1 検証改善サイクル事業成果報告書について

1.事業の概要

(1)検証改善サイクル事業の実施

  •  文部科学省では、平成19年度に、「全国学力・学習状況調査」を実施するとともに、『学力調査の結果に基づく検証改善サイクルの確立に向けた実践研究』(以下『検証改善サイクル事業』という。)として、都道府県・指定都市ごとに設置された検証改善委員会への委託研究事業を実施した。
  •  平成19年度全国学力・学習状況調査は、「各教育委員会、学校等が全国的な状況との関係において自らの教育及び教育施策の成果と課題を把握し、その改善を図り、併せて児童生徒一人一人の学習改善や学習意欲の向上につなげる」ことを実施目的の重要な柱としている。本事業は、この目的の実現に向けた具体的な取組を積極的に推進するため、全国各地における全国学力・学習状況調査の結果等を活用し、教育や教育施策等の改善につなげる取組を支援するとともに、その成果の普及展開を図ろうとする事業である。
  •  本事業においては、次の2つの枠組みで実践研究を実施した。
    • 1 各都道府県・指定都市ごとに設けられた「検証改善委員会」が、必要に応じて大学や研究機関等と連携しつつ、全国学力・学習状況調査の結果等の詳細な分析とその分析結果を踏まえた改善方策等の提言である「学校改善支援プラン」の作成等を行う事業(『学校改善支援プラン作成等事業』)
    • 2 学校改善支援プランに基づく学校改善に向けた取組を先行的に実施し、早期に具体的な取組につなげるとともに、その成果を広く普及展開していくため、検証改善委員会が行う学校改善支援プランに基づく意欲的な取組に対して、予算の重点配分を行う公募事業(『学校改善支援促進事業』)

(2)学校改善支援プラン作成等事業について

  •  文部科学省は、平成19年10月24日の全国学力・学習状況調査の結果の提供・公表と同時に、初等中等教育局長名で、各都道府県・指定都市教育委員会等に宛て「平成19年度全国学力・学習状況調査の結果の活用について」通知し、各学校や教育委員会等における調査結果の積極的な活用を促している。この通知の中で、各教育委員会に対して、調査結果の分析・検証の結果等を踏まえ、それぞれの役割と責任に応じて改善計画等を策定するなど、域内の教育や教育施策の改善に向けて総合的かつ計画的な取組を進めること等を求めたが、『学校改善支援プラン作成等事業』は、このような教育委員会等における改善に向けた総合的かつ計画的な取組を積極的に支援することをねらいとするものである。
  •  学校改善支援プラン作成等事業は、全国学力・学習状況調査の実施後の平成19年5月より事業募集が開始された。各都道府県・指定都市では、検証改善委員会の組織化が進められ、同年10月の調査結果の提供・公表までにすべての検証改善委員会が設置されるとともに、文部科学省から順次、各検証改善委員会に対して実践研究の委託が行われた。
  •  各検証改善委員会では、大学や研究機関等と連携しつつ、平成19年度全国学力・学習状況調査の結果を中心に、それぞれの地域のデータについて詳細な分析を行うとともに、その分析結果を踏まえ、域内の学校や教育委員会等における教育指導や教育施策等の改善方策等に関する提言をとりまとめ、『学校改善支援プラン』として作成する取組等を進めた。作成された学校改善支援プランは、各検証改善委員会より都道府県・指定都市教育委員会、文部科学省等に提出されている。

(3)学校改善支援促進事業について

1 事業の概要

  •  『学校改善支援促進事業』は、学校改善支援プラン作成等事業等で作成された「学校改善支援プラン」に基づき、学校や教育委員会等における教育指導や教育施策等の改善に向けた取組を平成19年度から先行的に実施し、早期に具体的な取組につなげるとともに、それらの実践研究の成果を広く普及展開しようとするものである。
  •  文部科学省は、平成19年度全国学力・学習状況調査の結果等を活用し、検証改善委員会が実施する学校改善支援プランに基づく取組のうち、平成19年度に先行的に実施しようとする意欲的な取組について、審査の上で予算の重点配分を行った。

