総合的な学力をはぐくむために

福井県検証改善委員会(福井県学力向上推進委員会)

はじめに

 本県教育の振興方策等について協議する「教育・文化ふくい創造会議」の第一次提言において、知識の習得を中心とした基礎的な学力だけではなく、思考力、判断力、表現力、規範意識、職業意識、体力等も含めた「総合的な学力」の向上を目指す取組みの重要性が提言されている。学校においては、子どもたちの「総合的な学力」を最大限に伸ばしていくための目標を明確にし、日々の点検・評価を繰り返しながら、より「質」の高い教育活動を目指す必要がある。そのためには、家庭・地域・学校の連携をさらに強化し、子どもたち一人ひとりの個性や能力に応じて、その可能性を最大限に伸ばしていくための「ていねいな教育」、将来、社会人として自立して生きていくために必要な主体性、社会性を育む「きたえる教育」を実践していくことが求められている。
 福井県教育委員会においては、この提言を具現化し、実行するための取組みを進めているところである。

1 検証改善委員会の体制について

 福井県検証改善委員会(福井県学力向上推進委員会)は、福井市灯明寺中学校長である龍野篤朗を委員長として、福井大学教授等の学識経験者2名、県内の公立小・中学校の校長4名(国語2名、算数・数学2名)、福井県教育庁義務教育課員等の行政関係者7名、ワーキングループの代表者である福井県教育研究所員7名の計20名の学力向上推進委員から構成される委員会である。
 本委員会の他に、分析を集中的に行い、改善策を提案するため、福井県教育研究所員、指導主事、公立小・中学校教諭で構成するワーキンググループ(小学校国語、小学校算数、中学校国語、中学校数学、質問紙)を設け、検討を行った。
 10月に学力向上推進委員会の第1回会議を行い、2月まで4回の委員会を開催し分析を行った後、学校改善支援プランをまとめた。

2 学校改善支援プランの概要

 学校改善支援プランは、課題が見られた内容や今日求められている学力等から必要だと考えられる改善について、各教科2~3の観点でまとめた。2~3の観点それぞれについて、特に課題の見られる問題をいくつか取り上げ、つまずきの内容やその要因について分析し、その力を付けるための効果的な指導法について具体的に記述した。小学校においては、指導の系統性についても詳述した。
 小学校国語では、「司会をする力」、「要約する力」、「読解力」の三つの力を中心にまとめた。
 小学校算数では、「数や加減乗除の意味をとらえ、答えの見通し、見積りを意識した指導」、「学習内容と生活のつながりが感じられる題材」、「筋道を立てて考え、説明する場面の設定」の三つの観点から分析した。
 中学校国語では、「語彙力」と「評価力」の二つの力を中心に、改善の方向を示した。
 中学校数学では、「観察や実験など実際の体験を生かした授業」、「情報を整理したり、筋道を立てて考えたりする学習」、「粘り強く、発展的に考え取り組む姿勢」の三つの観点から分析した。
 生活環境や学習環境に関する質問紙調査については、児童・生徒質問紙調査を基に、正答率や学校質問紙調査の質問項目と関連させながら、「1学校生活」、「2家庭学習」、「3読書」「4基本的生活習慣」、「5テレビ・テレビゲーム・インターネット・メール等」、「6朝食・夕食」、「7規範意識・倫理観」、「8学びに向かう力」、「9家庭や地域の教育力」、「10自然体験や社会体験、ものづくり体験」、「11地域や社会とのかかわり」、「12運動・スポーツ」の12の領域にまとめて分析し、指導改善のポイントと、その根拠となるデータと分析を示した。
 また、福井県学力向上推進委員会から、学校では、実態に即した「学力向上プラン」を作成し、実施・評価・改善の検証改善サイクルを確立すること、義務教育9年間を見通した系統的な指導に取り組むこと、県・市町の教育委員会では、指導、助言に積極的に努め、学校の支援をすることを提言の形でまとめた。

