岡山県検証改善委員会
はじめに
岡山県では、「確かな学力」と「豊かな心」の育成を重要な柱ととらえ、子ども一人ひとりを大切にしたきめ細かな指導により基礎・基本の確実な定着や自ら学び考える力の育成に努めるとともに、様々な体験活動や学校外の多彩な人材活用を通して、「正義感」「倫理観」「思いやりの心」など、豊かな「人間性」や「社会性」を育むよう教育施策を展開している。
学力向上については、これまで、きめ細かな指導ができるよう学級編制の弾力化等に取り組むとともに、大学教官や指導主事等の支援を受けて授業力向上に取り組む拠点校の指定、論理的な思考や表現の力を育成するために各教科の指導方法の工夫・改善を図る「言葉の力向上プロジェクト」等を実施している。
1 検証改善委員会の体制について
岡山県検証改善委員会は、岡山大学教育学部の森熊男教授を代表とし、県内の大学教官3名、市町村教育委員会の教育長代表1名、公立小中学校の校長各1名、県PTA関係者1名、県総合教育センターと県教育庁を中心とした県教育委員会関係者10名の計18名で構成する企画運営委員会を母体とする。
企画運営委員会の下には、県内大学教官、小中学校教諭、県総合教育センター及び市教育委員会、県教育庁指導課指導主事等による教科指導推進部会とデータ分析部会を設置した。
7月に第1回企画運営委員会を行い、3月までに各6回の部会を開催して分析や事例の収集、提案の取りまとめ等を行った後、第3回企画運営委員会で、今年度の取組の検証を行い、それを踏まえて岡山県学校改善支援プランについて提言を行った。
また、本委員会の取組を地域の実態に応じて効果的に推進するために、市町村教育委員会連絡会を適宜開催して、事業説明や意見交換等を行い、連携・協力を求めた。
2 学校改善支援プランの概要
全国学力・学習状況調査の結果から、学力調査では、小中学校ともに学力分布の状況や領域・観点別の状況、設問別正答率の状況の傾向が全国とよく似ているものの、全体的に低い傾向が見られるとともに、無解答率が高い傾向が見られた。
児童生徒質問紙では、全国に比べて自尊感情や規範意識が高く、家庭や学校での生活も前向きで安定している傾向が見られるものの、学習習慣に課題が見られた。
学校質問紙では、全国に比べて家庭学習の課題を与える割合が高いものの、実生活との関連を図った授業や習熟の程度に応じた指導の実施割合が低い傾向が見られた。
こうした結果を受け、岡山県検証改善委員会では、以下の3点を中心に学校改善支援プランをまとめた。
- (1) 学校や教育委員会に対して、検証改善サイクルの確立を促す。
- (2) 学校や児童生徒に対して、調査結果に見られる課題の改善を促す。
- (3) 家庭に対して、学力の基盤となる家庭生活の充実を促す。
3 全国学力・学習状況調査の結果分析について
本県の全国学力・学習状況調査の結果について、検証改善委員会で分析を行ったところ、以下の点が明らかになった。
(1)教科に関する分析
- 小・中学校とも正答数の分布は、全国の状況とよく似ているが、小学校ではABともに上位層がやや少なく、中位から下位層の数が若干多くなっている。
- 小・中学校のほとんどの領域・観点で全国平均を少しずつ下回っている。
- ほとんどの設問において、無解答率が全国平均より高く、無解答率が高いほど、ものごとを最後までやり遂げてうれしかった経験や自主的な学習意欲が乏しい傾向が見られる。
個別の教科について具体的に見ると以下のような設問に課題が見られた。
【小学校国語】
- 人物の心情を表現や叙述と関係付けて読む。
- 古紙の再利用が課題となってきた根拠を文中から探して書く。
- 二人の感想文から共通する書き方のよいところを書く。
- 広告の情報とそれを説明した内容を関係付けて読み取る。
【小学校算数】
- 分数、小数の意味と大きさを理解する。
- グラフから資料の特徴や傾向を読み取る。
- 式の形に着目して計算結果の大小を判断する。
- 百分率を用いて問題を解決する。
- 基本的な図形を見いだしてその面積を求める。
【中学校国語】
- 文学的な文章を読む際に、比喩等の表現技法に注意して内容をとらえる。
- 文章の構成や展開をとらえ、表現上の特色を踏まえて自分の考えを書く。
- 中学生と店員の作成した広告カードを比較して違いを説明する。
【中学校数学】
- 円柱と円錐の体積の関係を理解する。
- 反比例の対応関係を理解する。
- 確率の意味そのものを理解する。
- 発展的に考え、その結果を説明する。
- 文字式で表し、理由を数学的な表現を用いて説明する
- 2つの数量の変化の様子を読み取り、その特徴を的確にとらえて説明する。
- 問題解決の方法を数学的に説明する。
(2)児童生徒質問紙に関する分析
◇家庭生活
