静岡県検証改善委員会
静岡県では、平成14年に静岡県教育計画「人づくり」2010プラン(平成14~22年)を策定し、「未来をひらく『意味ある』人づくり」を基本目標としている。そして、学校教育においては、生涯にわたる学習活動の基盤となる「確かな学力」をはじめ、「豊かな心」と「健やかな体」の育成を目指して取り組んでいる。
「確かな学力」の育成のためのこれまでの主な取組は次のとおりである。
上記調査結果によると、県内の児童生徒の基礎学力定着状況については、国語と英語は全国平均を顕著に上回っており、小学校の理科を除いては、全般的にはおおむね良好な状況であった。しかし、各設問毎に分析すると、高学年になるにつれ、学年相当の内容の定着率が充分とは言えない状況や教科毎の課題もある。そこで、これらの課題と改善の方向を結果とともに具体的に示し、各学校の授業改善に生かしてきた。
静岡県検証改善委員会は、静岡大学教育学部の原田唯司教授を委員長とした34名から構成される委員会である。
委員会は、調査結果の分析を分担して行うワーキング「総合分析部会(質問紙調査)」「国語部会」「算数・数学部会」と、その結果を集約し改善プランを作成する「改善プラン作成部会」、そして、最終的に静岡県としての分析結果をまとめ、今後の改善の方向性を検討する「改善プラン検討部会」に分かれて実施した。
5月に検証改善委員会を発足し、会則、組織づくり、事業計画等を決定した。
以後、10月の結果提供までに、3回のワーキングを行い、問題分析と結果の検証方法、データ分析支援ソフトの内容等について検討した。
結果提供後は、11月にかけて3部会をそれぞれ開催し、分析結果と具体的な改善の方策についてまとめ、改善プラン作成部会に報告し、県全体の調査結果を集約した。
これらの調査結果から分かった静岡県の特徴や課題、改善の方策等について、学識経験者、行政、学校、保護者等の代表による改善プラン検討部会において総合的に評価、検討し、意見をまとめていった。
検証改善委員会で、本県の全国学力・学習状況調査の結果について分析した結果、小学校の国語、算数、中学校の国語、数学において、主として「知識」に関する問題では、相当数の子どもが、今回出題された学習内容をおおむね理解していた。また、主として「活用」に関する問題では、平均正答率が6~7割と「知識」の平均正答率には及ばなかった。
児童・生徒質問紙調査の結果からは、全国との比較において全般的におおむね良好な結果が得られた。また、生活習慣に関するいくつかの質問において、学力との相関が見られた。学校質問紙調査の結果からは、児童・生徒が安心して学校生活を送るための学校教育全般にわたる幅広い取組と安定が、学力向上と関連していることが傾向として見られた。
これらの結果を受けて、静岡県検証改善委員会としては、以下の3点を視点として学校改善支援プランをまとめた。
本県の全国学力・学習状況調査の結果について、検証改善委員会で分析を行ったところ、以下の点が明らかになった。
主として「知識」に関する問題では、相当数の子どもたちが、今回出題された学習内容をおおむね理解している。しかし、主として「活用」に関する問題では、全国を上回ったものの、「知識」の平均正答率には及ばなかった。
個別の問題を具体的に見ると、以下のような課題が見られた。
児童・生徒の生活や学習の状況については、全般的におおむね良好な状況が見られ、特に次の項目のポイントが全国と比較して高かった。
「起床時刻」「就寝時刻」(小・中)「部活動への参加」(中)
「平日・休日における学校外学習時間」(小・中)「学校の宿題」(中)
「地域行事への参加状況」(小・中)
「総合的な学習の時間で新しいことを発見できる」(小・中)「総合的な学習の時間が好き」(中)
「国語の授業で友達と話し合ったりして意見を交換する場面が多い」「自分の思いや考えを書くことが多い」(中)
「自分には、よいところがある」「学校の規則を守っている」(小・中)
本県の特徴が比較的強く見られたのは、「学校に持っていくものを、前日かその日の朝に確かめている」「朝食を毎日食べている」「宿題を家でやる」「読書が好き」等の項目である。