3 全国学力・学習状況調査の結果分析について

 福井県学力向上推進委員会では、本県の全国学力・学習状況調査について、小・中学校の各教科ごとに、正答率の低い問題について原因を探るとともに、調査Aと調査Bの問題間の関連や質問紙調査との相関から、本県の課題を分析した。また、質問紙調査においては、県と全国との比較から特徴が見られるもの、各質問項目間の相関関係が見られるものについて分析した。
 その結果、小学校国語では、司会をする力、また文章や様々なテキストを読み取ったり、要約したりする力に課題があった。
 小学校算数では、数や演算の意味を理解することや、学習したことを活用し、グラフや地図、文章から必要な情報を選択して考えたり根拠を説明したりすることに課題があった。
 中学校国語では、使用頻度の低い漢字を読むこと、誤りやすい漢字を書くこと、手紙の後付けについての理解に課題があった。
 中学校数学では、基本となる定義やその内容についての理解、証明の基本的な考え方や情報を整理し考えて説明すること、問題を発展的に考えることに課題があった。
 また、生活環境や学習環境に関する質問紙調査の結果から見られた主な特徴は、以下のようになる。

「1 学校生活について」

  • 学校の部活動に参加している子どもの割合は全国を上回っており、部活動に参加している子どもの正答率は、高い傾向が見られる。
  • 学校で好きな授業がある子どもの割合は、小学校は全国と同じになっており、中学校では全国を下回っている。

「2 家庭学習について」

  • 家で学校の宿題をしている子どもの割合は全国を上回っている。しかし、予習・復習や自分の興味のあることについて調べている子どもの割合は全国を下回っている。
  • 普段の家庭学習時間は全国より短い傾向が見られる。

「3 読書について」

  • 1日の読書時間は全国より短い傾向が見られる。

「4 基本的生活習慣について」

  • 基本的な生活習慣が身に付いている子どもの割合は、全国より高い傾向にある。

「5 テレビ・テレビゲーム・インターネット・メール等について」

  • 時間などのルールを家の人と決めている子どもの割合は、全国を下回っている。
  • 携帯電話を持っていない子どもの割合は、全国を上回っている。

「6 朝食・夕食について」

  • 家の人と朝食や夕食を一緒に食べている子どもの割合は、全国を上回っている。

「7 規範意識・倫理観について」

  • きまりや約束を守る子どもの割合は、全国を上回っている。しかし、倫理観の高い子どもの割合は、全国とほぼ同じか下回っている。

「8 学びに向かう力について」

  • 自分にはよいところがあると思う子どもの割合は、全国を上回っている。しかし、将来の夢や目標をもっている子どもの割合は、全国を下回っている。

「9 家庭や地域の教育力について」

  • PTAや地域の人が学校の諸活動にボランティアとして参加する学校の割合は、全国を上回っている。
  • 家の人と学校での出来事について話をしている子どもの割合は、全国を下回っている。
  • 家の手伝いをしている子どもの割合は、全国を下回っている。

「10 自然体験や社会体験、ものづくり体験について」

  • 清掃活動への参加の割合については、小学校では全国を上回っており、中学校では全国とほぼ同じになっている。

「11 地域や社会とのかかわりについて」

  • 今住んでいる地域の行事に参加したり、地域への関心が高い子どもの割合は、全国を上回っている。しかし、新聞やテレビのニュースなどに関心のある子どもの割合は、全国を下回っている。

「12 運動・スポーツについて」

  • 普段、体育(保健体育)の授業以外に1時間以上運動、スポーツをする子どもの割合は、全国を上回っている。
  • 家の人と一緒に運動・スポーツをしている子どもの割合は、全国を下回っている。

4 学校改善支援プランについて

 2でも述べたとおり、3で述べた分析結果を受け、「教科に関する指導上の改善」と「生活環境や学習環境に関する指導上の改善」の章に分け、調査結果の分析および学校での指導の改善に向けての具体的な指導例について記載した。以下に、それぞれの教科および質問紙調査についてポイントを示す。

【小学校国語】

(1)司会をする力を付けるために

 話し手の発言を確認し、要約してメモを取る力、その発言内容を分類・整理する力、様々な発言を引き出す力は、司会をする力の基礎となり、スピーチや話し合い活動でも生きてくる。そこで、6年間を見通した「話すこと・聞くこと」の学習の系統性を踏まえ、メモの取り方を指導すること司会をする経験を多く設定すること話すときには相手に正確に伝わるように意識をして話をすることの指導が必要である。

