未来を切り開く子どもの育成をめざして

島根県検証改善委員会

はじめに

 島根県教育委員会は平成16年3月に「しまね教育ビジョン21」を策定し、「知徳体の調和的発達をもとに、社会や人とのかかわりの中で、自分の生き方を考え、決定し、行動していく力や問題解決能力を身に付けること」を島根のめざす教育として、様々な事業に取り組んでいる。平成18年度からは学力向上プロジェクトを実施し、学力や学習状況の把握、児童生徒への支援、指導の改善など学力向上に向けた取組を積極的に進めてきた。
 こうした中で島根県が平成18年度から実施している「島根県学力調査」においても、資料を読み取って答える問題の通過率が低くなる傾向や、記述式問題での無解答率が高いこと、教科別では小5算数が全国的な値を大きく下回っていたこと、学習時間が全国的な値と比べて少ないことなど課題が見られた。
 島根県検証改善委員会では、こういった状況を踏まえながら、全国学力・学習状況調査の分析をとおして学校改善支援プランを作成することとした。

1 検証改善委員会の体制について

 島根県検証改善委員会は、島根大学教育学部の山下政俊教授を委員長として、島根大学教授等の学識経験者4名、公民館の地域関係者1名、PTA連合会の学校関係者1名、公立小学校の校長2名、公立中学校の校長2名、島根県教育研究会国語部代表1名、島根県教育研究会算数・数学部代表1名、島根県教育委員会(義務教育課、保健体育課、生涯学習課、教育事務所、教育センター)の指導主事を中心とした行政関係者18名の計30名の委員から構成される委員会である。
 本委員会の他に、4つの作業部会(国語部会8名、算数・数学部会9名、児童生徒質問紙部会8名、学校質問紙部会8名)を設置した。
 平成19年7月に検証改善委員会の第1回会合を行い、平成19年2月までに4回の委員会を開催し、分析結果の検討及び学校改善支援プランのまとめを行った。また、その間に、5回の作業部会を開催し、結果の分析や事例の収集を行った。

2 学校改善支援プランの概要

 検証改善委員会では、教科に関する調査の分析結果から、めざす子ども像を、国語、算数・数学それぞれにおいて次のように設定した。

【国語におけるめざす子ども像】

  • 確かな(豊かな)語彙力を身に付けた子ども
  • 思考力と表現力を身に付けた子ども
  • 国語を学ぶことが好きな子ども

【算数・数学科におけるめざす子ども像】

  • 基礎的・基本的な知識・技能を身に付けた子ども
  • 数学的な思考力と表現力を身に付けた子ども
  • 算数(数学)を学ぶことが好きな子ども

 そして、これらの子ども像を実現するために、学習や指導の取組を「指導のポイント」(後述「4 学校改善支援プランについて」参照)としてまとめた。
 また、意識に関する調査の分析結果から、学校、家庭・地域、教育委員会それぞれが取り組むべき内容を、次の5つの観点で「学校改善に向けた提言」としてまとめた。

  • 学校での授業や教育課程の改善
  • 信頼され、開かれた学校づくり
  • 学習習慣の確立にもつながる生活習慣の改善
  • 読書活動や学校図書館の充実
  • 学校・家庭・地域の連携による教育活動の充実

3 全国学力・学習状況調査の結果分析について

(1)教科に関する調査

 基礎的・基本的な知識・技能については、全国とほぼ同様の結果であった。また、平均正答率は、中学校数学を除き80パーセントを超えており、学習内容をおおむね理解していると考えられる。
 知識・技能を活用する力については、全国とほぼ同様の結果であり、中学校国語で2ポイント上回っていた。また、平均正答率は、中学校国語を除き60パーセント前半であり、課題があると考えられる。

1国語

 「話すこと・聞くこと」は小・中学校ともに全国より上回っていたが、「漢字の読み書き(言語事項)」は小・中学校ともに全国を下回っており、課題がある。
 「生活の具体的な場面に即して漢字を使用することができる」ことをねらって、学習を行うこと、また、「国語辞典」「漢字辞典」の活用に関しては、学習の中で辞書を積極的に活用し、辞書が児童生徒にとって身近な存在になるようにしていく必要があると考える。
 「国語の勉強は好き」と回答した児童生徒の割合が、小・中学校ともに全国の値を下回っていた。国語を学ぶ楽しさや有用性を実感できるような指導を意識して行う必要があると考える。