2 事業の募集・審査

  •  学校改善支援促進事業では、前期(7月募集、8月採択)と後期(10月募集、11月採択)の2回に分けて、都道府県・指定都市の検証改善委員会からの提案を募集した。
  •  検証改善委員会から提出された提案については、その内容が本事業の趣旨を踏まえた適切な計画と認められるかを検討し、有識者により構成される審査会において、実践研究の実施手法や予定している成果等に関して、主に「具体性」、「妥当性」、「計画性」、「新規性」、「独創性」等の面から審査を行った。また、検証改善委員会が主体的な役割を担いながら、域内の教育委員会や学校と連携したり、必要に応じて大学・研究機関等の専門的な知見を有する機関等と連携を図るなど効果的な体制であるか等、事業実施の体制の妥当性についても評価のポイントとした。

3 事業の採択

  •  審査会の審査結果を踏まえ、「審査項目を確実にこなす魅力のある提案内容」と判断される提案について採択を行った。前期は14件、後期は12件、計26件の提案について採択した。
前期公募;14件
  • 【都道府県】(1府7県)
    福島県検証改善委員会、富山県検証改善委員会、静岡県検証改善委員会、京都府検証改善委員会、岡山県検証改善委員会、広島県検証改善委員会、香川県検証改善委員会、福岡県検証改善委員会
  • 【政令指定都市】(6市)
    仙台市検証改善委員会、新潟市検証改善委員会、静岡市検証改善委員会、京都市検証改善委員会、北九州市検証改善委員会、福岡市検証改善委員会

後期公募;12件
  • 【都道府県】(1道1府9県)
    北海道検証改善委員会、山梨県検証改善委員会、福井県検証改善委員会、大阪府検証改善委員会、兵庫県検証改善委員会、奈良県検証改善委員会、島根県検証改善委員会、徳島県検証改善委員会、高知県検証改善委員会、宮崎県検証改善委員会、沖縄県検証改善委員会
  • 【政令指定都市】(1市)
    神戸市検証改善委員会

(4)検証改善サイクル事業の成果の普及展開について

  •  検証改善サイクル事業は、全国各地における全国学力・学習状況調査の結果等を活用し、教育や教育施策等の改善につなげる取組を支援するとともに、実践研究の実施を通じて得られた様々な成果を広く普及し、新たな取組の展開を図ることとしている。
  •  このため、文部科学省、都道府県・指定都市の検証改善委員会や教育委員会等においては、それぞれの立場で、検証改善サイクル事業の成果の普及展開に取り組んでいる。
  •  文部科学省では、本事業における取組の推進とその成果の普及展開を図るため、平成20年3月6日に、「検証改善サイクル事業に関する成果報告会」を開催した。成果報告会は、文部科学省の「全国学力・学習状況調査の分析・活用の推進に関する専門家検討会議」の委員であり、堺市検証改善委員会の委員長も務める田中博之大阪教育大学教授による基調講演の後に、福島県・広島県・仙台市・静岡市の2県2指定都市から学校改善支援促進事業における取組の状況を中心とした発表・意見交換が行われた。また、都道府県・市区町村教育委員会の求めに応じて、文部科学省や国立教育政策研究所から全国各地のシンポジウムや研修会等へ職員を積極的に派遣した。
  •  本報告書の取りまとめと公表・配付も本事業の成果の普及展開の一環として行うものである。

《成果の普及に向けた取組み(広島県検証改善委員会)》

《学力向上フォーラム(徳島県検証改善委員会)》

《沖縄県学力向上フォーラム(沖縄県検証改善委員会)》

《家庭学習のススメ2(北九州市検証改善委員会)》

2.本報告書の概要について

(1)検証改善サイクル事業成果報告書について

  •  検証改善サイクル事業成果報告書は、都道府県・指定都市の検証改善委員会が行った検証改善サイクル事業等の取組の概略について、文部科学省より各検証改善委員会に原稿の執筆を依頼し、取りまとめたものである。
  •  各検証改善委員会が行った取組については、1検証改善委員会の体制、2域内における全国学力・学習状況調査の結果分析、3調査結果等の分析を踏まえた改善方策等の提言である「学校改善支援プラン」、4学校改善支援プランを受けた取組などの項目に整理し、その概略を掲載している。
  •  また、予算の重点配分を受けた26の検証改善委員会については、これらの項目に加えて、5学校改善支援促進事業における取組の概略を掲載している。さらに、そのうち5検証改善委員会(岡山県、香川県、新潟市、静岡市、福岡市)については、6学校改善支援プランを受けた域内の市町村教育委員会や学校等の具体的な取組例も併せて掲載している。