(2)要約する力を付けるために

 目的や意図に応じて、文章の内容を的確に押さえながら要旨をとらえる力や、話の中心に気を付けて聞き、自分の感想をまとめる力は、6年間を見通して系統的に指導することが必要である。また、目的に応じて長い文章や様々なテキストを読み取り、リライトする学習が有効である。読み取ったことを自分の言葉でまとめ、表現する力は、伝え合う力の基礎ともなる。よりよいコミュニケーションを図るためにも、要約する力は大切な役割を果たす。

(3)読解力を付けるために

  文章と図表、グラフ等の他のテキストとを照らし合わせながら読む学習や、二つの作品を比較しながら読む学習が必要である。教師が様々なテキストを児童に与え、学習する機会を設定することが重要である。

【小学校算数】

(1)数や加減乗除の意味をとらえ、答えの見通し、見積りを意識させた指導

  自らの活動を通して数量や図形についての意味を理解し、納得し、実感できるようにすることが大切である。数直線等を用いて数の意味や大きさを考えたり、具体物を用いて数についての感覚を豊かにしたりするような活動が大切である。また、図や絵や言葉の式を用いたり、簡単な数に置き換えたりするなどの工夫をして立式する活動も必要である。更に、計算の仕方を考えたり、計算の結果の確かめをしたりするときには、見積りを活用することも有効である。

(2)学習内容と生活のつながりが感じられる題材

  算数で学習したことが生活の中で直面した問題の解決に生かされることによって、学習が意味あるものとなる。日常の生活の場や資料などを活用して、割合・くらべる量・もとにする量の関係や百分率の意味を理解することが大切である。更に、具体的な数量の関係を言葉の式や公式にまとめるなど、数量の関係を式に表したり、その式をよんだり用いたりすることができるようになることも重要である。また、グラフの学習は2年生から導入されている。新しいグラフの学習をするときには、既習のグラフと関連付けながら、それらのグラフの特徴を理解できるようにすることが大切である。

(3)筋道を立てて考え、説明する場面の設定

 情報過多の場面や、絵や図、文章など、様々に表現された内容の中から、必要な情報をよみとったり、選択したりして条件を分類整理することが大切である。また、計算の結果だけでなく、式のどの部分が同じでどの部分が異なっているのか、どのような演算になっているのかなど、式の形に着目して数量の対応や変わり方の特徴をよむことなど、数量の関係の見方を深めることが重要である。

【中学校国語】

(1)語彙力を高めるために

 言語活動の基礎としての「語彙力」を高めるためには、生徒が進んで調べたくなる、辞書を引きたくなるような場面をつくることが大切である。自分が調べた言葉を整理して残すこと、自分が作った漢字や語句の問題をクラスのみんなに解いてもらうこと、そうした活動を通して、「使える」言葉が増えていく。
 また、中学校でも「音読」を積極的に取り入れることが大切である。テキストを声に出して読むことが、言葉を正確に理解することの助けになり、更に、どのように読むかを考えることで、より深い内容理解につなげることも期待できる。

(2)評価力を高めるために

 より主体的な読みの力を付けるために、「熟考・評価」する言語活動を重視した単元構成を考えよう。複数のテキストを読み比べ、読み取ったことを筋道を立てて説明する、自分たちの作品について相互評価をする、などの活動を組み込むことが有効である。
 また、多様なテキストを比較したり評価したりすることは、国語科以外の教科や総合的な学習の時間等においても重要な言語活動の一つである。国語科で培う能力を基本に、各教科等の指導計画にどのような言語活動を位置付けていくか、学校全体の取組みとして、教科の枠を超えて検討していくことが望まれる。

【中学校数学】

(1)観察や実験など実際の体験を生かした授業

  実験や実測を通して、柱体と錐体の体積の比が3対1であることが実感を伴って理解できるようにすること、さいころや硬貨などを多数回投げる実験を通して、ある面が出る割合が一定の値に近づくことを実感させることが大切である。また、日常的な場面等から二つの数量関係を取り出し、実際のデータを単純化し、一次関数かどうかを判断する機会を設けることが大切である。

