における学校改善支援プランの説明(12月5日、2月19日の2回実施計300名参加)

3 促進事業における取り組みの啓発

 各市町村に家庭学習に関するリーフレットを配付

4 平成20年度における主な事業

 学校改善支援プランを踏まえた平成20年度における主な事業は以下のとおりである。

  • ア 校内研修事例集の作成
  • イ 学力改善推進モデル事業による効果的な取り組みの情報発信と支援プランの普及
  • ウ 推進モデル校における情報発信及び研究発表会の開催
  • エ 指導主事による計画的な市町村及び学校支援
  • オ 中学校数学授業改善プロジェクトの実施
  • カ 少人数指導の充実等

6 学校改善支援促進事業について

 学校改善支援プランの促進のための取り組みとして、後期の学校改善促進事業に応募し、11月末に選定された。
 本事業のテーマとして、学校改善支援プランの視点のひとつである「学習意欲の向上と学習習慣定着のための学習環境づくり」を取り上げ、家庭学習サイクルの確立を課題として、高知市の全中学校において次の4つの取り組みを行った。

  • 1 非常勤講師「学力向上支援員」の配置(中学校18校、のべ21人)
  • 2 保護者向け啓発リーフレットの配付(小・中学校の全ての保護者)
  • 3 基礎問題集「家庭学習ノート」の配付(中1・中2)
  • 4 学力調査の実施(中1・中2)

 これらの取り組み内容の決定にあたっては、これまでも学校現場から学習に遅れのある生徒への個別的な支援を行うための人的配置や、家庭において基本的な生活習慣を身につけさせることの大切さを保護者に情報発信すること等について、強い要望を受けていたことを考慮した。

具体的な取り組みについて

(1)非常勤講師「学力向上支援員」の配置

 12月から3月まで、非常勤講師として「学力向上支援員」を中学校18校に延べ21名を配置した。職務内容は、ティームティーチング、補習の補助、家庭学習の点検・課題の作成、生徒の個人データの作成などで、学力向上支援員は多感な中学生に対して柔軟かつ積極的に関わった。
 支援員の採用にあたっては、教員免許所有者を優先した。その内訳は教員免許所有者が13名、教員志望の大学生4名、これまで教員補助員として学校で勤務した経験がある者2名、その他2名となっている。

(2)保護者向け啓発リーフレットの配付

 全国学力・学習状況調査における質問紙調査結果の分析から、高知市の中学3年生は学校以外での学習時間が少なく、家庭で宿題をしている生徒の割合も少ない。
 また,学力の状況との相関においては、学力が高い生徒ほど家庭で宿題をしている割合も高いこと、家族とのかかわりや家庭環境と学力には大きな相関があることが改めて明らかとなった。
 学力を向上させるためには、まず何よりも授業において子どもたちにとって分かりやすい指導に努めなければならないことは言うまでもないが、家族とのかかわりや家庭環境を見直すとともに、子どもたちに「なぜ家庭における学習が必要なのか」を十分に理解させることも重要である。
 そのためには、保護者の理解と協力が欠かせないと考え、家庭において大切にしてほしい点として

  • 1 家族とのふれあいを大切にする
  • 2 生活リズムを確立させる
  • 3 家庭学習の習慣化を図る

を「今日から家庭でできる3つのポイント」としてリーフレットにまとめ、小・中学校の保護者や地域住民等の学校関係者に配付した。

【家庭学習リーフレット】

(3)基礎問題集「家庭学習ノート」の配付

 中学校においてこれまで中心的に行われてきた自主学習ノートの取り組みにかわり、中学生が具体的に取り組めるものとして、中学校1、2年生用に基礎問題集を作成した。
 内容は国・数・英の3教科の基礎的な問題に絞り、中1の生徒には1冊(中1の学習内容)、中2の生徒には2冊(中1及び中2の学習内容)を配付した。

(4)標準学力検査の実施による取り組みの検証

 促進事業における取り組みの成果を検証し、さらに今後の手立てに役立てることを目的として、2月に中1(国・数)、中2(国・数・英)の全ての生徒を対象として標準学力検査を実施した。結果は各学校に約2週間後に提供され、各学校では生徒に個人票を示しながら今後の学習方法等について指導した。
 また、3月に保護者に対して検査結果と今後の取り組みについて報告するための参観日を設け、学力向上に向けて保護者の協力を呼びかける等の取り組みを行った。

