利益相反マネジメントを考える会議事録

4.議事録

1.全体会議1(司会:伊藤技術移転推進室長)

  • 事務局からの挨拶の後、国際連合大学副学長・安井至氏及びレックスウェル法律特許事務所・平井昭光氏より基調講演があった。その内容は以下のとおり。

○安井先生
 本日、これだけの多くの方々をここでお迎えするとは、実は思っておりませんでした。私は、先ほどご紹介いただきましたとおり、利益相反ワーキンググループ報告書のとりまとめに関わっておりました。報告書の90ページを開けていただきますと、そこにワーキンググループの委員の名簿が出ております。このような方々で検討会を開催させていただきまして、報告書をつくらせていただいたということでございます。私自身はそのときは東京大学教授でございましたが、現在は国際連合大学におります。
 では、早速資料を使いまして、お話をさせていただきます。
 表紙の次、2ページにまいります。利益相反検討WG報告書の説明が書いてございます。審議会の組織上は、4段階目ですね。一番上の「科学技術学術審議会」から4段目に位置するワーキンググループでつくらせていただいたということでございます。
 発表日時は平成14年11月1日でございます。いまでもダウンロードは可能だと思いますので、本日皆さまには一部ずつ配布されておりますが、お帰りになりましたらほかの方にもダウンロードをお勧めいただけたらと思う次第でございます。
 3ページにまいります。ここに利益相反の定義が書いてございます。私の本日の講演は、どこまで簡単に解釈できるか、というスタンスのお話でございます。実際には、なかなかそうもいかないことは重々承知の上でございますが、どこまで単純にものを考えられるか、そういうスタンスでのお話だとご理解いただきたいと思います。
 まず、定義でございますが、定義は必ずしも1つではカバーできないということになっております。お手元の資料にございますように、「ア)利益相反(広義)」というものと、「イ)利益相反(狭義)」、それと同じ並びに「ウ)責務相反」というのがございまして、利益相反の狭義といたしまして、個人としての利益相反、それから大学としての利益相反、こういったようなことを全部考えればよろしいということです。
 一番重要なのは、イ)の狭義の利益相反です。これは、まず基本的な考え方なのですけれども、産学官連携活動を行うということ自体、国立大学のときにはさまざまな兼業の枠組み等で行っていたわけですが、国立大学のときには国家公務員としての自分自身、それ以外に産学官連携の実施主体としての自分自身という2種類の自分ができてしまうわけですね。それはだれに対して忠誠を尽くすかということで、結局2人のご主人様がいるような状況になってしまう。その2人のご主人様にどのくらいの割合で尽くすかというのが一番基本的な問題なんですね。
 したがいまして、これは法令違反でもなく、倫理の問題でもないと考えた方がいいと私は思っております。いずれにいたしましても、産学官連携活動のようなことをやると必然的に起きるという、そういうことでございます。ですから、回避しようということは不可能なんですね。回避したければ、産学官連携をやめようという話になります。ですから、これは回避できない。できないならどうするのか、という話が本日の話でございます。
 狭義の利益相反と責務相反では何か違うのかといいますと、利益相反の方は教職員あるいは大学が産学官連携活動でもって金銭的な、例えば実施料の収入や兼業の報酬、あるいは未公開株を受け取る等、そういうようなことで生じる金銭的な利益と、それから大学から給料をもらっている、そこで義務を生じるわけでありますが、その2つの金銭的な収入、所得に対してどのくらいの責任を考えるか、というのが利益相反だとお考えいただければいいかと思います。
 ただ、大学の教職員ですから、お金をもらってどうこうという話じゃなくて、実際に能力と時間を、どちらにどのくらい注入するかということが基本的な問題になります。
 次は、責務相反でございます。責務相反の場合にはどちらかといいますと、産学官連携で兼業すればその兼業の間にはそちらを考えなければならないですね。国立大学のときにはそれは時間外にやりなさいという話になっておりましたが、国立大学法人になって、そういうのは自由に決められるというシステムになっております。
 そういう枠組みの中でみずからの時間、特に労力、時間配分、それから集中力等々、その他全部含めてどういう割合でかけるか、費やすかということが1つの大きな問題になるという話でございます。
 繰り返しますけれども、法令で決められるような問題ではございません。
 そのほかに、これはあまり重要ではないのかもしれませんが、1つだけ指摘をしておきたいのは、今申しましたように2種類のご主人様を持ってしまうと、教職員個人としてどちらに忠誠を尽くすかという問題が生じると同時に、大学としても社会的責任、社会的存在としてある種の責任を果たさなければならないという枠組みの中で、産学官連携も社会的な枠組みであるので、そのバランスをどうとるのか、ということがあります。
 ここで、次の7ページのテーブルに参りたいと思いますけれども。実際法令違反と違うのは何故かといいますと、一番上に書いてございますが、責任の性質が違います。それは、大学という存在が社会に対して一体何をするから社会に存在させてくださいと言えるか、ということですね。社会に対してどういう貢献をすると考えているのか。我々はこういうふうに考えるから社会に存在させてください、従って国の予算をくださいと、国立大学法人でしたらそうですし、私学であれば学生をくださいという形で説明をし、それである種の社会の一構成員として生きていくわけでございますが、そこをどう説明するか、というのがとにかく大学の場合には一番大きいわけです。
 したがって、この社会に対する説明責任のフィロソフィーをしっかり決めてしまえば、実はこんなに簡単なことはないんですよ。ですから、例えば、うちは産学官連携やりませんと言ってしまうと一番簡単なんです。そうしますと、とにかくご主人様の一方は消えてしまいますから、とにかくそれでもう解決はするのです。しかし、それはしないということで、一応合意しているわけですね。もちろん、産学官連携をやめたからといって、別に国立大学法人として存在してはいけないと言われるわけではないのでありますが。
 いずれにしてもある種の社会貢献としての産学官連携はするんだということになりますと、ではどのくらいするのか、どういうスタンスをとるのか、どういうポリシーでするのかというところをとにかく決めてくださいと。こういうスタンスでもって社会に対して全ての説明をしますよという、それが決まるということになってまいります。
 これに対して法令違反の場合には、まず法律があって、その範囲で若干の解釈の余地はございますが、その範囲内でとにかく社会的に既に決まっている話であります。それに対して利益相反は全て大学が決めるという話でございます。
 資料の2番目のラインになりますけれども、では責任の主体は何だということになります。これは法令違反の場合には、違反した個人もしくは法人の責任者等が罰則を受けるのですが、利益相反の場合には、それはまずいというスタンスをとります。何がまずいか。要するに責任者個人、「個」ですね、個人が責任をとるのはまずいというスタンスをとります。したがいまして、大学、すなわち組織が個人、教職員が何か産学官連携を行って利益相反を起こし、社会的責任を問われたとき、個人に責任が行かないで、その行為に関しては大学が認知し、きちんと意志を示し、その範囲内で個人は動いたんだから、悪いのは大学だ、もし責めるなら大学を責めてくれ、というスタンスをとるべきだというわけです。
 ですから、個人にとにかく責任をとらせてはいけません。では教職員は何をするかというと、これは後でマネジメントのところで出てきますが、これからやろうとする個人の産学官連携行動を詳細に大学に対して説明をして、こういう範囲内でこのように行いますが、これは大学として認められる範囲内ですかと、教職員は大学に対して聞くべきなのです。聞いたときに、大学側が「わかった、それでいい。」と言えば、あとは大学が責任を取るということ、それがマネジメントシステムの鍵だということになります。
 ここは非常に重要なところでありまして、要するに個人に責任をとらせない、個人の責任が追求されないよう、大学がその責任を代替するんだというスタンスでマネジメント・システムをつくってください。
 それから、違反、相反への対応方法であります。法令の場合にはとにかく回避されるべき状態でありまして、もしやってしまったら刑務所に入る、罰金を取られるということになります。けれど利益相反の場合には、先ほど申しましたように、はっきりここから先は白くて、ここから先は黒だというものはないのです。かなり黒いなというところから始まって、かなり白いなというところまでの連続スペクトルなんですね。それで、そのグレーのところをグレーのままで、いかに社会に納得してもらうか。全体で見れば社会貢献をしているから許容範囲であるという評価を、いかに社会から得るかというところが問題なんですね。
 この手の話となると、実を日本人はすごく苦手なのかもしれないんですよね。私も現在国際機関におりますと、やはり日本人は自己主張が苦手なのだなと思うことがあります。自分を含めてもそう思うのですけれども、日本人の中では結構うるさい方かと思っていたんですが、国際人の中に入ると、私もどうも極めておとなしいんです。やはりみずからのポリシーを積極的に主張するタイプの国とは違いますから、少々苦手なのかなと思うのでありますが。要するに「我々はこういうポリシーで行っているのだから、社会よ、認めなさい」という主張が非常に重要だということです。
 それから、判断基準のところですが、そこにまた同じことが書いております。各大学ごとにポリシーをつくって下さい、ルールをつくって、とにかく教職員は全ての情報を大学に対して開示し、大学が頷けば、その責任は大学が背負う。
 もし教職員がそのときに全ての情報を開示していなかったらば、大学がその教職員を罰することは不可能ではないと思われます。このようなスタンスです。
 それが最後のところでありまして、最終的な判断権者は法令違反の場合には裁判所でありますが、利益相反の場合には大学であるというわけです。
 では、どうやって対応手順をとるのかと。もうお話したことの繰り返しになりますが、まずは1番目。各大学がみずからの社会的責任、社会的使命をどう認識するかということを決めてください。これが決まらないと、あとが決まりません。その大学の使命の中で、産学官連携の位置づけはこのあたりですということをしっかり文章に書いて、そのポリシーを全ての教職員に知らせてください。もう少し具体的に言えば、大学の使命・目的に対しての基本的な考え方というものを、しっかり決めてください。それによって大学が社会的存在として社会から認知されることがまず一番重要です。
 社会貢献あるいは産学官連携というものをどういうふうに考えるかを、その枠組みの中でしっかり位置づけてください。
 それから、大学としてもともとある、これがゼロでは絶対にいけない教育・研究活動と、ある意味で付加的なものではある産学官連携活動の関係もしっかり記述をしてください。産学官連携もやってもいいよというのか、積極的にここまでやるのだというのか、スタンスがどの辺にあるのか、その強弱・コントラストを明確に書いてください。
 次ですが、これは今申しましたこととほぼ同じようなものであります。産学官連携に対する基本的な方針ですね。それも自分たちの大学にとってのであって、これは全ての大学にとっての、ではないのですね。要するに自分たちの大学の個性というものが非常に重要ですから、それぞれの大学が自分の大学にとって産学官連携とはこういう意味があって、こういうふうに行って、こういう場合には大歓迎だけれども、こういう場合はだめであるとか、そういうふうに決めていいんだ、というわけですね。
 ですから、とにかく間違っていただきたくないのは、何か問題が起きたときに文部科学省に電話をして、「これは利益相反に当たりますか?」と聞かれても、文科省は答えようがないということです。要するに、そういう判断の基準はなく、基準は自分でつくるということだからです。そこはとにかく一番重要な点かと思います。
 次に、リエゾン活動、共同研究、技術移転、インキュベーション等、そういったことについて細かく戦略を決めてください。この辺は細かく決め始めるときりがないぞという話が、別の講演であるかもしれませんが。確かに、そんなにやさしいことではないとは思いますが、基本的なポリシーさえきちんと決めれば、あとは自然にいく。
 その次に、利益相反ポリシーをつくる。利益相反というものをどう考えるか。先ほど言いましたように、避けるべきでないということを明示的に書くべきだろうと思います。
 それから利益相反の定義、これもまた大学によって違うかもしれません。今申し上げました私の定義というのは、あくまで一般的な定義であります。
 それから、大学が全体としてある種の統合された1つの組織体であるために、利益相反はこのぐらい避けなければならない、しかし、このぐらいなら許容範囲内であるということを書かなければならない。
 あとは対象の範囲として、例えば教授・助教授まではいいいとして、助手・技術職員をどうするかとか、そういう部分。それから事務職員をどうするかという話もあります。また例えば学生をどうするか、これ結構難しい話です。各論になりますとやっかいであります。この話は細かくはできませんが、そういうことを決めていただく。
 それからマネジメントシステムの枠組みですが、基本的には教職員が全ての情報を大学側に公開し、それは大学が外部に公開するという意味ではありません、大学に対して公開し、大学がそれを「これはよい」「これはだめ」「この部分は改善すれば大学として認める」というようにマネジメントしていくわけでございます。そういったことができるようなシステムをつくってほしい。
 そこで利益相反委員会や利益相反アドバイザーは、「これは少し無理だね」とか「こういう形にするとかなり社会的に重要視されるのではないですか」というようなアドバイスをしていかなければならないということになります。
 次に、啓発やポリシーの公開等、当たり前のことが書いてございます。
 それから資料の11ページ目ですが、利益相反マネジメントに関するルールの策定と体制の整備と書いてあります。例えば教職員に開示を求める等、ここではかなり具体的なことが書いてあります。例えば金銭的情報。幾らまでならばいい、年間幾らならいい。これも考えようですよね。それこそ1万円でもだめなのか、500万円ならだめなのか。これはまさに大学の考え方でございますから、別に幾らならよくて幾らならだめということは全然ないわけです。その辺を決め、それから種類も決めなければならないでしょうということです。
 それから、1年に1度の報告なのか、そうではなくて各学期ごとなのか、そういうことを決めなければならないでしょう。
 それから、情報開示も何と何をするのか。例えばご本人は何もしてないんだけれども、実は奥さんがあるベンチャーの役員だったりするとか、いろいろなケースがあり得ますから、そういうことも決めてください。あと、責任者を決めなさい、アドバイザーを設置しなさい、利益相反委員会で判断できるような体制をつくってくださいということです。
 まず最初にポリシーをつくり、次にこういったマネジメントをつくっていけば、あとは経験で何とかなるのではないのかというところが、我々のお勧めでございます。これが資料の最後の12ページ目になります。
 要するに、法人化をしたことによって何が一番起きたかというと、大学の個性というものがとにかく一番重要で、その個性がポリシーを決め、それが利益相反かどうかも決める。だから、ここをどう考えるかということが非常に重要だし、この個性をどのように使って大学が生きていくか、ということです。ですから、はっきり言えば国立大学法人は、利益相反の上手なポリシーをつくれるかどうかで将来があるかどうかが決まるとも言えます。少々言い過ぎかもしれませんが。そういうことだと理解しております。
 非常に雑駁でございますが、以上でございます。

○平井先生
 平井でございます。最近私バイオリン始めまして、この年になってですけれども。先ほど、安井先生と話していて非常にいい話を伺いました。楽器には2種類がある。チューニングをしてきちんとセットさえすれば、あとはちゃんと音が出る、例えばピアノみたいなものですね。チューニングして鍵をたたけば音が出る。しかしバイオリンは違う。これはチューニングしてもちゃんと音が出ないんですね。フレットがないですから、指をちゃんと適正なところに置かないと音が出ない。ということで、ピアノ、バイオリンみたいな2種類の楽器があるというお話をさっきしておりました。
 利益相反というのは実に後者の、バイオリンみたいな楽器に近いんですね。いろいろなシステムがありますけれども、例えばシステム構築さえすれば、あとはルーティンで回せるシステム、これはあると思います。しかし、利益相反の仕組みというのは、これはなかなかそうはいかないんです。いいシステムをつくって、ちゃんと人材も配置して、しかし、それからスタートするのです。さあ、どこに指を置けば音が出るのか。どのくらいのころあいにすればいいのか。これ全部、実は調整なんですね。
 利益相反委員会を動かしていく中で、そういう非常な微妙な頃合いを得て回していくというのが実は利益相反である、という面があります。
 ですから、本日はこうやってたくさんの方に集まっていただいて、この考える会に参加していただき、これは非常にすばらしいと思うんです。でも、これはスタートにすぎない。これから皆さん私たちと一緒にいろいろと考えて進めていく。その中で1年、2年たってどんどんノウハウが積み重なって、よりよいシステムができていく、そういうものではないかなという気がします。
 安井先生に基礎的なお話はもう全部していただきましたので、私は今申し上げたようなスタンスでお話をしたいと思います。
 まず利益相反の発展フェーズなんですが、大きく分けると3つのフェーズがあると思います。1番目に、啓蒙、それから基盤フェーズ。2番目が運用、ノウハウの蓄積フェーズ。そして、3番目が発展、応用、それから特別に難しい問題への対応というところでございます。
 まず、フェーズ1なんですが、啓蒙、基盤整備フェーズということで、この段階では利益相反マネジメントに関する考え方の普及・理解の促進を行います。さらに利益相反ポリシーですね、これを策定して決定し、さらには運用組織内規程、すなわち実際にどうやって回すかですね、その整備を行う。さらに、これも大事ですけれども、組織内の倫理関係部署と連携構築・相互理解、こういったこともする必要が出てきます。つまり、人事部あるいは倫理部、そういう部署との連携の構築です。これも実に重要なことであります。
 こういったフェーズ1についての現状を申しますと、平成14年11月に利益相反ワーキンググループが報告書をつくりました。これが大体の考え方を提示したことになっております。ここで考え方のポイントを示しておりますが、ただし、そのポリシーの具体例というのは、あえて示さなかったということになっております。
 これはモデル規定というのをつくると、それが各大学の自由度をかえって拘束するだろうということで、考え方を提示し、その先をつくるのは各大学の考え方、スタンスに応じてつくってもらいたいということでございます。各地において利益相反に関する講演会も随分行われたと思います、私も幾つか参加しました。
 現在の状況としては、平成16年3月時点で利益相反ポリシーの整備が既に終わっているのが、文部科学省の知的財産本部整備事業に採択されている全国43大学のうちで19大学、検討中であるのが24大学ございます。
 フェーズ2ですが、それを踏まえて、運用・ノウハウの蓄積をする段階です。ここでは利益相反委員会を実際につくって、あるいはアドバイザリー・ボード(助言委員会)をつくって、利益相反アドバイザーを設置して実際にマネジメントを開始する。重要案件については、つまり利益相反上非常に重要であると、特段に考えるべきである事案についてはヒアリングを行う。教職員に直接お会いしていろいろなことを聞いて、一緒に考えるわけですね。そういった事例をどんどん集積していくというフェーズです。
 これでだんだんノウハウが蓄積されますと、これは将来的な動きですけれども、開示基準というものを最初は緩やかなところからスタートして、だんだん厳しいところへもっていく。つまり、たくさん来ると初めは大変ですから少し緩めにして、扱う事例を少なくする。だんだん回ってきたらば、開示基準を厳しくして、事例がたくさんあがってきても対応できるようになっていく。ヒアリングを行う基準もやや広くして、最初は少ない研究者からのヒアリングで、だんだん数をふやしていく。
 指導というのは、例えば「先生、ここはこういう問題あるからこういうふうに直された方がいいですよ」というような指導ですね。こういった指導も具体例を幾つか集積していって、これがノウハウになっていく。ここが非常に重要なんですよね。非常に創造的に行っていくわけです。
 私が1つ印象に残っている事例は、ベンチャーの客観性に問題があるケースでした。指導の1つの例として、例えば第三者たる弁護士あるいは公認会計士、あるいは第三者である大企業の取締役とかそういう方をボードに入れていただいて、ボードの客観性を高めるという指導をしたケースもあります。いろいろなことがあるんですよね。いろいろな処方箋があり得る。そういうものを蓄積してもらいたい。
 それから、最後ですけれども、ペナルティーについて。これも具体例が余りふえるとまずいのですが、開示しない方もいろいろいらっしゃいますので、実際にペナルティーが発生することもある。その場合の具体例もどんどん蓄積してもらうということでございます。
 フェーズ2の現在の現状ですけれども。これも先ほどの16年3月の文科省の調査によれば、文部科学省の知的財産本部整備事業に採択されている全国43大学のうちで、実際に運用中の大学が6大学ある。マネジメントの運用については検討中の大学は37大学である。つまり、6大学の方はもう実際に利益相反マネジメントのシステムを回してるわけですよね。これはすばらしいことだと思います。どんどんこの数はふえていくと思います。ノウハウの蓄積については、現在の時点ではまだ不明ですが、今後どんどん蓄積されていくでしょう。
 フェーズ3ですが、発展、応用、特別に難しい問題への対応。日本の事情に則した利益相反の模索、構築、こういったことをやっていかなければなりません。ここは非常に難しい問題で、利益相反という考え方は、もともとはアメリカが先行してるんですね。アメリカでは、もうかなり議論が進んでいるものであります。しかし、そのアメリカで現在行われている利益相反をそのものを今の日本に直輸入して、これが動くかというと、これは動きません。やはり日本の事情、日本の社会の理解、大学の理解、こういったものを前提に、今の状況に則したものをつくっていく必要がある。これはもしかしたら将来は変わっていくかもしれないですよね。
 それから、2番目に、他のガバナンス(管理)・システムとの整合性。これはコーポレート・ガバナンス(全体的な管理)あるいは倫理審査委員会とか、そういった他のガバナンス・システムとの整合性も図っていく必要がある。
 3番目に、これは非常に大きな問題ですが、臨床研究、臨床試験、こういったものについても利益相反を考える必要がある。
 そして最後に、国家公務員倫理規程。もう国立大学法人は国家公務員倫理法とは直接関係ありません。とはいっても、これは非常に重要な問題ですし、大体の法人の方は公務員倫理規程に準拠されていろいろやっておられてます。ですから、これも非常に重要ですね。
 このフェーズ3についての現状なんですが、先ほど既に申しましたが、開示と透明性、アカウンタビリティ(説明責任)に慣れていない日本でどうやってこういうシステムを根付かしていくのか。それから、外部人材によるアカウンタビリティの確保、こういったものをどんどん考えていく必要があると思います。
 それから3番目は、これはちょっとネガティブな例として挙げているのですが。詳細なガイドラインをつくってインテグリティ(社会的信頼)を確保していこうという考え方もあると思います。これはむしろ従来型だと思うんですね。従来はこういったより精緻な規程によって何とか回せるだろう、何とか社会的信頼を確保できるだろうという考え方があったと思います。しかし、今後はこれは難しいだろうと思われます。何故ならば、やはり社会が複雑になっているからですね。いろいろな事例がある。いろいろな事象がある。そしていろいろな考えの人がいる。あるいは、社会の中でいろいろなセクションがある。こういう中で、非常にリジット(一体型)なガイドラインあるいは規程によって全てを制御しようと、これは難しいです。ですから、なかなかこういう方向性は今後は難しいと思います。
 他のガバナンス・システムとの整合性。先ほども申しました、コーポレート・ガバナンスあるいは倫理審査との関係ですね。こういった状況でございます。
 3番目、4番目について、ちょっと詳細に説明をしたいと思います。「現在における喫緊の課題」ですが、私は2つあると考えています。1つが国家公務員倫理規程との関係。これは皆さんお気づきだと思うんですが、倫理規程の存在意義を別に否定するわけではないんですが、あれはやはり一面的な部分ございます。現在の産学官連携を進めていこう、あるいはベンチャーを通してイノベーションを起こしていこう、あるいは知の創造サイクルを回そう、そういう今の日本において本当にあの倫理規程でよいのか。未公開株、確かに未公開株というのはあります。ただし、いろいろな状況があるわけです。ですから、今の段階でもう一回きちんと考えなければならないと思います。
 それから臨床試験ですけれども、これは先ほどの利益相反ワーキンググループ報告書の13ページの1パラグラフに記載されております。ちょっと読んでみます。「医学・医療の分野における臨床研究に係る利益相反については、特に慎重な対応が求められる。それは、患者の生命、身体に関わるとともに、医学研究の現場で治療法が考案され、その現場の研究者が治験を実施し、かつ、研究者自らが考案した治療法を商業化するベンチャー企業の事業に関わることが多い」。したがって、こういった臨床研究について利益相反としても十分議論していろいろ考えなければならない、と書いてあるわけですね。
 ですから、今後我々は日本全国で臨床研究、臨床試験に携わっている方々を含めて、どんどん議論をして利益相反のシステムをつくっていかなければならないと思います。
 ではまず、第1点、国家公務員倫理法の話です。資料10枚目の図は、私はあちこちでよく使う図なんですが。この赤い部分は刑法や倫理規程ですけれども、刑罰法規に触れる場合、基本的にやってはいけないという部分です。その上にグレーになってますけれども、利益相反の領域がある。真っ白の部分というのは、Interests(利益)が単一のケース。つまり、研究しかしていません、ほかには何もしていませんという形です。この場合には真っ白になります。
 赤とグレーのラインの間なんですが、ここが非常に微妙なんです。厳密に言うと、刑法の場合にはまずここは問題にならないんですが、倫理法、倫理規程の場合にはここが非常に微妙です。特に未公開株に関する場合には、これが実は形式上倫理規程に入るんですが、利益相反でカバーしなくてはならない部分でもあるんです。
 具体的にどういう問題があるかというと、利害関係者の解釈ですが、倫理規程第2条によれば、従来は共同研究契約の締結に関して、共同研究契約の契約事務官、すなわち契約を実際に行う者が相手企業と利害関係に立つという判断になっていました。したがって、研究者自身は利害関係者にならなかったのです。ならないというふうに考えていました。
 私もそれを前提にいろいろな方にアドバイスをしましたし、「先生、絶対に決裁ラインに入らないでください、決裁の担当ラインに入ると非常によろしくないですよ。外れてください」ということを常に言ってきました。
 ところが、最近こういう事例が出たんですね。契約起案者、契約書をそもそも書いた人、もしかしたら研究計画を書いた人もそうかもしれません。中間決裁者、最終決裁者は相手方企業と利害関係に立つという判断が出たんですね。もし倫理規程に準拠してるようなケースがあれば、こういった判断も国立大学法人に影響を与えざるを得ないということが出てくると思います。
 そうすると何が起きるかというと、教職員というのは自己のシーズの産業利用を高めるためにベンチャー企業を利用することが不可欠なんですね。ベンチャー企業というのは教職員と共同研究をすること、これは不可避であります。大学の教職員が場合によっては起案者になることもあり得る、研究計画の中身を書いてお渡しする、あるいは起案することもあり得るというふうになると、後々のベンチャー企業の資本政策に影響を及ぼすわけですね。これが非常に大きい問題だと思います。
 したがって、こういう問題を避けるように将来は考えていくべきだろう、と。つまり、人事院の倫理審査会の判断、あるいは倫理規程そのものが今の世の中にマッチしてないのではないか。したがって、マッチするような運用を考えていくべきではないか。実際規程を見ると書いてないんですよ。ある意味で審査会が勝手にやっているのです。ですから、いろいろな形で我々が運動して、影響力を発揮して、こういうことが少しでもできるように、すなわち教職員の自由度を増やすように、そして知の創造サイクルを回せるように、少しでも考えていくべきであると思います。
 次に、臨床研究・臨床試験の問題を少しお話ししたいと思います。
 利益相反ポリシーというのは、複数のInterests(利益)、例えば大学の教職員であるというInterestsと、それから例えば金銭的なInterests、あるいは責務相反のようなもう一つ別のボスを持ってるというケース、こういうInterestsのコンフリクトが利益相反ですよね。
 臨床試験の場合、何が問題があるかというと、研究対象が人間であるということなのです。つまり、バイアス(偏った考え)がかかると、そのバイアスの結果として起きるのは生命の危険とか、あるいは人体に対する危害なんですね。したがって、臨床研究・臨床試験については別途の考慮をしなけれなならないという可能性があると思います。ここでは、仮に2重の基準と言っておきます。
 このような必要性については日本医師会も認識されておりまして、私も内閣府の1つの委員会に出席しましたけれども、ある委員はこういうことを非常に強く言っておられました。ですから、社会的には臨床試験の場で利益相反を考えようという風は吹いてると思うんですね。
 ダブル・スタンダード(2重の基準)というのはどういうことかというと、ベースとして汎用型、ジェネラルな利益相反ポリシーがある。これは工学部であろうが医学部であろうがどこであろうが、理学部だろうが、対応するポリシーです。
 さらに、二階建て部分として臨床試験の利益相反ポリシーがある。こういうことが必要ではないか。この根拠としては、先ほど言いましたが、やはり対象が人間であるということです。それから、創薬の必要性等々がございます。
 では、より厳しい基準をつくらなければならない。どういう基準をつくればいいでしょうか。そこで2つ考え方があるわけです。1つは、より厳しい開示基準、ヒアリング措置、指導、モニタリングを行うというもの。2番目は、研究者による臨床試験への関わり合いを一切禁止する、ゼロ・トレランス・ルールと呼ばれていますが、こういう隔離政策を行う。この2つの考え方があります。
 アメリカでも、この2つの考え方の間で揺れております。実際、両方ともあります。じゃあ、どこに答えがあるかというと、やはりここにも書きましたが、日本の社会の状況、医師の状況、インフォームド・コンセント(十分な説明による同意の上での医療)の状況、あるいは同一技術の研究者の状況、例えば遺伝子治療では研究者はそんなに多くないですね。そういう状況。こういったことをいろいろ考えて、利益考慮をして答えを見つけなければいけないというのが、現在の日本の状況であります。
 まとめですが、利益相反が産学官連携の推進にとって必要か、あるいは不必要なのかというそういう議論の時期はもう終わったと思います。これからは、もう既に6大学がマネジメントを開始しているという調査結果がありましたが、利益相反マネジメントを早期に実施して、適切なノウハウをどんどん蓄積して、組織のアカウンタビリティを高めてもらいたい。そういう競争は既に始まっております。そして、そうしながら研究者の足枷を一刻も早く取り去ってあげなければならない。そうしなければ研究者もかわいそうだし、イノベーションも知のサイクルも回りません。
 したがって、これからはいかに自ら利益相反マネジメントを高めていくか、やるかやらないかではなくて、スタートしてそれをどう高めていくか、どういうところまで対応できるかというのをつくっていく。そういう時期であるというふうに考えております。
 そういう中で、ここに参加されておられる皆さんのお力というのは非常に重要だと思うのです。ですから、ぜひ力を合わせて、あるいはどんどん議論していいものをつくっていくべきだと考えています。