(2)情報を整理したり、筋道を立てて考えたりする学習

 二つの条件を満たす組合せが分かるように表にまとめさせたり、普段から条件を整理しながら考えさせたりすることが大切である。証明では、命題の仮定と結論を区別できるようにし、条件を確認しながら見通しをもって、記述させることが大切である。条件に合うものを考察するのに、試行錯誤して式をつくる活動や、表などを作成することから気付かせることが必要である。また、根拠となる事実を示した上で結論を述べることが大切であり、実際に説明する機会を設けることが必要である。

(3)粘り強く、発展的に考え取り組む姿勢

 連続する自然数の和の個数を変えるなど、問題の条件を変えたり教科書の問題を作り変えたりして、発展的に考えさせることが大切である。問題解決のために式や表の活用について、説明する機会を設けることも大切である。

【質問紙調査】

  • (1)学校生活について

    「好き・楽しい」は学校生活で重要です

    • ◇望ましい友人関係を築き、学校生活の中で楽しみを見いだせるような指導
    • ◇部活動への参加推進(中学校)
    • ◇知的楽しさのある授業づくり
  • (2)家庭学習について

    個に応じた家庭学習の指導・支援が大切です

    • ◇継続的な家庭学習の習慣化
    • ◇家庭学習の内容や方法についての支援
    • ◇適量で良質な宿題の工夫
    • ◇テレビ・テレビゲーム・インターネット・メールのルールづくりの啓発
  • (3)読書について

    読書は、物事や人・世の中への関心、倫理観を高めます

    • ◇「福井県子どもの読書活動推進計画」の継続、全校一斉読書の促進
    • ◇親子交流読書、読書の楽しさに目覚めさせる機会の計画的な設定
    • ◇体験活動と学校図書館を活用した授業との連携
  • (4)基本的生活習慣について

    規則正しい生活リズムを身に付けさせることが大切です

    • ◇子どもや保護者との面談、各種通信物の効果的な利用
    • ◇小学校の学力アップには、181の生活リズム
    • ◇中学校の学力アップには、271の生活リズム
  • (5)テレビ・テレビゲーム・インターネット・メール等について

    望ましい利用の仕方、ルールづくりが大切です

    • ◇使用時間等のルールづくりなどの家庭への啓発
    • ◇フィルタリングソフトの活用
    • ◇健康と学習への影響の指導
    • ◇テレビゲーム・インターネットをしない日の設定
    • ◇携帯電話、メールの望ましい利用の仕方の指導
  • (6)朝食・夕食について

    望ましい食生活が、豊かな学びを支えます

    • ◇家族とのコミュニケーションを大切にした食事時間の啓発
    • ◇成長に不可欠な食事の意義についての指導
    • ◇家庭との連携による自立に向けた自己管理能力の育成
  • (7)規範意識・倫理観について

    規範意識や倫理観を高め、総合的な学力を育成します

    • ◇体験的活動を生かすなど、様々な学習活動の工夫
    • ◇子どもの社会参画の推進、地域学習の充実
    • ◇家庭・地域・学校の連携による規範意識の醸成
    • ◇地域・学校協議会(福井型コミュニティ・スクール)への働きかけ
  • (8)学びに向かう力について

    自信や希望が、学びの原動力です

    • ◇成就感や満足感を繰り返し味わうことのできる場の設定
    • ◇自己肯定感を高め、生き方を考える教育の充実
    • ◇職業意識を高め、将来の夢や目標をもたせる指導
  • (9)家庭や地域の教育力について

    子どもの育ちには、家庭と地域の力が不可欠です

    • ◇地域・学校協議会等と連携した開かれた学校づくり
    • ◇家庭・地域とのコミュニケーションの促進
    • ◇家庭における役割分担、親子のコミュニケーションの大切さの啓発
  • (10)自然体験や社会体験、ものづくり体験について

    豊富な体験が学力を伸ばします

    • ◇小学校低学年からの体験活動の充実
    • ◇教科、領域等における体験活動の機会や場の設定
    • ◇異年齢の人との交流の一層の促進
  • (11)地域や社会とのかかわりについて

    子どもが地域とかかわり、社会に目を向けるよう導きます

    • ◇子どもと地域の人々との交流の促進
    • ◇地域や社会への関心を高めることの大切さ
    • ◇地域学習の充実、NIEの一層の活用
  • (12)運動・スポーツについて