また、生活習慣に関する多くの質問において、もっとも好ましくない状況を選択した児童生徒の教科の平均正答率はいずれも低い傾向にあった。特に、「平日の学校外での学習時間」が1時間未満では、平均正答率の低下がはっきり表れていた。
これらのことから、学力向上には、生活習慣や学習習慣の向上が関わっていると考えられる。
全国と比較して特に次の項目のポイントが高かった。
「学校図書館図書標準の達成」「普通教室の教育用コンピュータ設置」(小・中)
「『朝読書』など一斉読書時間の設置」(小・中)「算数の授業で習熟の遅いグループに対して少人数指導や個別指導を実施」(小)「数学の家庭学習の課題(宿題)を与えている」(中)
「熱意をもって勉強している」「授業中の私語が少なく落ち着いている」「礼儀正しいと思っている」「学校の運動部の所属生徒の割合」(中)
「児童生徒による授業評価の実施」(小・中)「模擬授業や事例研究など実践的な研修の実践」(中)「授業研究を伴う校内研修を昨年度年間15回以上実践」(小・中)
「学校の自己評価をホームページ等で公表」「学校の教育活動の情報についてホームページを開設し、情報を提供」(小・中)
相関が比較的強く見られた項目は、「数学における習熟度別指導の実施」「授業中の私語が少なく落ち着いている」「運動部入部率」「基礎学力定着を目的とした研修の実施」「校外研修への積極的な参加」「地域人材を活用した授業実践」等である。
このことから、児童生徒が安心して学校生活を送るための方策や学校教育全般にわたる幅広い取組と安定が学力の向上をもたらすと考えられる。
3で述べた分析結果を受け、検証改善委員会において、改善への取組として、次のような提案をまとめた。
4で述べた学校改善支援プランを受けて、次の取組みを行った。
調査結果の概要と改善の方向を示したリーフレットを作成し、県内の各学校を通して調査対象学年の家庭に配付した。
それ以外の学年についても各学校で増刷して全家庭に配付し、学級懇談会を始め、PTAや地域の会合等でも活用され共有化を図った。
また、各市町教育委員会に対しては、管下の幼稚園、公民館、図書館への配付も依頼し、地域への啓発を促した。
内容については、「静岡県の子どもたちはどうだったの?」のタイトルに象徴されるように、イラストも入れながらできるかぎり保護者や地域の方々にも分かりやすい表現を心がけるとともに、これまで静岡県で大切にしてきた家庭や地域との連携による成果等、全国的な状況との比較から見える本県のよさを伝えることにも留意した。
県全体の状況と自校の分析とを比較検討して、今後の学校改善・授業改善に活用するため、「国語の概要と改善のポイント」「算数・数学の概要と改善のポイント」「児童・生徒質問紙の調査結果」「学校質問紙の調査結果」についての結果分析を記載し、市町教育委員会と各学校に配付した。
編集に当たっては、国から詳細な調査結果が公表、提供されているため、静岡県なりの特徴が把握しやすく、よさと課題、改善のためのポイントがはっきり分かるように留意した。
学校改善支援プランの先行的な実施として、文部科学省が募集した学校改善支援促進事業に応募し、8月に選定された。
静岡県検証改善委員会では、本事業のテーマを「データ分析支援ソフトの開発による学校改善支援」とした。これは、教育委員会として各学校における調査結果の分析と活用及びその改善のための方策を支援することにより、学校評価の機能をより一層高め、PDCAサイクルの確立を図ろうとするものである。そして、自校の実態に即した、自律的な改善への取組を支援することこそが学校改善を促進する最も有効な方策だと考えたためである。
以下、取組の概要について記述する。
データ | 分析項目 |
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学力調査 | 平均正答数と散らばり 平均正答数のバランス 散らばりのバランス ◇散布図 |
学力階層別平均正答数 学力階層別正答数の差 ◇折れ線グラフ 学力階層別正答数の箱ひげ図 |
データ | 分析項目 |
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学力調査 | 設問別正答率 設問別正答率の差 ◇棒グラフ 設問別正答率箱ひげ図 |
領域別正答率 観点別正答率 ◇棒グラフ |
