広島県検証改善委員会
広島県では、新たな「教育県ひろしま」の創造に向け、児童生徒に確かな学力を身に付けさせるために教育の「中身づくり」に精力的に取り組み、教育改革を推進しているところである。
平成14年度からは、広島県独自で小学校第5学年及び中学校第2学年を対象に「基礎・基本」定着状況調査を実施している。
県内各市町教育委員会及び各学校においては、分析結果に基づき、指導改善計画を作成し、それを公表するとともに、それぞれの課題に応じた指導内容、指導方法の改善・充実に取り組んできている。
こうした取組みにより、基礎的・基本的な学習内容は着実に定着してきている。
しかし、筋道立ててものごとを考えたり表現したりする力など思考力や表現力に課題があるため、学習や生活の基盤としての「言葉」を重視し、すべての教育活動を通して「ことばの力」を身に付ける「ことばの教育県づくり事業」を進めてきているところである。
広島県検証改善委員会は、広島大学大学院教育学研究科教授である角屋重樹教授を委員長として、広島県教育委員会参与(兼)県立教育センター所長、指導第一課長、市町教育委員会教育長、小・中学校長、大学関係者の計10名で構成している。
本委員会の他に、国語、算数・数学を専門とする県の指導主事及び県内の小・中学校教諭で構成する専門部会を設け、指導方法の開発を行ったところである。
(図1参照)
全国学力・学習状況調査結果の分析に基づき、「ひろしま」学びのサイクルを提案し、思考力・表現力を育成するための指導のポイントをまとめた。
これらの提案に基づき、指導内容及び指導方法を開発し、指導事例としてまとめている。
広島県検証改善委員会においては、以下に示す分析1~6を通して本県の現状や課題を明らかにすることにした。
【分析4】及び【分析5】は、学力全体(小学校の場合でいうと、国語A・B問題と算数A・B問題を合わせた平均正答率のこと)及び各教科別学力(平均正答率)をA問題、B問題の広島県平均正答率で次の4つに区切り、各象限に属する学校又は児童生徒を次のA~Dグループとして分析している。
正答率が高い児童生徒は、次のように回答している割合が大きい。
例【小学校】質問:学校の授業の予習をしている
例【小学校算数】質問:算数の勉強は好きだ
例【小学校国語】質問:新しく習った漢字を実際の生活で使おうとしている
平均正答率が高い学校は、次のような指導を行っていると回答している割合が大きい。
例【小学校算数】質問:計算問題などの反復練習をする授業
例【中学校】質問:書く習慣を付ける授業
例【中学校】質問:結論先行型で、根拠を挙げて意見を述べさせる授業(広島県平成18年度「基礎・基本」定着状況調査質問紙)
学力と児童生徒の意識の関連を構造的に検討するために、国語、算数・数学の学力に影響していると考えられる要素(構成概念)として「社会的関心」「家庭学習」「国語に関する積極性」「算数・数学に関する積極性」を設定した。そして、各要素を測定する小中共通の質問項目を児童生徒質問紙から抽出した(社会的関心(2問)、家庭学習(4問)、国語に関する積極性(7問)、算数・数学に関する積極性(6問))。なお、分析においては各質問項目の選択肢(4~6段階)の番号をそのまま得点化するとともに、肯定的な回答ほど得点が高くなるように値を反転させた。
また、教科ごとにA問題とB問題を併せて項目反応理論(Item Response Theory: IRT)を用いた分析を行い、本分析に用いる国語、算数・数学の学力を推定した。そして、「国語の学力」「算数・数学の学力」を上述の4つの要素で説明する因果モデルを構成し、構造方程式モデリング(Structural Equation Modeling: SEM)による小中の2母集団同時分析を行った。なお、分析対象の児童生徒数は、平成19年4月24日に全ての調査(「国語A」「国語B」「算数・数学A」「算数・数学B」「質問紙」)を実施した小学校・小学部第6学年25,418名、中学校・中学部第3学年22,733名であった。
各学力に対する「社会的関心」「家庭学習」「国語に関する積極性」「算数・数学に関する積極性」の影響構造を図2に示したように想定した。このモデルは、「社会的関心」が「国語、算数・数学に関する積極性」に影響を与え、「国語、算数・数学に関する積極性」が各学力に直接影響を与えるとともに、家庭学習を通して各学力に影響を与えるというモデルである。
このモデルを用いて、SEMによる小中の2母集団同時分析を行い、モデルとデータがどの程度適合しているかを評価することにした。分析を行った結果、モデルの適合度指標の値は
であり、CFIの値がやや低いものの、想定したモデルと調査データは十分適合しているといえる。
各要素間の直接的影響の程度は図2中に示したとおりである(注1)。小学生、中学生ともに社会的事象への関心が高いほど、国語や算数・数学に関する積極性が高くなっている。さらに、国語や算数・数学に関する積極性が高いほど、家庭での学習が増加するとともに学力が高くなっていることが読みとれる。
なお、小学校第6学年と中学校第3学年で「国語の学力」に対する「国語に関する積極性」の同じ箇所のパス係数を比較したところ、両群に有意な差がみられなかった。一方、その他のパス係数については両群に有意な差がみられ、小中学校において各要素による影響の大きさに違いがあると言える。
構造的な分析結果の含意として、以下の2点を導出した。