(5)「家庭学習に関するアンケート」の実施

 家庭学習の状況を継続的に把握していく必要から、中1・中2の生徒全員を対象として「家庭学習に関するアンケート」を実施した。中3の「全国学力・学習状況調査」の結果と比較するとともに、学習状況の推移をみることができるように、「全国学力・学習状況調査」の質問紙調査5問のうち3問を共通とした。
 また、今回の促進事業の取り組み成果を検証するために、1回目の調査を取り組みを始める直前の12月に実施し、2回目の調査を2月に実施した。
 このアンケートの結果比較によると、2回目の調査結果は前回と比較して、各質問項目とも顕著な改善が見られており、その概要は次のとおりである。

  • 1 学校以外における学習では、平日に「全くしない」と答えた生徒の割合は前回調査と比較して、中2で11ポイント程度、中1で3ポイント程度少なくなっており大きく改善されている。また、毎日1時間以上学習している生徒の割合も増加している。
  • 2 休日においては平日より学習時間が短いものの、前回調査と比較して中1・中2とも大幅に改善されている。
  • 3 家で学校の宿題を「している」と回答した生徒の割合においても、前回調査と比較して中2で12ポイント程度、中1でも6ポイント程度増加している。

学校の授業時間以外に,普段(月曜日から金曜日),1日当たりどれくらいの時間,勉強をしますか。(塾・家庭教師を含む)

土曜日や日曜日などの学校が休みの日に,1日当たりどれくらいの時間,勉強をしますか。(塾・家庭教師を含む)

(6)成果と課題

 調査結果を分析することによって、学力の定着状況と学習状況に関する客観的データが得られ、学力を支える基盤として家庭の大切さについて保護者へ直接働きかけることができた点は大きな成果である。
 また、家庭学習状況については高知市教育委員会や各学校における粘り強い取り組みの結果、大きく改善がなされ、家庭学習の意識化を図ることができてきた。
 一方で、学校以外で学習を「全くしない」、家庭で「宿題を全くやらない」という生徒も依然として数多く存在していることは課題として残っている。

(7)今後の取り組み

 今後、この促進事業における取り組みを踏まえ、高知市においては平成20年を「授業改革元年」と位置付け、次のような取り組みを通じて徹底した授業改革を推進していく。

  • 1 校長会代表や各教科担当教員の代表等による「中学校授業改革推進委員会」を設置し、高知市の中学校における授業改革について連携・協力した取り組みが図られるよう協議し、具体的な施策に反映するとともに、授業改革に向けての学校現場の気運を高めていく。
  • 2 高知市教育委員会内に中学校担当による「中学校授業改善プロジェクトチーム」を設置し、指導主事が中学校に出向いて、授業改善の具体的な支援・助言をしていく。
  • 3 家庭学習の習慣化を継続的に行うために、促進事業により2回実施してきた「家庭学習に関するアンケート」を継続し、中学生の家庭学習状況を把握するとともに、授業と一体化した家庭学習の定着による「家庭学習サイクル」の確立を目指す。

 また、これらの取り組みの成果について、学校改善支援プラン検討委員会においては、他の市町村へ普及・啓発を行うことにより、支援プランにおける具体的な取り組みとして、県全体に広めていきたいと考えている。

7 おわりに

 子どもたちの学力向上のためには、学校・家庭・地域が連携し、それぞれの役割の中でできることを確実に果たしていくことが必要である。
 特に学校において、日々の授業改善をいかにすすめていくか、また家庭学習につながる授業をづくりをいかに行っていくかについて、大きな課題として検討されたところである。
 今後、この学校改善支援プランを指標として、各市町村や学校ごとに支援プランの充実が図られ、子どものたちの学力向上がさらに進められるように、本県における教育に携わるものすべての課題として取り組んでいく必要があると考える。

(参考)

  高知県学校改善支援プラン-確かな学力の向上を目指して-
(※高知県教育委員会ホームページへリンク)

-- 登録:平成21年以前 --