プランの効果的な活用を目指して-全県的な協力体制の構築-

山口県検証改善委員会

はじめに

 山口県では、平成17、18年度に全ての小学校5年生、中学校2年生を対象とし、県独自の学力調査が実施された。この結果、基礎的な学習内容の理解や基本的な計算等の技能は、おおむね定着しているが、読解力、思考力、表現力に課題がみられることが明らかになった。
 このため、授業評価による授業改善の促進、効果的な指導事例の普及、教員研修の拡充等の推進を図られてきた。また、学校全体での総合的計画的な学力向上対策を促進するため、全ての小中学校が「学力向上プラン」を作成し取組を進めている。

2 検証改善委員会の体制について

 山口県検証改善委員会は、山口大学教育学部の林とく治教授を会長とし、学校関係者(校長)2名、山口県教育委員会義務教育課教育調整監1名、各市町教育委員会の指導主事22名の計26名で構成した。
 委員会の開催については、11月から2月の間に4回行い、調査結果の分析や学校改善支援プランの作成を行った。
 12月には、課題に応じた指導方法の工夫など、改善のための取組が速やかに推進されるよう、教科の調査と児童生徒への質問紙調査の結果分析についての「中間まとめ」を作成し、学校や教育委員会に配付した。
 また、3月には調査結果の分析と学校改善支援プランを報告書としてまとめ、学校及び教育委員会に配付した。

3 学校改善支援プランの概要

 検証改善委員会では、全国学力・学習状況調査結果の分析、考察で明らかになった山口県全体の課題について、その改善の取組を「学校改善支援プラン」としてまとめ、学校や教育委員会への提言とした。
 各学校・教育委員会はこれを活用して、児童生徒一人ひとりの学習改善や学習意欲の向上を図ることとしている。

学校では

  • ア 「活用」する力を高める指導の工夫・改善
  • イ 知識・技能の着実な定着
  • ウ 思考力を高める「書く」「話す」活動の充実
  • エ 日常生活や実社会との関連
  • オ 望ましい学習態度の育成
  • カ 教員の授業力の向上
  • キ 情報公開と外部評価の活用
  • ク 保護者への継続的な働きかけと地域人材の活用
  • ケ 課題を踏まえた学力向上プランの見直し

教育委員会では

  • コ 優れた実践情報の提供
  • サ 研修機会の拡充と内容の工夫
  • シ 実態に応じた人的措置
  • ス 関係機関等との協力体制の整備

3 全国学力・学習状況調査の結果分析について

 「知識」に関する問題については、相当数の小中学生が今回出題した学習内容を理解しているが、「活用」に関する問題については、「知識」に関する問題に比べて正答率が低く、山口県学力調査の結果と同じ傾向がみられた。また、山口県の平均正答数を全国と比べると、中学校では上回り、小学校では下回っているが、大きな差はみられなかった。
 各教科の分析結果及び質問紙調査の考察については、以下のとおりである。

小学校国語

  •  平均正答率については、「知識」「活用」とも、全国平均より若干低い状況であり、「活用」に関する問題の方がその差は大きい。また、正答数の分布では、正答数の多い児童の割合がやや低い。
  •  「知識」に関する問題では、言語事項や体験に基づいて考えを書くこと等は、相当数の児童ができている。しかし、メモの取り方や文の分割など60パーセントを下回る問題もあり、内容により差がみられる。
  •  「活用」に関する問題では、自分の考えをある程度の字数で書いたり、司会者のよさを見付けたりする問題はできている。しかし、文章の内容と資料の情報とを関係付けて読み取ることや、二つの文章の共通点を端的にまとめることに課題がみられる。

小学校算数

  •  山口県の正答数の分布をみると、正答数の多い児童の割合が、全国と比べると低い傾向がみられる。特に、「知識」に関する問題では、満点の児童の割合が全国平均より約4ポイント低い。
  •  「知識」に関する問題では、基本的な四則計算や平行四辺形の求積の正答率は高いが、加法と乗法が混じった計算や円の求積の正答率は低いなど、同じ領域において、正答率が高い問題と低い問題との差がある。
  •  「活用」に関する問題では、筋道を立てて考え解決する問題や求められたことを分かりやすく説明する問題の正答率が低い。