3で述べた分析結果に基づき、「ひろしま」学びのサイクル(図3、4参照)を提案している。
児童生徒に、知識・技能を活用して思考・表現する力を育成するために、「ひ・ろ・し・ま」の授業を目指し、授業での学びと家庭や社会生活における学びを結び付ける「ひろしま」学びのサイクルを確立させていくという提案である。
まず、既習内容や自己の体験等を想起させ、それを活用して考えさせ、しっかり基礎的・基本的な事項を教えて知識・技能を習得させる。
さらに、身に付けた知識・技能を活用させて発展的な学習課題にじっくり取り組ませる。ここでは、特に自らの考えをはっきり論理的に表現させ、他者と交流することにより、自らの考えを深めさせて、一層幅広い知識や高い技能の習得を目指す。
これらの授業を通して、児童生徒に自分の学びを振り返らせ、目標に到達できたという達成感やもっと知りたいという学ぶ意欲を高めていく。この意欲が家庭や社会における学習や授業の復習・予習につながり、学んだ知識・技能を実生活に生かすようになる。
それらを通して身に付いた力や関心・意欲・態度が、さらに授業に生かされ、学びの質が高まるというこのサイクルを提案している。
授業においては、しっかり教え、じっくり考えさせ、はっきり表現させる。
「しっかり教える」は、
「じっくり考えさせる」は、
「はっきり表現させる」は、
という指導に重点を置き、授業改善に取り組む。
4で述べた指導改善支援プランについては、その周知を図るために、平成20年1月12日広島大学において県内教員及び教育関係者等約1,200名が参加し、「学力向上のための実践交流会」を実施した。
そこでは、全国学力・学習状況調査の分析結果及び広島県検証改善委員会で策定した指導改善支援プラン等についての発表、お茶の水女子大学内田伸子副学長と広島県検証改善委員会委員長である広島大学大学院角屋重樹教授の対談などを行った。
内容の詳細については、広島県教育委員会教育長のホームページ「ホットライン教育ひろしま」に掲載している。
【広島県検証改善委員会からの提案】 |
【内田伸子先生と角屋重樹先生の対談】 |
平成20年1月31日には、県内の各教育事務所指導主事及び各市町教育委員会指導主事等約110名を集め、パンフレットを配付し全国学力・学習状況調査の分析結果及び広島県検証改善委員会で策定した指導改善支援プラン等についての説明を行った。また、国立教育政策研究所から学力調査官らを招聘し、学力調査分析結果及びその活用について御講話をいただいた。
平成20年2月13日、広島県検証改善委員会最後の会議終了後、角屋重樹委員長が広島県教育委員会榎田好一教育長へ報告書及びパンフレットを手交し、記者会見を行った。
2月には、詳細な分析結果を示した報告書、その概要を示したパンフレットをまとめ、県内公立小・中学校、特別支援学校(以下、公立学校)へ配付した。また、専門部会の委員が開発した指導事例をもとに実際に授業を行い、その一部を収録したDVDを、公立学校へ配付した。
広島県教育委員会は、平成20年度には、管理職、教務主任等を対象とした各種研修会において、これらの資料を積極的に活用し、一層指導改善を進めていくこととしている。
また、保護者への啓発資料として、保護者用リーフレットを作成しているので、併せて「ひろしま」学びのサイクルの確立に向けて取り組んでいく。
学校改善支援プランの先行的な実施として文部科学省が募集した学校改善支援促進事業に応募し、8月に選定された。
本事業の目的は、「全国学力・学習状況調査結果の分析から明らかになった児童生徒の学習状況の課題を解決するための有効な指導方法を明らかにする。」ことである
「ひろしま」学びのサイクル及び思考力・表現力を育成する指導のポイント(図3、4参照)に基づき、国語、算数・数学を専門とする県の指導主事及び県内の小・中学校教諭で構成する専門部会の委員を中心に、指導方法の開発を行った。
まず、全国学力・学習状況調査の課題のある問題について、誤答等の分析及び考察を行った。次に、課題のある問題を解くために必要な思考力・表現力を育成するための単元や教材を開発している。
以下、指導事例の一部について記述する。(図5、6参照)
これらの授業の一部は、DVDに収録し、各学校へ配付している。各学校においては、報告書に掲載している指導案を参考にして、学校の状況、児童生徒の実態に応じて指導方法を工夫し、DVDの授業を検討して、授業改善をさらに進めているところである。
さらに、これらDVDに収録した授業を活用して、各学校等における授業研修会を充実していくために、授業研修会の進め方(図7)についてもDVDに収録している。
今回の全国学力・学習状況調査は、広島県教育委員会の調査とは、実施対象の学年が異なり、前年度に県の調査を受けた小学校第5学年及び中学校第2学年の児童生徒が、翌年に国の調査を受けることになる。
このため、各学校においては、児童生徒の実態を継続的かつ詳細に把握でき、指導改善の取組みのきめ細やかな検証ができる。
広島県教育委員会としては、国と県の調査を併せて実施することにより、詳細な分析を行い、各学校における指導内容・指導方法の改善を一層進め、児童生徒の学力の更なる定着を図って参りたいと考えている。
平成19年度全国学力・学習状況調査について(広島県検証改善委員会)
(※ホットライン教育ひろしまホームページへリンク)
-- 登録:平成21年以前 --