  • 事務局より、休憩の後、2会場に分かれて第1分科会と第2分科会が開催される旨が伝えられた。

2‐1 第1分科会「利益相反マネジメント体制の構築」

(司会:笹川技術移転推進室長補佐)

  • 事務局からのパネリストの紹介の後、「利益相反マネジメント体制の構築」をテーマに各パネリストから意見発表があった。その内容は以下のとおり。

○西尾先生
 富士通総研の西尾でございます。私はアメリカの利益相反マネジメントの状況と、日本で利益相反マネジメントというものを導入するに当たってどういう点に気をつけたらよいかという点についてご紹介したいと思います。
 最初にアメリカの状況です。アメリカは、原則個々の大学で利益相反のマネジメント体制をつくっております。ただ連邦政府、NSF(全米科学財団)、NIH(国立公衆衛生院)等が規程を設けておりまして、そこから研究資金をもらう場合には利益相反規程を大学でつくりなさいとということになっております。そして、大学の中できちんとマネジメントをしなさいということが求められております。
 一般的に利益相反のマネジメントをするに当たりまして、利益相反というものは産学官連携において避けることはできないということ、教員等は所属組織に個人の利益に関する状況を報告すること、その報告を受けて、所属組織から承認があれば学外活動ができるという基本的な考えがあります。ただ重大な利益相反が予想される場合、対処する必要がありますし、場合によっては外部活動が禁止されるということがあります。
 一般的に利益相反が起こり得る状況というものは、個人的な利益が生まれる状況を大体指しております。兼業あるいは出資あるいは現金収入等が個人の金銭的な利益を生む状況であります。そういった利益をもっている組織と大学との関係、これについて利益相反というものが起こり得る状況と認識されております。
 そこで実際にどういう形で管理をするかですが、責任者は多くの場合は副学長が担当されております。そのもとに学内の委員会をつくっております。そして、対象者というのが大体年1回ぐらい報告をして承認を受けることになっております。あるいは学外の組織と契約をする場合に報告をするケースも出ております。
 ただ、責務相反との問題で、学外で活動できる時間、勤務時間内でどの程度できるかということについては、各大学で上限を設けているケースがございます。
 報告する内容につきましては、安井先生等の講演でお話しされた内容とほとんど同じでございます。ただここで改めて申し上げたいことは、正直に報告をしてもらうことです。個人の利益に関して報告をしてもらうことが前提となります。この前提が崩れること、つまり報告をきちんとされない場合にはペナルティの対象となり得ます。これについては後でご紹介します。
 それから、開示された情報、大学に対して開示された情報につきましては、州立大学におきましては州法の問題がありますので、州法上必ずしもそれを開示できない、あるいは開示しないという対処はとれない、場合によっては開示せざるを得ない状況が生まれます。
 私立大学におきましては、開示はしないのです。ただ一番最初に申し上げました、連邦政府から研究費配分に基づく問い合わせがあった場合、そのお金を受けて研究している場合は報告をすることがあり得ます。
 利益相反のポリシーの構成でございますが、これにつきましては安井先生あるいは平井先生からお話がありましたとおり、何故ポリシーをつくるかということと、利益相反というものはどういうものかということ、それからポリシーの対象となる人はどういう人かということ、そして開示をどのようにするかということです。
 その後、実際に学内で審査をした後に、審査はどういう形でするのかということと、審査のもとで何らかの決定が下された場合に、先生方が控訴といいますか上告といいますか、不服を申し立てる機会も一応設けております。
 それから、実際に利益相反が起こり得ると想定された場合に、そのマネジメントの方法についても書かれております。
 これから少々わかりにくいと思いますが、利益相反の状況について、アメリカではポリシーの中でこういうふうに規程されております。これからご紹介する5枚ほどのグラフ(資料の7~12枚目)は、ニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディシンに掲載された論文から取っております。これは医学部がある大学、あるいは教育病院、あるいは政府系の医学関係の研究機関でどういうポリシーがつくられているかということに対するアンケートの結果です。
 それで、実際に報告の対象はどういう人かということです。一番最初に研究者ですが、それ以外に配偶者、あるいは成人に達していない子どもが対象になっております。次にいつ報告が求められるかということに関して言いますと、毎年あるいは季節ごと、あるいは利益相反に関する状況が変わったとき、あるいは利益相反が起こりうる状況が生まれたときと、こういう形で報告がまとめられております。
 それから、実際どういうふうにマネジメントをするかということです。外部の利益を除去するとか、場合によっては研究の内容を変えるとか、こういうのも含めて対処の方法が記載されております。
 それから、実際にディスクローズ(情報開示)しないという場合は、学外活動などの個人的な利益を生む活動を終わらせたり、研究計画の変更、場合によっては解雇ということも出てくるわけです。
 次に、日本でのマネジメントの導入に向けてです。これもまた安井先生等のご報告と重なってしまいますので、ここでは簡単に申し上げます。個人が外部活動でどういう形で金銭的な利益を受けているかということを報告するのと同時に、こういった組織とどういう関係を持っているかということを報告してもらうべきだと思います。それから、あくまでも正直に報告してもらうことが前提でありまして、受け取った情報というのはあくまでもマネジメントのために使うということを、きちんと明記すべきだと思います。
 ただ、実際にマネジメントする場合に難しい点が多々あります。状況により異なるということですね。例えば幾ら外部の利益をもっていたといっても、週何時間働いたといってもケースバイケースであります。それから、教員あるいは先生、研究者の責務というものは必ずしも明確になっていないということ。
 それから、これは社会との関係なわけで、社会の考え方によって大分変わるということがあります。
 ただ産学官連携といいますと、大学と企業の2つの立場があるわけですが、大学の方でそのマネジメントを求められる理由は、一般にそういうことが問題になった場合に、評判が落ちることになり、大学の方が被害が大きいということがあります。それから、大学が社会的な立場、社会からどのように信頼されているかということを考えますと、大学ではよりきちんとマネジメントをする必要があるかと思います。
 それから、利益相反あるいは責務相反が起こり得る状況、このこと自体を問題視する必要はないと思います。ただし、外部から実際に相反が起こったのではないかと問われた場合には、組織として対処が必要だと思います。
 実際にポリシーを策定するに当たりまして、各大学でそのポリシーを作る必要があるわけです。それからあと、病院あるいは医学部につきましては、先ほど平井先生からお話ありましたけれども、別途ポリシーが必要かもしれません。
 それから、ポリシーをつくるに当たって、先生方あるいは事務担当として事務職員、どちらかでつくるというのはやはりよくなくて、両者が一緒になって考えることです。
 ポリシーをつくること自体それほど難しくはありません。むしろ実際にどう運用していくか、そちらの方が非常に難しくて、それはやはり悩んでいかないとなかなか大学という組織としてマネジメントできないと思います。実際に導入に当たっては、段階的な導入を考えるべきだと思います。
 それから、最初は個人としての利益というものを考えていくべきかと思いますが、ゆくゆくは組織としての利益相反という問題も出てくるかと思います。
 それから、実際にポリシーをつくる、あるいはマネジメント体制をつくるといっても、それをつくったからといって実際にうまく回るわけではありません。それは、先生方あるいは事務職員の方、それぞれに対して啓発活動が必要だと思います。あくまでも両者の理解があって初めて成り立つということです。
 さらに、大学で実際どういうことをやっているんだということは、学外に対して、ホームページ等で利益相反のポリシーやマネジメント体制の全容をきちんと明らかにする必要があるかと思います。
 最後に簡単に、この会が開催された契機には、1つには大阪大学の報道があるわけです。皆さんは、これから利益相反ポリシーあるいはマネジメント体制をどうつくっていくかということにご関心があるかと思います。その他に今年の3月までの国立大学時代の事情について、マスコミあるいは社会から問いかけを受けた場合にどう対処するのか、これについてやはり考えておかなければいけないのかなと思っております。
 それから、やはりマスコミに対してきちんと情報提供して、マスコミの理解も深めないといけない。大学側の認識とマスコミ側の認識、ここにギャップがある場合に、結局大学側に不幸が生まれるということがあるかと思います。ですから、大学としては学外に対してどういう形できちんと情報提供していくかということも、考えていくべきかと思っております。

○西澤先生
 東北大学の西澤でございます。本日は、東北大学において責務相反・利益相反マネジメント制度をつくるにあたり、いろいろと私が悩んでいる問題を含め、当面の課題である個人の利益相反について、現在考えている点をお話して、皆さんのご参考に供したいと思っております。
 まず、その前段として、これは絶対に必要である、導入した方が良いということがわかっているようなベスト・プラクティス(最適な実施例)でも、その実施基盤を欠くと、逆に、せっかく今まであった制度までもおかしくしてしまうのではないか、という問題が生じかねないという点です。これは私の本来の専門分野である、ベンチャー企業支援策やクラスター形成策について、欧米の研究者が最近言い出している論点です。政策のマクロ・レベル(国家段階)、メソ・レベル(地域又は産業段階)、及びミクロ・レベル(企業段階)、これらが三位一体となった実施基盤が無いと、どんなに良い政策や制度を導入しても機能しない。機能しないどころか、逆効果を招くことになるという議論であります。
 同じことが、責務相反・利益相反についても、言えるのではないでしょうか。ミクロ・レベルでは、個別の大学に対して、産学官連携を実施する以上、責務相反・利益相反マネジメント制度を構築した方が良いという圧力がかかっています。ただ、それを作っただけでは実効性を伴わない、という問題がある。それどころか、逆にあらぬ不信感を招くとか、組織としてうまく機能しないということがあり得るのではないかということです。
 特に懸念していますのは、大学という「業界」全体の認識です。スライド2枚目にメソ・レベルでの原則の大転換と書きました。民間企業から大学に移ったとき、一番戸惑ったのは、大学において、「業務命令」が全く存在しないということでした。副総長や研究科長に何か言われたときに、私は意地悪ですから、「それは業務命令ですか?」と訊いてみると、「いや、お願いです」という答えが返ってきます。ぜひ「業務命令」にしてくださいと言って困らせているのですが。何かあったときにも、それは「お願い」ですから、断ることができる。特に研究を盾に取れば、ほとんどの場合、拒否しても、通ってしまうという世界です。実際、「すみません、ちょっと研究のために……」と言うと大目に見てくれることを発見して、ふっと言ったら、それが通ってしまいまして。「そうか!」と思って、いけないのでしょうが、ときどきそういうずるい対応をさせて頂くことがあります。
 しかし、これからはそうはいかない。つまり、研究活動であっても、そのことが利益相反による弊害を起こす可能性があれば、「業務命令」に近い形で、研究活動の変更を求めることも必要になってきます。これは今までの大学全体の在り方からいうと大きな転換になると思います。
 しかも、その転換根拠は、先ほどから言われておりますとおり、別に法令違反でもない。つまり、大学が決めた規範に基づいて、「これはやってもらっては困るので、先生、止めて下さい」というに過ぎないわけです。
 そうしますと、何故だという反論が当然出てきます。そこで議論をし始めると、水掛け論になるかもしれません。この点は後ほどお話し致しますが、このような問題があります。ここでは、大学全体、少なくともこれを作ろうという大学の教職員を含め、大学トップがその必要性をまず認識していただき、大学全体でマネジメント制度を作らないと、恐らく、反発や離反、あるいは地下に潜ってしまうとか、そういうことが起こって、結果としてマイナスになってしまうことがあるのではないかと感じております。
 さらにマクロ・レベルでいうと、残念ながら、わが国では、国民全体にほとんどこの認識が無いということです。マスコミで報道されると、利益相反それ自体が問題であるとか、未公開株やキャピタル・ゲインなどという言葉だけが踊ってしまうわけですが、これは、まだ、その本質を理解していない報道になっているからだと思っております。この種の問題の「先進国」であるアメリカでは、例えばCNBCという経済チャンネルなどで、ドット・コム・バースト(ITバブルの崩壊)以降、またはエンロン、ワールドコム(米エンロン社、ワールドコム社の破綻)以降、例えばメリルリンチのアナリストが個別企業の業績や株価予想についてレポートするという、日本でもよくある内容が放送される場合、アナリストが話している同じ画面に、このアナリストは、そのレポート会社と以下のような関係を持っています、具体的には、株を持っていますとか、その所属会社がIPO(株式公開)のアンダーライター(引受幹事証券会社)になっています、というような情報が表示されます。つまり、視聴者は、その情報により、「ああ、このアナリストはこういう関係なのか」という認識を持って、そのコメントを割り引くのか、そのまま受け入れるのか、そういう判断をするのが当たり前のようになっています。つまり、コンフリクト・オブ・インタレスト(利益相反)とは日常的に起こる。それは開示をされて、それを視聴者がどう判断するかの問題に過ぎないということが、テレビのような極く日常的な活動の中で既に行われているアメリカと、言葉だけが一人歩きする日本の中でやっていく、この相違は非常に大きいと思います。
 ですから、ベスト・プラクティスの導入は必要ですけれども、よくよく考えないと、本来狙った効果がきちんと生じないかもしれない。この点には十分留意すべきだと思っています。
 そこで、国立大学法人になったいま、その教職員がどういう義務を持っているのかということですが、まずは、職員としての義務、即ち法人法、大学の理念、就業規則など関連法規を遵守する、いわゆるコンプライアンス(法令遵守)です。これは民間企業であろうと何であろうと、組織であれば必ず守らなければいけない義務です。次に、大学として、教育をする義務、または研究をする義務があるわけです。そして、「第三の使命」として、産学官連携が新たに入ってきたわけです。
 日本の大学は、以前から、産学官連携をやっていたという議論はあり得ると思いますが、その関与度は大きく変わってきたのではないでしょうか。スライド3枚目にあります通り、確かに、以前から、公開講座や学識経験者として公益委員を引き受けるという関与はあったと思うのですが、「第三の使命」の一環としての技術移転、大学発ベンチャー企業への関わりとなってきますと、その内容は非常に高度化してきますし、複雑になってきます。しかも、大学の教職員が一定程度コミット(参画)しないと、技術を受けた側、またはベンチャー企業側、そこで働いている人たちが、とてもではないけれども、大学の先生とつき合っていられないと思われかねません。ですから、大学が産学官連携に対して、どういうポリシーを持つのかということによって、教職員の関わり方のレベルが完全に違ってくると考えております。
 では東北大学はどうかといいますと、このスライドにありますとおり、産学官連携をポリシーとして掲げております。とりわけ国際競争力の向上に貢献しますとか、経済社会の発展に貢献しますとか、さらに地域にある国立大学法人として、地域の産業界に対してきちんとした連携を行いたいと考えております。これは戦後日本経済の特徴である首都圏集中により、地域企業は研究開発部門をほとんど持たなかった。ところが、これからはそれでは成り立たない。地域にあってもイノベーションを創発しながら、新しい産業を起こしていくことが、アジア内におけるハーモナイゼーション(協調)として、絶対的に必要になってきています。もしこれができないと、恐らく地域がアジアにおける経済的ハーモナイゼーションに対する抵抗勢力になって、足を引っ張る可能性があるわけで、大学としても、そこはきちんと対応しましょうという点を、ポリシーとして掲げているわけです。
 そのため、積極的かつ透明性の高い産学官連携を行い、説明責任を果たすことを宣言しています。これを実行すれば、当然、外部の機関との関係において責務相反・利益相反は起こってまいります。それが、現実に弊害を起こさないようにきちんとした対応が必要になる、ということになってくるわけです。
 ただし、責務相反・利益相反には固有の難しさがございます。これは3つの局面があると言われております。まず、教職員等が産学官連携に関われば、先ほど言いましたとおり、必ず責務相反・利益相反の状態が生じているという認識を持っておりますので、まず、その状態を確認しておく必要があります。
 責務相反・利益相反をマネジメントするという場合には、さらに踏み込んで、それによる弊害が生じてしまう状態、スライド5枚目にあるように、Actualという言葉を使っています。現実に、責務相反・利益相反によって、弊害が生じている状態を認識する必要があります。この場合は、早急に弊害を是正する活動が必要になります。
 さらに、そういう弊害が生じているのではないかと外部から見られる状態、これがAppearanceです。責務相反・利益相反が問題にされるのは、大体は、この状態ではないかと思っております。
 マネジメントのポイントは、潜在的な責務相反・利益相反状態をきちんと把握した上で、当該教職員が共同研究、兼業、ベンチャー企業創業、さらには物品購入等々に絡むとき、現実に弊害を起こさない、またはそう社会から見られないよう、適切にマネジメントすることにあります。
 ただし、Appearanceへの対応は非常に難しい。私が「ここまでは危ないと思いますよ」と言ってみても、「いやいや、大丈夫ですよ」と対象となる研究者が答えたとき、どのような説得が可能なのか。その幅が余りにも広かった場合、説得をしても無理ということはあり得ます。そうだとすれば、やはり、大学の教職員がある範囲内で「ここまでいくと利益相反による弊害になるかな」という共通認識がないと、説得は難しい。余りにも溝が広すぎる場合、マネジメントしようがないということがあります。それだけに、先ほどから繰り返して言いましたように、どういう問題があるかということを、大学全体できちんと認識することが不可欠だろうと思います。
 そこで、弊害についてですが、まず大学の研究、真理の探究ということに対して、ある種の真実性が喪失されること、研究成果にバイアス(偏った考え方)が持ち込まれる。ある利害関係を持っている企業から頼まれたテーマを研究する。これが悪いのであれば共同研究や受託研究はどうなるのかといった、大変な議論が起こってくると思います。この点は、責務相反・利益相反を考えるうえでも、敢えて議論すべき論点だと思っております。
 さらに、本来責務を果たすべき時間が学外活動のために短縮をされてしまう問題です。この結果、学生に対して十分な教育活動ができない。または、これからも起こってくるでしょうが、研究発表をどうするのか、特に特許を取るために、大学院生など、学生の発表を抑えるということはどうかとか、そういう問題があります。これに対して、残念ながら日本では、まだメイン・キャンパスとリサーチ・キャンパスという区分けがございませんので、大学内におけるアクセスフリー部分と、これを制限する部分に区分し、またそこに参加する人たちをきちんと分けた上で対処していくということが、最終的には必要になるかと思います。
 最後に、こうした弊害が生じないような対応を大学が採らないと、大学に対する「信頼性を前提にした期待感」と敢えて書きましたが、言い換えれば、Integrity(社会的信頼)が失われる。Integrityという言葉も、わが国では、まだ、しっくりこない言葉かもしれません。しかし、この言葉がこれまで発表された利益相反に関する報告書の中で使われています。この点でも、アメリカのTVコマーシャルを見ていますと、この言葉を使っている会社が幾つかあることに気付かされます。1つはニューヨークライフという生命保険会社です。シティコープのプライベートバンキング部門もこれを使っています。それからもう1社、日本の東京証券取引所が外国向けコマーシャルでこの言葉を使っています。それは何を意味しているかというと、やはり金融機関でフォー・プロフィット、すなわち利益を目標にした企業活動を行ってはいるけれども、顧客から、その将来のために預けられ、かつ長期で運用を委託されている資産を、自社の短期的利益のために犠牲にしないという、ある種の信頼感または期待感を裏切らないことを、このIntegrityという言葉で表明しているのではないかと思っております。
 そうしますと、産学官連携は必要であり、それを実施すれば責務相反・利益相反が生じることは認めたとしても、その結果、弊害が生じたことに対して、大学が何もせず放置したとすれば、大学に対して社会が持つある種の信頼感に基づく期待感を裏切っていくことになり、大学の存立を危うくすることになるのではないか。大学として、弊害をきちんと回避し、Integrityを確保し続けることが、産学官連携には不可欠なのです。現在、東北大学の先生方にこの点をしつこく言っておりますが、きわめて理念的な問題であり、「何、そんなことなの?」という話も出てきます。しかしこれをやらないと、せっかく、産学官連携に熱心に取り組んでも評価されませんよということです。
 そして一番のポイントは、やはり弊害を回避するだけではなくて、結果として、教職員と大学を守るということです。もしも外部から、「これはおかしいのではないか?」と言われたとき、それに対して毅然として説明し、「おかしくありません」と答えるだけの自信を大学側が持っていることが必要です。それが社会に対する説明責任だと考えております。
 マネジメントの対象でありますが、先ほどから何度か出ておりますが、法令違反の部分は対象外です。それから、研究と教育に専念され産学官連携には関係がないという教職員も恐らく対象外です。産学官連携に伴う兼業、共同研究等、ベンチャー企業創業などを行えば、当然、存在する責務相反・利益相反について、自己申告による調査をした上で、その責務相反・利益相反の状態を把握し、それが現実に弊害を惹き起こさないように、またはそのように見られる状況が発生しないよう、きちんとマネジメントするというところが、恐らく対象範囲だろうと考えております。
 では具体的に何をするかということですが、2段階に分かれてくると思っております。まずは先ほど言いましたポテンシャルな状態、つまり、どういう利害関係があるかということをきちんと開示をしていただく段階です。それも継続開示です。毎年または半期になるのか、これは恐らく大学によって異なってくるとは思いますが、いずれにせよ、きちんと継続開示をしていただくことが第1段階です。そのうえで、第2段階として、実際に共同研究、受託研究の受け入れ、兼業活動を開始する、あるいはベンチャー企業を創業される、物品購入などに際して、現実に弊害が起こらないようにする。それと同時に、外から見て何かおかしいのではないかと言われた場合に、きちんと対処できる対応策を採っておくことが必要です。
 そこで先ほど言いました、責務相反・利益相反状態を把握してうえで、現実の弊害回避のため、当該研究活動、兼業、ベンチャー企業創業などに対して、一定の制約や変更を加えることが必要になると思います。ここで、当該教職員がどこまでその制約や変更を受け入れてくれるのかという基盤作りをきちんとやっておかないと、どんなに詳細なルールを作っても、恐らく機能しない。それどころか、「また管理を強めるのか」とか「せっかく法人化して自由になったのに、そうじゃないじゃないか」という反発が起こってくると思います。
 継続開示のところでは、これは簡単に言ってしまえば教職員の懐具合を聞くわけですから、それが外に出てしまうようでは信頼性を欠きます。ですから、その情報をきちんと管理できる事務体制を組まなければいけない。これは恐らく、いわゆる教員だけでできる仕事ではありませんし、職員とともにこの体制をきちんと作っていくことが必要になってくると思います。
 そういうことを通じて、この2段階をきちんと動かしながら、現実に弊害が起こらないようにしていくことが一番重要になってくると思っております。
 現在、実際にどういうことを考えているかといいますと、今年の12月を定期自己申告の目標に定めております。なぜかというと、毎年12月になると、通勤状況や住居状況などに関する報告書面が回ってきます。その中に今回の利益相反報告も組み込んで、その事務処理プロセスの中に人事担当の方で情報がきちんと収集・蓄積され、それが必要な部署や委員会に回るという仕組みを構築したいと考えているからです。それまでには、責務相反・利益相反マネジメントの必要性と、そのメリットなどに関する議論を、本格的に起こしていきたいと思っております。
 この継続開示制度を整備したうえで、恐らく1回だけでは済みませんでしょうから、具体的な開示や回避のシステムや問題点などを抽出して、できれば来年の4月ぐらいから本格的に動かしたいと考えております。
 最大のポイントは、やはりマネジメント・ポリシーの周知・啓蒙ですね。本当に先生方が納得するかどうかということです。
 先ほどの西尾先生の議論にもありましたとおり、ファカルティ(教授陣)できちんと作っていただければいいのでしょうけれども、わが国の大学では、なかなかそうはならないということですから、なるべくそれに参加していただけるように、あえて厳しい問題提起をしながら、学内で議論を起こすことが重要な前提条件だと認識しております。本気の議論をしながら、その必要性を認識していただく。そうでないと、どんなに優れたポリシーを作っても、先ほどから出ていますように、動かないということになります。動かないどころではなくて、不信感を増したりしたのでは、せっかくの狙いも全くの逆効果になってしまいます。責務相反・利益相反マネジメント制度構築の最も重要な点は、この学内における共通認識の獲得にあると思っています。
 これを本格的にやっていきたいと思っているのですが、これがなかなか緒に付かないという苛立ちを感じております。これを何とか各部局、さらには大学全体に早急に起こしていきたいと思っております。