2算数・数学

 「数や式が表している意味の理解」が小・中学校ともに全国を下回っており、課題がある。式で表す、式を読む活動を交互に繰り返すなど、計算の意味の確実な理解を図るための指導を工夫していく必要があると考える。
 また、与えられた複数の情報の中から必要な数値を選び、問題を解決することや数学的に説明することなどが十分でない状況、さらに、全体的に記述式の問題の正答率が低い傾向が見られた。小6の児童質問紙においても「順序よく考える問題を解いたことがある」と回答した児童が約6割にとどまっていることから、問題解決の筋道や過程を大切にし、自分の考えを表したり、友だちに説明したりする学習を充実させていく必要があると考える。
 小学校6年で「新しい問題に出会ったときにそれを解いてみたい」と思う児童や、中学校3年で「数学ができるようになりたい」と考えている生徒の割合は高いが、「算数・数学が好き」と回答した児童生徒の割合は全国の値を下回っている。授業評価等で子どもたちの学習に対する意識を把握しながら、作業的・体験的な活動を通して、実感を伴ってわかることや、楽しさを感じることができるような指導の工夫が必要であると考える。

(2)意識に関する調査

 教科に関する調査と関連があり、かつ肯定的な回答が高かった設問項目は次のとおりであった。

〔児童生徒への質問〕

  • 学校に持って行くものを、前日か、その日の朝に確かめている。≪小・中≫
  • 身の回りのことは、できるだけ自分でしている。≪小≫
  • 毎日、同じくらいの時刻に起きている。≪小≫
  • 学校の規則は守っている。≪中≫

〔学校への質問〕

  • 熱意をもって勉強している。≪小・中≫
  • 児童生徒の学力を把握するため、単元テストや小テストの結果の分析を行った。≪小・中≫
  • 学校の教員は、特別支援教育について理解し、子どもの特性に応じた指導ができている。≪小・中≫
  • 地域の人材を外部講師として招聘した授業を行っている。≪小・中≫

 教科に関する調査と関連があり、かつ肯定的な回答が低かった設問項目は次のとおりであった。

〔児童生徒への質問〕

  • テレビを見る時間やゲームをする時間などのルールを家の人と決めている。≪小≫
  • 家で学校の授業の復習をしている。≪小・中≫

〔学校への質問〕

  • 放課後や長期休業を利用した補充的な学習サポートを実施した。≪小≫
  • 児童の学力を把握するため、学年末テストや学期末テストの結果の分析を行った。≪小≫
  • 習熟の早いグループに対して発展的な内容の指導を行った。≪小≫
  • 生徒による授業評価を実施している。≪中≫
  • 地域の人が自由に授業参観などができる学校公開日を設けている。≪中≫
  • 学校図書館を活用した授業を計画的に行った。≪小・中≫
  • 学校図書館図書標準が達成されている。≪中≫

4 学校改善支援プランについて

 分析結果から、国語及び算数・数学においては、学習や指導の取組を「指導のポイント」として次のようにまとめた。

1小学校国語

  • 確かな語彙力を身に付け、高めていくような学習を工夫する。
  • 読む力、書く力を総合的に身に付けることに重点を置いた学習を工夫する。
  • 国語を学ぶ楽しさや有用性を実感できるような指導を工夫する。

2小学校算数

  • 数や計算の意味などを、確実に理解させるための指導を工夫する。
  • 問題解決の過程を言葉、数、式、図、表などを用いて表す力や、筋道を立てて考える力を育てる指導を工夫する。
  • 算数を学ぶ楽しさや、生活の中で役立つことを実感できるようにするための指導を工夫する。

3中学校国語

  • 豊かな語彙力を身に付け、高めていくような学習を工夫する。
  • 読む力、書く力を関連づけて高めることに重点を置いた学習を工夫する。
  • 国語を学ぶ楽しさや有用性を実感できるような指導を工夫する。

4中学校数学

  • 文字式の意味や図形の性質などを、確実に理解させるための指導を工夫する。
  • 与えられた条件を整理し、根拠を明らかにして考え、説明する力を育てるための指導を工夫する。
  • 数学を学ぶ楽しさや有用性を実感できるようにするための指導を工夫する。

 また、学校、家庭・地域、教育委員会それぞれが取り組むべき内容を、5つの観点(前述「2 学校改善支援プランの概要」参照)で、「学校改善に向けた提言」としてまとめた。(以下の「学校改善に向けた提言の概要」参照)

学校改善に向けた提言の概要

5 学校改善支援プランを受けた取組について

 島根県検証改善委員会では、学校改善支援プランの周知及び学校や教育委員会などの取組の充実・推進を図るため、次のような取組を行った。

1研修会等における説明

 小・中学校、特別支援学校、市町村教育委員会の担当者を集め、分析結果や学校改善支援プランの説明を行った。また、高等学校のリーダーセミナー(学力向上担当者の研修会)においても、分析結果の説明を行った。

