基礎・基本の確実な定着」を目指して-全国学力・学習状況調査を活用した授業改善に向けた取組への支援-

岩手県検証改善委員会

はじめに

 岩手県では、「知・徳・体」のバランスのとれた人間育成を基本に据えることを明確にしつつ、学力においては、全ての子どもたちに対する「基礎・基本の定着」を目標として掲げている。
 この基礎・基本とは、基礎知識の習得にとどまらず、複雑化する社会において生きていくために求められる「思考能力・コミュニケーション能力」を身に付けさせなければならないと考えている。
 このことを踏まえ、これまで県独自の学習状況調査が実施されてきたが、調査結果から明らかになった課題は、問い方や出題形式を変えた問題への対応力が低いことや、思考力・判断力を確認する問題の正答率が低いことなどであり、学習内容が確実に定着しているとは言えない状況にあることがわかった。
 このような状況と背景から、全国学力・学習状況調査の結果等を分析・活用し、教育委員会や学校における効果的な取組みや課題を明らかにし、具体的な改善につなげるための支援策として、学校改善支援プランを作成することに取り組んだ。

1 検証改善委員会の体制について

 岩手県検証改善委員会は、県内の指導主事等16人及び大学教授1名、中学校教頭1名の20名、事務局4名で構成される委員会である。
 本委員会では、県内全小中学校から提供いただいたサンプルによる解答傾向の分析、分析を基にした授業改善のためのリーフレットの作成、文部科学省より提供された調査結果に基づく検証と報告書の作成、そして学校改善支援プランの作成を行った。
 委員会は、平成19年5月11日に第1回の会合をもち、その後12月19日までに全11回の委員会を開催した。

2 学校改善支援プランの概要

 検証改善委員会では、本県の全国学力・学習状況調査の結果を受けて、以下の項目で学校改善支援プランをまとめた。

  • 1 調査結果からみえた課題
    • (1)教育活動
    • (2)学習習慣・生活習慣
    • (3)教科指導
  • 2 学校での取組
    • (1)調査分析と検証にどう取り組むか。
    • (2)3つの視点と4つの重点
  • 3 県教育委員会の取組
  • 4 市町村教育委員会の取組
  • 5 解答傾向分析と今後の取組に関する指導改善リーフレット

3 全国学力・学習状況調査の結果分析について

 本県の全国学力・学習状況調査の結果について検証改善委員会で分析を行ったところ、以下の点が明らかになった。

(全体概要)

  •  教科によって多少の違いはあるが、全体的に正答率の分布の幅が大きく、確実な定着にまでは至っていないこと。
     このことから、一人ひとりの児童生徒に対し、個に応じたきめ細かな指導を充実させていくことが重要であること。
  •  調査対象の全教科において「活用」に関する力の定着が不十分であること。
     このことから、獲得した知識をもとにしっかり考えることや、実生活と結び付け活用する取組を展開することが大切である。

(小学校・国語)

  •  正答数の分布は、ほぼ全国の傾向と同じ分布状況を示している。
  •  定着のばらつきは、国語Aでは集団がまとまっている傾向にあるが、下位層の補充指導が必要である。
     国語Bは、中位層のばらつきがAよりも大きくやや低い位置にあることから、全体的に定着が不十分である。
  • 小学校国語定着のばらつき状況

[具体的な課題 国語A]

  •  一文で書かれた内容を理解し、二文の構成にして書き換えること。
  •  主人公の心情を他の登場人物の目を通して読み取ること。
  •  聞き取った内容を正しくメモに取ること。
  •  聞き手にとってわかりやすく話すこと。

[具体的な課題 国語B]

  •  情報の中から必要な事柄を取り出し、新聞の一部に注意点として書き換えること。
  •  求められる様式に従って指示された複数の条件に基づいて記述すること。
  •  二つの感想文を比べて読み、共通する書き方の良さや工夫を評価し、まとめて記述すること。
  •  文章の様式が備える条件を理解すること。

(小学校・算数)

  •  正答数の分布は、ほぼ全国の傾向と同じ分布状況を示している。
  •  定着のばらつきは,算数Aでは集団がまとまっている傾向にあるが、下位層の補充指導が必要がある。
     算数Bは、中位層のばらつきが算数Aよりも大きくやや低い位置にあることから、全体的に定着が不十分である。
  • 小学校算数 定着のばらつき状況

[具体的な課題 算数A]

  •  小数のかけ算で示された式に会う文章問題を選ぶこと。
  •  小数・分数を同一数直線上に表し大小を判断し説明すること。
  •  四則混合の計算をすること。

[具体的な課題 算数B]