(2)検証改善委員会の体制について

  •  各検証改善委員会は、域内の教育委員会や学校だけでなく、大学や研究機関等とも連携し、さらに保護者や地域の視点等も導入しつつ、全国学力・学習状況調査の結果等を詳細に分析するとともに、学校改善支援プランを作成した。また、学校改善支援促進事業に採択された26の検証改善委員会においては、幅広い連携協力体制のもと、学校改善支援プランに基づく改善の取組を先行的に実施した。このように直接の関係者だけでなく、「外部の視点を入れ、その知恵を活用する」ことが本事業の特徴の一つである。
    検証改善委員会の体制

1 検証改善委員会の構成・組織

  •  都道府県・政令指定都市ごとに設置された各検証改善委員会は、教育行政関係者、学校教育関係者、学識経験者など、およそ10~20名程度の委員から構成された。全国では、1,200名を超える者が委員として検証改善委員会に直接参加した。
  •  多くの検証改善委員会には、教科に関する調査や質問紙調査の結果の詳細な分析・検討、改善事例の収集・分析、指導方法や教材等の調査研究・開発等を行うために、各種の部会やワーキンググループ等が設けられた。


《検証改善委員会の様子(三重県検証改善委員会)》

2 大学・研究機関等の専門家の知見の活用

  •  検証改善委員会には、各地域の大学の教員や教育関係の研究機関の職員等が委員長や委員等として参加しており、本事業においては、大学や研究機関等が大きな役割を果たした。
  •  また、静岡県検証改善委員会における静岡大学、常葉大学のように再委託先として研究の一部を担った例や、宮城教育大学に設けられた仙台市検証改善委員会、東京大学に設けられた千葉県検証改善委員会、佐賀大学に設けられた佐賀県検証改善委員会のように検証改善委員会の運営を地域の大学が担った例なども見られた。
  •  (2)で述べるように、特に調査結果の分析・検証に当って、各大学や研究機関等が理論面や技術面等についてサポートしたことにより、多様な視点や手法等による分析・検証が行われることとなった。

《検証改善委員会の組織図(広島県検証改善委員会)》

3 保護者や地域からの視点の導入と連携による取組

  •  全国学力・学習状況調査では、教科に関する調査と併せて、児童生徒の学習意欲・学習方法・学習環境・生活の諸側面等に関する児童生徒質問紙調査や、学校の指導方法に関する取組や学校における人的・物的な教育条件の整備の状況等に関する学校質問紙調査を実施した。これらの調査結果の分析に当たって、保護者や地域からの視点を取り入れたり、家庭・地域と連携しながら、分析結果を活用して児童生徒の学習状況の改善に向けた取組を効果的に進めるために、検証改善委員会には委員としてPTA関係者が多数参加しており、また、地域の様々な関係者も参加した。

4 多数の教育関係者の参加

  •  ほとんどの検証改善委員会には、学校の教員等が委員等として参加した。また、検証改善委員会の各種の部会やワーキンググループ等には、学校の教員等が多数参加しており、教科等に関する分析・検討はもちろん指導方法や教材の開発・研究等においても中心となって従事した。
  •  検証改善委員会によっては、国私立学校、幼稚園や高校の教員、域内の市町村教育委員会の関係者等を委員とする例なども見られた。
  •  さらに、多種多様な委員や部会等のメンバーをまとめ、意見を集約しながら、分析・検討を進めたり、学校改善支援プランを作成するに当たって、検証改善委員会の委員や部会等のメンバーとして、あるいは事務局として、各都道府県・政令指定都市教育委員会の職員が大きな役割を担った。