    適度な運動は、学習意欲の向上、生活リズムの形成、社会性の発達に効果的に作用しています

    • ◇発達段階に応じた運動をするための学校・PTA・関係団体等の連携
    • ◇戸外遊びや適切な運動・スポーツの取組みの啓発

 福井県学力向上推進委員会は、知識や技能の習得に片寄ることなく、生活習慣・学習習慣の定着など学習の基盤となる力も含めて、「総合的な学力をはぐくむ」ことを目指し、以下のような提言の形にまとめた。

総合的な学力をはぐくむために-福井県学力向上推進委員会からの提言-

 児童・生徒の学力向上については、本県教育の振興方策等について協議する「教育・文化ふくい創造会議」の第一次提言において、知識の習得を中心とした基礎的な学力だけではなく、思考力、判断力、表現力、規範意識、職業意識、体力等も含めた「総合的な学力」の向上を目指す取組みの重要性が提言されています。
福井県学力向上推進委員会でも、「平成19年度全国学力・学習状況調査」の結果を踏まえ、知識や技能の習得に片寄ることなく、生活習慣・学習習慣の定着など学習の基盤となる力も含めて、「総合的な学力をはぐぐむ」ことを目指し提言の形でまとめました。
福井県における全国学力・学習状況調査の分析の詳細と具体的な改善策については、第2章と第3章を参照してください。

○学校は、児童・生徒の学習・生活状況を把握して課題を明確にし、各学校の実態に即した「学力向上プラン」を作成する。

  • 国語、算数・数学だけでなく、各教科、領域にわたって全教職員で学力向上に取り組む指導体制を確立する。
  • 基礎・基本の定着と知識・技能を活用して課題を解決するための思考力・判断力・表現力等を育成する授業づくりに努める。
  • 社会の様々な出来事に関心をもたせて学習意欲を高めたり、グループ学習や作業的・実験的活動等を取り入れて考える楽しさを味わわせたりして、「知的楽しさ」のある授業づくりに努める。
  • 教職員相互の授業参観や研究授業を活性化し、指導力の向上を図る。
  • 家庭や地域と協力して、生活・学習習慣の改善が進むよう、基本的な生活習慣の定着と自己管理できる力の育成を図る。
  • 福井型コミュニティ・スクールにおける地域・学校協議会を有効に活用し、家庭、地域が一体となって取り組む教育活動を展開する。

○学校は、学力調査を生かした検証改善サイクルを確立する。

  • 各学校において、学力調査の結果を多面的に分析し、自校の教育の成果と課題を検証する。それを基に「学力向上プラン」を作成し、実施・評価・改善のサイクルを通した取組みを推進する。
  • 学校評価システムにおいて作成する学校経営計画や学校目標にも、検証改善サイクルを適切に位置付ける。
  • 2月実施の福井県学力調査の結果も、「学力向上プラン」の見直しに反映していく。

○学校は、義務教育9年間を見通した系統的な指導に取り組む。

  • 異校種間の授業参観、情報交換などを積極的に行い、学習指導や生徒指導等において、小・中連携を促進する。
  • 指導項目関連図や単元系統図等を想定しながら、系統性を考慮した連続性のある指導に努める。

○福井県教育委員会と市町教育委員会・地教委連絡協議会は、情報提供や指導、助言に積極的に努め、学校の支援をする。

  • 各学校で行われる授業研究会や校内研修が充実したものになるよう、支援(指導、助言等)をする。
  • 各学校における指導内容や指導方法の改善・充実を図るため、分析に関する手法や資料等を提示する「学校改善支援プラン」を作成するととももに、指導事例を提供する。
  • 学校経営改善のための学校評価や、教職員の資質向上の取組みを支援するための研修機会を提供する。
  • 福井県教育研究所や嶺南教育事務所における研修講座、研究活動等の充実を図る。
  • ティーム・ティーチングや少人数指導の導入、ボランティアの活用により、きめ細かな指導の充実を図る。
  • 生活・学習習慣の改善を図ることができるよう、啓発・支援をする。
  • 家庭教育に関する学習会の開催支援および講師派遣による学習機会を提供する。