  •  地図を観察して図形を見いだし、面積を比較し説明すること。
  •  式の形に着目して計算結果の大小を判断し説明すること。
  •  条件を基に各曜日の代金を求めて比較すること。

(中学校・国語)

  •  正答数の分布は、ほぼ全国の傾向と同じ分布状況を示している。
  •  定着のばらつきは、国語Aでは集団が全体的にまとまっていることが、下位層の補充指導が必要である。
     国語Bでは、中位層のばらつきがAよりも大きく下の位置にあることから全体的に定着が不十分である。
  • 中学校国語 定着のばらつき状況

[具体的な課題 国語A]

  •  手紙を書くための必要な知識に関すること。
  •  文脈における描写を的確に読み取ること。

[具体的な課題 国語B]

  •  文章と図表の情報を読み取り、自分の考えを表現すること。
  •  複数の資料を読んで、資料の表現の特徴や、ものの見方・考え方を整理すること。

(中学校・数学)

  •  正答数の分布は、ほぼ全国の傾向と同じ分布状況を示しているが、集団全体として全国をやや低くした状況である。特に、数学Bは、全国に比べて上位が少なく、中位に集中している。
  •  定着のばらつきは、数学Aでは下位層のばらつきが大変大きくなっている。このことは,下位の生徒の定着の差が大きいことを示している。
     数学Bでは、全体に幅広く分布し、ばらつきが大きい。また、中位層のばらつきもAよりも大きく、さらに低い位置にあることから、活用する力が身に付いていない状況にある。
  • 中学校数学 定着のばらつき状況

[具体的な課題 数学A]

  •  移項の意味や、目的に応じて等式を変形すること等に関すること。
  •  反比例や一次関数の意味、確率の意味等に関すること。

[具体的な課題 数学B]

  •  一次関数のグラフを考察すること。
  •  図形の証明の誤りを見つけたり、正しく直したりすること。

4 学校改善支援プランについて

 3で述べた分析結果を基に、課題の整理、学校・市町村教育委員会・県教育委員会の役割、各学校における授業改善に向けた資料という3つの枠組みにより、学校改善支援プランをまとめた。

  • 学校改善支援プランのページ(2/20)

 本プランでは、1「調査結果から見えた課題」(教育活動、学習・生活習慣、教科指導)2「学校での取組」3「市町村教育委員会の取組」4「県教育委員会の取組」を明確にするとともに、具体的に各教科の課題を明らかにし、その改善を図るための手だてを示して、学校を支援する資料とした。

(抜粋:市町村教育委員会の取組)

  • 指導を振り返るための指導チェックリストの作成等学校が効果的な改善の取組を進める指導助言
  • 学習指導要領に基づく評価シートを活用した指導と評価の一体化を図る取組の推進
  • 学習調査の分析、改善が位置付けられる「まなびフェスト」の作成にかかわる支援
  • 授業力向上のための研修会の充実
  • 「活用」に関する面の指導を進めるための資料提供
  • 小中連携の視点とスムーズな接続の支援
  • 蔵書冊数の確保と読書活動の推進

5 学校改善支援プランを受けた取組について

 学校改善支援プランに先駆け、調査実施後、速やかに学校の授業改善の支援のために、リーフレットを作成し、県内全小中学校及び、各市町村教育委員会に配付し、夏休み後の校内研究会の資料としての活用を促した。
 その後、文部科学省からの結果提供を基に、岩手県として調査結果の概要をまとめた報告書を作成し、県内各小中学校及び教育関係機関に配付するとともに、全県小中学校教務主任研修会を開催し、「定着状況のばらつき」に目を向けた分析を中心とした授業改善についての研修会を実施した。
 最終的には、学校改善支プランと解答傾向分析と今後の取組に関する指導改善リーフレットを合わせた資料を作成し、県内全小中学校及び教育関係機関に配付し、次年度の教育課程編成のための資料とし、授業改善に反映するようにした。

  • 小学校各リーフレット1ページ目
  • 中学校各リーフレット1ページ目

6 おわりに

 検証改善委員会の委員の中心を指導主事としたことにより、県内の教育課題に基づいた専門的な知見に基づいて分析することができたが、指導行政関係者以外の関わりが薄かったため、より広く高い視点で検討・検証することができなかった。また、学校現場からの委員委嘱を行わなかったことから、学校における担任レベルの視点に十分配慮したとは言えない点に課題が残った。
 学校改善支援プランをまとめ、それぞれの役割において、改善を進めるべき点の整理はできたが、具体的な提案が希薄であり、具現化のための指導資料(指導の在り方、指導方法、指導教材、指導カリキュラム等の開発と提案)の作成が今後取り組むべきこととして残っている。

(参考)

学校改善支援プラン・指導改善リーフレット
(※岩手県公式ホームページへリンク)

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