中学校国語

  •  手紙の書き方等、一部に基礎的な知識・技能の定着に課題がみられたが、「知識」に関する問題の平均正答率は82.7パーセントであり、相当数の生徒が理解していると考えられる。「活用」に関する問題の平均正答率は「知識」に関する問題に比べ、9.3ポイント低くなっており、基礎的な知識・技能を活用する力を身に付けさせる指導の工夫・改善を行う必要がある。
  •  「知識」に関する問題では、語句の意味を理解して正しく使うこと、文の成分の照応、生活の場に応じて敬語を使うことは相当数の生徒ができているが、文脈に即して漢字を正しく読んだり、書いたりすることには課題がみられる。
  •  「活用」に関する問題では、グラフから必要な情報を取り出して書くことや、作品の構成や内容を読み取り、相手に伝わるように書くことについては多くの生徒ができている。複数の資料を読み込んだり、比較して書いたりすることについては課題がみられる。

中学校数学

  •  正答数の分布は、全国と概ね同じ傾向がみられるが、「知識」「活用」のいずれに関する問題も全国に比べ正答数の多い生徒の割合が高い。各設問ごとの正答率も全国に比べ高く、全国平均を上回った問題は、「知識」に関する問題において36問中30問、「活用」に関する問題において17問中16問であった。
  •  「知識」に関する問題では、底面積と高さが等しい円錐と円柱の体積の関係を明らかにするなど、求積公式についての意味理解に課題がある。
  •  「活用」に関する問題では、課題解決の場面において、解決の方法を数学的に説明することに課題がある。

質問紙調査【児童生徒】

  •  毎日決まった時間に起床し、きちんと朝食を食べ、学校へ持っていくものを確認して登校するという規則正しい生活習慣を身に付けることが大切である。
  •  将来の夢や目標をもち、自ら意欲的、積極的に物事に取り組む姿勢をもつことが大切である。
  •  児童生徒の心に残る豊かな体験活動を充実させることが大切である。
  •  学校教育活動の中に、児童生徒が意欲的に取り組むことのできる授業や活動を仕組むことが大切である。
  •  地域や社会に関心をもち、積極的にかかわる態度が大切である。

質問紙調査【学校】

  •  熱意をもって勉強し、授業中の私語がなく落ち着いて学習するという学習態度や礼儀正しさを身に付けることが大切である。
  •  国語科、算数・数学科の発展的な学習の指導の工夫・改善が大切である
  •  学校の自己点検や保護者・地域の人等による外部評価を実施し、評価を公表して学校運営の改善に生かすことが大切である。
  •  児童生徒による授業評価を実施し、模擬授業や事例研究等の実践的な研修や、授業研究を通じて校内研修を充実させることが大切である。

4 学校改善支援プランについて

学校では

指導方法や教育課程の工夫・改善

ア「活用」する力を高める指導の工夫・改善
  •  基礎的基本的な内容の定着に向けた学習との関連を図りながら、具体的な評価規準を設定し、「活用」する力を高める学習を指導計画に明確に位置付ける。
  •  児童生徒の生活場面において、各教科で身に付けた知識や技能を使って問題を解決する学習を取り入れる。
  •  同じ教科における別の単元や他の教科で身に付けた知識を使うなど、いくつかの知識・技能を組み合わせることにより解決する教材(問題)を開発する。
  •  できることや分かることなどの喜びだけでなく、考えることの楽しさを児童生徒に感じ取らせるように、指導方法を工夫する。
イ 知識・技能の確実な定着

 小学校では、基礎・基本の確実な定着を図るために、児童の理解度に応じた指導を充実するとともに、長いスパンでの繰り返し学習の充実等の観点から、単元の指導計画、年間の指導計画、学年間の指導計画の関連等を見直す。