○渡辺先生
 名古屋大学の渡辺でございます。名古屋大学の利益相反マネジメント体制の構築ということで、事例をご紹介したいと思います。皆様が大学に戻られてこれから体制構築、あるいは既にあるものを充実することに何かのお役に立てるように、という思いでご紹介したいと思います。また、内容は決してすぐれたものであるとは言えません。私自身が実際動いてきた結果も含め、かなり個人的な感想的なものもあると思いますが、何かのお役に立てればという思いでご紹介したいと思います。
 まず、利益相反とは何か。これを知るということが非常に大事だと思いました。自分でそのためには勉強するということで、一番最初に、先ほどご紹介のありました利益相反ワーキンググループの報告書ですね。文科省で出されましたこれが非常に役に立ちました。その後にいろいろセミナーがあって、私は神戸大学や佐賀大学でそのようなセミナーを受けたりしましたが、こうしたことも大変役立ちました。それから、経済産業省の産総研ですね。ここが非常に進んでいたものですから、こちらの方へなるべく足しげく出かけて行ってお聞きしました。これは本当に助かりました。あと、先ほどの西尾先生あるいは平井先生などにもお話を聞きに行ったりして、いろいろな方たちの話を出かけては聞いてまいりました。そうやって、私は自分でまず勉強をいたしました。
 その結果、ここ(資料2枚目)に「産学官連携と利益相反は車の両輪」と書きました。これは奈良先端大学院大学の今田元教授が言われたんですが、これに非常に強く感銘を受けたといいますか、非常にこれは大事だという認識を持ちました。というのは、私自身は2000(平成12年)年に名古屋大学にまいりまして、大学の中で知的所有権創出ということで、大学の先生たちにそうした知的所有権の意識を高めてもらおうという大きな目的で来たわけです。それは言ってみると、産学官連携でもあるわけですね。それで、そういうことをやると、結果として利益相反が非常に大事だということを強く感じて、これは片手間ではいけないなという思いで利益相反に取組もうと思いました。
 それで何をやったかというと、まず学内の啓発です。これがまず大変大事だろうということで、大学のトップに理解してもらおうということをやりました。現在、名古屋大学には副総長や総長補佐、あるいは各部局の部局長や産学官連携推進本部があり、毎月1回本部会議を行うのですが、そういうところでプレゼンを行ったり、そういう形で活動してまいりました。特に副総長のようなトップの方に理解してもらうためには、単に報告書、資料を渡しただけでは理解していただけないということであるため、出かけて行って、大事ですよという話をしたり、あるいは総長補佐にも話をしたりということをしました。やはりトップの方はそういう話は必ず理解してくれるんですよね。ですから、その辺からまず私は入りました。
 それから、その下の方ですが、産学官連携に熱心な研究者に利益相反の趣旨を説明して理解を得る、と。これは特にベンチャーを起こした先生たちには非常に関心を持っていただきました。特に利益相反、後でご説明しますが、ポリシーや規程をつくる上において、ベンチャーを起こした方たちの意見も聞いておきたいという思いがあったものですから、ベンチャーを起こした方たちを中心に利益相反についてどういうものであるかという説明をしながらお話ししましたら、初めはやはり何か倫理規程的なニュアンスで皆さん構えていたのですが、それがだんだんよく理解していただいて、早く整備してほしいということを何人かの方から言われました。
 では、実際にどういうふうに取り組むか。考え方とか進め方ですね。これについてご説明したいと思います。
 まず、スタートはやはり利益相反ワーキング・グループの報告書です。これをまず読んだ結果、これをとにかくやっていかなくてはならないということだったのです。ここに書いてある基本的なところで、「大学独自の取組みが必要」と書いてあったのですね。とにかくつくってくれないと、自分でつくらなくてはいけない。この報告書を見ると、確かに項目は全部挙がってるんですけれども、さてではどうやって動いていいかはわからないというところが実態でした。結局、手本がないと取組みがなかなか難しいということから、手本を探すところから私は入りました。
 その結果たどり着いたのが、当時としてはそれまで国の機関であったのが独立行政法人化した産総研ですね。ここが最も利益相反に関して進んでると私が考えたものですから、産総研へ何度か足を運んで本当に親切に対応していただき、資料もいただいたりして、形がわかってきたんですね。書面としてのポリシーや規程等、いろいろ内部で苦労してつくりつつあるものも可能な範囲で教えていただいたのですが、実際に紙の形で見ると、ああ、こういうものかと非常に参考になりました。
 ただ、その産総研のものが大学にそのまま適用することは、全くできませんでした。特に大学の場合は教育であり、あるいは研究といっても産総研は産業利用というのが恐らく一番大事だと思いますので、その辺で大学の研究と大分違うものですから、本当にがらっと変わって、名古屋大学独自のものを最終的にはつくりました。ただ、形として書面でできあがったものとしては本当に参考になりました。
 それから次に、学内体制構築の進め方ということです。どういうふうにやったかというと、まず産学官連携推進本部が大学の中にありまして、これは総長の直轄の執行的な動きができる組織なんです。この産学官連携推進本部の中に利益相反ワーキング・グループをつくったということです。そこでつくりだすポリシー案や規程類、あるいは自己申告様式ですね。そうしたものもつくりました。学内説明会も昨年5回か6回、医学部も含めて行ってまいりました。そして、そういうところからいろいろな意見を収集、集約して反映させました。これは普通のやり方だと思いますが、やってきました。
 4番ですが、ここでは利益相反のマネジメント委員会が方針決定の親委員会ですけれども、これを産学官連携推進本部という産学官連携を推進する組織の中に入れるか、あるいは人事、労務の関係の委員会等の人事労務の方に入れるか、これで少し議論をしたことがあります。結論的には、産学官連携推進本部のもとに置く、つまり、この利益相反というのは倫理規程のような趣旨の制度ではなく、むしろ産学官連携を促進することを考えると、人事・労務の中に入れたらシュリンク(萎縮)してうまくいかなくなってしまうのではないかということから、産学官連携推進本部の中に入れることにしました。ただ、そうはいっても人事的な関わりが強いから、人事関係のところとは情報交換をやっていくという形でおさめました。
 一番最後の6番として書きましたが、事務組織の中に事務局を置くということで、これも組織としての大事な位置づけだと思っております。
 具体的な利益相反マネジメントの体制でございますが、利益相反マネジメント委員会と、もう1つ利益相反の専門委員会の2つがあります。マネジメント委員会は方針を決定するという、大学としての利益相反の最高意志決定機関であるということでございます。委員長は産学官連携推進本部長、委員の方は部局長やその代行の方、それから非常勤の理事ですが、これは外部の弁護士さんです。そういう形で、外部の方の意見も入れるということでやっております。
 それから、その下に専門委員会をつくったわけですが、これは調査などの実働部隊です。この中には委員として利益相反に詳しい教員、あるいは利益相反に詳しい学外の弁護士が入っています。実はこの学外の弁護士は正式な委員ではなくて、意見を聴取するという形で常時入っていただくという形をとってますので、ここでは委員として加えてありますが、規程上の委員ではございません。それから、あとは文系、理系、医学部・病院関係の先生、それからベンチャーを起こした、ベンチャーに詳しい先生。さらに学外の有識者として、やはり非常勤の理事です。大学の方では、親委員会のマネジメント委員会の方に法務関係と人事関係の理事が入っております。それから、専門委員会の方には法務関係の理事だけは入っている。つまり、法務関係の理事は親委員会と専門委員会と2つ関わってもらっているという形をとってます。
 それから、外部の方という意味では、法務の理事はもともと外部の弁護士さんですから、そういう意味で親委員会と専門委員会の両方に関わっている。それ以外に、利益相反に詳しい弁護士には専門委員会の中で関わってもらうという形で、外部の意見もできるだけ反映する形をとってます。
 マネジメントの対象者ですが、簡単に中身をご説明したいと思います。どのような対象者かというところからスタートです。これはスタートとして考えているわけですが。(資料7枚目の)左側に利益相反マネジメントの対象となる産学官連携活動を挙げました。例えば共同研究、受託研究等ですね。こうした活動をしているということと、さらに右側の個人的な利益、例えば一定株数以上の公開株の保有。公開株は、現在案としては、公開済の株数の5%など、数字が原型になるわけですが。これらの2つがクロスする方を対象にということで考えております。
 それで、今後の課題あるいは予定ですが、マネジメント委員会ではガイドラインをつくってもらうということ。それから、専門委員会、実働部隊としては自己申告書は既にあるのですから、それでもって自己申告書を提出していただきた、処理するということ。それから、自己申告書を後で見て、その中からヒアリング対象者を絞っていく。それから必要なモニタリング、カウンセリングです。これは月に1回か2回ぐらい、弁護士にも来てもらってやっていこうということです。さらに、事例解析、事例集もつくりたい。
 それから、臨床研究・臨床試験に関わる利益相反ですが、これは医学部や病院を中心に別途作成を進めていきたいと、これは予定ですが、そういう考え方でいきたいと思っています。現在、専門委員会の中にも、あるいはマネジメント委員会の中にも医学部の先生が入っております。マネジメント委員会の中に医学部長が入っておりますし、専門委員会の中にも医学部の教授が入っております。そうしたところを中心に、別途医学関係もつくっていく必要があると思っております。
 また、学内啓発セミナーも大事だと思っています。それから、他大学との情報交換・意見交換。これも我々としてはぜひ図っていきたいと思っております。とりあえず8月30日(後に9月16日に変更)のご案内を、これからしていきたいと思っております。
 それから、最後に、社会への利益相反マネジメント情報の公開、これも考えていきたいと思っております。

○石原先生
 よろしくお願いいたします。本日はこのような会にお招きいただきましてまことにありがとうございました。
 なぜ一会計士がこのような立場でお話しをさせていただくかといいますと、岩手大学の方で産学官連携ハンドブックというものが出ております。そちらを作成するということで、岩手大学の担当者の方とある意味べったりくっつきながら、いろいろ議論させていただいて、つくりあげたという経緯があります。そのように実際につくっていく中でどういうことがあったのかとか、もう1つはやはり外部の立場でそのようなものに関わった中で感じたこと等をお話してもらえませんかということでしたので、まことに僣越ですが、お話しさせていただいております。それでは、よろしくお願いします。
 まず利益相反マネジメントの概観ということで、先ほどから何回かお話が出ておりますけれども、もともと利益相反は教育研究の遂行の義務が大学と職員の方にはあり、それに対して大学側から研究資金や施設の提供がある。この関係のところでは、利益相反は全く出てこないのです。先ほど単一のInterests等、何度か名前が出てきましたけれども、そういう状況では出てきません。それに対して、新たに産学官連携というふうなことで、企業など外部機関との新たな関係が出てくることによって利益相反が出てきます。
 特に関係があるというのは、全然関係ない日曜大工で何かしてますとかいうレベルでは出てこなくて、やはり大学で直接行われている研究活動と、それを具体的に社会に出していこうという、ある意味での相乗効果があると、そこから利益相反が出てくるのかなと思います。
 またもう1つ、外部機関から個人的な利益を得ている。また同時に大学からも研究資金が出ています。どのような活動資金のもとにどのような活動をしているのか、そこら辺がうまく分けられませんね、というところから利益相反の可能性が出てくるということであります。
 そこで特に問題になるケースとして、外部から教職員の方の経済的利益に対し行っていることがいわゆる大学として公平な立場でしっかり行われていますか、問題ないですか、という声が一方では出てきます。
 もう一方では逆に、教育研究に対してです。やはり大学は社会のために貢献してもらわないと困りますよね、ということで、教育成果が社会的にちゃんと還元されているんだという反対側の声も同時に出てくるわけであります。
 本質的な問題としては、やはり教職員としての義務はしっかり果たした上での活動なんですか、ということです。社会から1つの活動に対して、ある意味で全く逆の方から全く逆の意見をある一教員が受けなきゃいけないという苦しい立場に、産学官連携をやっていらっしゃる職員の方は遭遇しているということが言えると思います。
 そこで出てくるのが利益相反マネジメントだと。そういう状況に対して、個人ではやはり対処するのはしんどいですよね。マスコミから取材してどうなんですかと、両方から言われてそれに一々対応しているということではやはり研究が進んでいかないというところで、利益相反マネジメントの必要性があるのではないかと思います。
 そういうふうなことで、では、具体的にどのような反応、すなわち利益相反マネジメントをつくっていくかということで、こういう状況になったらやはり困りますねというところを少々挙げさせていただきたいと思います。
 ジレンマの意識といいますか、大学のルールや規則を強化すると産学官連携は進まないのではないかということですとか、やはり利益相反は不祥事対策だねと、もしくは悪者の先生を摘発するためのものではないかとかいうこととかがあると思います。あと、あるいは、産学官連携に積極的な教員の方は逆に大学の管理には余り関心がないですよと。先頭に立つ教員がまずその手本を示せば、当然だんだん下はそのようになっていくのですが、逆に最初に産学官連携をやられている方ほど具体的に今までこれでやってきたんだから、という思いこみがあって、それに対して適切に動いていかないと、それを見て回りの人もまあいいかということでルーズになりがちかな、と。
 基本的に大学の先生は教育や専門分野においては、明らかにそれぞれトップをうたって、自分の判断で全て行動されてきておられるということを考えますと、みずから進んで「ホウレンソウ」、すなわち報告・連絡・相談というサラリーマンには大切な3要素に触れる機会というのはほとんどないと思います。逆に、そういうものに対してかなりネガティブな印象を持たれているということがあるのではないでしょうか。
 その結果、利益相反のマネジメントを守ってやると自分だけ損をするのではないかとか、ルールや処罰を厳格にすると、ちょっと隠しておきたいなというところが出てしまったりということがあるのではないかと。もしくは利益相反マネジメントについて、「何かやっているね。まあまあ大学が何かやってくれるんでしょう」とか、「報告書は出しておくよ。あとはお任せね」とか。「基本的に自分は関係ない。必要だからしょうがないよね」という認識になると、なかなかいいマネジメントが実現しないのではないでしょうか。
 今お話した中で一番重要だなと思うのは、利益相反マネジメントがいわゆる社会貢献ですね、産学官連携のブレーキになるのか。本日いらっしゃっている方はいろいろ考えられているので、ある答えは持たれていると思うのですが。1つは活動がやはり停滞するのではないかということ。どうしても、何かやろうと思ったときに一々出さないといけない、何でそんなことを、というところでやはり停滞するのではないかと。またはそれは影響がないよとか、逆に、より活性されるよというふうに、それぞれの意見はあるとは思います。
 それで私が思うのは、やはり導入しなければ積極的に取組む教員は自分の行動が正しいか否かというのを常に自分で判断しないといけないと。それでは常に不安を感じながら行動しないといけないですよね。また、教育、学術研究、社会貢献に対する教員の価値観のずれによって、やはり産学官連携に適した分野もあれば、余り産学官連携には適していない分野もあります。よって、ねたみですとか、そういうものにもさらされてしまうと。あれは勝手にやってるんだと、あいつが勝手にやってるんだ、みたいなところでねたみに近い批判の対象にもなるのではないかと思います。
 そこで導入時に強調すべきところが2つあると思うんですが、1つはいつでも言われている利益相反状況の発生自体悪いことではないということ。これは本当によく、いつでも言われていることですね。
 特に今回お話しておきたいなと思ったのは、やはり大学は教職員を守るため体制を整える義務があるのではないかということを強く感じます。それはどういうことかといいますと、やはり産学官連携を推進しようという話をしているわけですよね。産学官連携を推進しようと思えば、当然に利益相反の状況になるということはもう皆さんご承知の話でしょう。ある意味後ろから押されたらスカートを踏まれていたと、どこかで聞いたフレーズだとは思うんですが、そういう形になってはいけないということです。先生方に社会に対して前に出てもらうのであれば、そしてそれをある程度大学の意志としてやっていこうと思うのであれば、当然大学の意志としてそれについてのガードについては、やはり大学が責任を持ってやろうということです。それはもう無関係なものではないということが、まさに先ほどおっしゃった車の両輪、利益相反マネジメントと産学官連携の推進が車の両輪だということではないでしょうか。
 つまり、利益相反マネジメントの目的というのは守るということではないでしょうか。一番根本となりますのは、教育研究をバイアスから守る。これはもう根本的なものですので、先生が科学技術とか教育のためにという思いを持って、常に大学との関係を持っているということは根本でありますし、これは大前提であると思います。その上で、教職員や学生の方を社会の批判から守らないといけないということが、大きな利益相反マネジメントの目的ではないかと思います。
 そして、そのような体制を大学がしっかりとっている姿を見て、社会としては、あの大学は新しい使命というものについて一面的に見るのではなくて、弊害のところまでしっかりと見た上で、対応して動こうとしているんだなと、さすが大学、最高学府だなみたいなことになるのではないかと思います。そのためにはやはり大学の組織的な対応が必要になると思われます。
 それでは、守るためにということで、ちょっと具体的な話に入りたいと思います。2つあると思うのですが、1つは利益相反マネジメント体制の構築。これは先ほどから多く言われているように、大学が社会に対していろいろ説明するためには、このような体制が必要ですということです。
 もう1つ、利益相反マネジメント体制の、いわゆる啓発活動ですね。大学がこういうふうに守りますよ、守りますよという話をしたとしても、先生の1人1人の財布まで見て、どうなっていますかということを見ることは無理なわけです。それで、先生がいろいろ行動されるときに、一々そこはだめですよ、あそこはだめですよなんていうことまでできるわけではないと。やはり先生1人1人に、しっかりとどういう行動にはリスクが伴うのかということをしっかりとわかっていただいて、その上でちょっとわからないなとなったら具体的に相談してもらうとかという行動に出てもらうためには、先生1人1人に対してそういう情報を提供することが必要なのではないかなと思います。
 中身につきましては、先ほどもずっとお話がありましたので、省略させていただきます。
 最後に、ただいまこういうことを言いましたけれども、言うは易し行うは難しで、なかなか大学の今までの関心の中で新たにこういうものをつくっていくのはなかなか難しいことであるのかな、とは思っております。
 そこで、じゃあ、具体的に体制の難しさというふうなものと、それに対する1つのご提案もしくは具体的に啓発活動の難しさと、それに対してどういうふうにしていったらいいのかというふうなことについてちょっとお話しさせていただければと思います。
 まず、体制構築については、いわゆる大学のトップレベルの意思決定、コミットメントが不可欠ではないかと。先ほどの、例えば情報収集をしますとか、先生にいろいろなセミナーをやりますとかいう話であっても、やはり一部署が何かできるレベルでは明らかにないですので、大学のトップレベルの意思決定、コミットメントが不可欠ではないかと思います。
 引き続きまして、大学のもう1つ難しいところとしましては、多様な価値観というものが大切だと言われている。だからこそ新しい科学技術なり新しい価値観を生み出せるということなので、なかなかある1つの形にするというがものすごく難しいところではないかなというふうには感じております。
 また、同じく、先ほどもお話ししましたけれども、産学官連携推進のためにマネジメントがブレーキになるのではというふうな恐れもあるかと思います。
 また、いろいろなワーキング・グループの内容ですとかいろいろな資料がありますが、やはりなかなか開示制度の基準ですとか、利益相反委員会の審議ポイントというふうことについて、はやはり具体的な内容というのがまだ慣習として定まっていないというのもあります。委員会メンバー、アドバイザーなどの適任者が不明確、人員不足の中で新たな領域に専任者を確保することは難しい。などという問題があると思います。
 そこで、岩手大学の方でいろいろやっていただきながら感じましたのが、やはりトップの強力なリーダーシップ、そして担当部署の推進力というものがあると思います。例えば、トップで岩手大学だったら斉藤副学長が、いわゆる社会連携担当の副学長さんなんですが、その方が具体的に我々とのミーティングに直接来ていただいて、そこで直接ディスカッションをしていただいたりとか。もしくはセミナーというのを開いたんですが、そこに直接来ていただいて、いろいろご意見というか、これが重要なんですというような話をしていただいたりとかというふうに、かなりコミットメントをしていただいたりしたことがあったと思います。
 そして、利益相反マネジメントのゴール=目的の関係者の共通認識。これは先ほども強調しました、いわゆる守る、いわゆる皆さんのためにやってるものなんだという意識が重要かと思います。開示基準などについては、いわゆる満点というのはなかなかないのかなと思います。やはり一定の簡便性と一定の必要性からこんな形ですねというのができたとしても、またもしかしたら事例によっては少し開示することが必要な情報の項目が抜けていたりということもあり得るとは思うのです。やはりまず最初は完璧というふうなものを目指さずに、まず一応あげてみる。そして、またそれを変えていく、少しずつ改良していくということが重要なのではないかと思います。
 そして、いわゆる適任者というふうなことで、なかなか利益相反マネジメントというふうなことに対しての一般的な知識というのがなかなか広まっていない。先ほども話もありましたように、日本自体がそういうふうな状況でないのであれば、外部人材ですね、そういうふうな適した人材を集めてくるというのも手かなと思います。
 最後に、体制構築で最も重要だなと思いましたのは、やはり多数の関係部署、知財部ですとか、人事部ですとか、総務担当部署さんがいわゆる当事者意識を持って、我々が何とかしなければならないと思っていただいて、それで協力し合うと。ミーティングのときもそういう担当部署に集まっていただいて、私も参加させていただいたりいろいろしたんですが。それだったらうちができるよとか、それだったらここの部署がいいね、というような、進んでやりましょうという雰囲気ができ上がっていて、それの前提には、やはり斉藤副学長の推進力というのがあったと思うんです。やはり、そのような形で、より自分からやりましょうという形になっていけばいいのかなとに思います。
 啓発活動の難しさですが、基本的に一般的な啓発セミナーでは見込めないし、ただ単に事例集を作成しても読んでもらえない。利益相反の概念が一般的ではなく理解しにくい。産学官連携活動に経験の豊かな教授ほど、今までこうしてきたんだからみたいな意識が多い。さらには、教職員の方が具体的にこれはどうかなと思ったときに、気軽に相談できるところがないというところが問題があると思います。
 それに対しては、1つは先ほどもお話ししましたように、啓発セミナーに対して、トップが大学としてこれはやるんだという形でコミットメントを表明していただくということがまず一番重要かなと思います。具体的な細かい方法としては、啓発セミナーですね。他の産学官連携活動、大学発ベンチャーのたぐい等と並行して開催したりですとか。一番トップの教授の方に聞いてもらえないのであれば、若手の方を全部まず集めていろいろお話しして、研究者レベルで啓発していくということも考えられるかなと思います。
 また、発明の届出とか共同研究とか、具体的に産学官連携活動を今からしますというタイミングが必ずあるわけで、そういうタイミングごとにこのお話をしていくという方法も有効かなと思います。
 また、先ほどもお話ししまたけれども、これは大丈夫かなとふっと思ったとき、気軽に聞けるような関係、もしくはそういうことができるアドバイザーなりカウンセラーのような制度があると啓発活動に最も有効でしょうか。やはりその人自身が疑問に思ったときが、啓発には一番有効なタイミングではないかなと思います。それを考えると、やはりそういうときに聞くことができる何かが用意されているというのは、啓発活動においても大変重要なポイントではないかなと思います。
 最後に、ハンドブックなどによって大学の規程などを含めて、しっかりと何がリスクであるかと、この活動をしたらどういうふうに外から見えるのかなというのは、ご本人の主観ではないと思います。ご本人の主観では間違いなく産学官連携のため、大学のためにやるとか、社会のためにやるとか感じられるのはもっともだと思うんですね。それに対して社会はどう見るかなという面を持っていただく1つのきっかけを、ハンドブックなどにより持っていただければ、というのがあると思います。
 今回、ハンドブックを作成していただきましたけれども、私どもがポイントとしましたのは、できるだけ図形等を入れて、シンプルで読みやすく活用できるものということです。図形といいますのは例えばフローチャートですね。具体的に奨学寄附金を受け取るために何をしないといけないか。つまり、産学官連携活動するときに何をしないといけないかということを知るとともに、それではそのときにどういうリスクがありますかと。つまり活用と、リスクというものを一緒に学べるような形に工夫いたしました。
 あと、いろいろな事例集を見ると、いろいろな複雑な事例がよく出てくるんですね。大学発ベンチャーをつくって、その後共同研究して云々ということが出てくるんです。なかなかそういう事例を読み取るとのは難しいと思いましたので、具体的に役員兼業するときにはどういうリスク、共同・受託研究するときにはどういうリスクがあるのか。もしくは、第三者評価活動、これは臨床試験等も入るとは思うのですが、評価活動、第三者の立場として評価するということはそれだけ責任が普通より重いですよと、そういうときにはどういうことに気をつけないといけないのかという、それぞれのタイミングにおいてどういうリスクがあるのかということをできるだけ記述するように気をつけました。
 あと、もともと利益相反の範疇ではないんですが、本当に先生を守るというもともとの目的にかえってみたときに、これは利益相反ではないから書いてませんといっても、先生の立場からみると受け入れられにくいと思うんですね。やはり先生からすれば、それ以外でももっと重いことであっても具体的に知られていないコンプライアンス(法令遵守)的なことはいろいろあると思います。そういうものについてもある一定の範囲ではありますが、記述するように気をつけました。
 最後に、それでは、具体的に不安になったときにどうしたらいいのというところで、具体的な窓口を明示して、こういうときにはこの方にということを明確にするようにしました。
 少々長くなってしまいましたが、最後は今後の課題というところです。体制を早期に整備するに当たっては、やはり人員ですとか、情報管理ですね。具体的に情報を集めていくに当たって、どこが主管してやるのかということを明確にしていく必要があるのかなと思います。
 啓発活動の継続については、いわゆる先ほどのポリシー等、外部に本学はこういう形でやりますということをお知らせするのも重要だというお話がありましたので、やはりそういったものは少しずつでも確実に継続していくことが重要かなと思います。
 外部人材の活用ですとか、最後に利益相反の判断基準、判断根拠、体制、啓発活動について、他大学はどういうふうにしているのかという事例ですね。これらの集積と共有化。ここで最も重要なのは、ただ「この大学は何%でだめだ」とか、金額云々というレベルではなく、「この大学はなぜこの場合にこういう判断をしたんだろうか」と、その「なぜやったのか」というところについてしっかりとお互いに開示し合って、情報提供し合うことによって、それでは、うちとしてはどうなっていくのかなということをしっかり考えるような形になっていければいいのではないかなと思います。