(3)調査結果の分析・検証について

  •  文部科学省は、各学校や教育委員会における、全国学力・学習状況調査の結果の分析・検証、教育指導や教育施策の改善・充実の取組に役立つように、平成19年5月に調査問題のねらいや学習指導に当っての参考事項などを示した解説資料を各学校・教育委員会等に配付した。また、同年10月には設問ごとに分析結果や指導改善のポイント等を示した調査結果の概要を公表するとともに、「平成19年度全国学力・学習状況調査の結果の活用について」の初等中等教育局長通知において、調査結果の活用に当っての留意事項として、1児童生徒の学力・学習状況等の分析・検証、2学校・教育委員会等における改善に向けた取組の推進、3教育における検証改善サイクルの確立等について示した。
  •  各検証改善委員会では、上記の資料や通知等を踏まえ、域内の教育委員会や学校だけでなく、大学や研究機関等の協力も得ながら、地域の状況に応じて工夫し、全国学力・学習状況調査の結果について、それぞれの特徴を出した以下のような多様な視点や手法等による多面的な分析・検証を行っている。

1 児童生徒の学力・学習状況等の分析・検証の工夫

  •  各検証改善委員会では、教科に関する調査結果における児童生徒の平均正答数、平均正答率等の数値データや児童生徒の正答数の分布の状況等から、域内の児童生徒の学力の全体的な状況を把握・検証し、課題等の抽出を行っている。その際、平均正答率等で児童生徒群に分けた学力層の分布状況等を併せて分析に用いる検証改善委員会も多く見られる。
  •  また、教科に関する調査結果の設問別や解答類型別の結果等から個々の設問における正誤答や無解答の解答状況等を詳細に分析し、指導上の課題等の抽出とその具体的な対応策の検討につなげている。さらに多くの場合、設問毎の解答状況と質問紙調査の関連する質問項目の回答状況の相関関係等の分析を併せて行っている。
  •  質問紙調査の結果については、個々の質問項目の回答状況を分析し、児童生徒の学習意欲・学習環境・生活習慣等、学校における指導方法に関する取組や教育条件の整備の状況等の具体的な状況を把握・検証している。また、それらの状況と児童生徒の学力の状況との相関関係等についても分析し、取り組むべき課題等の抽出とその対応策の検討につなげる傾向が見られる。さらに、これらの結果等を活用して、地域や家庭に視点を広げた分析・検証を行っている。
  •  教科に関する調査において平均正答率等が比較的高かった地域の検証改善委員会では、教科に関する調査結果の分析から多くの課題等を見い出すよりも、質問紙調査の結果分析から児童生徒や学校の具体的な課題等を抽出する傾向が見られる。一方、域内全体の平均正答率等の状況にかかわらず、児童生徒の正答数の分布の状況等から、学力の状況に課題のある児童生徒が一定割合いることに着目し、学力の底上げに向けた対応策の検討につなげる検証改善委員会が見られる。
  •  全国学力・学習状況調査の結果と都道府県・指定都市が独自に実施している学力調査の結果を合わせて分析することで、全国学力・学習状況調査では調査していない学年、教科、調査内容等の状況を含め、児童生徒の状況等をより詳細に把握し、成果や課題等を分析・検証する検証改善委員会が多く見られる。
  •  教科に関する調査や質問紙調査の結果等を活用し、データを基に因子分析やパス解析等の統計的な分析を行うことにより、児童生徒の学習状況等が学力に与える影響を構造的に把握しようとする試みも見られる。

2 調査結果を活用した教育施策等の成果と課題の分析・検証の工夫

  •  検証改善委員会では、教科に関する調査や質問紙調査の結果等から、例えば、習熟度別・少人数指導の効果、補充的な学習や発展的な学習の指導の効果、言語活動・読書活動を重点的に推進してきた学校の状況等について分析したり、教職員研修の状況や学校図書館の整備状況等と児童生徒の学力の関係を分析するなど、教育委員会が行ってきた施策等についての分析・検証を試みている。また、域内の市町村や学校の規模等と児童生徒の学力の関係などについて分析する検証改善委員会も見られる。