ウ 思考力を高める「書く」「話す」活動の充実

 各教科において、資料等から読み取ったことを文章にまとめたり、自分の考えを分かりやすく論述したりする活動の充実を図り、思考力や表現力を高める。

エ 生活場面や実社会との関連

 教科等の指導において、児童生徒の生活場面や実社会とつながりがもてるような工夫をする。そのことにより、学習に対する興味・関心や有用感を高める。

落ち着いた環境づくりのための指導の充実

オ 望ましい学習態度の育成

 児童生徒が集中して学習に取り組めるように、学習上のルール等についての継続的な指導を行うとともに、全校での支援体制を整備する。

授業力を高める校内研修の実施

カ 教員の授業力の向上

 授業研究を伴う校内研修を充実するとともに、模擬授業の実施等実践的な研修を取り入れることにより、教員の授業力の向上を図る。

保護者・地域との連携の強化

キ 情報公開と学校評価の活用

 学校便りや学校のホームページ等により、児童生徒の様子や学校の取組、自己点検評価等の情報を公表するとともに、学校評価の活用に努める。

ク 保護者への継続的な働きかけと地域人材の活用

 基本的な生活習慣の確立や家庭学習の重要性について、保護者への継続的な啓発活動を行う。
 また、保護者を含めた地域の人材を積極的に活用する。

学力についてのPDCAサイクルの構築

ケ 課題を踏まえた学力向上プランの見直し

 児童生徒の実態に応じた学力向上の取組を推進するために、全国学力・学習状況調査等の結果を踏まえ、教職員の共通理解を図りながら、「学力向上プラン」を継続的に見直す。

教育委員会では

教員の授業力向上支援

コ 優れた実践情報の提供

 各学校に児童生徒の「活用」する力を高めるための実践事例や教材、基礎的基本的な内容の定着を図るための効果的な指導方法、優れた学力向上プラン等の情報を提供する。

サ 研修機会の拡充と内容の工夫

 教育研修所における研修講座や各教育委員会が主催する研修会のテーマ・内容について、それぞれの地域の課題等を踏まえたものとなるよう工夫することで、課題の改善に向けての取組を支援する。
 また、学校における授業改善等の取組が推進されるよう、学校訪問の機会を増やしたり、内容を工夫したりする。

課題に応じた重点的な支援

シ 実態に応じた人的措置

 学力向上についての各学校の課題に応じるために、必要に応じた教員の加配や外部人材の活用等の措置を講じる。

関係機関等との協力体制の整備

ス 関係機関等との協力体制の整備

 教育委員会内における学校教育、社会教育、幼児教育等各関連部署との連携を密にするとともに、小・中学校教育研究会、PTA連合会等関係団体との協力関係を強化する。

5 学校改善支援プランを受けた取組について

 学校や教育委員会の取組の改善に資するため、調査結果分析及び学校改善支援プランをまとめ、報告書として全ての小中学校に配付した。
 プランの周知及び活用については、県内全市町教育委員会の指導主事が、検証改善委員会の委員であったことから、学校訪問等を通じて進めていく予定である。
 学校改善支援プランを受けた取組については、県教委において、平成20年度から、「活用」する力を高める問題や指導のポイントを学校に提供する事業を新たに立ち上げるなど、学校改善支援プランに沿った取組を進めることとしている。

6 おわりに

 検証改善委員会での貴重な成果を具体的な取組につなげていくことが、今後の大切な課題であり、全ての委員の共通の認識であった。
 この課題については、全ての市町教委と協力体制がとれたことにより、調査結果の活用等についての各学校への指導・助言等、きめ細かな対応が可能となると考えている。
 例えば、学校訪問等を通じて、直接調査結果や学校改善支援プランの説明をしたり、各学校の学力向上プランの見直しへの助言をしたりすることができる。
 今後とも、各学校等への働きかけを継続的に行いながら、調査結果の効果的な活用を図っていきたいと考える。

-- 登録:平成21年以前 --