  • 参加者との意見交換があった。その内容は以下のとおり。

○司会
 各先生方からのご発表をひととおりいだいたたところで、司会の方から幾つかお尋ねをさせていただきたいと思います。
 まず、西尾先生にお尋ねしたいのですけれども、米国の大学における利益相反マネジメント体制の取り組みはかなり進んでいるということですが、その中で学外への情報の開示というのがあったと思います。これはこれから構築しようとする大学にとって非常に関心が高い部分だと思います。もしつけ加えてお教えいただける情報などありましたらお願いいたします。

○西尾先生
 まず、ポリシーなり体制というのは必ずホームページに載せるということです。概要ではなくて、やはり全文を載せるべきです。そうでないと、外部の人間がその先生あるいはその大学とどういうふうにつき合っていいかわからないということになります。
 また、海外の方がこれに対して関心が非常に高いわけですね。となると、やはり日本語だけでなくて英語でも用意をしていかなければいけないと思っております。
 あと、実際にポリシーがどういう位置づけになっているか、アメリカの大学はそれぞれ私立大学あるいは公立大学によって違いますので、一概に利益相反に関するものはこれだ、というふうにはなかなか出しにくいわけです。ですから、ホームページの中で引用していかざるを得ないということです。とにかく関わるものは全てホームページで見られるようにしておくというのは、最低限必要かなと思っております。

○司会
 ありがとうございました。
 西澤先生に1つお尋ねしたいのですが。そもそも利益相反マネジメントというのは大学だけに出てくることなんでしょうか。簡単にお教えいただきたいと思います。

○西澤先生
 先ほどCNBCの話をしましたけれども、利益相反というのは、恐らく専門的な活動をやっていれば、日常茶飯事に起こってくることだろうと思っております。アナリストがそうでしょうし、証券会社に勤めてらっしゃる方もそうでしょう。それから一時期問題になりましたが、監査法人が監査対象企業に対してコンサルティング活動やっているのはどうかとか。恐らく利益相反それ自体はごくごく日常的というのか、むしろ当たり前に起こってくるというのが本質ではないでしょうか。
 そこで、利益相反問題を考えるとき、どうも利益相反それ自体をマネジメントするという言い方は非常に分かり難くなっているので、もう少し踏み込んで、利益相反がある種の弊害を起こすことをきちんと防止するという、問題認識の方が重要なのではないかと考えるようになりました。
 それから、もう1つ難しい点は、先ほども言いましたが、外側から見て、起こしているのではないかと言われたときにどうするか、ということだろうと思います。もともと私はベンチャーキャピタルにおりましたので、利益相反というのは当たり前のように起こり得る。つまり、投資先に対して自分も投資してしまって、一緒になってキャピタルゲイン(株による利益)を得るなんていうことをやろうと思えば可能です。これは、出資者から疑念をもたれる行為のため、かなり厳しいルールがあり、即刻、懲戒免職でした。これは各企業のおかれた事業環境によると思われます。
 ですから、利益相反それ自体が問題ではなくて、やはり先ほどのCNBCのようにそれをきちっと開示する。一般の人たちが、ああ、こういうことをおやりになっているんだなということがわかった上で、その活動をどう評価するか、またはそれを認めている大学というのをどう評価するかということだろうと思います。
 そういう意味で、マネジメントも、産総研等もそうなのでしょうけれども、大学独自でやっていても、それは一人よがりになってしまう。ですから、必ず社会から自分たちの判断がどう見られているかということを、もう一度フィードバックして、自己検証するというルールも作らないと機能しないと思っています。
 責務相反・利益相反それ自体は、そこら中にあるというか、ごくごく日常的にあると思うのです。それが現実に弊害を起こすかどうかというところで、きちんとマネジメントする。つまり、そうした弊害が現実に起こらないようにするということではないかと考えています。

○司会
 ありがとうございました。そうすると、当然そういう、いろいろなプロフェッショナルな世界でどこにでもあるということですね。しかし大学であれば国公私立という設置者が別という話が当然出てくるのですが、その辺は設置者の別で考え方は変わらないと理解してよろしいんでしょうか。

○西澤先生
 そこに変わりはないと思っております。それよりも、いろいろな調査でアメリカ等を回りまして、日本と大きく違うなと感じたのは、日本ですと、国家公務員だから国家公務員法の103条か104条があるので、フォー・プロフィットの民間企業からの隔離というのが規定されているわけですけれども、果たしてそうかということですね。日本的には、逆に私立大学は、民間だからこうした規制は無いということになっていますが、この区分は本当に正しいのかどうかです。
 アメリカではむしろ私学の方が厳しい責務相反・利益相反規程を設けています。それはなぜかといえば、私学は、高い学費を取って学生諸君を集めているわけですから、その高い学費に見合うだけの教育をきちんとする義務がある。そのためにアピアランス・オン・キャンパス(教員がキャンパス内に居る)ということが明確に規定されております。教員は、きちんとキャンパスに居て、学生の教育ニーズにいつでも応じて下さいということです。逆に、州立大学の方が州税で動いているわけですから、州の産業の活性化等に関わるのであれば、例えば20%ルール(1週間5日に勤務日のうち1日は学外活動を認める規定)が緩和される可能性がある。
 このように、アメリカでは、大学がそのミッションに応じてポリシーも決まってくるのであって、わが国においても、設置が公立だから私立だからということは、これからはもう全く問題ではなくなるのではないかと思っています。

○司会
 ありがとうございました。
 実際、先生方のお話を聞いていて、渡辺先生から名古屋大学の実際の現場のお話をいただいたところなのですけれども。恐らくいろいろ各方面に配慮した内容で資料をおつくりになっているような気がしたのでございますけれども。差し支えのない範囲で結構でございますので、具体的に苦労された点をもう少しお聞かせいただけませんでしょうか。

○渡辺先生
 苦労といえば随分たくさん苦労しました。というのは、どう取り組んでいいかわからないというのが本当のところでして。いろいろな本を見たり、あるいはお話を聞くと何となくわかるんですよね。わかるのだけれども、さあ、自分で取組もうとなると、どこから手をつけていいかわからないというところが一番の苦労でした。そういう意味では、やはりどこかに手本があるというのは、どんな形であれ手本があるというのは非常にスタートとしてはやりやすかった。
 それから苦労ということともう1つ大事なのが、私が思ったのは、どこをつついたら大学は動くかということです。つまり、こういう利益相反マネジメントというのはまさにマネージャー、要するに大学トップが大事だと認識して、これはやらなくてはいけないという気持ちを出してくれるかどうか。つまり、自分では決してうまくいかないんです。一人では、当然だと思います。大学のトップを動かすという、ここが非常に大変なところだと思います。
 具体的には、結局産学官連携だと思うんですね。産学官連携に関わる副総長であるとか、あるいは我々の場合は総長補佐という人がいたんですが、この2人がキーマンだったんです。だからこの2人に納得してもらえれば、もうあとは組織をつくるという話にすぐなります。
 その辺が一番の大事なポイントであるのかなと思っています。

○司会
 ありがとうございました。
 石原先生も岩手大学の現場で恐らくいろいろなお話があろうかと思いますが、1つ2つ、もしありましたらお願いいたします。

○石原先生
 基本的には私が苦労したというよりも、横で苦労を見ていたという立場なので恐縮なのですが。やはりハンドブックをつくるに当たっても、いわゆる産学官連携のセンターの担当の方がいらっしゃったんです。その担当の方は本当に学内、学外をいろいろかけずり回る形で、学外からはできるだけ情報収集ですね。まさに本日会場にいらっしゃっている方はそれをやられている方だと思うんですが、学外からの情報収集のためにかけずり回り、なお学内では意見調整のためにいろいろ動かれるということで、やはりある程度できるだけ担当部署に直接行って話をし、また別のところに直接行って話をし、ということをされていたなというのがすごく印象的でした。
 あと、やはり副学長がおっしゃっていたのは、やはりどうしても最後はこうなんだよ、みたいな押しの強さが必要でしたということです。議論して活きる部分と、でも大学全体としてはこういう方針でいくんだから、その学部としても納得してほしいというような、それはある意味お願いしますというニュアンスだとは思うんですが、そのようなところも必要でしたということはおっしゃってました。

○司会
 ありがとうございました。
 先ほどのご説明にもあった、まさにトップの理解まずありき、というところなのかなという感じですね。
 それからもう1点、渡辺先生にお尋ねしたいのですけれども、社会への利益相反マネジメント情報の公開というお話がありました。もう少し詳しくお話しいただけますでしょうか。

○渡辺先生
 社会への利益相反マネジメント情報の公開は非常に大事なんですね。これは何かというと、大学の中だけで利益相反をマネジメントしたと社会から思われては、本来の趣旨とは違ってくるわけです。ですから、大学の中のルールが何で、その結果としてどういう結果を出したというのを社会に発信しなくてはいけないという意味において、そこで初めて世の中から認められるかどうかが決まってくる、というふうに思うわけです。
 そういう意味で、我々の方で現在やっていることは、まだポリシーとか利益相反の規程とか、そうしたところをホームページにあげている。あるいは概略の仕組みをあげているということでやっておりますが、これから先にいろいろな事例が積み重なった場合には、個人情報は上手に秘匿しなくてはいけないと思うのですが、大筋のところは公開していかなくてはならない。そのことが非常に大事なポイントになってくるというふうに思います。

○司会
 ありがとうございました。
 そろそろ参加者の方々からの質問をいただこうかと思いますが、最後にもう1点だけ。全体のお話を通じまして、マネジメント体制となりますと教職員の方から定期的に金銭的な報告を求めるというのがまずありき、という感じでした。仮にそういう報告を求めるということであれば、求めなかった場合のペナルティーであるとか、その次の段階のペナルティー等いろいろな段階があろうかと思います。その辺についてもう少し詳しく触れていただけますでしょうか。

○西尾先生
 ディスクローズしてくださいというふうに学内で決めているにもかかわらず、先生から報告がなかったという状態がまず第1段階だということです。そうしますと、もし報告が上がってこないで、大学が知らないまま外から指摘を受けて、大学が何ら情報を持ってなくて混乱するということは、やはり大学の社会からの信頼性を損なう要因になるかと思います。
 ただし、私はいきなりペナルティーというものを入れる必要はなくて、当然普及・啓発の助走期間というのがあるかと思います。どこの段階からが本格的なマネジメントかというのは一概には言えませんけれども、ある時点でやはりペナルティーは入れないと、マネジメントシステムそのものが根底から崩れてしまうので、それは必要かなと思っております。
 次に、きちんと情報を受けて、大学側で、「先生、こういうふうにしてください」と、例えば兼業していたのをちょっとやめてくださいとか、取締役をアドバイザーなり顧問にしてくださいというふうに先生に求めたのを、先生が従わないままで、外や中から何らかの指摘を受けた場合にどうするか。やはりこれも同じようにペナルティーがあるかと思います。やはりペナルティーは一応マネジメントシステムの中に含まざるを得ないかなと思っております。

○司会
 ありがとうございました。ペナルティーの前に、まずそういうルールを守らない場合は、そもそも大学が組織としてもう知らないよと、簡単に言うとそんなところから始まるということでよろしいんですか。

○西尾先生
 あくまでも、やはりきちんと先生方と話をして、先生からわからなければご質問を受けて、その場をきちんと設けた後のことを私は、申し上げておりますので。そこはまず、あくまでも先生方あるいは職員の人に理解をしてもらうと、その活動をおろそかにしてはいけないと思います。

○司会
 ありがとうございました。
 それでは、参加者の方からご質問をいただいていきたいと思います。

○参加者
 利益相反マネジメントを実際やろうとしたんですけれども、リンクしてくるといいますか閾値となるものに、兼業規程と倫理規程があると思うんですね。あれを読んでいくと非常に厳しいことがいろいろと書いてあるんです。そちらの方の規制緩和といいますか自由化といいますか、そちらの方の見直しはどのように考えられますか。

○司会
 西澤先生、よろしいですか。

○西澤先生
 恐らく、これは、今後、議論になってくると思っております。先ほどの全体会議のとき、平井先生が問題提起されましたけれども、倫理規程等に関わる矛盾が起こり得る可能性はあると思います。つまり、今回きちんとした責務相反・利益相反マネジメント制度を作ったとき、どちらを優先させるのかという問題です。ここには、結構悩ましい問題がありまして、法律を適用することになってくると、既に法律上の問題があった場合、これを免責することはできないということはあり得ると思います。先ほど平井先生が非常に苦労しながら、刑法と違って、倫理法では境界線が動き得るのではないかという、ご議論をされておられましたが、各大学が責務相反・利益相反マネジメント制度を構築され、実際、利益相反による弊害を回避できる条件を整えた場合、これまで倫理法等で規制されたような種類の問題が起こったときに、どういう対応するかということを含めて、これはミクロ・レベルの問題だけではなくて、むしろ国を含めてマクロ・レベルで改めてご議論いただきたいと思っております。
 その中で、各大学がきちっと管理・監督できるということであれば、倫理規程や兼業規定なりも緩和することが必要になってくると思います。にもかかわらず、それが難しいということになれば、逆に、責務相反・利益相反マネジメントは何のためにやっているのかという反発が起こって、問題はさらに複雑になると思っております。この辺は、これから各大学が責務相反・利益相反マネジメント制度をお作りになっていって、結果としてこの問題点が出てきたときに、改めてこういう場を通じるか、また別の形を通じるか、改めて問題提起させていただいて、どういうふうに変えていくべきなのかという議論を、きちんとやらないと、この議論は解決しないと思います。
 私としては、でき得る限り責務相反・利益相反マネジメントに基づいて動いて、旧来の国立大学の規程に準じる形で作られている倫理規程や兼業規程が緩和される方向にいって欲しいと考えております。

○参加者
 4月に国立大学が法人化されまして、職員は公務員ではなくなり、労働契約型の雇用関係が発生しました。どういうことになったかというと、研究に主として携わっている教員には、裁量労働制が導入された。私は法律の専門家ではないのでよくわからないのですが、簡単に言いますと、管理はその個人に任されていて、一応1週間40時間働けることになっているというみなし規程だと思います。そうすると、その上に兼業で外へ出たときに、40時間以上働いてるのではないかと。これは労働基準法の範疇ですから、大学がこういうふうに解釈するということでは処理できないのです。それから、裁量労働制というのは労使協定の問題ですから、単なる就業規則よりレベルが高い話なんですね。で、どういうふうにその辺の解釈をしたらいいのかというのを非常に悩ましく思っているんですが。この辺りに何かご意見はいただけないのでしょうか。

○西尾先生
 すみません。兼業時間はそもそもその大学での労働時間ではないので、それは全く別個の話ですよね。そうすると、ちょっと我々は何を答えれば……。

○参加者
 いや、大学の時間ではないですが、個人的には40時間の上に働くことになりますから、労働基準法的に言うと、働きすぎということになるんじゃないかという議論があるんですね。

○西尾先生
 トータルで40時間以上その人が働いてるからどうかと。それは別に個人の問題になってくるのではないでしょうか。私は専門家では全くありませんが、常識的に考えると、大学の活動で40時間を超えているのであればそれは問題になるかもしれないんですけれど、その人がサイドビジネスで何かやっていて、それで20時間仮に働いてたといっても、それはその人の問題であって、大学としてはそのほかの時間で働いている分で自らの40時間にどう影響するか、ということを考えていく。要するにマネジメントという観点からすれば本来大学で果たしてもらうべきものに対してきちんと果たせているかどうかというものを考えていく、マネジメントしていくべきではないのかなと、素人考えですけれども、そういうふうに思っております。

○参加者
 研究成果の開示のときに関わるグラント(研究費)とか、実際に共同研究した企業との関わりをどのように開示するかということについて。まず、本日のお話の主なところは、大学に携わる教員と大学側の方、あるいはそのシステムの構築についてでしたが、例えば我々がアメリカに講演に行くときには、個人のレベルでどのようなグラントサポートを受けているかということを1者ずつ、それもトラベル側から、それから実際のコンサルタントから5つか6つの項目に分けて全部出すわけですけれども、その場合本日のお話ですと、これからは大学長あるいは医学部長が自分にかわって相手のソサイエティー(組織・協会・学会)に開示するというシステムになるのでしょうか。

○西澤先生
 恐らくその問題と、大学の方で把握すべき利益相反というのは、少し別の側面かなと思っております。大学で把握しておく必要があるのは、そのことでどういう弊害を起こすのかということです。そういう学会発表等々というのは、相変わらずご担当の先生方の責任になっていくのではないでしょうか。だけれども、大学としてIntegrityを損なうような結果になるのであれば、そこはある種のマネジメントの対象にはなるとは思います。ただし、基本的には、その問題は恐らく今までどおり、各先生方にお任せするということになるんだろうと思います。

○参加者
 そうしますと、これからも研究成果の開示の媒介としての学会というものとの関わりはあくまでも個人であり、その自分の研究成果に対するバイアスがかかるかどうかということ。先ほどのお話にもありました、テレビの下のテロップで、この人間はだれからフランクをもらっている、だれのお金の飛行機で来たのか、そういうような形は日本であっても個人とその媒介である学会との関係、というふうに認識していいということですか。

○西澤先生
 そうだろうと思います。恐らくそこまでをやっていくことはかなり難しいことです。逆に言いますと、そういうことが度重なってきて、どうもあそこの大学の先生は何かある種の利害関係のある発表だけやっているんじゃないかとか、そういうことになってくるのだろうと思いますが、それは恐らく先生方の学問的良心に関わるセルフ・レギュレーション(自己規制)の問題ではないかと思っております。もちろんそれが余りにも度重なって大学に何らかのリアクションが来るということが起こったとき、大学として対応することになるでしょうけれども、そこまではまずは踏み込めないだろうな、と考えております。つまり、その学問的中身までの評価はなかなか難しいからです。
 それよりはむしろ、本来発表すべきことを、企業から頼まれてどう押さえ込んでいるかとか、ご本人だけならまだしも、関係している大学院生、ひょっとしたらドクターの学位を取らなければならないような人たちに対して、それを押さえ込むとか、そういう行為に対して大学としてチェックをするのだろうと考えます。

○参加者
 実は、我々のところはまだ利益相反が確立していないんですが。案自体はかなり以前から既につくってあって、それから体制案も実は既につくってあるんですけれども、最終的に決定プロセスをどうするかという部分で、かなり悩ましいところがありまして。
 一番簡単なのは、多分トップダウンで下ろしていくのが、先ほどご紹介にありましたとおり割とやりやすいのだろうと思うんですけれども。やはり実際には、現場のいろいろな教員の方との合意というのが必要だと思うんです。それがないと多分正直な申告も行われないでしょうし、それから実際に運用しても形式的な運用に終わってしまう可能性も恐らく十分あるわけです。
 その全学的な合意というのは、先行された名古屋大学や東北大学の事例では、どういうふうになさっていたのか。ある時点でトップダウンで決めざるを得ないというところはあると思うんですけれども。合意プロセスというのを、どのようになさっているのかというのをお聞かせいただければと思います。

○渡辺先生
 決定プロセスとしましては、法人化前において、部局長会、評議会、これらの正式ルートで決定いたしました。
 実はそのとき法人化ということでたくさんのルールがあって、そういうのを一括でやりましたので、1個1個細かく議論はしてありません。ただし、決定より前の時点で、例えば昨年秋あたりは5、6回学内で、各キャンパスごとに説明会をして意見集約・意見収集しました。そうしたものを反映するような形を、ステップとしてはとりました。
 それから、そうした意見以外にもベンチャーを起こした方とか、そうした関心のありそうな方たちにワーキンググループに入ってもらって、そうした人たちからの意見をあらかじめ入れて、ポリシーあるいは規程づくりで反映をしていったということでございます。
 そういうことで、最後の決定プロセスは本当に法人化前のたくさんの規程の中の1つとして入って、そこで決まったということでございますが、それより前の段階の地道なところで努力して意見集約を図ってきたということです。ですから、だれが決めたというのではなくて、理系・文系も含めてワーキンググループの先生たちに入ってもらって議論して、そうしたものの中にベンチャーの方には飛び入りで入ってもらったり、医学関係、病院の方にもときどき入ってもらったりして、最終的にはワーキンググループの結果でポリシーや規程をつくったというステップでございます。

○西澤先生
 今のことで、いわゆるトップダウンで作るというふうにおっしゃられたんですが、これはやはり難しいのではないかと思います。トップが責任を持つ、つまりリーダーシップをとってこれを主導していくということは必要だろうと思うのですけれども、トップダウンで作ると、恐らくまた新しい規制ができたと考えられてしまうんではないでしょうか。
 これは私自身も関わってきた知財ポリシー等についても、学内キャラバン等で本当に時間を取られながら説明してきたのに、ときどき「ところで、今度変わったんですよね?」なんて非常にプリミティブな質問をされて、愕然とすることが、いまだにあります。
 「この利益相反ポリシーだけを受け入れてくれ」ということだけでは恐らくだめなんだろうなと思いまして、どういう形で先生方に「これが必要なんだ」と思っていただきつつ、議論に参加していただくか。反論でもいいと思うんですね。問題意識を持っていただきたい。そのためには、やはりかなり無茶なことを担当副学長などと仕組んで、「え、そんなことまでするのですか?」と思ってもらって、むしろ文句をつけていただくようなことをしないと、なかなか本気になっていただけないのではないか。それをどうやったらいいのかというところが、現在、私が非常に悩んでいるところであります。
 恐らく西尾さんからアメリカの例をご報告いただけると思うのですが、ファカルティ(教授陣)が自分たちで問題意識を持って作った場合にのみ、初めて機能するものだろうと思うんです。日本では、なかなか、そうはいかないでしょうけれども、なるべくそれに近づけないと、作ってみても、「また規制ができたのか」という反応だけになってしまうかな、という懸念を持っています。