3 データを比較分析する範囲の工夫

  •  各検証改善委員会では、都道府県・指定都市の全域を範囲として分析し、域内全体の状況の把握・検証を行っている。その際には、数値データの絶対的な大小に着目した分析や全国的な状況との比較分析等が多く用いられている。
  •  これに加えて、地域の人口規模等ごとや域内の地域差に着目して地域ごとの範囲で児童生徒や学校の状況等を比較分析したり、条件が比較的近い都道府県・指定都市の状況との比較分析を通して課題等を抽出・検証するなどの工夫を行った検証改善委員会も見られる。

4 調査結果の示し方の工夫

  •  調査結果の示し方としては、1教科に関する調査や質問紙調査の結果等に関する単純集計の数値データを表やグラフ等で示す方法、2教科に関する調査や質問紙調査の結果等の間のクロス集計の数値データを表やグラフ等で示す方法、3教科に関する調査や質問紙調査の結果の域内と全国等の状況について表やグラフ等で比較しながら示す方法などが最も一般的に用いられている。
  •  そのほか、4平均正答率等で児童生徒群に分け、教科に関する解答状況や質問紙調査に関してどのように解答したかを4分位で示すなど、学力層の状況について表やグラフ等で示す方法、5教科に関する調査結果等の分布の状況について、グラフや箱ひげ図、散布図、バブルチャート等で示す方法、6教科に関する調査や質問紙調査の結果をレーダーチャートを用いて多面的視点で傾向把握ができるように示す方法なども多く見られる。
  •  特徴のある示し方としては、7学力と児童生徒の学習状況等との関係や影響の大きさ等を模式的に図示して示す方法などの例も見られる。

《レーダーチャート1(堺市検証改善委員会)》

《レーダーチャート2(愛知県検証改善委員会)》

《児童生徒質問紙の回答状況について得点化して見やすくしたグラフ(愛知県検証改善委員会)》

《パス解析図及び模式図(仙台市検証改善委員会)》

(4)学校改善支援プランにおける改善に向けた提案について

  •  各検証改善委員会は、全国学力・学習状況調査等の分析を踏まえ、教育指導や教育施策等の改善方策等に関する提言を「学校改善支援プラン」として取りまとめている。
  •  学校改善支援プランの体裁については、内容を端的にまとめ、広く周知を図ることを目的としたリーフレット形式のものから、分析と合わせて詳細な報告書として作成したものなど様々であり、各検証改善委員会の特徴が表れている。また、その内容について、都道府県・指定都市教育委員会等のホームページに掲載したり、児童生徒や保護者向けに簡潔にまとめたものを配付することなどにより周知に努めている。
  •  学校改善支援プランにおける改善に向けた提言の内容としては、大きく1域内と全国の学力の状況等の比較や学力層の分布状況等に基づく学校への支援方策の提案、2解答状況や指導方法等の詳細な分析と教科指導・授業の改善方策の提案、3生活習慣・学習環境等の分析とそれらの改善方策の提案に分けられる。

1 域内と全国における学力の状況等の比較や学力層の分布状況等の分析に基づく学校への支援方策の提案

  •  各学校改善支援プランにおいては、域内と全国における児童生徒や学校の学力の状況等に関する比較分析、域内の学力層の分布状況等に関する分析などから、域内の児童生徒や学校等が抱える具体的な課題等を抽出し、それらの改善に向けて様々な方策等が提案されている。
  •  特に学力の状況等に課題の見られる児童生徒や学校の割合等の状況を踏まえ、その対応を重要な課題と分析した検証改善委員会においては、学力の底上げ等のための方策として、例えば、習熟度別・少人数指導の推進(義務教育9年間を見通して個に応じたきめ細やかな指導を実施し、児童生徒に着実に学力を身に付けさせる等)、地域や学校の学力等の状況を考慮した教職員の配置のあり方の検討、小・中連携による学力等の向上に向けた取組の推進、学校運営の改善(学校の組織力向上、教員が児童生徒に向き合う環境づくりなど)のための支援の充実などに関する提案が見られる。
  •  各学校が調査結果の分析・検証を行い、自律的に自らの運営改善を進めるための支援として、調査結果の分析支援ソフトウェアの作成とその活用を提言の中心としている例も見られる。