2事例の収集・作成

 学校改善支援プランに係る学校、家庭・地域、市町村教育委員会、県教育委員会の取組や支援の事例を収集または作成した。

3報告書の配付

 分析結果、学校改善支援プラン、事例をまとめた報告書を作成し、県内の小・中学校、特別支援学校、教育委員会等に配付した。また、県教育委員会義務教育課のホームページに掲載した。
 島根県教育委員会としても、「学校改善に向けた提言」(学校改善支援プラン)を踏まえ、平成20年度事業として次のような取組を行うこととしている。

1学習習慣の確立に向けた取組

  • 学習環境の確立に向けた実践事業
    • 学習プリント配信システムの継続
    • 学習プリント配信システムを活用した取組を行うモデル実践校の指定

2指導力の向上に向けた取組

  • 授業力向上セミナー
    • 中学校の教科指導力向上のための実践的研修を行う。
  • 学力向上セミナー<小学校算数>
    • 学力調査の結果を踏まえ、公開授業や講義などを通して授業改善のための実践力の向上をめざした研修を、県内の全小学校を対象に実施する。

3学校図書館の効果的な活用・運営を図るための取組

  • 学校図書館元気チャレンジ事業
    • 地域や学校と学校図書館ボランティアが連携しながら学校図書館を活性化する仕組みづくりを研究・実践する。

4学習意欲の向上を図るため取組

  • わがまち発信プロジェクト事業
    • これまでふるさと教育で実践してきた体験活動を発展させた職場体験や生産体験、商品開発・販売体験等の様々な体験活動の充実を図る。

6 学校改善支援促進事業について

 学校改善支援プランの先行的な実施として、文部科学省が募集した学校改善支援促進事業に応募し、11月に選定された。本事業における島根県検証改善委員会の取組は次のとおりである。

(1)研修プログラムの立案

 調査結果等から、特に算数・数学に課題が見られたため、算数・数学の校内研修および研修講座等の充実に向けた調査研究を行い、研修プログラムの立案を行った。この研修プログラムを基に島根県教育委員会は、「学力向上セミナー<小学校算数>」の実施に向けた具体的な作業を行っている。

(2)学習習慣の確立に向けた学校への支援

 島根県教育委員会は、平成19年度から学習習慣の確立に向けた「学習環境構築事業」を実施し、「学習プリント配信システム」を構築し、各学校が活用できる環境を整えた。そのシステムのより効果的な活用のため、本検証改善委員会は優れた実践を収集し、啓発用パンフレット(後述)に事例として載せるとともに、島根県教育委員会に情報を提供し、研修会等で紹介し、普及を図っていく。

(3)分析プログラムの開発

 学校や市町村教育委員会の学力向上策の改善を促すため、全国や県との比較により、各学校が自校及び児童生徒一人一人の強みや弱みを確認でき、課題解決のための資料を作成するプログラムを開発し、市町村教育委員会、学校に提供した。

1設問別正答率ファイル

 正答率が低い設問や全国との差が大きい設問について確認することで、教科の課題を把握する。
設問別正答率ファイル

2クロス集計ファイル

 国語、算数・数学と児童生徒質問紙とでクロス集計を行い、学校や学級の傾向や児童生徒個々の課題を把握する。
クロス集計ファイル

3散布図ファイル

 学級全体の傾向を集団として把握したり、個々の児童生徒の特徴をとらえたりする。
散布図ファイル
 これらのプログラムの活用については、分析結果の説明に合わせて行った。

(4)学力向上プラン作成への支援

 各市町村教育委員会や各学校がそれぞれの課題解決に向けた学力向上プラン等の作成、実施にあたり、助言を行うため、委員または作業部員による市町村教育委員会訪問を実施した。

(5)啓発用パンフレットの作成

 学校改善支援プランと取組の事例をわかりやすくパンフレットにまとめ、全教職員に配付した。
 今回の学校改善支援促進事業は4ヶ月という短い期間での実施ではあったが、学校における分析プログラムの活用や、平成20年度に「学力向上セミナー<小学校算数>」や「学習環境の確立に向けた実践事業」が実施されるなど、これまでの成果を活かした取組が学校や教育委員会で行われている。こういった取組がさらに充実するよう努めていきたい。
啓発用パンフレット

7 おわりに

 島根県検証改善委員会が作成した学校改善プランがプランに終わらず、学校、家庭・地域、教育委員会がそれぞれの実態に合わせて重点化して取り組んでもらえるよう、事例の作成・収集に力を入れてきた。
 平成20年度も全国学力・学習状況調査と島根県学力調査が実施されるので、各学校が2つの調査結果を十分に分析し、児童生徒一人一人に応じた支援がなされるよう、報告書、パンフレットや分析プログラム等の活用を図っていきたい。

-- 登録:平成21年以前 --