○西尾先生
 アメリカでは、例えばスタンフォード大学はやはりファカルティがつくっています。自主的につくっている。それを大学のものにしてますし、やはりこれを先生方がちゃんと理解してます。要するに何で重要か、何でこういうことをやらなければならないのかということを、理解してもらわないとうまくいかないと思ってます。
 あと申し上げたかったのは、実は産総研のことです。産総研は、はっきり言って半年ぐらいでつくってます。2年ほど前の2月ですかね。私のところにお話があって、こういうのをつくりたいと言われました。その際、実は初めは、理事長が「よし、トップでこういうのをつくろう」と。それで、いつまでですかと訊いたら、秋までだと言われまして。それは無理でしょうという話をしたんです。ただ、実際にはできています。
 産総研のモデル、進め方というのはやはりいろいろと参考になるかと思っておりまして。1つはやはり研究者のことをわかっている人が検討の場に入ってくるというのが1つですね。それから、産総研ベンチャーを起こしている人にインタビューしました。あと、この利益相反に関わりそうなセクション、会計、人事、知財部の方にも加わっていただきました。それから情報公開法の関係が出てきます。そういうところも含めて検討会を開くたびに、参加者がふえていくと。そういうことで組織の中の理解者をふやしていったということがあるかと思います。
 最終的にまずポリシーをつくって、産総研は個人の情報を開示させました。いきなり、つくって何カ月か後に開示させました。その利益を開示させること自体、普及の1つの仕組みですね。まず開示する情報を自分が書くことによって、これがどういうことをやっているのかということを理解していくということですね。だから、例えば8割一応認めてもらったからやるとかそういうわけではなくて、最初は小さいところから導入していって、その導入自体が普及啓発の1つの仕組みになっていくということです。
 それから、産総研というのは北海道から九州まであります。担当者全部の箇所に行って、必ずセミナーのときにそれを伝えていますし、あるいはコーディネーターのために特別にセミナーを行ったりしていうことで、普及啓発をきちんと行っています。この辺はやはり努力を怠ることはできないのかなと思っております。

○司会
 ありがとうございました。今の産総研の件でございますが、本日お配りしております「国立大学法人における責務相反・利益相反マネジメント制度の構築と運用について」の中で触れている箇所がございますので、後ほどご参考にしていただければと思います。

○参加者
 私どもは具体的な開示の基準や審査のポイント等を学部・部局でそれぞれ独自に考えていただこうかなと思っております。それぞれ部局によって教員の受けとめ方にもかなり差がありますので、そういうことをしようかと思っております。けれどあまりそのまま任せてしまうと、大学でのダブルスタンダードが出てくることになって、それもまずいかなと懸念しております。先行の東北大学や名古屋大学では、そういう部局別におやりになっているのか、それともとにかく一本なのかということをお訊きしたい。
 もしも部局別にやろうとしたらやはりこういう問題点がありますよ、ということがありましたら教えていただきたいと思います。

○渡辺先生
 名古屋大学の例でお話ししますと。当初、部署によって違うし、文系と理系でも違う、それから医学部も違うとか、経済学部がまた違うとか、いろいろな実態が本当にあるわけですから、別々にということも考えました。けれども、やはり今おっしゃられたように、ばらばらなものになっていく。大学としての統一した利益相反のマネジメントをやっているだろうか、ということが問われるようなりました。それで、やはり一本化した統一的な考え方でもってやっていこう、ということにいたしました。
 それから、医学関係ですね、臨床試験や臨床研究。これはやはり医学関係の方だけで議論していただくべきではないか。医学関係以外の者があれこれ議論してつくるべきものではないのではないかということから、医学関係はまた別枠でつくる必要があるという理解をしております。

○西澤先生
 今、渡辺先生がおっしゃられたことは、私もそうだろうと思っております。ただ、対象者をどこまで広げるかなど、これはかなり議論をしていく必要があろうかと思います。先ほど言いましたように、産学官連携に関わるか、関わらないかを如何に区分すべきか。または対象は教員全部にするのか、あるいは物品購入等があれば職員も入ってくるということがあります。ただ、職員の場合は異動等もございますから、その部署だけでというわけにもいきません。
 そういうことを含め、まず大学全体でどういう事象が起こるのかということを踏まえた上で、対象者を決めていくことがどうしても必要になってくると思います。恐らく文系の先生方からはこんなの関係ない、どうして懐具合を聞かれるんだという反発は当然あるだろうと思います。その辺をどういうふうに大学が説得するのか。あるいは、もう関係ないのならばここは切ってしまおう、という考え方もあると思います。これは一律にはなかなか決まらないことではないかと思っております。

○西尾先生
 学部あるいは複数のキャンパスを持ってる場合、キャンパスによって若干カルチャーが違うということがあるかと思います。当然運用において、その文化あるいは背景が影響することはあるかと思いますが、一応大学として各部局でどういうことをしているかという情報は把握しておく必要があるかなと思います。実際の運用を各部局でやるというのも1つの考えとして十分あって、それは否定されるべきものではないと思います。その場合はやはり大学として情報を持っておくべきかなと思っております。

○参加者
 利益相反マネジメントの体制のことといいますか、システムのことで1つ教えていただきたいのです。このシステムに弱点があるとすると、基本的に対象者の自己申告によるものであるということなんですね。幾つか問題があろうかと思いますが、とにかく自己申告のデータを集めるエネルギーもさることながら、先ほどから何度も出ていますように、規制強化と感じて非協力的だったり、正直に書いてくれなかったりすると結構大変だと。
 そういう中で、もしも一番いい方法があるとすると、結局利益相反に関わる人たちがこういう体制を積極的に利用すると、あるいはこういう自己申告をすると非常に彼らにとってもメリットが大きいんだと感じさせることだと思います。何かあったときには積極的にカウンセリングを利用しようというような、これを導入することによって産学官連携を安心してできるんだというメリット感が、何らかの形で対象者になければいけないと思うんですね。
 その点で何かいいアイデアといいますか、現在導入されたときに苦労されたことがあったら教えていただきたいと思います。

○渡辺先生
 ご指摘があったのは、利益相反のマネジメントをした結果のうれしさ、利点ですね。これこそまさに利益相反の趣旨といいますか、何のためにやるかというまさに本質的なところなんですね。これが上手にというか、確実に理解されるかどうかがこのシステムがうまくいくかどうかの一番のポイントだと思います。
 私たちが思っているのは、そういう意味で「一番自分が危ないと思っている先生」と言ったら表現はよくないですが、例えばベンチャーを起こしているとか兼業をやっているとか、いろいろなことやってる先生がいるわけですね。そういう先生ほど、「自分はどうだ、大丈夫だろうか」という思いがあるわけですね。そこのところをよく理解していかなくちゃいけない。
 つまり、学部ごとに同じ、基本的な基準でマネジメント対象の方をある程度つくっていくわけですけれども、その中で本当にヒアリングするのは、医学部だったら何人、それから工学部だったら何人ということで、それぞれ学部ごとに考えるべきではないかと思います。文系も学部ごとにです。要するに、各学部みんな利益相反マネジメントのヒアリングをすると。その結果、すごく安心できるものだということを学部ごとに理解してもらって、シンパというか、口コミでどんどん評判が広がっていくことを我々はねらっていきたいと思っています。
 ということで、一律ではなくて、やはりみんなに理解してもらうやり方をどう工夫するかということで、今後考えたいと。このことはまさに利益相反がうまくいくかどうかの一番のポイントになるかと思います。

○西澤先生
 まさに今、渡辺先生がおっしゃったことだろうと思います。それから、この弱点というのは、ご指摘があった自己申告だけではなくて、先ほどから申し上げておりますとおり、ここからこちらは良いとか悪いとか、法律であれば明確に線が引けるんですけれども、責務相反・利益相反では、なかなか引けないという問題があります。ですから、これに関わる人たちに、これが必要なんだという認識をどう持ってもらうか。これがない限り、恐らく機能はしないだろう、マネジメントは難しいだろうと思います。
 それをどうやって必要性を感じていただくかというのは、今渡辺先生がおっしゃったとおり、いろいろな問題を抱えている人たちに、まずこういうものをつくりますが、ぜひお声をかけて下さいという形でお話を伺って、「これは大丈夫です」、「これは先生、ちょっとやめておいた方がいいかもしれませんね」というようなアドバイスを行いながら、そういう活動を少しずつどう広げていくということを地道にやっていかない限り、これは動かないというふうに思っています。
 そういう意味でも、やはりまず各大学で中心になる人たちがトップのきちんとした支援のもとに組織を立ち上げて、その中で先進的に動いてらっしゃる方たちと本格的に向き合って議論をする。その方たちと、「利益相反のマネジメント制度ができたのか。では、今までこんな場合はどうかなかと思っていたけれども、どうなんでしょうか」というような話を少しずつでも聞き出しながら動かしていくことが、どうしても必要だろうと思います。
 先ほどの西尾先生の方からありましたとおり、産総研のときでもやはり研究者の立場からは、最初は「またこんなことを……」というふうに思っていたと思うんですね。その一番のトップの人たち、つまり信頼を置かれている研究者たちに入ってもらって、その研究者たちと徹底して議論をやってきた経験があると思うんですが、そういうことをやはり学内で早急に始めていく必要があると思っています。その中で少しずつでも広げていく。ある部分までいったところで、じゃあ、本格的にこれでやりましょうという形にしていかない限り、ルールをつくりました、これでいきましょうと言ってみても、恐らく機能はしないだろうと思います。これが責務相反・利益相反マネジメント制度を実際に動かしていくうえで、ある意味一番難しい問題だろうという感じを持っています。

○司会
 石原先生、どういう仕掛けをされたかという点をご紹介いただけますか。

○石原先生
 結局、相談されたときに、受けた人がどういう考え方を持っておられるかというのはすごく重要だと思うんですね。例えば意志決定、利益相反委員会による最終的な意思決定ではやはり社会の目も意識できるし、先生の立場もわかるというような何種類かの委員がいらっしゃるというのが重要だと思うんですが。最初、やはり相談されるときには、先生がやはり産学官連携をやりたいという思いですとか、その意欲の重要性をしっかりと認識されていて、その上で社会から見たらどうか、という視点もわかっておられるような、どちらかというと産学官連携を推進されるような方がまず窓口になる、という方が現実的に先生方の心理的圧迫はないのではないかなと。先生はそういうふうに一生懸命産学官連携をやられていて、本当にそういう思いでやられていますよね、というのをまず共感できる人が、まず窓口に立つと。ただ、社会から見ると、こういうところはもうちょっとこうした方がいいんじゃないですかとか、もしくはこれを社会に説明するためにはこのぐらいの資料はつくられておいた方がいいですねとかということを、どちらかというとカウンセラーやアドバイザーとして、いわば弁護するマインドを持ってる方にまず窓口になっていただけるような形がいいのではないか。そういう意味では、岩手大学ではカウンセラーのようなものをつくるとしています。そのカウンセラーの中には産学官連携推進のセンターの方に入ってもらうということをご提案したんですね。そういうふうなことで推進していこうという思い、プライドを持っている方に最初に対応してらもというのも、1つの手かなと思っています。

○参加者
 利益相反マネジメントというのでは、利益相反をマネジメント、さてどうやってするのかなという気がしております。国立大学であったときの方が利益相反はもっと問題視されていたのに、現在法人化して、なぜ利益相反マネジメントがことさらに言われるのか。国立大学のときの方が、もっと利益相反マネジメントは必要であったのではないかなというような気がしないこともないですけれども。
 現在、国立大学が法人化して、知的財産とか利益相反というのが非常にもてはやされて、TLO等もよく名前が出るのですけれども。企業ではずっと前からコーポレート・アイデンティティーとかコーポレート・ガバナンスとか、いろいろそういうことがしきりに言われてやられてきたんですね。企業に入ったときから当たり前で身にしみついてるんです。西澤先生が言われたように、利益相反はどこにでもあることだと。
 どうも知財、TLOというその一部分の問題になるところだけで、マネジメントという言葉をどこかから取ってきたように飛びこんできているように感じます。法人化して、コーポレート・ガバナンスや就業規則、労働基準法が適用されてどうなるのかという問題もいっぱいあるだろうと思います。その末端である、利益相反に関わる1%か、コンマ5%かの一部の先生方が、そういう点で間違いで起こされることだけを、ことさら取り上げられている。もう少し次元の高いところでのマネジメント、ガバナンスという議論がは今後必要ではないかというところがお聞きしたいのですが。

○西尾先生
 要するに産学官連携、企業との連携というものが、たまたま大学のインテグリティー(社会的信頼)に何らかの影響を与え得る。同時に大学として連携をしていかなければならないので、利益相反のマネジメントをまず考えていこうということであります。例えば企業に属している人間であれば、外との関係全てですよね。相手がどこであろうが、NPOだからいいというわけでは全然ないわけですよね。ですから、本来であれば大学だって別に企業とつき合うから利益相反のマネジメントが必要なわけではなくて、あくまでも外との関係でとらえていくべきなのです。その最初の事例といいますか、ケースとして産学官連携における利益相反のマネジメント。それをガバナンスの中に組み込んでいくというのが、大事ではないのかなと思っております。

○西澤先生
 恐らく大学は、企業とは大きく違っており、国立大学法人、私立大学に関わらず、その研究活動に対して国から研究費を提供されるということがあるわけです。これは、つまり社会が、日本の国民が、大学の新しいものを生み出す研究能力に対して期待をして、資金を提供しているわけです。ですから、それをどう活かすかというときに、やはり、その活かし方について、きちんとしたルールを作っておく必要はあるだろうと思います。そうでないと、国民から負託された研究活動が、結局は個人の利益になっていましたというのでは、恐らく大学は社会からそれこそ見向きもされない存在になってしまう。
 そういう意味で、完全に自分の収益の中で、それをどう使っていくかという民間企業とは、自ずと違った対応が求められていると思っています。最近では、民間企業といえども、その社会的存在が問題にされているわけですから、ましてや大学の場合には、その社会から提供された研究費をどう活用していくか、その成果をどういうふうに社会に還元したかということが問われても当然だと思います。

2‐2 第2分科会「臨床研究・臨床試験における利益相反への対応」

(司会:伊藤技術移転推進室長)

  • 司会からのパネリストの紹介の後、「臨床研究・臨床試験における利益相反への対応」をテーマに各パネリストから意見発表があった。その内容は以下のとおり。

○平井先生
 先ほどの全体会に引き続いて、もう既にある程度のイントロダクションはいたしましたが、さらにこの臨床研究・臨床試験の問題ですね、深く検討していきたいと思います。
 この問題極めて難しいというのは、まず何をどう考えたらいいかわからないところがあります。最初のこの規範の調整の部分、一体この問題のスタンスはどこにあるのかということがまず最初に非常に重要になってきます。ここに模式的に丸い円を3つ書いてみました。これは余り正確ではないのでイメージとして考えていただければと。このインフォームド・コンセントはここにかかってないわけではないんですね。これは全体にかかってます。模式的なところがあります。
 まず、一番大事なことは、この上にあるヘルシンキ宣言ですね。いわずもがなですが、このヘルシンキ宣言というのは非常にスタートラインとして大きなポイント、地位を得ています。まずこれを理解しなければいけない。これに基づいて、我々が医の倫理を含めてどういうふうに物事を考えていくかということが極めて重要でございます。
 このヘルシンキ宣言をスタートとして、これは臨床研究に関する倫理指針、こういったものが定められました。これをまた理解して、これの射程範囲を考える必要があります。大きく言うと、この倫理指針の問題、それと、右下ですね、利益相反マネジメントの問題、それから左側にアカデミアにおけるルール、この3つが実は交錯していると。交錯しているところにこの臨床研究・臨床試験に関する利益相反の問題が発生するわけですね。
 インフォームド・コンセントも非常に重要です。これはどこにあるかというと、実はこの倫理指針に一応書いてあるんですね。書いてあるんですが、これで全てかというと、そうとも言い切れないところもあります。ただ、一応この中として全体に非常に絡んでくる。このブルーの部分は治験ですが、医師主導、企業主導、最近は治験の範囲が拡大されましたので、そういった意味で一応入れておきました。
 そのスタートラインのヘルシンキ宣言ですが、これは日本医師会が翻訳されたものを拝借いたしました。まず、ラインのあるところだけちょっと見ていきますが、被験者の福利に対する配慮が科学的及び社会的利益よりも優先されなければいけない。やはり被験者のことを考える必要がある。医学研究は、全ての人間に対する尊敬を深め、その健康及び権利を擁護する倫理基準に従わなければならない、こういったことが書いてあります。
 さらに、ここら辺は長いですが、この計画書は、考察、論評、助言及び適切な場合には承認を得るために、特別に指名された倫理審査委員会に提出されなければいけない。計画書というのは実験計画書ですね。この委員会は、研究者、スポンサー、こういった不適当な影響を及ぼす全てのものから独立していることを要する。こういった客観的な独立の委員会を設けて、そこできちんと判断してくださいと。
 さらに、その下の方ですが、研究者は、資金提供、スポンサー、研究関連組織との関わり、その他起こり得る利害の衝突、これは難しいですね。及び被験者に対する報奨についても、審査のために委員会に報告しなければならない。
 ここにもう既に利益相反のことが書かれているわけですね。利害がある場合にはそれをちゃんと委員会に報告しなさい。
 じゃあ、こういったヘルシンキ宣言をもとにしてつくられた臨床研究倫理指針、平成15年7月30日ですが、これは一体何が書かれているかというと、研究者が遵守すべき事項を定めたものである。例えば臨床研究計画書には次のことを書くべきである。当該臨床研究に係る資金源、起こりうる利害の衝突及び研究者等の関連組織との関わり。ヘルシンキ宣言と同じようなものですよね。こういったものを書かなければいけない。さらに、当該臨床研究に伴う補償の有無、そういったことも書かなければいけないとなっています。
 そして、研究責任者は、臨床研究により期待される利益よりも起こりうる危険が高い場合、あるいは十分な成果が得られた場合には、当該臨床研究を中止し、または終了しなければならない。
 ということで、これは実は実際いろいろな問題があるんですが、アメリカの事例で、82人やって82人の方が亡くなっちゃったみたいなケースも実はあって、やはり止めるべき時には止めなきゃいけない。それは、何よりも被験者の福利が優先されているからなんです。
 さらに、臨床研究倫理指針には、その他の臨床研究に関し必要な事項を決定しなければいけないということがあります。あるいは、その次は、これはインフォームド・コンセントですね。インフォームド・コンセントの中にもそういうことを、例えばここですが、当該臨床研究に係る資金源、起こりうる利害の衝突及び研究者等の関連組織との関わり、こういったものをインフォームド・コンセントでちゃんと説明しなきゃいけないということが書いてあります。
 以上が厚労省の方で定めたガイドラインですね。今、読んでおわかりの通り、まずヘルシンキ宣言があって、それを敷衍してガイドラインというのが日本でそれを実効的なものにして、ある意味、一番のベースラインとして臨床研究を支えているわけですね。
 かたや、丸の左側、アカデミアとはどういうルールがあるんだろう。こういったのがあります。ジャーナルに論文を投稿する際には、当該研究に係る資金源、関連企業等の名称を明らかにするということが実際上行われていますし、ジャーナルによってはこれをかなり厳しく運用しているところもあります。
 そして、学会報告ですね、プレゼンをする際に、例えば最後にクレジットがついて、この研究は例えばアメリカのスポンサーで行われましたといったふうに当該研究に係る資金源、関連企業等の名称を明らかにするといったデファクト(事実上の)のルールがございます。
 この前、日本でどうやっていますかと聞いたら、余り日本の学会ではやりませんねという話は聞きましたが。ただ、欧米では割とよくあることですよね。
 はてさて、それでは利益相反マネジメントですが。そういった2者との関係で、利益相反マネジメントって一体どういう特徴があるんだろうか。もし何ら差異がないんだったらばやることはないですよね。必要性ありませんから。しかし、実は違うんです。さらにこれをやる意味があるんですね。それは、臨床研究を問わず、広く研究者の利益相反(狭義)及び責務相反に及ぶと。つまり、臨床研究をマネジメント、ちょっと一番目はあれなんですが、利益相反マネジメント自体の存在というのがまずあるということですね。
 2番目は、臨床試験のガイドラインにはないんだけれども、利益相反マネジメントすることによってここまでマネジメントの範囲が広がりますよという1つの例で、例えば利益相反マネジメントでは開示すべき情報の対象というのが配偶者、あるいは生計を一にする親族にも広がります。
 利益相反マネジメントのよくあるパターンで、例えば奥様がどの会社で働いていて、例えば取締役をやっていて、報酬を幾らもらっている、あるいは自分の息子があるベンチャーカンパニーで働いている、そこから給料をもらってる。そういうことも場合によっては報告するわけですね。息子が働いているベンチャー企業から実はその大学が物品購入しているかもしれない、あるいは共同研究しているかもしれない。こういうケースで開示する情報の範囲が広がるんです。ところが、ガイドラインにはどこを読んでもこれは書いてありません。この辺は実は利益相反マネジメントがより広くガイドラインを含みつつ、より広く全体の利益相反をコントロールしようというシステムだからなんですね。
 そして、3番目に利益相反委員会が継続的にモニタリングすると。もちろんIRB(倫理審査委員会)も継続的にモニタリングはしますが、利益相反委員会、またそれと別位の観点から、利益相反という観点から継続的にこれをモニタリングするという意味で、利益相反マネジメントする独自の意義というのが存在するわけですね。
 問題の所在の2番目ですが、じゃあ、規範の話はわかったと。3つの規範があるらしい。組織はどうなっているでしょうかというと、実はここもやっかいです。ガイドラインによって設置されたIRB、倫理審査がございますね。それから、利益相反委員会、これもございますね。さらには、勤労室あるいはこれは人事室、総務室でもいいですよね、倫理問題を扱う一般的な部署、アメリカでいうとdisciplinary action(懲戒処分、懲戒免職)みたいなことを扱われるところですね。
 こういった3つの部署というのが微妙に絡み合っています。一体だれが何をするのか。この3者をある意味で統合調整しなきゃだめですよね。そうしなかったら研究者が困りますよね。この委員会はこう言う、この委員会はこう言う、あそこはこう言う、ばらばらなことをする。それは困りますよね。だから、こういった3者の委員会がきちんと調整をして、統一的なことをやっていただきたいと。
 問題の所在3番目で、ダブル・スタンダード。実は先ほど私これダブル・スタンダードと言った後、西澤先生から批判されまして、君、ダブル・スタンダードとそれは恣意的な感じがするからやめた方がいいよと言われまして。つまり、日本ではダブル・スタンダードを設けるということは、あそこだけ優遇しているとか、どうもそういうイメージがあるらしいですね。
 ただ、ちょっと弁明をすると、なぜこういう言葉を使ったかというかと、これは憲法からくるんです。憲法には違憲審査判断基準として2つあって、これをダブル・スタンダードというんですね。普通の違憲審査基準と人権が絡む場合、特に表現の自由が絡む場合とかいうのは、違憲審査基準を高めるんです、厳しくするんです。だから、法律からするとダブル・スタンダードというのはより大事なものを守るために使うそういう基準なんですよね。だから、悪い意味で使ったのではないのですが、どうも社会的には何か悪いイメージがあるよと言われて、ちょっと反省しました。
 どういうダブル・スタンダードにすべきかということなんですが。これは先ほど使ったところですね。もう改めて言うことはないと思います。
 少しここを詳細に説明しますが、具体的な基準というところで、ゼロ・トレランス・ルールというのがございます。これは例えばアメリカでいうと、ペンシルバニア大学がこういうルールを採用しています。やはりちょっと事故があったんですよね。そういったことがあって非常に厳しいルールをとっています。
 かたや、スタンフォードとかもそうですけれども、ハーバードもそうですね、ゼロじゃない、隔離はしない、しかし、もうちょっと丁寧に見ましょうね、厳しく見ましょうねというのが一番上の基準です。
 先ほどちょっと極めて早く言ったんですが、日本でどうしたらいいんだろうか、ここはもう皆さんのご意見を聞きたいところです。それぞれの方によって多分意見が違うと思うんですね。私は患者である、だからこう思う。私は研究者だ、だからこう思う。それぞれ違うと思うんです。こういったものをぜひ議論して、我々なりの解を探さなければいけないというのが、ある意味我々に課せられたタスクだと思います。
 議論の参考のために米国における利益相反マネジメントを若干ご紹介いたします。時間の関係もありますので、手短かに行いますが。最初の方は非常に一般的な議論ですが、患者の安全、データの客観性、私的な利益、こういったものをどうやって調和するかということがテーマです。
 ここにゲルシンガー事件というのがございますけれども、これが先ほど言ったペンシルバニア大学の事件ですね。ゲルシンガーという方が亡くなっちゃったんですね。これは遺伝子治療なんですが、非常に期待された治療だったんですけれども、なかなかうまくいかなくて、本来であればある一定時点で多分中止をすべきだっただろうと思われる事案なんですね。それが外部のベンチャーとの関係もあって、どうもバイアスがかかったかもしれないというふうに思われている事件です。
 この事件で訴訟が起きまして、アメリカはすぐ訴訟になりますんで、弁護士の方が大学を訴えまして、大きな影響を与えました。ペンシルバニア大学はこの事件の後で利益相反ポリシーを変更して厳しい考え方を採用したということです。ですから、逆にいうとこの事件が起きる前はアメリカでも別にゼロ・トレランスというのはなかったんですけれども。
 スタンフォードの例がちょっと挙がっています。これはちょっとペンシルバニア大学と違う例ですが。開示のところで赤で書いてあるところですが。もしかしてそちらは赤じゃないですね、アンダーラインがあるところですね。いかなる経済的利益もコンセントフォーム、開示書ですね、によって開示しなければならない。一定条件以上の経済的利益の場合には、公開の場で議論を行う。
 2番目ですけれども、2番目の2つ目のところですね、臨床研究において利益相反があるにもかかわらず、研究者が当該研究に関与しなければならない場合、この場合には正当な理由が必要となる。つまり、例えばこの研究をやっている先生というのはアメリカ全土でお一方かお二方しかいないと、この先生がこの研究をやらなければ、だれも臨床研究ができないというケースであれば、そういう正当理由があればやっても構わないということですね。逆に正当理由がなければ外れてくださいというルールですね。
 こういったふうに、スタンフォード大学はどちらかというと禁止ではなくて、どこかに線を引いて、厳しめの線を引いて何とか臨床試験を回そうというふうに考えておるわけです。
 次はペンシルバニア大学ですね。ペンシルバニア大学は厳しいです。
2のところですが、当該企業によってサポートされる臨床試験に参加してはならない。もう禁止ですね。
3、研究者が試験に使用される製品について研究者が財産的な利益を有する臨床試験に参加してはならない。完全に禁止ですね。
 ただ、そうといいますと、これがアメリカのメジャーな流れではありません。決して。皆さん議論している中で、こういう例もあるということなんですね。つまり、一番厳しい例の1つとしてこれをとらえていただきたいと思います。
 最近の動きとして、ハーバードの例をちょっと挙げてあります。最近ハーバードは利益相反ポリシーを変更しました。例えば従前は技術移転先企業の株式1万ドルを持っていたというのを、3万ドル、3百何十万円ですか、それぐらいまで拡充しました。それから、コンサルティング報酬なども1万ドルから2万ドルへ拡充しました。さらには、役員収入の範囲も、昔はだめだったチーフサイエンティフィックオフィサーに拡張いたしました。これはどういうことかというと、少し緩和してるんですよ。経済的利益については、あるいは役員収入については、ハーバードは若干緩くしてもいいだろうというふうな態度をとっています。
 全体として、これもいろいろ議論あるんですよ、ハーバードにも反対論もすごくあっていろいろな議論があったんですが、責任感を持ってやってる研究者を正当に評価しつつ、バイアスの可能性をどうやったら低められるかというのがハーバードの考えている方向です。
 ここに書いてありますね。変更過程の議論という次のスライドですけれども、ここに賛成説、反対説が挙げられていると思います。最初に書いてあるのは、産学官連携どんどん進めようという積極論者ですね。2番目も積極論者ですね。3番目は、これは反対論者ですね。こういういろいろな議論があるんですよね。ただ、大体の評価としては、ハーバードの方向性は正しいんじゃないかなというのが割とあるようです。かつハーバードの変更というのは、このthe association of American college(AAC&U=全米カレッジ・大学協会)と、この最近のモデルを反映したものだそうです。
 じゃあ、日本が一体ここから何を学べるかというと、「やはり経済的な利益については全て禁じるのではなくて、ある程度の許容度を見ながら、しかし、どこかでバランスを探っていく」ということだと思いますね。この辺はちょっと皆さんの議論にお任せいたしたいと思います。
 それから、NIH(National Institutes of Health、国立衛生研究所)ですが、NIHの動きとして、これちょっといろいろあるんですが、アカデミアの普通の常識よりも結構厳しくいっちゃった、go far beyond those in academiaということで。実はNIHはものすごく厳しく変更してきています。これはなぜかというと、これ話すとすごく長くなるんですが。NIHで非常に問題になってるのがあって、実は私も連邦議会で聴聞が入ったりしているんですが、どうも開示をしてない研究者の方が大分いらっしゃると。NIHがつかんでいないにもかかわらず、民間企業から資金提供を受けているという方の情報が結構出てきて、非常にプレッシャーがかかっています。そういう中で、NIHはうちはちょっと特殊に走るよとみずから宣言して、若干厳しめに走っています。これはそういう特殊事情があるんですね。もしかしたらちょっとNIHで懲罰を食らう研究者が出てくるかもしれないですね。
 最後ですけれども、今後我が国が採るべき方策として、我が国の国民の福利厚生のためにも、日本における臨床研究・臨床試験が発展・存続するように配慮することが大事である、これがまず言えると思います。なぜならば、アメリカ人やヨーロッパ人の基準でつくられた薬ばっかり使っていたらば、体質に合わないですよね、体の大きさも違うし、遺伝的なバックグラウンドも違うし。だから、日本人のための臨床研究というのを、これはやはりきちんと発展してもらいたい。日本では被験者エントリーが非常に少ないんですね。そして、臨床試験をやる先生も少ない。それをどうやったら活かしていけるか、そういう出会いをどうやったら活かしていけるか、これは非常に重要だと思います。
 2番目に、しかしながら、臨床研究等にバイアスが介入する可能性は可能な限りゼロにしなきゃいけない。できたらゼロにしなきゃいけない。そのためにどうしたらいいかですよね。どういう仕組みをつくったらこれをゼロにできるか、これをみんなで一生懸命考えていいシステムをつくらなきゃいけない。物理的に、論理的にゼロはあり得ないかもしれませんが、それを近くする方法というのがあると思うんですよね。
 結論的には、ゼロ・トレランスはちょっと厳しいと。しかし、何らかのよい基準システムを採用して、日本の臨床研究を発展させ、かつ創薬ですね、創薬をどんどん発展させてもらいたい。そして、最後には日本の国民が健康になるように、健康を維持できるように、そういうふうにぜひしていきたいというふうに思います。