2 解答状況や指導方法等の詳細な分析と教科指導・授業の改善方策の提案

  •  各学校支援プランにおいては、個々の設問における正誤答や無解答の状況等、各教科の解答状況に関する詳細な分析に加え、教科やその指導方法等に関連した質問紙調査の質問項目の結果と教科に関する調査結果の関係を分析すること等により、教科指導や授業における具体的な課題等を抽出するとともに、学校における指導方法等の改善のポイントを示すなど、課題等の改善に向けた様々な方策等が提案されている。
  •  指導方法等に関する改善方策については、調査対象の学年や教科だけでなく、他学年や他教科等における取組を含めた提案が多く見られる。特に、国が行った分析においても課題があるとされた「活用」に関する問題に関しては、「教科横断型」の取組等を含め、具体的な対応策の提案が多く見られる。
  •  その他教科指導や授業の改善方策としては、授業研究に対する支援、大学の教員や教育委員会の指導主事等の活用、教職員研修の改善・充実、課題に即した指導資料の作成、教材の開発・配付など様々な提案が行われている。

3 生活習慣・学習環境等の分析とそれらの改善方策の提案

  •  児童生徒に対しては、学習意欲・学習方法・学習環境・生活の諸側面等について詳細な質問紙調査を実施しており、また、学校質問紙においても、地域の人材・施設の活用、家庭との連携、開かれた学校・学校評価などに関する質問項目があることから、これらの調査結果を活用して生活習慣や学習環境等と児童生徒の学力の状況との関係等を分析し、家庭・地域を挙げた取組により、家庭学習の定着・習慣化や生活習慣の確立、規範意識の涵養などを目指す提案が多く見られる。

《学校改善支援プランのリーフレット(岩手県検証改善委員会)》

《学校改善支援プランの概要(奈良県検証改善委員会)》

(5)学校改善支援促進事業における主な取組について

  •  「学校改善支援促進事業」は、学校改善支援プランに基づき、教育指導や教育施策等の改善に向けた意欲的な取組を先行的に実施し、早期に具体的な取組につなげるとともに、それらの実践研究の成果を広く普及展開しようとするものである。同事業に採択され、予算の重点配分の支援を受けた26の検証改善委員会が実施した主な取組は以下のとおりである。

1 課題の把握・明確化等による学校運営の改善のための取組の促進

  • ◆調査結果の分析支援ソフトウェアの開発・活用等により学校における分析・検証の取組を支援
  • ◆検証改善委員会の委員、教育委員会の指導主事、「学校改善アドバイザー」等の派遣・助言や指導者の招聘助成等により学校・教育委員会における分析や検証改善の取組を推進・支援
  • ◆学校・教育委員会における分析・検証の取組や改善計画等の作成のための手引き等を作成・配付
  • ◆「学校改善支援チーム」等の派遣による学校経営への支援
  • ◆改善事例集等の作成・配付による成果の共有
  • ◆教員向け啓発リーフレット等の作成・配付、「学力向上セミナー」、「学力向上推進会議」やブロック別協議会等の開催等により、検証改善委員会の取組みを推進
  • ◆独自の学力状況調査等を実施し、全国学力・学習状況調査の結果等と併せた詳細分析を実施
  • ◆教育委員会と学校間で課題や必要な支援内容等を共有するための仕組みを構築