5 学校改善支援プランを受けた取組みについて

 4で述べた学校改善支援プランについては、その周知を図るため12月に県内各小・中学校から1名ずつの参加を求め、第1回学力向上推進会議を開催するとともに、その概要をまとめたリーフレットを県内小・中学校全児童・生徒と全教員に対して配付した。
 また、各学校においても自校の課題を分析・把握し、学力向上に対する取組みを推進するために、「学力向上プラン」の作成を提案した。「学力向上プラン」に基づいた取組みの支援を行うため、市町の指導主事を集めた連絡会では、提出された「学力向上プラン」についての情報交換を行った。特定の学年や教科に片寄らず全校体制での授業改善に対する取組み、学習意欲の喚起や学習の基盤づくりのための取組み、生活習慣の改善のための家庭への働きかけ、学校評価と関連させた取組み等、特色のある学校のプランの紹介をし、実施していく上での課題等について協議した。
 3月末には、第2回学力向上推進会議を開催し、各学校が「学力向上プランの取組み状況」を提出し、代表として3校が発表を行った。
 福井市東安居小学校は、国語科におけるPISA型読解力(読み取る力)と算数科におけるPISA型読解力(説明する力)を付けるための取組みや家庭、保護者に対する取組み、校内研修活性化の方策等について発表した。
 福井市木田小学校は、学習の基盤となる心づくりを重視することから、落ち着いた学習環境と良好な人間関係を築く取組みについて発表した。
 坂井市立春江中学校は、学習態度の育成と基礎・基本の重視のための取組みや各教科における授業改善について発表した。
 福井県教育委員会としても、学力調査を生かした検証改善サイクルを確立するために、各学校で作成した「学力向上プラン」の実施・評価・改善のための支援を推進していく。
 また、平成20年度事業として、「小中連携教育推進事業」により、学習指導や生徒指導において、学校改善支援プランで提言されている義務教育9年間を見通した系統的な指導に向けた取組みを行うこととしている。

6 学校改善支援促進事業について

 学校改善支援プランの先行的な実施として、文部科学省が募集した学校改善支援促進事業に応募し、11月に選定された。
 本事業のテーマとして、福井県検証改善委員会(福井県学力向上推進委員会)は、「学力調査の結果を踏まえた学校改善の支援」を中心テーマとして打ち出した。
 以下、取組みの概要について記述する。

(1)学力向上プランの作成と実施

 各学校での全国学力・学習状況調査の結果分析をし、分析結果を活用した学力向上に取り組むための「学力向上プラン」の作成を提案した。
 内容には、以下の項目を含めることにした。

  • 1 全国学力・学習状況調査の結果から把握した児童・生徒の実態
    • 国語、算数・数学、質問紙調査の結果を分析し、良好であった点、課題が見られた点等
  • 2 実態を踏まえて、学校が取り組む学力向上のための改善策
    • 今年度中に取り組むこと
    • 来年度以降も継続して、中・長期的に取り組むこと
    • 下学年の児童・生徒に対して取り組むこと
    • 家庭、保護者に対して取り組むこと

【学力向上プランの例】

 また、年度末には「学力向上プラン」の取組み状況について提出することとし、プランの中間見直しを図るようにした。

  • 1 「学力向上プラン」の実施状況
    • 今年度取り組んだこと
    • 効果を上げている点
    • 課題となっている点

  • 2 来年度、学校が取り組む学力向上策
    • 各教科の学力向上に関すること
    • 学力向上の基盤づくりに関すること

 (継続して取り組むことおよび今年度の課題を踏まえ新たに取り組むことを含める。)

(2)学力向上研究指定校の取組み

 全国学力・学習状況調査の結果に基づき、課題を改善するために支援を必要とする学校を学力向上研究指定校に指定し、学力向上プランを作成し、指導力を高めるための取組みを充実・強化するとともに、学習支援員や外部講師等を活用して、児童・生徒等の学力の向上を図るための支援を行った。
 学習支援員には教員OBや大学生等を配置し、主に、教科担当教員とのTT、補充学習など個別の学習支援を必要とする生徒に対する指導、教材の作成、ノートやワークシートの添削等の活動を行った。学校からは、教員に授業を進める上で余裕ができ、指導に集中でき、きめ細かな指導が可能になったという報告がされている。