○福田先生
 よろしくお願いいたします。先ほど平井先生のご説明にあった資料と重複するのもありますが、そのうちのヘルシンキ宣言あるいは臨床研究に関する倫理指針に関しましては、私のところのパワーポイント資料の後ろ全文をコピーしてありますので、ぜひごらんいただければと思います。
 実際、これらの倫理指針等に基づいて倫理審査を行っている立場ですが、医学の領域や附属病院も含めて、いろいろな問題で指弾をされている最中でもあります。どうやったら信頼回復に向けて良い研究をし、優れて信頼される診療を提供するかというところを努力しているところです。この利益相反の問題は臨床研究の倫理指針の策定時にも話題になったところでありますが、十分議論を尽くすだけの時間はありませんでした。それよりももう少し重要な問題があったということを記憶しております。
 臨床研究に関する倫理指針はたくさんございます。先ほどもご説明がありましたように、基本的には医学研究のために、あるいは進歩のためには、ヒトを使った臨床研究が必要であるということを、これは世界医師会が宣言いたしました。ですから、これは医師側、医療側にとって大事だということを患者の人にも理解してもらうためにヘルシンキ宣言ができました。一方、その対局としてリスボン宣言というのがあります。これは患者の権利を守るということです。
 このヘルシンキ宣言は1964年からスタートしましては、最近では2002(平成14)年10月に追加が出ました。これはいわゆるプラセーボ(偽薬効果)をどう扱うかというところについての補足説明が出ております。これが世界的な規範になると思います。
 それから、日本ではいわゆる治験に関する医薬品の臨床試験の実施に関する省令が出ています。それから、幾つかの指針が文部科学省、前の科学技術庁、厚生労働省も含めてスライドに示したようなものがたくさん出ております。
 注目されますのは、臨床研究に関する倫理指針が、昨年7月に公表されました。同時に、医師主導の治験を可能にする薬事法の改正がありました。改正GCP(改正「薬物臨床試験品質管理規範」=医薬品の臨床試験の実施に関する基準)と言われているものですが、これも同時期に行われました。それから、先々問題になるだろう、ヒト肝細胞を用いた臨床研究に関する指針、これはまだ検討中であります。赤で丸印をつけたところに利益相反等に関連する記載があります。
 実際は臨床研究に関する倫理指針を策定する段階で、既にいろいろな倫理指針がありましたので、それらを統括するものを作る必要があることと、それからいわゆるヘルシンキ宣言の日本版をつくろう、きちんとしたものをつくろうということで昨年7月にこれが公表されたと思います。
 ヘルシンキ宣言は、先ほどの平井先生からもご説明ありましたけれども、計画書に、資金源等について該当するところを記載しなければいけないということが書かれています。それから、これは被験予定者である、患者さんに対してきちんと資金源についての説明を加えてください。それから、研究資金のことですね、こういうことも全部明記されております。これは非常に明快に記載されております。
 さらにその続きのところで、研究成果の刊行に関しても、それを発表する著者及び発行者の倫理的責務として、やはり財源、それから関連組織との関わり、可能性のある全ての利害関係の衝突が明示されていなければいけないと、かなりはっきり書かれています。案外これを詳しく頭にたたき込んで倫理審査に当たっているかどうか、私自身も心配になる時があります。
 その他のいろいろな取り決めもありまして、国内における倫理指針の概念を整理するために臨床研究の倫理指針の策定が行われたのであります。では、その中で、利益相反はどう取り扱われているかということであります。
 これは実際にこれをシエーマ的に示したものですが。既に疫学研究に関する倫理指針がスタートしております。そこで新たに臨床研究あるいは臨床試験に関する倫理指針がつくられた理由は、例えばヒトゲノムのこと、遺伝子治療のこと、それから医師主導の治験が始まったことがあります。この理由は幾つかありますが、日本での治験がだんだん行われなくなって空洞化してしまって外国に行ってしまったということも背景にあり、やはり医師主導の治験をスタートする必要があるい。企業は利益主体でやっておりますので、国内で時間がかかったりすると外国に持って行くということもあります。これは非常に問題になっております。
 一方、遺伝子解析あるいは幹細胞を用いた研究など、いろいろな新しい基礎研究の成果が臨床応用できる可能性があり、これはトランスレーショナルリサーチともいうものですが、外部企業だけではなく、研究者みずからが製品を実用化していくことも道が開かれてきた。こういうものも含めた倫理指針をつくろうということで、臨床研究に関する倫理指針が策定されたわけです。
 一部疫学研究と重なるところもあります。これは非常に議論は多いところです。投薬等を行う介入研究、これは疫学研究に入っております。この辺の取扱いをどうするかは実際の現場で議論を呼んでいるところであります。左下に示したように、利益相反の可能性が出てくるのはこの辺だろうというところであります。
 実際に臨床研究の倫理指針の中では、利益相反に関して記載すべき事項は、これはヘルシンキ宣言から比べると少し記載の方法がトーンダウンしております。臨床研究計画書に記載すべき事項は、一般的に以下のとおりとするが、臨床研究の内容によって変更できるという形になっております。赤字で示したとおりであります。
 それから、インフォームド・コンセントのところでも、被験者もしくは代諾者に対する説明事項の中にこういうものを加えてくださいという指針となっております。
 そこで、私どもの倫理審査の実際の書式のスタイルとしてご説明申し上げます。これはここのところに、赤で見えないんですけれども。「当該臨床研究に係る資金源、起こりうる利害の衝突および研究者等の関連組織との関わり」、例としてこれに関して、実際よくあるのは、科学研究補助金によって行われるというのが多いですね。それから、委任経理金とか共同研究などの資金で行われる。私どものところでは、ぼちぼちベンチャーの立ち上げなど産学官連携のいろいろなことが出てきておりますが、実際にそれに該当する事例がまだ出てきていないので、この程度で済んでおります。その細かい実験計画書にもその辺のところの説明を全部入れてもらう。それから、患者さんについても、例えば自己負担がないとか、こういう研究資金によって行われますので負担がありませんよという説明はちゃんとしておく。それから、補償の有無についても、これはかなり難しい問題を含んでいますが、説明をきちんとしていく、これが私どもの現状です。
 実際に私どもの倫理審査の流れをご説明いたしますと、従来からある治験は、これは病院の方で既に動いております、企業主導の治験は企業等から治験審査委員会に来ます。これはフォーマットがきちんと決まっています。それ以外の研究に関しては、臨床研究、疫学研究、医師主導の治験などは倫理審査部会で、それから一方、もう少し審査基準の厳しいゲノム遺伝子解析・遺伝子治療は生命倫理審査部会というのをつくっております。したがって、倫理審査委員会は2つに区分して審査しております。3年間の統計で一般倫理審査は大体200件、それから生命倫理審査は約100件であります。
 このうちのどういう割合で採択されたり、採択になったかですが、約3割が直接実施許可となっていますが、1割は不承認です。この理由はいろいろありますが、やはり実験計画そのものが必要がないのではないだろうか、あるいは、余りにも研究指向であるということがあります。それから、条件つき承認の最大のポイントは、患者さんへの説明が十分できていないと。それから、安全性への確認事項はきちんとしてない、あるいは研究計画の妥当性、これはかなりきちんと見ておりますので、約6割は一旦戻しておりますと。それに対して再度出してもらってやることにしています。
 私どものところではこの審査委員会だけで許可することも当初考えましたが、やはりちょっとこういうケースがかなりの部分あるので、やはり最終的に教授会に全部出して、教授会で説明していただいて、それでやっと通すようにしています。ここが十分機能すればここだけで済むかもしれないですけれども、やはり最終決定は教授会を通すということにいたしております。で、実施、研究の報告をすることになります。
 研究機関の長は一応医学部長になってますから私がやらなきゃいけないので、後々のこともありますのでかなり厳しくやっているんですが、実際に申請を出される先生方からは、何でそんなに厳しくするんだという反発もあります。
 そこで、私どもとしては、この審査が誰の為にあるのかということをよく考えて、これは研究者の為でもあると同時に、被験者の為でもあり、あるいは社会の為でもあるということで、きちんとした説明ができない限り、やはり倫理指針は通すべきではないと考えております。こういう状況であります。
 問題点を列挙いたします。本日は利益相反の話だけになりますが、臨床研究に関する倫理審査に関しては、もう少し広い観点から理解をしていただきたいと思います。それは、倫理審査件数の著しい増加であります。私どもはまだ教授会に出しておりますので、教授会の最大の議題が倫理審査になりました。
 それから、倫理審査に必ず外部の方、生命倫理審査の場合には半分以上は外部の人が入る必要がありますが、外部の委員になり手がいない。それで非常にたくさんの件数をこなさなければならないことになります。それから、医学的なことがよくわからないということもあります。ですから、この問題、臨床研究に係る倫理指針を作成するときにもまさにこれが話題になりました。倫理審査に携わる外部の人材を育成する必要があるのではないか。その中に利益相反の方の専門家も含めて入っていただければいいし、あるいは法律の専門家に入っていただければよいと思われます。
 実際困っているのは、外部の先生方が、私はもう辞めたいと言い始めます。これはもう非常に深刻な問題でありますので、ぜひ皆様にご理解いただけたらと思います。
 それから、やはり先生方にとってはいい治療を開発したい、研究が発展して直接臨床応用できたらこんないいことないわけですから、やはりどうしても研究優先になる傾向があります。改めて妥当性、安全性、倫理的配慮の徹底をしなければならないと思います。ベンチャーを立ち上げ、開発していくとなると、さらに研究へのモチベーションが優先されることになります。改めてここはきちっとする必要があると考えます。
 それから、被験者への配慮に関しては、医師と患者さんという関係です。本当に納得して参加してもらえるかというところに、第三者的な相談の窓口を設ける必要があるのではないかと考えています。治験は当然治験コーディネーターもいますし、相談窓口はありますが、第三者的ではないですね。ですから、この辺に対しても私どもはきちっとした対応をするべきと思います。
 それから、いろいろな指針が出ておりますので、これらの間の整合性を確保することが必要となります。
 また、先々絶対問題になり、今から議題にしていますのは、この遺伝子解析情報に対するもの、それからプラシーボ(偽薬効果)の実際の取扱いなど、これはごく最近のヘルシンキ宣言の取扱いの説明で出ましたが、次の問題として避けて通れないと思われます。
 それから、今、やっと話題に出てきました利益相反の問題ですね。これ広義と狭義がありますが、大学との関係での利益相反があります。
 実際にはどういうパターンが予想されるかを書いてみました。大学所属医師と企業の、兼業等の問題です。それから、もう1つは、例えば国の研究費をもらって基礎研究をやった。臨床応用の可能性が出てきた。では、これを企業化すれば製品できるだろう。そこで、安全性をどうやって十分確認するかです。自分が安全性を確認するのでは、やはりまずいと思いますね。それから、当該者が臨床研究に入っていると、やはり最終的には自分の利益につながります。臨床研究の承認さえ、企業の役員も兼ねていたりすれば、グルグル回って利益がどんどん還元する方向になります。これを完全に断ち切るというのはやはり研究のインセンティブ(動機付け)を妨げる可能性もあるし、かといって野放しにもできないし。どの辺に落ち着かせるかということがこれからの最大の課題だろうと思います。
 実際に国立大学の医学部長会議では研究倫理に関する小委員会もできておりますので、そこで対応していくことが必要と思います。
 それから、やはり大事なのは、安全性が第一であるということと、社会的に合意が得られるというところがやはり一番のポイントではないかと思います。それは、やる側の論理と、それから受ける側、社会の側の論理が合致することが理想的ですが、難しいかもしれませんが、そこに向けて検討されることが一番必要ではないかと思います。

○赤林先生
 赤林でございます。東京大学医学部で医療倫理学分野を担当しておりますが、私、同時に利益相反のアドバイザリー機関長というものをやっておりまして、ちょうど文科省の方からこういう考える会があるからといってお話があったときに、「いや、ぜひそれは私非常に困っていますので、教えてください、勉強させてください」という感じで「ぜひ参加させてください」と言ったら、「話してください」と言われまして、若干戸惑っているんですが。非常に、今、私どもの大学、恐らく他の大学もそうだと思いますけれども、この利益相反の問題で非常に困っているということで。とりあえず今日の私の話は、現場からの切実な声であるという感じでお聴きいただければと思います。
 まず、医学あるいは医学研究をめぐって昨今世界的に利益相反の話が非常に大きな問題になっています。例えば、これはLANCETという有名な医学誌なんですけれども。イギリスで起きた事件です。はしかとおたふくと風疹の三種混合ワクチン(MMRワクチン)を打つと、打った子どもに自閉症であったりとか、腸の病気が出るとか、そういう結論をこのWakefieldという先生が発表しました。LANCETというとかなり一流の雑誌ですので、それだけインパクトが高いです。
 ところが、何が問題になったかというと、このWakefield先生がLegal Aid Boardというワクチンの被害を訴える弁護士さんの会から約1,000万円ぐらいの契約でその報酬を受けていたということがです。このように「ワクチンで副作用が出る」というような記事というか論文を出すということは、Legal Aid Boardにとっては非常に有利になるわけですね。ということで、かなりこれはイギリスで社会的な論争になりました。
 例えばこのイギリスの、これはメディカルオフィサーですので、お医者さんの代表のような方は、いや、ワクチンは問題ないと言ったり、首相であるブレア氏にレオという子どもが生まれたときに、ブレア首相は、「いや、MMRワクチンは支持する」というような形でかなり社会的な問題になってます。LANCET誌はより厳しいコンフリクトオブインタレスト(conflict of interest=COIもしくはCI:利益相反のこと。以下COIと記す)の基準をつくったと言われておるわけです。
 つい二、三日前ですけれども、ちょうどアメリカのアメリカンハートアソシエーションがコレステロールを下げるための薬物投与のガイドラインをつくったときに、9人中の委員のうち8人がその製薬会社から金銭的な支援を受けていたというので、これもまた問題になっています。というように、医療をめぐって今現在世界的にもさまざまな問題が起きているというのが実情であります。
 医療におけるCOI、コンフリクトオブインタレストと訳していますけれども、George Bernard Shawという人が、結構古く、1946年に話があるんですけれども、The Doctor'sDilenmaで「人は果たして莫大な金銭的利害が関わっていても公正でいられるだろうか。医師は裁判官と同じぐらい高潔な存在だと誰もが考えている。しかし判決内容によって判事の報酬が左右されてしまうならば、そのような判事は敵に買収された将軍と同じである。もし医師の判断がわいろで影響が出るなら・・・」というような形で小説を書いているわけです。アメリカの歴史を見てくると、非常に古い、1846年にアメリカ医学界の倫理綱領の中にconflict of interestという言葉は使ってませんけれども、このような内容のことが書かれています。
 1950年になりますとかなり規制が緩和されてきて、ロナルド・レーガンが大統領になったころからさらに緩和されまして、1990年代になって医療における企業的精神が広まってきたと言われております。
 なぜCOIは医療において倫理的な問題になるのかということでありますけれども。
 まず1番、患者の最善より、医師自身や第三者の最善が優先されるならば、患者に身体的な危害が加えられる可能性があるだろうということです。
 2番目として、たとえ身体的危害は無くても、医学的判断におけるインテグリティ(誠実さ)という言葉よく出てきますが、社会的信頼が脅かされる。
 3番目、患者の信頼を損なうから。患者が自分のために行動していないのではないかと不安に陥るとこのBernard Loという方はおっしゃっています。
 ところが、ほとんどの論者が共通して言うことは、患者が非常に弱い立場にあるからというこの4番、これが医療におけるCOIについては特徴的なことである。ぜひ各先生方、これが医療における特徴であり、他学部とは違うところであるというところを認識していただきたいと思います。
 なぜCOIが、倫理的な問題になるのかということですが、このEdmund Erdeという方はCOIに対処するには何が受容可能かについての道徳的感受性を育むことが必要であるということでありまして、このことはすなわち研究者あるいは医師への教育にもつながるかと思います。
 さて、臨床研究におけるCOIにおいて、2点だけ指摘しておきたいんですが。まず第1点は、臨床研究者がどうしても二重の役割を持ってしまう。具体的に言いますと、自らが主治医である患者が同時に被験者になる場合、患者の最善の利益を考えられるか。被験者から除いた方が、患者の利益になるようなことが想定されても、研究継続をしてしまわないでしょうかということですね。臨床研究者の二重の役割。
 それと、もう1つは、経済的な利益の相反ということですね。患者を参加させることで医師側に生じる経済的なインセンティブ(動機付け)、研究費、奨学寄付金。さまざまな寄附講座というのがありますけれども、それで研究者、医師側が経済的なインセンティブを受けることがあるんじゃないか。
 臨床研究に参加している医師自身にはその家族が製薬会社の株所有者であったり、役員等で新薬の開発によって利益することはないか。これはもう先ほどから言われていることです。
 それでは、医療あるいは医学研究、臨床研究において、COIについての対応はどうすればいいのか、どういう部分が今まで言われているかといいますと、このMorreimという方が、1995年に書いてありますけれども。COIがあること自体は医療の過誤とかミスを起こしたということではない。患者の最善の利益を追求することが義務であると同時に、自分の利益になる他の方法もあるんだということを示しているにすぎないんだ。誘惑があっても、それに屈する必然性はないという立場でおっしゃっているわけですね。
 同じく、Bernard Loという方はCOIにはどう対応していったらよいのかということをまとめる際に、患者の利益が最優先であるということを再確認しなさい。COIの存在を開示しなさい。3番目として、患者保護のための予防策を講じなさい。特定の行動や状況は禁止しなさいというようなことを書いています。
 アメリカでもさまざま立場があるというようなことだったんですけれども、ちょっと問題を深く掘り下げて考えてみたいんですけれども。コンフリクトオブインタレスト(CI)は医療倫理の中でよく使うんですが、インフォームド・コンセント(IC)の逆ですね。(CI⇔IC)だから、コンフリクトオブインタレストはインフォームド・コンセント、開示をすればそれで解決するのかというそういう質問をしたいと思います。
 先ほども出てきました、ヘルシンキ宣言の中ではそれぞれの被験者に研究参加者の方に資金源とか起こりうる利益の衝突とか研究者の関連組織との関わりについて十分説明しなさいというようなことが書いてあるわけですね。ところが、インフォームド・コンセントといいますと、日本の医療の分野で名前は着実に定着しておりますけれども、さまざまな開示方法とか、開示の内容とか方法についてまだまだ定着、解決されていない問題がたくさんあります。
 例えば死に瀕した患者さんに、研究者あるいは医師が、私は株を持っていますが、この研究に参加してくれますかと聞いたら、果たして死に瀕している患者さんが賛同してくれるかどうかという、そういうあたりが問われているのではないかなと思います。
 ですから、開示をすればそれで全て解決するかというそういう単純な問題ではどうもなさそうだということを1点申し上げたいと思います。
 その次、審査体制の整備ということが言われています。つい先日ロバート・ケネラーさんという方が新聞の記事で、利益相反の程度や株保有者が臨床試験実施者として適任かどうかなどの判断は、全て開示情報について中立的な審査委員会が行うことが望ましいと。審査委員会がある程度関与することが望ましいと書いてあるんですね。
 ところが、次の問題提起として、現場の倫理委員会というのはもう既に手いっぱいといいますか、仕事量が多いし、先ほど福田先生のお話にもありましたように、人材もいない、予算もないし審査基準もない。その上にこのCOIの審査までやらされたら、これは大変なことになるんじゃないかなというそういう心配が現場ではあります。従いまして、2番目の問題提起として、こういう体制整備しなさいというんだけれども、じゃあ、中立の委員会なんて本当にできるのかなという、そのあたりが現場で若干不安です。
 よりもう少し踏み込んでみますと、最初のお話にありました、ゼロ・トレランス(Zero Tolerance)という「臨床試験に研究者など利害がある方は関与してはいけない」というルールについてですけれども、それが一番クリアでいいんじゃないかという人もいるかもしれません。では、なぜゼロ・トレランスではいけないのかということに関して、例えばこのAAMC(American association of medical college=米国医科大学協会)というところですか、ここの報告書によりますと、「科学上、臨床上の決定に悪影響を及ぼさなければ、研究者が経済的報酬を得ること自体容認できないことではない」と書いてあります。ただ、その根拠は、その報告書には書いてありません。
 ということで、ゼロ・トレランスといったときに考えなければならない、より大きな問題として、このNew Medical-Industrial Complexというふうに、1980年にちょうどニューイングランドジャーナルオブメディスン(NEJM)の編集長でもあったRelmanという人が使った言葉なんですけれども。もともとこの利益追求と患者の治療という、とても相入れるかどうかわかりませんけれども、違うものが、この医療の産業化と市場原理の導入によって、医療の中に自然と溶け込んでくるというか、侵入してきている。そういう状況がこれから起こり得るだろうと予言しています。恐らく日本でも医療経済の話がこれだけ議論になってますから、当然利益追求型の医療というものがだんだん広まってきているということではないかと思います。
 日本医師会の医の倫理綱領というのが2000(平成12)年に出されているんですけれども、そこに「医師は医療に当たって営利を目的としない」なんて書いてあるんですけれども。営利を目的にしないでも、相当な報酬は受けていいと書いてあるんですね。ですから、ここで問われているのは、我々利益追求型の医療というものがある程度広まってきている、そのような時代の中に生きているわけでありまして。その中でどういう医療を望んでいくのかというあたりが実はこの問題に解を与える1つのポイントなのではないかと思います。
 それと、2番目ですね、なぜゼロ・トレランスではいけないのか。そんなことをしてたら、そもそも産学官連携が進まないじゃないかという考え方があると思います。
 しかし、この問題、産学官連携が先にありきというのではなく、産学官連携を進めていく上で必ず出てくる問題であるということで、産学官連携の基本理念に戻って考え直す必要があるのではないかと思います。
 どうでしょうか、皆さん、産学官連携で社会的に、日本の社会が経済的に発展して、豊かになるということをみんなが望んでいるでしょうか。多分皆さん望んでいると思うんですね。しかし、まもなく死に至る病を持っている患者さんが何を望んでいるのかということに関しては、この臨床研究における利益相反というのを考えていく上で非常に重要な視点になるんじゃないかと。死に至る病を持っている患者さんが何を望んでいるのか、健康な我々とはもしかしたら違うかもしれません。
 ということで、同時にConflict of Public Expectationsという言葉もあります。「研究志向の大学は経済発展と社会改良というか、社会がよくなるための原動力となってきました」と。それが一方で、ある反面、社会から「大学というところは経済的利益に汚れないでいることとか、引き続き信頼できる公正な知の審判者として社会に貢献すること」が求められているんだという、社会からは二重の期待があるんだということが言われております。こういう視点も忘れることはできないと思います。
 さあ、日本の今の医療界に求められていることは何でしょうか。米国医科大学協会というところが2001(平成13)年に「ヒト研究の個人の経済的利益を監視するためのガイドライン」というものをつくっております。ということで、まずはやはり日本の医療とか研究の現場での具体的なルールづくり、実際私現場で困っておりますけれども、医療の臨床研究等に特化した形でのルールというものが、ある程度必要なのではないかと思います。法律でカバーできないということになりまして、それは倫理の問題だというと、倫理というと非常に煙ったい言葉かもしれないんですけれども、そういう風に捉えないで、むしろ社会的なルールづくりという形で日本の医療現場で具体的なものが必要だと感じます。
 最後のスライドですけれども、医療におけるCOIで問われている本質的な問題は何かということですけれども。実は医療、医者、研究者というふうに専門職になるということはどういうことなのかということと、適切な医療者、患者関係とはどのようなものなのかということを実はこのCOIというものは我々に問いかけているのではないかと思っております。以上で問題提起を終わらせていただきます。