《学校改善ヒント集(静岡県検証改善委員会)》

2 教員のスキルアップのための取組の充実

  • ◆「授業力養成講座」、「授業力向上研修会」、「授業づくりセミナー」等の教員の授業力の向上・改善のための研修講座を実施
  • ◆教育委員会の指導主事や大学教授、「授業カウンセラー」、「教科指導エキスパート」等を学校に派遣し、指導方法等に関するアドバイスを実施
  • ◆ベテラン教員や退職教員等による模擬授業、教育委員会の指導主事による「パイロット授業」を実施するなど、学校における授業研究を支援
  • ◆模範授業や課題を踏まえた提案授業を収録したDVD等を作成・配付
  • ◆授業改善のための課題別指導資料等を作成・配付
  • ◆「活用型授業」の普及や「知識」と「活用」の関係を視野に入れた指導資料を作成・配付
  • ◆作成・収集した指導資料等をデジタル化し、デジタル資料室を開設

《授業改善サポートブック(福島県検証改善委員会)》

《授業改善のためのかくし味(富山県検証改善委員会)》

3 個に応じた指導等による授業の充実

  • ◆「学力向上支援員」、「学習支援員」、「学力向上サポーター」等の非常勤講師等の活用(TT指導、宿題等の指導、放課後や長期休業期間における補習指導など)
  • ◆学生等が学習の遅れがちな児童生徒の指導の補助等にあたる「授業サポーター」、「サポート指導員」等の活用
  • ◆習熟度別・少人数指導、TT指導、補充的な学習等における効果的な指導方法等に関する教育委員会の指導主事等による助言や指導資料の作成・配付


《放課後赤マル教室(静岡市検証改善委員会)》

4 教材開発等による学習教材の充実

  • ◆課題別や学習内容の系統別に学習教材を作成・整理・分類
  • ◆児童生徒の興味・関心を高め、基礎・基本を定着させる学習教材を開発・収集・配付
  • ◆児童生徒のコミュニケーション能力向上のための教材やCD・DVD教材等を開発・配付
  • ◆体験と教科等での学習の関連を深めたり、体験の価値を高めるための問題・解説カード等を開発・配付
  • ◆「活用」に関する問題例やワークシート等を開発・配付
  • ◆インターネットを利用した学習教材の配信
  • ◆教材や指導資料等の有効性について、学校の意見を把握して検証し、改善につなげる仕組みを構築


《活用に関する教材(香川県検証改善委員会)》

5 家庭学習の定着・習慣化

  • ◆「家庭学習ノート」等の家庭学習教材や自学自習用教材等を作成・配付
  • ◆公民館等を活用した「家庭学習支援教室」等を開設
  • ◆学力向上に向けた集中合宿やサマースクール等を実施
  • ◆家庭学習の手助けする「家庭学習サポーター」等のボランティアの活用
  • ◆読書習慣の形成・定着や読書力向上のための非常勤職員の活用
  • ◆児童生徒・保護者向けの啓発リーフレットや家庭学習の手引き等を作成・配付
  • ◆保護者等が参加する「学力向上フォーラム」、「家庭学習セミナー」等の開催、PTA学習会等への講師派遣
  • ◆「家庭学習サイクル」の確立に向けた他学年の児童生徒を対象とした家庭学習に関するアンケートを実施・分析


《家庭学習支援教室(福岡市検証改善委員会)》

3.平成20年度の取組について

  •  平成19年度に作成された「学校改善支援プラン」は、各検証改善委員会から都道府県・指定都市教育委員会等に対して提出・報告されており、各教育委員会や学校等において、学校改善支援プランにおける提言や学校改善支援促進事業における取組等を踏まえながら、具体的な改善に向けた取組が進められつつある。
  •  本報告書において取組の概略を取りまとめた「検証改善サイクル事業」は、平成20年度事業の『全国学力・学習状況調査等を活用した学校改善の推進に係る実践研究』として、より学校における取組に焦点を当てた実践研究へと移行する。平成20年度事業においては、検証改善サイクル事業で作成された学校改善支援プラン等を踏まえ、全国学力・学習状況調査等の結果から、学力や学習状況等に課題の見られる学校の改善に向けた具体的な取組に関する実践研究を都道府県・指定都市教育委員会に委託し、その成果の普及を図ることを通じて、学校、教育委員会等における全国学力・学習状況調査等を活用した改善に向けた取組を支援、推進することとしている。

全国学力・学習状況調査等を活用した学校改善の推進に係る実践研究

-- 登録:平成21年以前 --