居室内における化学物質の発散に関する衛生上の措置に関する規制を導入するため建築基準法の一部を改正する法律(平成14年法律第85号)が平成14年7月に成立・公布され、平成15年7月から施行されています。その概要を以下に示します。
図1‐6は、学校の居室に対して要求されるホルムアルデヒドに関する規制の概要を示したものです。
注1: JIS、JASで整備されている最上位規格(F☆☆☆☆:放散量5マイクログラム/(毎平方メートル毎時)以下)の建材については、内装仕上げ材の面積制限の対象から除外する。
注2: F☆及び無等級の建材については、内装仕上げ材への使用を禁止する。F☆☆規格の建材については、局部的な内装仕上げに限定する。
図1‐6 学校の居室に対するホルムアルデヒド規制の概要
ホルムアルデヒドに関しての規制対象となる建材について、ホルムアルデヒド発散速度に基づいて表1‐1のように分類されています。
なお、第1種ホルムアルデヒド発散建材(F☆)の内装仕上げへの使用は禁止されています。
表1‐1 ホルムアルデヒド発散建材の分類
学校施設でホルムアルデヒド発散建材の使用が規制される室は、建築基準法上の居室である教室、体育館、職員室等が対象となります。廊下、便所、倉庫等は、居室ではないので規制の対象にはなりません。
ただし、教室から外気を取り入れて、廊下を経由してトイレ等で排気する場合や廊下側から教室に外気を取り入れる場合は、居室と一体として取り扱う規定(常時開放された開口部を通じて居室と相互に通気が確保されている建築物の部分)となっているため、換気の経路(廊下やトイレ等)となるすべての部分がホルムアルデヒド発散建材の使用面積制限を受けることになるので注意が必要です。
建築基準法における居室
人が居住、執務、作業、集会、娯楽のために継続して使用する室をいいます。
教室等の学校の居室に対するホルムアルデヒド発散建材の使用面積は、以下の式を満たす必要があります。
換気回数 | N2 | N3 |
---|---|---|
0.3回毎時以上0.5回毎時未満 | 3.0 | 0.50 |
0.5回毎時以上0.7回毎時未満 | 1.4 | 0.25 |
0.7回毎時以上 | 0.88 | 0.15 |
例えば、換気回数を0.3回毎時として設定した場合、第二種ホルムアルデヒド発散建材のみを用いた場合はその使用面積の上限は床面積の1/3以下、第三種ホルムアルデヒド発散建材のみを用いた場合は床面積の2倍以下となります。
なお、ホルムアルデヒド発散建材の使用面積制限は、一体として換気される空間ごとに適用されることとなるため、例えば、教室、廊下、便所を一体で換気している場合には、全体で一つの空間として適用されることになります。
上記の面積制限は、ホルムアルデヒド発散速度がF☆☆☆で表面積が床面積と同一となる量の家具が教室等に持ち込まれるものとして算定されているので、机、椅子、書庫等の持ち込み家具の量や使用建材が算定の条件を超える場合には、内装材が規準を満たしている場合でも濃度超過となる可能性があるので、教室等に持ち込まれる家具等についても慎重な配慮が必要となります。
新築や大規模改修等を行う場合には、原則として機械換気設備の設置が義務付けられています。
機械換気設備は、隙間を含む有効開口面積の合計が床面積1平方メートルあたり15平方メートル以上ある場合には設置の義務付けはありませんが、このような開口を確保すると、室の自然換気量が内外温度差や外部風の影響を受けやすくなり、温熱環境上の不快感や暖房熱負荷の増加につながり、省エネルギーの面からも好ましくありません。
学校の教室等の居室には、換気回数0.3回毎時以上の換気設備の設備容量が必要となります。これを超える設備容量のある換気設備を用いる場合には、ホルムアルデヒド発散建材の使用面積制限が緩和されるますが、緩和される場合の設備容量の上限は0.7回毎時とされています。
第2種機械換気設備または第3種機械換気設備で廊下等が換気経路となる場合は、換気経路となる廊下等を含めた設備容量が必要になります。
換気回数の基準値は、天井高さ2.3メートルの場合を想定して定められており、体育館等のように天井高が高い場合は、表1‐3に示す値に緩和されています。
天井高さ[メートル] | 3.5以上6.9未満 | 6.9以上13.8未満 | 13.8以上 |
---|---|---|---|
換気回数[回毎時] | 0.2 | 0.1 | 0.05 |
天井高さ[メートル] | 2.9以上3.9未満 | 3.9以上5.8未満 | 5.8以上11.5未満 | 11.5以上 |
---|---|---|---|---|
換気回数[回毎時] | 0.4 | 0.3 | 0.2 | 0.1 |
天井高さ[メートル] | 2.7以上3.3未満 | 3.3以上4.1未満 | 4.1以上5.4未満 | 5.4以上8.1未満 | 8.1以上16.1未満 | 16.1以上 |
---|---|---|---|---|---|---|
換気回数[回毎時] | 0.6 | 0.5 | 0.4 | 0.3 | 0.2 | 0.1 |
換気設備の設計時には、建築基準法施行令に基づき、ホルムアルデヒドの発散による衛生上の支障がないようにするために必要な換気設備の容量が確保できるかを計算により確認する必要があります。
