「活用力」の向上を目指して-知識・技能を活用して課題を解決する力の向上-

石川県検証改善委員会

はじめに

 本県においては、平成14年度より、各学校における指導法の工夫改善や教育課程の見直しを図ることを目的に、基礎学力調査を実施してきた。本年度の調査は、全国学力・学習状況調査の実施に伴い、本県の調査と同様の時期、趣旨であることから、重なる教科については、代替して実施することとした。
 過去の調査から、本県は、基本的な知識や技能については、概ね良好であるが、「文章や図・表等を理解し、それを活用する力」いわゆるPISA型読解力などについては十分とはいえず、指導法の工夫改善が求められた。そこで、本県の事業においても、平成17年度より、「読解力向上推進事業」や「学力向上セミナー」等を通して、課題の解決を図ってきた。

1 検証改善委員会の体制について

 本県では、これまで基礎学力調査の目的の達成に向けて、基礎学力調査研究委員会を設置し、調査問題の作成、調査結果の分析・考察、指導資料集の作成等を行ってきており、この基礎学力調査研究委員会を検証改善委員会に充てることとした。
 石川県検証改善委員会は、金沢大学教育学部教授である松原道男氏を委員長として、教育事務所及び県教育センターの指導主事25名、県内公立小中学校の教諭17名、金沢大学教育学部教授等5名、さらに事務局として県教育委員会学校指導課職員12名の計60名の委員で構成される委員会である。
 本委員会の委員には、調査結果の分析・考察、また、学校改善支援プランの作成を依頼し、全体会を次の日程で進めてきた。

  • 1 第1回検証改善委員会(7月)
    • 発足、任務、今後の予定 等
  • 2 第2回検証改善委員会(10月)
    • 分析方法の検討
    • 学校改善支援プランの内容検討
  • 3 第3回検証改善委員会(12月)
    • 分析報告書の内容検討
    • 学校改善支援プランの内容検討
  • 4 第4回検証改善委員会(3月)
    • 学校改善支援プランの報告
    • 次年度の進め方について

 また、分科会として、各教科部会を適宜開催し、調査結果の分析・考察を行った。

2 学校改善支援プランの概要

 県教育委員会では、これまで県全体の児童生徒の学力や学習状況を掲載した基礎学力調査の「分析結果の報告書」を作成してきた。本年度においても、県独自の教科等分(小4国・算、小6社・理、中3社・理・英)について、10月に発行したところである。
 全国学力・学習状況調査の結果については、10月24日に提供された資料を基に分析を進めたところ、これまでと同様、「知識・技能を活用する力」について課題が見られた。また、学習意欲や生活習慣等と正答率との関係についても考察し、学校質問紙や児童生徒の質問紙調査結果と正答率との関係等を掲載する等、報告書の内容の見直しを図った。
 「知識・技能を活用する力」を育成するためには、各教員が指導法の工夫改善を図ることだけではなく、学校全体としての取組が重要であると考えた。そこで、これまで作成してきた各教科別の指導事例を集めた「指導資料集」に加え、学校研究の充実を図るための支援として、「学力向上プラン作成の手引き」を作成することとした。
 以上のことから、本県の学校改善支援プランとして、以下の3点をまとめた。

  • 1 「分析結果の報告書」
  • 2 「学力向上プラン作成の手引き」
  • 3 「指導資料集」

3 全国学力・学習状況調査の結果分析について

 本県の調査結果については、すべての教科区分について、国の平均正答率を上回り、設問別においても、ほとんどが上回る結果であった。しかし、国と同様、小中ともに、基礎的・基本的な知識・技能については、概ね理解しているが、「知識・技能を活用する力」については課題が見られた。
 教科別に見ると、次のとおりである。

○小学校・国語A

 本県の児童の平均正答率は、83.3パーセントと全国(公立)を1.6ポイント上回っており、今回出題している学習内容についての基礎的・基本的な知識・技能は、概ね良好である。