- 「朝食を毎日食べる」「地域の行事への参加」や「読書への関心」などは、全国より肯定的な回答が多く、家庭生活が充実している児童生徒ほど平均正答率が高い傾向が見られる。
◇自尊感情や規範意識
- 「自分にはよいところがある」「人の気持ちがわかる人間になりたい」「友だちとの約束を守っている」などは、全国より肯定的な回答が多く、自尊感情や規範意識が高い児童生徒ほど、平均正答率が高い傾向が見られる。
◇学校生活
- 学校で好きな授業や楽しみにしている活動がある、教科の学習が大切だとか社会に出て役に立つといった項目で肯定的な回答が多く、学校生活に適応している児童生徒ほど、平均正答率が高い傾向が見られる。
◇学習習慣
- 授業時間以外の勉強時間の確保や授業の復習をするといった学習習慣、学んだことを生活に生かそうとする姿勢に課題が見られ、学習習慣が身に付いている児童生徒ほど、平均正答率が高い傾向が見られる。
(3)学校質問紙に関する分析
◇指導方法・形態
- 計算問題などの反復練習の実施の割合が全国より高くなっているが、小学校では平均正答率との間に相関が認められない。
- 実生活との関連を図った授業や習熟の程度に応じた指導の実施の割合が低い傾向が見られ、小学校より中学校で、その頻度が高いほど平均正答率が高い傾向が見られる。
- 長期休業中の補充的な学習サポートの実施の割合が、小学校で低く、中学校で高い傾向が見られる。
- 平均正答率が高い学校の方が、児童生徒が「熱意をもって勉強している」「授業中の私語が少なく、落ち着いている」「礼儀正しい」という傾向が見られる。
- 平均正答率が高い学校の方が、算数・数学で実生活における事象との関連を図った授業や、実践的な研修を行っている傾向が見られる。
◇家庭学習の課題
- 家庭学習の課題を与える割合が高く、特に中学校において、その傾向が顕著となっており、家庭学習が長いほど平均正答率が高い傾向が見られる。
4 学校改善支援プランについて
分析結果を受け、(1)学校や教育委員会、(2)学校や児童生徒、(3)家庭のそれぞれについて、次の取組を行うこととした。
(1)検証改善サイクルの確立を促す
学校や教育委員会に教育活動や施策を検証し、課題改善に向けた主体的な取組を促すため、それぞれに対して、次のようなプランの作成を求める。
学校による「授業改善プラン」の作成
教育目標や今年度の指導の重点を、調査結果から検証し、課題改善の計画が立案できるよう、次のような項目を記入する様式を定め、作成と提出を求める。
- 学力調査の状況と特徴的な傾向
- 学力分布の状況
- 観点・領域別の状況
- 設問別正答率の状況
- 児童生徒質問紙の状況と特徴的な傾向
- 特徴的な傾向を関連させた分析
- 改善計画の概要
市町村教育委員会による「学校改善支援プラン」の作成
今年度の学校支援の重点を、調査結果から検証し、課題改善の計画が立案できるよう、次のような項目を記入する様式を定め、作成と提出を求める。
- 学力調査の状況と特徴的な傾向
- 学力分布の状況
- 観点・領域別の状況
- 設問別正答率の状況
- 質問紙調査の状況と特徴的な傾向
- 特徴的な傾向を関連させた分析
- 改善計画の概要
(2)調査結果に見られる課題の改善を促す
学校に調査結果に見られる課題の改善を促すために、改善の取組例等を示した最終報告を作成・配付する。
- 学力調査、学習状況調査それぞれの結果と相互の関連を分析し、課題を明らかにする。
- 授業改善の視点を明確にするなど、課題解決に向けての方向性を示すとともに、授業改善の具体的な取組事例や授業改善プランの好例を示し、学校教育活動の充実と改善に役立てる資料とする。
- 調査結果を踏まえて、以下に「授業改善プラン」及び「学校改善プラン」の好例を掲載する。
(3)学力の基盤となる家庭生活の充実を促す
家庭に学力の基盤となる家庭生活の充実を促すために、調査結果の分析や家庭生活のあり方や家庭学習の意義等について掲載したリーフレットを作成・配付する。
県教育委員会としても、この学校改善支援プランを踏まえ、来年度の学力向上施策として、岡山県学力向上アクションプランを実施することとしている。
<岡山県学力向上アクションプランの概要>
県及び市町村教育委員会、大学教官、学校等で組織する検討委員会を設置し、教員の意識改革と授業力の向上、児童生徒の学習意欲の喚起、学習到達状況の確認と活用などを行い、小中高を見通した学力向上施策の実施と検証を行う。
(1)岡山県学力向上検討委員会の設置
- 全県を挙げた学力向上施策の実施に向けた協議とその成果の検証
(2)小・中学校の授業改革の支援
- 授業改革協力員の指定と授業改革研究会等の実施
- 授業改革協力員の指定(国、算・数、英で100名程度)
- 県下3会場で授業改革モデル研究会の実施(5月~6月)