○宮田先生
 日経BP社の宮田と申します。
 今日は要するにCOIという問題は、先ほどから何回も言っていますけれども、法律で別に決まっているわけではなくて、皆さんの所属している大学という機関が社会とどういう関係を持つかというか、その社会との関係をどう調整するかという話だろうと考えています。
 今回のこのセミナーも非常にいいきっかけだと思うんですけれども、このきっかけは何と某新聞社が連続的に報道したことがきっかけであります。先ほどから何回も言ってますけれども、その2年前の報告書にはもう書いてあったわけですね。重要性が。それで、みんなで討論しようと書いてあったにもかかわらず、皆さんが思考停止にしてたというところに実は大きな問題があるんだろうと考えています。
 ですから、今回はアンジェスでよかったと実は思ってまして。もっとやばいところはいっぱいあります。ですから、そういう意味ではある意味ではパイオニアとしてのいろいろな制度が整いつつある状況の例外的な存在としてアンジェスさんの例が挙がって、あれ我々のほかの報道機関が割と冷めた対応をしていたのは、当初かつて当社の元々社長あたりも関与していたリクルート事件と同じだろうと言われていたんですけれども、その内容が違ったということが実は我々自身も取材をしててわかってきて、急にトーンダウンしたという状況です。
 ですから、そういう意味では今回の例というのはとても一種のソーシャルワクチネーション(社会に対するワクチン投与)と考えてますけれども、そういう意味では我々が今から本当に議論をなして、ここにはそういう大学機関の当事者の方がいらっしゃるので、どうやってもっとCOIのそれぞれの機関でのルール化をつくっていくかということが重要だろうと考えています。第一、まだない大学が随分あるということ自体を皆さんも、ぜひご自身の問題として問題視していただきたいと思います。
 きょうは、今までの先生方と全く違って、実はその社会はベンチャーを求めているという話をさせていただきます。
 先ほど、産学官連携を皆さんは求めているのかという前の演者のときに会場が白けた雰囲気になっててちょっと心配になりましたけれども。我々がもし雇用を確保して、安定な社会発展を望むとしたら、ベンチャーは不可欠だということをまず申し上げたいというふうに考えています。
 これが我々が調べているバイオ市場ですけれども、1兆6,000億円ぐらいあります。アメリカと比べると、人口比あたりでは我々は多いんですけれども、例えばネーチャーバイオテクノロジーの真ん中だとこんな感じになるんですね。それはなぜかというと、明白でありまして、私たちのバイオ市場を構成する大体8割か7割ぐらいのものが輸入品か、あるいは海外の大学及びベンチャーで発明された技術に基づいたライセンス商品なんです。はっきり言えば、先ほどの1兆6,000億円の利益が大部分太平洋を渡って向こうに行ってるという状況があるわけです。
 それはなぜかというと、ベンチャーが少なかった。これはぜひ皆さん認識していただきたいんですけれども、私たちがどうやら1980年ぐらいから違う世界に入ってきている。それは、製造業中心の資本主義からナレッジベース(知識や情報の集積)の資本主義になっているということをもっと明確にしていただきたい。今までは大学というのは人材を供給して、社会の企業が大量生産をするときに対応できるような程度の人材を供給してくれればよかったんですけれども、1980年ぐらいから実はイノベーション(革新、改革)とか、あるいは知的財産というものが実は社会に、国際的な経済競争のかぎを握るようになってきた。
 そのときにどういうことが起こるかというと、大企業ではスケールデメリット(大規模であるが故に起こる支障)が起こって、今、例えばバイオの研究の特許出願日時なんかを見ますと、1週間以内に3つの企業が出てたりするわけですね。そうすると、何が起こってるかというと、今までは製造業資本主義では企業規模が大きいことが善だったんですけれども、知識資本主義では実は企業規模は大きいことは善ではない。今、日本の大学も何を間違ったか包括契約ということで、大企業と提携して、やたら新聞発表してますけれども、あれは私の目から言うと、末期的な症状だと考えております。つまらないことを言ってしまいました。
 それはなぜかというと、ここに1つ例があって、フォーチューントップ500というのが大企業の象徴でございます。アメリカの大企業は順調に雇用を落としています。60年代20%の雇用を確保していた大企業群が、実はもう現在には10%を割っています。その雇用の受け皿になったのが実は500人以下の中堅ベンチャーでありまして。日本も実はこの段階に入ってきたんです。どこの大企業も実はその利益をあげるためにリストラクチャリングをしはじめています。これによって実は人材がものすごく市場に出てくるんですけれども、それの受け皿がないとどうなるかということを我々は考えなければいけません。
 それから、こうした人材の移転というものがこの当時、例えばデルコンピュータとかあるいはマイクロソフトとかシスコがなぜ急成長できたかというと、ああいう新しい知的財産権を持ってるような企業に優秀なマネージャーたちが大企業から入ったことによって、この成長が行われたわけです。日本も、今、チャンスだと思うんですけれども、そのためには受け皿をつくらなければいけないということになります。アメリカのバイオ企業は順調に収入を伸ばしておりまして、いまや彼らはリアルな産業になってきたと考えております。
 これはUCSF(University of California at SanFrancisco)がこれだけの企業をスピンアウト(部門独立開業)させていたということを示しております。
 日本でも、大学発ベンチャー1,000社というのは出てくるでしょうけれども、どうも内容を見ると残念ながら玉石混淆で、大田区の中小企業みたいな企業から、現在IPO(株式の公開)している十二、三社ですか、多分年内には20社弱になると思いますけれども、バイオベンチャーまでさまざまです。ですから、そういう意味では私たちも受け皿をつくりつつあるわけですけれども、ここをもっと強く、あるいはもっと開業率をあげていかないと多分間に合わないんじゃないかというのが私の懸念です。
 中国ですら、こう言うと差別になってしまいますが、アジア諸国ですらもう製造業による、安い労働力による勝負から、知的財産の勝負に移っています。2002(平成14)年の末の統計でもう明白ですけれども、中国が遺伝子特許の申請の攻勢をかけてきています。特許の内容はひどいらしいんですけれども、とにかく数の上だけでひょっとしたら2003(平成15)年の統計でもかなり日本の企業に肉薄してくる可能性が出てくるだろうと考えています。
 日本の大学というのは残念ながら今まで文明の配電盤という形で、欧州の文明を取り入れて、それをあまねく日本中にパブリックリー(公)にアベイラブル(可能)にするというところに大きな意味があったんですね。ですから、そういう意味では人材の教育とかそういったところが中核で、明治以来、私たちは非常に効率よくこれをうまくやったと思うんです。ただ、これからイノベーションをやっていかなきゃいけない。知的財産を確保していかなければいけないといったことに関しては、初めての体験になるだろうと考えています。
 皆さん、政府が、伊藤さんも政府だから、政府が一体何をやるかということをよく考えてみると、軽工業というものを盛んにしようとしたときは富岡製糸場という官営の向上を民間に売却しました。それから、重工業を盛んにしようとしたときには八幡製鉄所を売却したじゃないですか。じゃあ、知識資本主義の産業のエンジンは何か、それは大学ですよね。ですから、国立大学法人化というのは極めて中途半端でございますけれども、もし本格的に考えるのであれば、民営化ということを将来のパースフェクティブにおいて大学というものが動いていかなければいけないだろうと思います。
 今、皆さん何か中途半端な制約を持ちつつやらなければいけない変な状況にありますね。きょうの議論を聞いていても何か奥歯にものがはさまってるような感じがあって、そろそろ本音で議論をしなきゃいけないというのが今回のセミナーになるんじゃないかと考えています。
 先ほどから何回も言っておりますけれども、臨床開発の特殊性というのは非常に重要なことです。特にメディアからすれば、ここで何らかの瑕疵があった場合、格好のターゲットになります。それはなぜかというと、我々は簡単にホワイトナイツ(WHITE KNIGHT=「義を見て馳せ参ずる白馬の騎士」的な支援者)になれるからです。つまり、患者さんというのはあくまでも弱いということが前提になってますので、大学が不正をしたというのは極めてもう、すぐ見出しができるぐらい。ですから、そういう意味では社会に対する影響力から関しても、この部分は我々も着目してるし、多くの市民も注目しておりますので、より皆さんは公明正大にいいルールをつくっていかなければいけないだろうと考えます。
 やはり患者さんの命に関わるということがすごく重要でありまして、これは僕の個人的な意見ですけれども。透明性、公開性を前提として臨床研究は進めるべきだと思いますよ。それはなぜかというと、今でもアンメットメディカルニーズ(未対処の医学ニーズ)というか、治らない病気、それが存在するからです。ですから、医学はあくまでも臨床研究をやらないと、今までの日本の薬学部のようにマウスの薬をつくっていても役に立たない。ですから、そういう意味では臨床研究は絶対不可欠ですが、その場合にも透明性とか公開性というCOIの配慮が絶対必要だろうと考えます。
 それから、もう1つ重要なのは、ここを分けた方がいいんじゃないかと思ってまして。医薬品製造申請のための臨床研究は原則経済的な利害を持つ研究者が関与すべきではないと私たちはジャーナリストの立場から考えます。これは、決してゼロ・トレランスをやれと言ってるのではなくて、むしろ例外を設定した上での原則だと私は考えています。ですから、これは私が言いたいのはゼロ・トレランスじゃなくて、まずは原則としてそうしておいて、しかし認める場合もあるというような感じで説明していただくと私たちはわかりやすいと考えています。
 じゃあ、例外は何かというと、患者数や研究者数の少ない疾患をどう取り扱うべきかということです。特にこういうようなオーファンデシーズ(希少疾病)は製薬企業という、皆さんからすると強欲かもしれませんけれども、自由主義的な経済原理によって動いている人たちにとってはほとんど魅力のない点だからです。ですから、そういう意味では、例えばポンペ病(酸性マルターゼという酵素が欠損することにより発症する病気)の患者さんの団体に大金持ちの人がいて、その人がベンチャーつくって自分の息子のためだけに臨床試験を実はやったことがあるんですけれども、そこまではちょっと極端な例ですけれども。何としても、今の経済原則にのらないようなオーファンデシーズを救うためにも、こういうような例外規程は必要だろうと私は考えています。
 先ほど申し上げましたけれども、2年前に立派なCOIの報告書が出ておりました。重要だという指摘をしただけで放置されていた。思考停止が行われてきたという方が実は最大の問題だろうと考えておりまして。こういった議論を報道というか、何らかの事故があったときに場当たり的にセミナーを開いてみんなが集まって、きょうはよかったねと言って帰って終わるというのをこれからも何年も繰り返してはいけないと考えます。それはなぜかというと、我々から見ると大学が統治能力を失っているんじゃないかという判断根拠になる。少なくとも僕はきょうここに来てしまったので、2年後に同じようなことがあったらばかなことを繰り返していると書かざるを得ないというふうな事情があります。
 そのためにどうしたらいいかといったら、アメリカのアイデアの拝借でございますけれども、研究費拠出機関がやはり利益相反ポリシーを整備してる大学、あるいはちゃんと運営している大学にしか科研費を、これは文部科学省だということがばれましたけれども、科研費を出さないとか。厚生科学研究費を出さないという方針を出すだけで、私は3カ月でこの問題は解決するだろうと。ただ、運営がうまくいっているかどうかは相互にこれは情報交換をして、より妥当なものに近づいていけばいい。最初はとんでもないものがいっぱいできると思うんですけれども。ただ、それがだんだん情報が共有されてくるといいものに収斂してくるんじゃないか。日本ってそれほど皆さんのとか、あるいは市民の知恵が低くない、ばらついてない。ですから、そういう意味では暗黙のうちのコンセンサスに私は到達するのではないか。
 あるいは、大学によっては非常に有利なCOIのポリシーを使うことによって、有途な人材を集めるということができる可能性があります。つまり、例えば北海道大学で、これ例ですよ。何でもやり放題であるみたいな、そういうようなことがあってもいいんではないかと考えております。ただ、それはマスメディアに対してきちっと説明責任を取れない場合は破綻するだろうというふうにぜひご理解ください。
 それから、最後になんですけれども、もうそろそろ私自身、これ本当に個人的な感想なんですけれども、大学教員の研究成果活用企業役員兼業というのをそろそろ再検討すべきだろうと考えます。これはいろいろな事情があったと思いますけれども、2000(平成12)年のときに大学発ベンチャーをやるときには、大学発ベンチャーなんて何か海山のものだと思って、まともなビジネスマンは社長になんかなろうとしなかったわけですね。ところが、もう4年たちました。1,000社できる状況になったときに、やはり大学の教職員が、例えば代表取締役社長をやってて、じゃあ、あなた、今、やってる研究はどっちの立場で研究をやってるんだと、教授の立場なんですか、代表取締役の立場なんですか。教授の立場だと言ったら、株主代表訴訟の対象になりますし、代表取締役社長の立場だと言った場合には、ひょっとしたらCOIの問題が起こる。
 だから、ちょっとわかりにくいので、これは早晩、自分の研究成果の活用した企業だから役員をメカニカルに許すというようなメカニズムはもう持たない方がいいのではないかというふうに考えています。

  • 参加者との意見交換があった。その内容は以下のとおり。

○司会
 先生方から大変貴重なご提言、ご発言をちょうだいいたしました。この問題、大変古くてかつ新しい問題、答えの難しい問題であり、同時に、でもやはり乗り越えていかなければいけない問題であるという点では共通をしていたのではないかと思っております。大学の医療研究の最終的な究極的な目的は何のためなのかという、かなり哲学的な部分でもございます。
 最終的には生命、人の命というものをどう守っていくか、患者のためにどう貢献していくか、こういう部分を基本にすえながら、そのために、ならば、どうあるべきなのかというような観点での議論を同時に進めなければ大変難しい問題であるなと感じたところでございます。
 今日これから本格的な議論に入るわけでございますが、今、最後に宮田先生の方からございましたように、今日がゴールではございませんで、おそまきながらのスタート第一歩であると、この問題についての第一歩であるということで、ここで大いに議論していただくと。
 今、私の方、一応司会という形でやらせていただきますけれども、最初に4先生方と、もう少し議論を深めたいと思っております。すぐに会場の方にもマイクを移して、会場にも医学部関係者の方々たくさんご参加をいただいておりますので、大いにディスカッションしていただいて、その当事者の1人として大学に帰って、今日から、また明日からこの問題について思考停止にならないような形で議論を進めていく第一歩になればいいなというふうに思っております。
 それでは、早速でございますけれども、何点かやはり医療分野、臨床研究・臨床試験の部分の特性という点について、再確認をしていきたいと思います。
 1つには、通常の利益相反と違いまして、単なる研究者と企業という関係のみならず、そこに被験者が入ってくる、患者が入ってくるという点が大いに違うと思うんですけれども。その被験者の保護のために、これは大変難しい問題なんですけれども、どのような方策が考えられるのかと。
 1つには、先ほど透明性、公開性の話が盛んにご議論されたわけでございますけれども、安全性確保のために何か、じゃあ、こういうような一工夫というか、こういうことを計画の中にしっかり加味することにより安全性が確保されるのであると。例えば福田先生は倫理審査委員会の先ほどの審査の中で60%条件つきで安全性確保というのが入っていたかと思いますが。同じような観点で、もしこの問題についても倫理審査委員会で議論した場合に、安全性確保という条件がついた場合には、どういう仕組みがあるとより安全性確保が図られるというふうに考えればよろしいでしょうか。

○福田先生
 患者さんへの説明の中にこういう危険があるということを記載しなければいけません。それに対してどう対応するかという措置まででこういう形で対応しますという条件設定も全部書かせております。中止の段階はどこで中止するとか、それも全部明記されております。対応についてきちんとした説明を書くように、不十分でない場合は書かせております。ですから、条件つき承認の場合の一部にはそういう事例もあります。このところの記載が不十分であると指摘します。ですから、安全性は確実に確保されるよという条件、それから中止はここですよ、この段階ですよというところが全部、少なくともこれだけは計画書と、患者さんへの説明書の中には絶対に含まれていなければいけない。それから、重大な事故、副作用等があった場合には、直ちに中止し、報告するということになっております。まだそういう事例がありませんので事なきを得ております。これらがきちんと行われるかどうか、この辺のところを徹底する以外にないと思っています。
 危険度の高いものについての条件は倫理審査委員会の方でかなり厳しく見ております。ただ、申請する先生方からすると、厳しすぎるのではないかというコメントはもらいます。ですけれども、これはやはり守らないといけない。ですから、倫理審査委員会の立場というのは、やはり被験者側に立つ、あるいは社会側に立った視点で見ていくことがやはり一番大事であることを徹底させております。
 当然、研究者自身が倫理審査委員の場合には外れることになってますので、これは絶対遵守してもらっています。それから、出てきたものをどんどん通すというパターンよりも、やはりチェックをかける機関として機能しなければいけないと私どもは考えております。

○赤林先生
 ちょっと追加させていただきますが。特に臨床研究全般に関わることだと思うんですが、非常に危険度の高いものとかリスクの大きいものというのは、大体数例とかやった時点で、もう一度倫理委員会に報告してくださいというような、そういうセーフガードをおくようなことをやってます。

○司会
 ありがとうございます。
 先ほど平井先生の方からペンシルバニア大学の例、ゲルシンガー事件の話がございまして、あれは極端な例なのかもしれませんけれども、ある時点で中止という判断ができたはずというか、できたのではないかと後から見れば見えたけれども、結局突き進んでしまったと。そういうようなものをもし制御するのであれば、やはり今、福田先生、赤林先生からお話があったように、しっかりと中止のタイミングみたいな部分を条件をつけていけば、「れば、たら」ではないんですけれども、ゲルシンガー事件は防げたというふうに考えてよろしいんですかね。

○平井先生
 今、お二方の先生からお話があったように、モニタリングと適正な対応、これは不可避だと思うんですね。私、それに1つ付け加えるとすれば、経済的な利益を有する、あるいは何らかの利害を有する研究者の方、発明者でもいいですけれどもね、そういった方は臨床研究の研究代表者、責任者にはならない方がいいのではないかと思いますね。臨床研究に入るということが、これは重要だと思うんですよ。いろいろな意味で。ただ、みずからが責任者になる場合に、本当にその中心に関わる適切な情報開示あるいは判断ができるのかどうかというのに若干疑問が私はあるんですね。
 これは実際そういう運用されているかどうか私はわからないんですが、その辺いかがでしょうかね。

○福田先生
 1番目の点については、これは何も臨床研究に関わらず、診療行為一般について十分なチェック、それからチーム医療間の情報の伝達、それから複数での確認とか、こういうことと重なる話であります。一般の医療行為の中でもそういう危険性は当然あります。これに対していろいろな事故が起こって、それが医者の責任なんて日常茶飯事で起こるわけです。医療機関、これはどこでもわかってることですが、やはり起こってしまって現実問題になりますね。そこのところと一緒に考えて、臨床研究だけを特化してということではなく、私は、外部、第三者の例えばモニターを置いて全部チェック・評価してるとか、そこまで本当に必要かどうかわかりませんけれども、医療機関としての果たすべき責任をまずきちんと果たすことが大前提と思います。
 それから、第2番目の参加しないかどうか、ここはポイントだと思います。特に利益が関わっている場合は、やはり外から見た目には関わっていない方が公正と見られるのは間違いない。しかし、当事者がいなくて実際にそれでできるかどうかはわからない。

○平井先生
 いやいや、ちょっと言葉が足りないんですけれども。臨床研究に関わってもいいと思うんですよ。だから、責任者の方はほかの方に譲って、みずからはどちらかというとそれをアドバイスするというか、そういうポジションに置かれたらいいんじゃないかなということなんですよね。

○福田先生
 実施者にはならなくてもいいということですね。

○平井先生
 ええ。

○福田先生
 ここはちょっと議論がありますね。例えば、それを開発した医薬品でなくてもいいんですけれども、いろいろな機器でもいいですし、例えばチップ(cf.DNAチップ=疾患原因遺伝子など、ある特定の遺伝子の塩基を並べた小さなガラス板)でもいいし、それからベクター(宿主に異種DNAを運搬する際に用いる、二本鎖の環状DNAや無毒化したウイルスなど)でもいいのですが、それを自分でやっていた人が関わらないでできるかということはありますよね。そこは難しいのではないかと思いますが。直接実施者に関わらない方がいいとの意味でしょうか。

○平井先生
 いや、実施者というのはちょっと私はいまいちわからないんですけれども。研究計画に研究責任者と書くじゃないですか。あそこに書く方というのは責任をとるわけですよね、そのリーダーとして。利害関係のある方があそこではなくて、違う臨床研究チームの一員として動くということはできないんですか。チームには入るんだけれども、責任者にはならないというような。

○福田先生
 私どものところでは責任者と実施担当者と分かれておりまして、全体の責任を負う立場の方が責任者といいまして、それから実施担当者は実際に直接手を下してやることになっていますから。そのどこか、例えば実施者に入るのではないかと思います。

○宮田委員
 1つ質問していいですか。平井さんは、今、おっしゃった、臨床研究でしょう。臨床試験で。要するに、ある商品化を前提として臨床データを集めるというのと区別して、今、お話ししてらっしゃる。それは区別した方が絶対いいと思います。
 それで、それを区別しないとやはり臨床研究が進まなくなっちゃう可能性があるんですよ。だから、さっきも言ったとおり、マウスばっかり今まで国税使って治してきたというのが今の日本の医学・薬学研究ですから、それをヒトにどうやってもっていくかというのがきょうの1つの話題でもあると思うんです。
 ですから、そういう意味では実際に商業化が絡むところは切り離して議論をした方が我々にとってもわかりやすいと思います。

○平井先生
 今の議論はすごく私もよくわかるんですけれども。多分厚労省の方がいたらこう言うんじゃないかと思うんですが。GCP(医薬品の臨床試験の実施の基準)の観点からいうと、今、医師主導の治験も、つまり臨床研究も臨床試験もある意味同一のレベルに上がってきてますよね。その中でどういう理屈でそこを切るかというのは、殊、GCPの観点からいうと難しいというのがありませんか。