○小学校・国語B

 本県の児童の平均正答率は、64.0パーセントと全国(公立)を2.0ポイント上回っているが、知識・技能を活用する力は、十分とはいえない。

○小学校・算数A

 本県の児童の平均正答率は、84.2パーセントと全国(公立)を2.1ポイント上回っており、今回出題している学習内容についての基礎的・基本的な知識・技能は、概ね良好である。

○小学校・算数B

 本県の児童の平均正答率は、64.3パーセントと全国(公立)を0.7ポイント上回っているが、知識・技能を活用する力は、十分とはいえない。

○中学校・国語A

 本県の生徒の平均正答率は、83.8パーセントと全国(公立)を2.2ポイント上回っており、今回出題している学習内容についての基礎的・基本的な知識・技能は、概ね良好である。

○中学校・国語B

 本県の生徒の平均正答率は、76.0パーセントと全国(公立)を4.0ポイント上回っているが、知識・技能を活用する力については、更に身に付けさせる必要がある。

○中学校・数学A

 本県の生徒の平均正答率は、76.1パーセントと全国(公立)を4.2ポイント上回っているが、基礎的・基本的な知識・技能については、更に身に付けさせる必要がある。

○中学校・数学B

 本県の生徒の平均正答率は、65.3パーセントと全国(公立)を4.7ポイント上回っているが、知識・技能を活用する力は、十分とはいえない。

 その他、県全体の状況の特徴的な分析結果として、以下の結果が得られた。

○地域のおける状況

 小学校においては、県内4つの各教育事務所の「国語A」「国語B」「算数A」「算数B」の各平均正答率を比較すると、最大で5.9ポイントの差がある。
 中学校においては、「国語A」「国語B」「数学A」「数学B」の各平均正答率を比較すると、最大で5.0ポイントの差がある。

○1学級当たりの児童生徒数との関係

 小中とも、小学校第6学年の1学級当たりの児童生徒数と「国語A」「国語B」「算数・数学A」「算数・数学B」の平均正答率には、関係が見られない。

○児童生徒質問紙調査との関係

  • 「算数・数学の問題の解き方が分からないときは、あきらめずにいろいろな方法を考えますか」においては、小学校の「国語B」「算数B」、中学校の「数学B」について、「当てはまる」と回答した児童生徒と「当てはまらない」と回答した児童生徒の正答率は、20ポイント以上の差が見られる。
  • 小中とも、「学校の規則を守っている」と回答した児童生徒の方が、国語及び算数・数学の正答率が高い傾向が見られる。
  • 小中とも、「家で学校の宿題、授業の復習をしている」と回答した児童生徒の方が、国語及び算数・数学の正答率が高い傾向が見られる。
  • 小中とも、「朝食を毎日食べている」「学校に持って行くものを、前日か、その日の朝に確かめている」と回答した児童生徒の方が、国語及び算数・数学の正答率が高い傾向が見られる。

 このような調査結果から、「今後の指導に当たっての留意点」として以下の7点を挙げた。

  • 基礎的・基本的な知識・技能を実生活に活用する指導の充実
  • 課題に最後まで粘り強く取り組ませる指導の充実
  • 日頃から読書に親しませる指導の充実
  • 規範意識の醸成及び思いやりの心を育む指導の充実
  • 家庭学習の習慣を身に付けさせる取組
  • 基本的生活習慣を身に付けさせる取組
  • 地域の様々な活動への参加を促す取組

 これらの指導や取組の充実のためには、各学校において、調査の結果の分析を基に、課題を明確にし、学習指導の工夫改善等を図ることが大切であり、また、日常の生活についても、家庭と連携を図りながら改善の取組を、学校全体として進めていくことが大切である。