- 各地域で、複数校による授業改革研究会の実施(協力員による)
- 研究指定:小・中学校18校(大学教官、指導主事等による支援)
- 総合教育センターによる出前講座(国語、算数・数学、英語の校内研修支援)
- 授業展開の好例を集めた素材集(指定校の成果物の収集及び公募等)の作成
- 算数・数学アドバイザーの派遣
- 小規模校等に教員OB等を非常勤として配置し、授業改革を支援する。
- 到達度確認テストとデータ処理ソフトの作成と活用
- 算数・数学において、単元ごとと年度末の到達度を確認できるテスト問題〈基礎・基本編、発展編〉を作成し、Webページに立ち上げ、学習到達状況を確認し活用する。
5 学校改善支援プランを受けた取組について
(1)検証改善サイクルの確立を促す「授業改善プラン」「学校改善支援プラン」の作成
【まとめ】
- 授業改善プランを全小・中学校から集めたことで、各学校の取組の状況把握ができ、市町村教育委員会と共通の情報を下に、個々の学校に応じた具体的な支援を検討し、支援することができた。
- 学校支援プランや授業改善プランの好例を紹介することで、市町村教育委員会の支援や各学校の改善のための取組の具体的な資料提供ができた。
- 地域や学校によって、温度差が見られるものの、明らかになった課題に対する様々な改善策の好例が見られた。
- 小規模校では数名の結果が学校の結果となり、プランが個々に対応したものにならざるを得なかった。また、こうした学校を所管する小規模町村教委でもプランの作成に難しさがあった。
- 検証改善委員会では、データの分析の方向性、事業内容などについて、保護者や学校の立場、統計や教科指導の専門の立場など様々な視点から検討することができたが、学校経営の専門家を加えて、マネジメントの視点を大切にして検証することが大切であることから、学力向上アクションプランの中に設ける「学力向上検討委員会」の設置の際に反映していくこととした。
(2)調査結果に見られる課題の改善を促す最終報告の作成と配付
【まとめ】
- 中間報告書に加え、教科に関する調査、児童生徒質問紙調査、学校質問紙調査それぞれの結果と相互の相関について分析し、課題を明らかにすることができた。
- 基本的な生活習慣の確立や豊かな社会性や道徳性を基盤として、授業改善に取り組むことが大切であることが確認できた。
- 調査結果を受けて、明確な根拠をもった上で、授業改善の視点を確認することができた。
- 岡山県の児童生徒の特徴や実態、各学校の取組の傾向などを県下の教職員や保護者が共通理解することができ、課題の解決の方向性が明らかになった。
- 授業改善の取組事例や誤答分析の具体的な方法などを掲載することで、教材研究や教材の開発の一助とすることができた。
- この報告書の内容は、県教育庁指導課のホームページに掲載するとともに、研修会や学校訪問の際に紹介することで、一層の成果の普及を図っていきたい。
(3)学力の基盤となる家庭生活の充実を促すリーフレットの作成と配付
【まとめ】
- 配付先は、今年度この調査を受験した対象学年の保護者であったが、この内容を県教育庁指導課のホームページに掲載し、年度始めのPTA総会や学級懇談会で活用してもらうことができるようにした。
- 県教育庁生涯学習課とも連携を図り、PTA関連団体にも配付し、その内容の周知徹底を図った。
6 学校改善支援促進事業について
分析結果を受け、学校改善支援プランのさらなる充実を図るために、次のような調査研究のテーマを設定した。
- (1)県や市町村が、地域や学校の規模や実情に応じた学校支援を展開する。
- (2)学校が、児童生徒の学習意欲を高め、知識や技能の活用を進める授業改善等に主体的に取り組む。
- (3)家庭や地域が、確かな学力を育てる気運を高める。
7 おわりに
この調査は、悉皆調査であることから、調査結果や分析結果を県内の小中学校で共有した上で、課題の解決に向けて、同じ方向性を目指して取り組む契機になった。
ブロック説明会の後、授業改善プランの作成・提出、モデル校での研究会の開催など、学校改善支援促進事業が実施されるにつれ、授業改善に対する教員の意識改革が徐々に浸透した。
岡山県では、平成20年度、学力向上アクションプランを計画しているが、「教職員の意識改革」を大きな目標としている。この調査を県の事業と連携させながら、有効に活用することで、教職員の意識改革を図り、ひいては学校教育活動の充実と岡山県の児童生徒の確かな学力が向上するよう積極的に取り組んでいきたいと考えている。
〈参考〉
以下の成果物を掲載しているホームページ
(※岡山県ホームページへリンク)
- 全国学力・学習状況調査中間報告
- 全国学力・学習状況調査最終報告
- 家庭用リーフレット