換気設備容量の計算方法について
換気量が確保されることは、国土交通省告示第274号に基づき、換気経路の全圧損失(直管部損失、局部損失、諸機器その他における損失の合計)を求め、給気機、排気機がこれに対応する送風能力を有することを計算で確かめます(換気量を確保できることが明確な場合は除く)。これには、空調設計に用いられるダクト計算法を適用し、以下の式により確認します。(ダクトを用いない場合も同様)
Pr=ζ0×PVO×(QO÷QSO)2乗+ζI×PVI×(QI÷QSI)2乗+Σ(λi×Li÷Di+ζBi)×PVI×(Qi÷QSi)2乗
ダクト径、端末換気口の接続径(ミリメートル) | 50 | 75 | 100 | 125 | 150 | 200 |
---|---|---|---|---|---|---|
基準風量Qs(立方メートル毎時) | 30 | 60 | 120 | 180 | 240 | 300 |
全熱交換器を使用した場合の有効換気量率について
全熱交換器は、換気時の熱損失を低減させたり、温熱感覚上の不快を緩和するために用いられます。
全熱交換器は構造上(図1‐7参照)、排気(RA)と外気(OA)の混合(ショートサーキット)が避けられないため、室内へ供給される空気(SA)がすべて外気とは限りません。この対策として、ショートサーキット効果を見越した必要換気量を確保するため、必要換気量を有効換気量率で割った値を送風量とする必要があります。
有効換気量率
有効換気量率は、日本工業規格(JIS)で定められた方法(JIS B 8628(2003)「全熱交換器」)に基づくデータを採用してかまいませんが、気密層によるホルムアルデヒド対策とした小屋裏等に全熱交換器を設置する場合には、装置周囲の汚染空気が給気に混入する可能性があるので、このような効果が評価できるように改良された日本冷凍空調工業会(JRA)の規定(「全熱交換器有効換気量試験方法小型全熱交換・換気ユニット(濃度一定法)(JRA4056)」)の測定法に基づくデータを採用することが望ましいといえます。
有効換気量率 = 有効換気量/給気風量
図1‐7 全熱交換器による空気の流れ
機械換気設備の構造について、建築基準法施行令では、室内 に著しい局所的な空気の流れ(ショートサーキット)を生じさせないような配慮を行うこと、外部風によって換気扇の能力が著しく低下しないこと、室内の気流場、温度場、騒音等によって機械換気設備の連続使用に支障がない配慮がなされることが要求されています。
建築基準法では連続運転が可能な機械換気設備の設置が義務付けられています。
ただし、内外温度差が大きく安定した自然換気が期待できる場合や外部風が一定以上あって窓明け換気により十分な換気量が確保されることが明らかな場合は、機械換気量の低減や、設備の運転を停止させる運用も考えられます。
省エネルギーの観点からも、内外温度差や外部風を細かくチェックし、自然換気によって建築基準法において要求されている換気量の確保が確実な場合は、機械換気設備を止めて窓開けによる自然換気を実施することが考えられます。
建築基準法における天井裏等とは、居室ならびに居室と一体的に換気される空間に隣接する天井裏、小屋裏、床裏、壁、物置その他これらに類するスペースとされています。これらの空間は居室を面的に取り囲む場合が多く、これらの空間から汚染空気が発生すると空気の流動によって居室の空気が汚染さる恐れがあることから、これを防止するための対策が必要とされています。なお、居室への換気経路とならない廊下や便所等は天井裏等には該当しません。(ただし、居室への換気経路となる廊下や便所等については、ホルムアルデヒドの対策上は居室とみなされます。)
天井裏等に要求される対策には、以下の方法があり、何れかの対策をとる必要があります。
天井裏等の下地材や断熱材等に第1種ホルムアルデヒド放散建築材料及び第2種ホルムアルデヒド発散建築材料(建築基準法施行令第20条の第2項の規定により第2種ホルムアルデヒド発散建築材料とみなされるものを含む)を使用しない。
天井・床等との間に通気止めを設けるか、天井裏・床裏等と居室間に気密層を設ける。(気密層のレベルは、エネルギーの使用の合理化に関する法律(省エネ法)における気密層の施工規準(表1‐5)が準用されます。)
省エネ法における気密層の施工規準
表1‐5 気密層を構成する部材
※ これらの他に、石膏ボードの接合部にパテ処理をするなど、適当な気密処理を行ったものも気密層とみなすことができます。気密層が連続していることが重要なので、施工方法についても十分に配慮するとともに耐久性についても信頼できる方法を採用することが重要です。
天井裏等に排気口または排気機を設けるか、居室側に第二種換気設備を設けます。これは、居室との圧力差を送風機によって確保し、天井裏等からの汚染空気の流入を防止する方法です。
自然換気の併用を前提とした換気計画を行う場合には、換気設備の運転を停止する場合も考えられますので、使用建材による対策か気密層による対策が必要になります。
建築基準法によるホルムアルデヒド汚染防止対策の全体の構成を図1‐8(PDF:27KB)に示します。
図中の太矢印()は学校を対象とした場合の規制の流れを示しています。
文教施設企画部施設企画課
-- 登録:平成21年以前 --