4 学校改善支援プランについて

 3で述べた分析結果を受け、1各学校おいては、自校の結果と県や国と比較し指導法の工夫改善等につなげていくために「分析結果の報告書」を、また、2学力向上に向けた取組の充実を図るための支援として「学力向上プラン作成の手引き」を、さらに、3正答率の低かった問題のねらいを達成するための指導事例や、課題が見られた「知識・技能を活用する力」を育成するための指導事例を掲載した「指導資料集」を作成し、学校改善支援プランとして各学校へ配付した。

1「分析結果の報告書」の作成・配付

 市町教育委員会や学校が、今後の改善に役立つことができるように、3で述べた各教科の分析結果の他に、クロス集計の結果も掲載した。

【「分析結果の報告書」から】


2「学力向上プラン作成の手引き」の作成・配付

 調査結果を、学校における授業等の教育活動の改善に十分に活かすことができるよう、調査結果の分析・考察の仕方、指導改善のポイントの明確化の方法、具体的な取組例などを掲載した。

【「学力向上プラン作成の手引き」から】


3「指導資料集」の作成・配付

 各教科における調査結果を基に、改善の手立てを示した「指導資料」を作成した。特に、本年度は、「知識・技能を活用する力」については、十分とはいえない状況であったことから、その単元・分野の問題を中心に取り上げ、改善のポイント、解答の状況、指導の改善の視点、具体的な指導事例等を記載した。

【「指導資料集」から】


5 学校改善支援プランを受けた取組について

1「分析結果の報告書」の活用

 「分析結果の報告書」については、1月末に各学校へ配付し、今後の指導法の工夫改善等に役立ててもらうことにした。また、県教育委員会が開催する研究主任を対象とした「学力向上研究推進会議」において、分析結果を報告し、各学校は、自校の結果と改めて比較し、課題の明確化を図った。

2「学力向上プラン作成の手引き」の活用と分析・考察のためのグラフ作成ファイルの紹介

 「学力向上プラン作成の手引き」については、2月初めに各学校へ配付し、これに即した「学力向上プラン」が、3月末に提出されることとなっている。そのために、各学校の研究主任を対象とした「学力向上研究推進会議」において、調査結果の報告とともに本プランの作成にあたっての留意点について確認した。
 また、各学校のきめ細かい分析のための支援として、県教育委員会のHP上に、分析・考察を行うためのグラフ作成のファイルを掲載した。
 石川県教育委員会の平成20年度の事業として、「児童生徒の活用力向上モデル事業」を立ち上げ、全市町において、「活用力(知識・技能を活用し、課題を解決するために必要な思考力、判断力、表現力等)」を高めるための「推進モデル校」を指定し、実践研究を行うとともに、その成果を広く普及することとしている。

3「指導資料集」の活用

 「指導資料集」については、3月に完成し、平成20年4月に、各学校へ冊子を配付した。また、校内研究等にも活用しやすいよう、電子媒体の貸し出しも可能としている。

6 おわりに

 「全国学力・学習状況調査」が43年ぶりに実施されたが、本県においては、これまでも「基礎学力調査」を、同様の趣旨、時期に実施してきたこともあり、既存の組織を活用し、滞りなく進められた。
 「全国学力・学習状況調査」の目的にもあるように、児童生徒の学力・学習状況を把握・分析することに留まらず、自らの教育の結果を検証し、改善することが大切である。今回の調査は、各学校が自校の児童生徒のためにどのような取組が適切なのか、各教育委員会が、域内の学校を支援するためには、どのような施策が適切なのかを検討するための貴重な機会となり得たのではないかと考える。今後も、この調査結果を有効に活用していきたいものである。
 本県では、過去の調査結果からも「知識・技能を活用する力」には課題が見られ、それを解決するための事業を進め、成果等の普及に努めてきた。今後も、各市町や学校においてもその課題の解決のために、工夫の見られる積極的な取組を期待したい。

(参考)

石川県学校改善支援プラン

  • 掲載されている内容
    • 分析結果の報告書
    • 学力向上プラン作成の手引き

-- 登録:平成21年以前 --