【活動内容報告書の例】

 「学力向上プラン」の実施について、校内研修を充実し指導力の向上を図るため、外部講師を派遣した。外部講師には、校長OBや学力向上推進委員会の委員、市町等教育委員会の指導主事があたった。その研修内容は、

  • 学力向上に対する課題と解決策-教職員の意識改革と現状打開への糸口-
  • 学力向上を目指した学習指導
  • 読解力の向上を目指した授業改善
  • 学力向上先進校に学ぶ
  • 学力を支える落ち着いた集団づくり
  • 授業研究会による実践的な指導等である。

 また、芦屋市教育委員会「学力向上支援プラン」の指定校や筑波大学、お茶の水女子大学の附属学校等の研究会に参加し、各学校の改善の取組みの参考とした。

(3)基礎・基本を定着させるための教材の作成

ア 漢字学習ワークシート

 中学校国語の調査結果から、使用頻度の低い漢字を読むことや誤りやすい漢字を書くことに課題が見られた。また、新しく習った漢字を実際の生活で使おうとしている児童・生徒の割合が小・中学校ともに全国の割合を下回っていた。
 そこで、小学校から、児童が興味・関心をもって漢字学習に取り組めるようにすることをねらいとして、漢字学習ワークシートを作成した。また、効果的、効率的に学習できることをねらい、意味や字形、使われ方、成り立ち等において関連のある漢字を、まとめて掲載している。

【ワークシートの例】

イ 基礎・基本を定着させるための算数問題集

 福井県の調査結果からは、「算数の指導として、計算問題などの反復練習をする授業を行いましたか」という質問に対して、「よく行った」が71.6パーセントで、全国の57.8パーセントを大きく上回っていることが明らかになった。また、福井県では、授業以外でも朝学習等の時間を設定し、基礎・基本の定着を図る学習に取り組んでいる学校が多数ある。
 このため、各学校が独自に作成した教材を収集し、その取組みを紹介することで、効果的な指導の推進を図ることができると考え、「基礎・基本を定着させるための算数問題集」としてまとめ、配付した。
 自作教材の提供協力を依頼したところ、約40校からの教材提供があり、学力向上推進委員会で編集し、1年生から6年生までの各学年用と学年をまたいで使用する全学年用の7冊1組で作成した。活用の仕方として、「ドリルとしての使い方」、「チェックテストとしての使い方」、「家庭学習としての使い方」の例を示し、各学校の実態に応じて活用を工夫できるようにした。

(4)学力向上推進会議の開催

 各学校が作成した「学力向上プラン」を踏まえ、指導法などを改善した取組みや成果を紹介し普及することと、作成した教材の活用を啓発することを目的に、県内各小・中学校の担当者が参加する学力向上推進会議を開催した。
 「学校改善支援プラン」を配付し、学力向上推進委員会委員長が、改善支援プランの内容と学校での活用について説明した。
 また、学力向上研究指定校が、
 「全国学力・学習状況調査の無解答率が高く、苦手意識が強かったり、やる前からできないとあきらめたりする傾向があるようだ。家庭学習にドリルを取り入れ、理解度を確認した上で基礎の定着を図るなどし、学年末には生徒の約7割がドリルの効果があったと評価した。」といった取組み状況の発表をした。
 配付した算数問題集の作成意図と活用について説明するとともに、漢字学習ワークシートを活用した漢字学習指導についてグループ別協議を行い、活用の推進を図った。

7 おわりに

 今年度、「検証改善サイクルの確立にむけた実践研究事業」に取組み、教科の学力と学力の基盤となる力の両面からの育成が求められることが、明らかになった。これは、知識の習得を中心とした基礎的な学力だけではなく、思考力、判断力、表現力、規範意識、職業意識、体力等も含めた「総合的な学力」の向上を目指す、福井県の方向と一致している。
 また、地域の環境と家庭生活が、いかに子どもたちの学力を支えているか、子どもたちの学力は、決して学校だけで育成されるものではなく、地域社会や家庭の支えによるものであるということも明瞭になった。
 具体的な「学校改善支援プラン」の活用については、文部科学省が平成20年度から実施する「全国学力・学習状況調査等を活用した学校改善の推進に係る実践研究」において、取組みを進めていく予定である。

(参考)

-- 登録:平成21年以前 --