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質問紙調査 | 学習状況・生活状況指数
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<グラフはサンプル、以下同様>
<家庭特性のグラフ例>
<設問別正答率箱ひげ図例>
箱ひげが県、折れ線グラフが自校の結果になる。自校の状況が視覚的に一目で把握できる。
このソフトは、学校プロフィールで把握した自校の成果や課題をさらに詳しく調べることができる。
分析項目 | グラフ |
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指数-指数のクロス分析 | バブルチャート |
設問と指数のクロス分析 | 棒グラフ |
設問と設問のクロス分析 | バブルチャート |
設問と学力のクロス分析 | 棒グラフ |
<学力バランスのグラフ例>
上図の例では、国語AとBの正答数の組み合わせに対してどれくらいの人数が該当するかをバブルの大きさで示している。予め名簿を入力しておくことにより、バブルをクリックすれば児童生徒名が表示されるため、個別指導に活用できる。
<指数のレーダーチャートの例>
学習状況、生活状況について前述の16指数の県、学校、個人がレーダーチャートで示される。県や学校との比較で気になる児童生徒の把握に活用でき、同時に、それぞれの指数の設問に対する回答結果も示されるため詳細な分析が可能である。
「データ分析支援ソフト」を活用するための操作マニュアルとグラフの見方、分析の方法等を冊子にまとめ、市町教育委員会、学校に配付した。
また、操作方法についての問い合わせは業者によるサポートセンターで対応し、ソフトの活用方法、分析の仕方等については、後述の学校改善支援サイトにおいて情報提供を行った。
「ソフトの機能」「操作方法」「分析の仕方」等について、検証改善委員会の委員である静岡大学の村山功教授と益川弘如准教授を講師として、教育事務所別に説明会を実施した。
「データ分析支援ソフト」を活用した学校改善をネットワーク上で支援するために、静岡県検証改善委員会の委託により静岡大学教育学部が「学校改善支援サイト」を開設し、以下の情報提供をしている。
(http://kaizen.ed.shizuoka.ac.jp/(※学校改善支援サイトへリンク)) |
「データ分析支援ソフト」を活用した学校改善を支援するために上記の支援サイトに合わせ、「学校改善ヒント集」を作成し、市町教育委員会と学校に配付した。(静岡大学教育学部に委託)
9月に各教育事務所別に実施した市町教育委員会担当指導主事説明会と11月に実施した教育課程編成説明会(教務主任参加)において、本ソフトウェアの概要と活用等について説明し、事業の啓発を図った。
今回の学校改善支援促進事業において開発した「データ分析支援ソフト」は、平成20年2月以降、各学校や各市町教育委員会の調査結果の分析に追加活用され、学校評価の一翼を担っている。
しかし、国からの調査結果の提供時期とそれに基づくソフト開発に要した期間等の関係により、各学校等への配付が当初計画より遅れたため、平成19年度は本ソフトを活用した具体的な改善事例の収集と普及には至らなかった。今後、文部科学省が平成20年に実施する「全国学力・学習状況調査等を活用した学校改善の推進に係る実践研究」においても、事業を継続研究していく予定である。
冒頭に示した静岡県教育計画「人づくり」2010プランの、実施状況調査において、「学校が楽しい」「授業がわかる」と答える児童・生徒は、年々着実に増えている。これは、個に応じた指導等による「確かな学力」の育成、教師の力量を高める「頼もしい教師」の育成、家庭、地域と一体となった「開かれた学校」づくりなどに向けた、各学校の努力の表れととらえている。
今回の調査結果からも学力向上は、子どもたちの生活習慣と密接なかかわりがあることが明らかになった。今後も家庭や地域との連携を大切にし、確かな学力の育成を目指して、学校、市町、県がそれぞれの役割を明確にすることにより、子どもたちの実態に即した施策や学校教育全般にわたる幅広い取組みに本調査を反映させていくよう努めていきたい。
-- 登録:平成21年以前 --