○宮田先生
 GCPは厳密に患者さんを守るという意味で、それから意味あるデータを取るという意味でやはり適用すべきだと思うんですけれども。今回のアンジェスのところでも少し不幸だったのは、改正薬事法がさかのぼって、要するにアンジェスの方は臨床研究だと思っていたのを、それを認めていいよと言って、それを臨床試験のフェーズを進めるためのデータに使っちゃったという不幸さがあるんですよ。
 だから、GCPはGCPとしてこれは基準として、データの信頼性と患者さんの方で必要なので、それは必要なんですけれども。では、そのデータを、医師主導の臨床試験のブリッジング(ブリッジング試験=海外の治験データと日本の治験データの橋渡しをする試験)を使ってフェーズ1に遵守したもの、あるいはフェーズ2Aぐらいに使うかといったときには、当然問題が起こってくる。
 だから、それをやるのかやらないのかまず聞いていただいて、やると言った場合には平井先生がおっしゃったような配慮はしなきゃいけないと思います。

○参加者
 1つ質問なんですけれども。今、お使いになられているその臨床試験という言葉と臨床研究という言葉の定義は、ちょっと私が認識しているものとは違うんですけれども。明確にしていただいておきたいと思います。

○宮田先生
 私が使っているワーディング(言葉の定義)では、臨床研究というのは患者さんを対象とした研究行為であって、そのアウトプットは論文にはなるかもしれないけれども、新薬とか医療用具の認可のためのデータには使わないということです。

○参加者
 我々が認識しておりますのは、臨床研究というのが一番広い枠で、その中に臨床試験があって、例えば今で言う新薬の開発のためのデータを集めたり、申請ですね、申請データを集めるものを治験として、臨床アグリーメント(臨床契約)とかの本に書いてあるわけですね。そうすると、ちょっと今のとちょっと違うんですね。

○宮田先生
 そうです。治験のデータね、今、おっしゃったように、要するに本当にそれは安全性とか有効性を商業化を目的にとる場合というのは、COIがもろに出るわけですよね。ですから、そういうところと切りわけて、患者さんを使った臨床の研究をやる場合、マウスからちょっと先に行ってプレリミナリー(準備段階、調整段階)なデータを得る研究をイメージしています。だから、それを申請に使っちゃうといきなり臨床試験になっちゃう。だから、臨床には使わないデータであるということを保証してもらえれば、分けることができるんじゃないかと思います。

○参加者
 いや、つまらんことにこだわってるんですけれども。というのは、話を聞いていてちょっとわからなくなるのが、僕らは教科書的に考えてる用語と、どうもちょっと違ったようにおっしゃっているので、それで何かちょっと……

○宮田先生
 ですから、そこをちょっと明確にしたいんです。例えば大阪大学未来医療センター、あれは臨床研究だと思うんですけれども。一方でトランスレーショナルリサーチセンター(研究を日常医療まで応用するための部門)なんてまさに臨床試験やってるわけです。そういうような考え方です。
 ですから、こっちは論文にはなってもいいんだけれども、製造承認の申請のときのデータに出すときには、やはりきちっと分けて考えてほしいというふうに、これは私の定義で言ってしまっております。

○福田先生
 ちょっとよろしいですか。私は先ほど先生(参加者)がおっしゃったように、臨床試験というのは治験とほとんど同じ同義語に使ってるわけです。辞書を見てもそういう定義づけになっています。これも含めてヒトを対象にした医学研究全般を臨床研究と呼んでいます。ヒトの疫学研究も含まれます。治験という概念もずっと今まできましたけれども、それを主にしているのが臨床試験というふうに考えるのが多分医療関係者は共通じゃないかと思ってます。

○平井先生
 ちょっとここ深入りはやめましょうよ。これはね、あそこを分けることはそんなに意味があるかというと、まあ意味はあるんですけれども、大きくないんですよ。
 問題は、要するに両方ともヒトを使ってるわけですよ、対象として、サブジェクトとして。だから、そういう意味では大きい問題では一緒なんです、同根なんですよね。だから、臨床試験でも臨床研究でも、どうやったら本当にその患者さんを守れるかとか、どうやったら薬をつくれるか、それは同じですから、ある意味。ちょっとフェーズは下がるけれどもね。

○参加者
 タイミングがどう関わってくると、大きく変わってくると思うんですか、その先で。

○宮田先生
 いや、今回私の頭の中にあるのは、要するにアンジェスの例みたいな話で、ベンチャーがいっぱい出てきたときに、その臨床研究をおやりになる先生が株主、もしくはベンチャーの役員である、そういったときに、ベンチャーをそもそもつくるためのプルーブオブコンセプト(構想をはっきりさせて)でプレリミナリーな臨床試験をやる必要があると思うんですね。それはなぜかというと、そこまでこないとベンチャーキャピタルだからお金が集められないからですよ。マウスで効いててもお金って集められないんですよ、余りね。
 ところが、そこから先、それじゃあ、その先生が臨床研究に入って、効きます、効きますというデータを出しても、第三者的な我々が信じられるのかという問題が。

○司会
 おっしゃるように、その定義の問題、実はそれ自体非常に議論が複雑な部分だと思うんですけれども。平井先生がおっしゃったように、まずヒトを対象にしているというその治験者がいるという点では治験につながるものでも研究で終わるものでも、ヒトを対象にするという点ではまず同一の根っこがあるだろうと。
 もう1つ、さらに治験につながる場合、医師主導でもそのデータを使う場合には、データの客観性という観点から、今回の新聞報道で一部そういう報道されていたところもあるんですけれども、データの信憑性が疑わしいではないかというような報道もあったと。ですから、そこは次のステージでは実はデータの信頼性をどう確保するかというような観点も当然加わってくるんだと、私は思っております。

○参加者
 でも、それは臨床研究でも一緒でしょう。だから、いわゆる財源、いわゆるスポンサーとの医師がどれだけ働いてくるかだから、それは僕は一緒だと思うんですよ。臨床研究だったって。企業は企業でもやはりどこかお金出す人はある思惑があって、「こういうふうな結果が出るといいな」と思う、そういう気持ちは働くわけだし、研究者にそういうプレスが来るわけですから、それは僕一緒だと思うんですよ。

○司会
 医師主導の臨床研究・臨床試験といっても、当然医師主導といっても当然スポンサードというか、薬品をつくる観点で製薬会社が加味していると。それはその時点でここで得られたデータは医師主導でこの研究はしているけれども、得られたデータは治験に使いますよということを予め示していなければ、厚労省はデータとして使わんというのがそういう制度なわけでございますよね。
 そういう意味では、相互が使わないと言ってる純粋な研究というのはどういうものがあるのかというのはあるんですけれども、それとは制度上は一線は画せるのかなとは思っておるんですが。ちょっとそこで余り深入りしない方がいいのかもしれません。

○宮田先生
 もう1つだけ。今のことに対して非常に重要なご指摘だと思います。ただ、例えばペーパーになる研究なので、そこでピアレビューシステムが科学者からかかるんですけれども、厚生省の審議というのは実はピアレビュー(同僚同士(peer)による技術的視点に立ったレビュー)の意味がかからないんですよ。ですから、そこで分けたいと実は考えているんです。
 だから、確かにおっしゃるとおり、スポンサーが来たらいいデータを出したいというプレッシャーは多分かかるでしょうけれども、ペーパーで発表したときに追試できないと言われたらそれで終わりになっちゃうということで、担保されるんじゃないかなと実は考えています。

○参加者
 臨床研究とそれから治験ですね、それから臨床試験の違いということで議論されてますけれども。臨床研究の倫理指針を、先ほど福田先生からお話があったように、そこには何も医師だけでないんです、薬学から看護から、それからリハビリテーション、あらゆるものが入ってるんですね。対象としてサンプリングが始まって、要するにヒトから得られるものがそうですし、それから非常に重要なことはインターベーション(介入)ですね、要するに治療的な行為をするかどうかというところが非常に大きな問題で、医薬品承認の場合は必ず治験をやらなければ承認が得られない。我々医師の方ですね、何のために臨床研究するかといえば、何もお金もうけでないんですよ、患者さんに少しでも役立ついい診断法とかあるいはいい治療法がないか、そういうことを意識して動いてるわけですから。先ほどから皆さんが言ってる論点はちょっと企業サイド的な感じで言われてますけれども、これは議論しだすとちょっと余りにも話が混戦しますので、私はやはり利益相反のところで臨床研究、それから臨床試験、これ治験はもう完全に企業が動いてますから違うとして。そこのところに論点を絞るべきじゃないかと思います。
 それで、1つは、今、国立大学法人化ということで教員の業績審査されてますよね。それは大きく4つの柱があって、1つは教育、それから研究、社会貢献だと。しかし、先ほど私もスライド見てて非常に感心するのは、研究社会のいわゆるインカム、インカムのソースはどこなのかということの内容って全く触れられてないし、議論もされてない。しかし、当然教育とかあるいは研究成果とか、それから社会貢献のいろいろな形があると思うんです。治験に参加することもそうですし、あるいはベンチャーをつくるのもそうだと思うし、そういったときに、私は非常にすばらしいと思ったのは、その場合にどういう企業がどういう形でインカムを得ているのかというところでめぐる主張が変わってくるんじゃないか。あるいは働く方向が変わってくるんじゃないかと。だから、そこのところをもう少し議論していただきたい。それで、国立大学法人的にどういった問題、あるいはどういうように対応すべきなのか。
 これは先ほど安井先生から、利益相反というのは個人の責任にならない。これはやはり組織の責任であって、組織が、例えば大学がいかに個人を守るのか。そのためのポリシーを各大学が決めていくもんだということで、具体的な事例なんかも出していただくと、非常に我々はあすから帰ってどう対応するかという点で非常に役立つんじゃないかと思います。ぜひよろしくお願いしたいと思います。

○参加者
 大学の産学官連携のことをやっておりまして。私自身は基礎研究なんですが。宮田さんがおっしゃられたことがやはり少しきれいごとかもしれないと思うんですね。臨床研究からスタートしたシーズで、それをものにするという場合に、それがやはり一番先端的な治療になり得る、診断になり得ると思ってやってると思うんですね。それをベンチャーという形でトライしたい。その場合に、取締もいけない、経営もいけない、SCOも危ない。そして、臨床に関わるところの直接的なものではないと。そうすると、極めてインセンティブは落ちるだろうというふうに思うんです。
 先ほど赤林先生がおっしゃられましたように、科学上臨床上の決定に左右されなければ研究者や医者がある程度経済的な利益を持ってもそれとは関係がないんじゃないかというのは、ある意味ではドライな考え方ではないかと思うんです。それは公明正大であり、データに客観性があり、左右されてないといういわばアカデミックなレベルが担保されているということが問題であって、そこにみずから関わるということが、確かに疑われる要素はあると思うんですが、ちょっときれいすぎになっているのではないかというふうに思われるんですが、いかがでしょう。

○宮田先生
 いや、我々は極端な立場をとらざるを得ないということはご理解いただけると思いますけれども。ただ、いろいろなベンチャーの創業の人たちを取材してて、それじゃあ、彼らにとって金が問題だったのか。そうじゃないという人が多いんですよ。やはり自分の新しい治療法とか診断法を早く市場に、患者さんに還元したいという心も半分以上は僕はあると思ってるので、それを実現するような仕組みという意味で、今、おっしゃったようなことが社会的にスムーズに受け入れられるのだったら認めてもいいだろうと考えています。
 私の個人的な意見では、サイエンティフィック・アドバイザリー・ボードぐらいにはなる。それから、ファウンダー・オブ・ベンチャー(ベンチャーへの出資者)にもなる、それで株もある程度の取得は大丈夫だ、と。そこら辺で折り合いを、研究者とのインセンティブとの折り合いをつけるべきだという感じはします。
 だから、全く清貧でやれという考えではありません。

○参加者
 そういう場合にはストックオプションも認めるという、ファウンダーとしても認める、ストックオプションも認める。

○宮田先生
 そのとおりです。ただ、臨床試験をいざやりますよといったときに、臨床試験の担当のお医者さんに未公開株を配るというのはやはりこれはリクルート事件だろうと考えます。だから、やはり、これもうちょっと具体的な例で議論しないと、確かにわかりにくいですね。

○司会
 今、お話ございましたように、やはりそういう意味でインカムソースというか、そこの部分の情報をいかに大学にまず開示を求めていくシステムをつくるかと。第1分科会の方で一般的な利益相反マネジメントをまずつくりましょうというようなことを、今、まさにご議論いただいておるんですが。ここの分科会での議論というのは、それがまず大前提である。まず開示システムというものがあって、その情報がもたらされるということが大前提で、その上でその先の判断の部分でどういうことが考えられるのだろうかとか、何らかの指導なり措置という部分について特殊なケースで回避できる、マネジメントがうまくできるシステムというものができるのだろうかという、重畳的になってるものですからちょっと私の議論のもっていき方がまずかったのかもしれませんけれども、そういうふうに考えております。

○平井先生
 非常に重要な問題なので一言言いたいのですが。先ほど伊藤さんがおっしゃったとおりで、原則論がまずあるんですね。一般的な利益相反ポリシーの考え方。ここはどういうことかというと、基本的に金額の多寡によって白黒決まることではないと。あるいは役員になる、ならないで白黒決まることではないという発想はあると思うんですね。つまり、例えば5万円もらったからといって本当にその方がバイアスなくやってるか、これはわからない。100万円もらったって1億円もらったって、一生懸命やって真面目にやって、たまたまストックオプションがキャピタルになって1億円になりましたと、これはある話ですよね。だから、金額の多寡とバイアスというのは実は論理的にはリンクしてないんですよね。
 役員もそうですね。役員になったからといって、これが論理的にリンクしてるわけではないんですよ。だから、第1分科会の方でやってるような一般的な話で言えば、そういう例えば金額セーフハーバー(責任を問われない範囲)をつくったり、金額でどうのこうのいうのは余りよろしくない。これ一般論としてあると思うんですね。
 ただ、難しいのは、こちら第2分科会なんで、さらに第1分科会を超える何かを考えなきゃいけないんじゃないかという暗黙のプレッシャーがあるわけですよ。それはなぜかというと、人命を扱ってるからなんですよね。その暗黙のプレッシャーにどうやって対応していくのか。
 逃げ方としては、ここの第2分科会ではしょうがないから、じゃあ、金額の制限をかけましょう、キャップをつけましょうという考え方もあるわけです。もう1個の考え方としては、システムで対応しましょうと。より厳格なウォッチとか、より厳格なシステムをつくることによって対応しましょうと。いずれもどっちに逃げた場合も、先生方が悪さをするなんていうことは全然考えてないんですよ。そういうことを前提にする仕組みじゃないんですね。先生が何か弊害を起こしているという問題ではなくて、社会がこの先生本当に大丈夫なんだろうかと疑いを持ったときに、その疑いに対して、いや、先生はこういうバイアスを持っておりませんという疑いに対するアカウンタビリティ(付託された側が付託した側に対して負う責任、=説明責任と結果責任)をどう保てるかという議論なんですよね。
 だから、今、おっしゃったように、第1分科会とここ若干違うんでね、そこは非常に微妙に難しい問題ですね。

○司会
 例えばデータの信憑性について疑いが持たれるような状況が生じた場合に、じゃあ、もうそれをやめてしまおうというのはもちろん1つの選択肢としてはあるんですけれども、そうではなくて、例えば第三者機関なり、そのデータの信頼性を当研究者以外の方が担保できるようなシステムがセットであるから認めましょうといった可能性というのは大学医学部の医療現場では考えられ得るんでしょうか。
 福田先生か赤林先生にお答えいただければ。

○福田先生
 今の問題は、やはり、もしすぐやらなければいけないとすると、これは倫理審査委員会だと思います。ここの機能がどううまく動くかによると思います。必ず外部委員を入れるようになっておりますが。果たして外部委員がその辺のところの専門的なところまで、これは妥当だなと基礎研究からここまで応用してできそうだなと、安全性は十分確認してあるなというチェックができるかどうかにかかっております。
 そうなってくると、この外部委員の役割はものすごく大事です。それを今の状況では確保できないというのが正直なところだと思います。ですが、たとえ内部で十分やったといっても、外部から見ればそれは内部の判断じゃないのという指摘を受ける可能性ありますね。そこに問題があると思います。
 それから、先ほどのこの分科会の違うところは、人の生命に関することとありますが、これはもう医療に関する場合、当然大前提です。要するにどんな状況でも生命に関することが最大のポイントです。
 もう1点違うのは、やはり医師もしくは研究者が自分で研究費をとってきてやった成果を自分のところに還元するように、それも応用研究する現場も自分のところであり、利益も出せるとなると、まさにそこが問題となるのではと思います。そこがちょっと違うところではないかと思います。

○司会
 そうなりますと、それはまさに特殊性だと思うんですけれども。例えば被験者に対する安全性という観点で、逆にやはり最先端の分野でそのシーズを生み出した先生が携わることの方が安全性が高いという観点も当然あろうかと思います。いや、「これ自分できないからあなたやってくださいよ」という話では、かえって危険であるというような話もあるということにコンセンサスが得られれば、それを前提としつつ、ほかの問題について、では、どう解決するのかということが大変重要なのかなと思うんですが、そういう理解でよろいでしょうか。

○福田先生
 それは外部からアプルーブ(承認)されればそれでよろしいんじゃないでしょうか。自分たちだけで安全といっていると、やはり100%じゃない、あるいは客観性がないと指摘されると思います。同じ組織の仲間がやることに対して。したがって外部からアプルーブされればいいのではないでしょうか。その場合場合に応じて、もしそういう委員を必要であればお願いして、審査に当たってもらうというのも考えてもいいのかなと思います。

○参加者
 大学でIRB(Institutional Review Boardの略、「治験審査委員会」)をやっている者ですけれども。この医療の特殊性で僕が一番問題に思うのは、例えば一般的なことは、内密にいろいろなことができるわけですね、データとか。それで、ある程度までいって、これはいけそうだなと思って公開する前になってから審議ができる。ところが、医療はまず初めにやっておかないとできないわけですね、人間。そうすると、申請件数がものすごく多いんですよ。それで、大体1件うちでも2時間ぐらいやるんですね。月本当にものすごく出るので、これを一般のやつと何が違うかというと、そこをこの数字がものすごいんだと、初めてゴミかダイヤモンドなのかわからないときからまず申請してスタートできるという、その特殊性をどうするかということを解決しないとなかなかうまくいかない。

○福田先生
 それに関して実は、私どもでは基本的に全委員で集まって審査しなきゃいけないのと、それから迅速審査も含めて、それほど問題ないような事例については、医学部長と病院長などの機関の責任者の立場にある人と、審査委員長含めて迅速に決定する場合、これを私どもは三者協議として一部を迅速に片づけていかなければ、先生おっしゃるとおり、やっていけない状況になってきました。
 例えば疫学研究等で余り危険性がないとか、プライバシーが完全に確保されているという場合には、そういう方法に回していくような我々自身の体制も工夫する必要があると思っています。で、より重要なものに関して徹底した時間をつくって審査するということを考えております。実際に緊急の場合にはそのように対応しています。

○平井先生
 プレゼンを拝見する中で、1ヶ所、予算のことがありますよね。倫理審査委員会、つらいのは時間と予算と人材でしたっけ。予算なんですけれどもね、これは非常に弁護士的な発言になっちゃうんだけれども。もしこれ事故が起きて、ゲルシンガーが日本で起きたら、各大学の医学部は何億円というお金を払うんですよ、これ。訴訟で負けて。これは保険はないでしょう、多分。であれば、法的リスクとして、倫理審査委員会に十分な予算を配分するというのはリスクヘッジ(リスクを回避するための投資手法)から考えたらこれ当然ですよね。経営者の立場から考えればね。だって、訴訟が起きて何億円なんていう損害賠償を受けるのであれば、倫理審査委員会に十分な予算と人材、必要であれば外部から人を雇ってここを手当して、場合によっては外注でもいいですよね。信頼できる外注先にそこを委託するということもあるかもしれないですよね。そこできちんとやらないと、今後訴訟が起きて訴えられましたという場合に非常に困るんじゃないでしょうかね。
 これちょっと極端かもしれないですね。もしかしたら、いや、そんなこと言うなという方いらっしゃるかもしれませんけれども。

○宮田先生
 平井先生にちょっと質問。IRB自身が訴えられるということはないんですか。

○平井先生
 理論上はあり得ますね。だから、一時的に訴えられるのは違いますけれども。

○参加者
 責任はあくまで実施機関の長なんですよ。長がその倫理委員会に諮問してるわけであって、諮問したらその答えがゴーだといって、それを機関の長はノーで言えるんです。だけれども、その部分はそこのところをやはり明確にしないとね。だれが責任者かというと、その実施機関の長である、これは医師主導のときもそうですね。

○平井委員
 それは法律家の観点からいいますと、それは無理です。確かに物的には多分大学とか実施機関の長が一時的に責任を負うと思うんですよね、被告になる……

○参加者
 いや、倫理委員会が責任を負うものではないと思いますけれども。

○平井委員
 しかし、倫理委員会の委員も訴えられる可能性はあります。私が原告だったら訴状は書けます。本当に書けますよ。

○参加者
 そういっちゃうとね、議論は進まないんだけれども、一応そういう諮問する形になっていますので、ですから、倫理委員会がゴーと言ってもノーと言えるし、ノーと言ってもゴーは言えると。その責任はやはり長がとるということになっているということを理解する必要があると思いますね。

○平井先生
 私の意見が正しいかどうか、参加者に弁護士の方がいらっしゃるようですので、ご意見をお願いしたいと思います。

○参加者
 やはり平井先生のご意見に全面的に賛同します。責任者かどうかというのは大学の中でのやはり統治機構の中での問題なので。法的な問題は対外的な問題です。実施しているお医者さんとか責任者ですか、その方自身と、あとそれから決定者だけではなくて、やはり倫理審査委員会というのは法的にはある意味でアドバイザー的な立場に立ってるわけですね。結局、そこで諮問されたことに例えば従ったとか、そういうことで事故が起きたときに、やはりアドバイザーというのは法律的にはいわゆる専門家責任という。先ほどプロフェッショナルということを赤林先生がおっしゃった。実はこのプロフェッショナルの責任というのは、我々弁護士もそうなんですが、法律的には非常に重い責任を負っております。つまり、故意、過失、違法性という法律判断においては非常に重い責任を実は負わされているということなんですね。
 今の話、倫理審査委員会の話と利益相反の話がちょっと分けて話されてないような印象を受けております。先ほど金沢大学の方が外部からお金をいただいて行うこと、これは広く言えば、これも産学官連携といえば産学官連携なんですね。ただ、これ自身はそのことによって先生方に直接的な経済的利益を生むかどうかまた別の問題なので。ここは多分普通に言う倫理審査委員会の範疇で、そこで安全性を確保するとか、どう研究としてそもそも必要かどうかとか、インフォームド・コンセントとかそういう切りわけになるんだろうと。
 利益相反の問題は、これプラスその方のやはり個人的な利益、そこが先ほどの未公開株の議論にやはりつながってく、あるいは未公開株だけじゃなくても、例えば兼業をされているとかいうような場合、ここはやはりもう1つ違う配慮がある。これは何を意味しているかというと、そこやってるご本人はどちらであっても非常に倫理性を持ってやってるにしても、対外的には、例えば宮田さんに代表されるような、つまり社会的な目といいますか、疑いといいますか、そういうものがやはり格段にこの2つはちょっと違うんじゃないかなという気がしております。
 その後者の問題というのが、実は倫理審査会の部分とは別に利益相反というのがクロスしてくる分野なんじゃないかなというふうにちょっと聞きながら思っております。

○司会
 大変熱心な議論が、今、続いているのですが、司会の不手際で徐々に時間が進行しておりまして、2時間以上たっぷり分科会の時間をとってはいるんですが、それでもなかなか意見が絶えず、本当に非常に難しい問題がたくさんあると思っております。どれ1つ取っても本当にいろいろな意見が出るなと思っております。
 さはさりながら、「何を話したんだかよくわからないな」ということで帰ると第一歩にならないものですから、できる限り意見を、1つにまとまらなくても、一定方向に持っていければありがたいなと思っております。ご協力いただければありがたいと思っているんですが。
 今、最後ご発言も出ましたけれども、臨床試験・臨床研究に係るマネジメント体制をつくるときに、IRBの問題と、通常のCOIのマネジメント体制の問題というのを、どっちなんだというのは、これはアメリカでもかなり議論があって、大学ごとによって違うというのが今のアメリカの現状のようでございます。IRBの方に全部任せるんだ、統括するんだという話もあれば、原則はCOIの方の体制の方に一本化するんだという話もございます。
 ただ、本日、福田先生のお話を聞くと、IRBの中でその提出書類の様式の中で少し工夫しながらやると、逆に無理なくいい体制がとれるのではないかと、人的な面とかいろいろありますけれども、というのはございました。
 もう一方では、赤林先生の方に、本当に大変なんだというお話もございました。その辺いかがでございましょうか。

○福田先生
 倫理審査上はその辺の透明性を確保しなさいということをヘルシンキ宣言にもあるし、それから臨床研究の指針にも強制力はありませんが、明記されておりますので、可能な限り資金の流れ等については記載すべきであると思います。
 それから、もう1つ、その研究者が所属する、例えば大学なら大学ですね、そこでの規程も合わせてやることがやはり最低限必要ではないか。例えば兼業の問題も含めて、株式云々ということも含めて、その2点は最低限やる必要があると私は思っております。
 倫理審査委員会も何もしないわけにはいかない。ここでは研究資金の流れについては明確に記載しておいた方がいいのではないかと思います。

○赤林先生
 私は倫理審査委員会が行ってもいいし、特別に特化した利益相反の委員会が行ってもよろしいんじゃないかと思います。それは、各大学によってそのニーズが異なりますので、倫理審査委員会1つとりましても、大学によって研究志向が多い大学は非常に忙しくなるし。利益相反に関しても、多分同じような事態が生じると思いますので、各大学に応じた形で行えばよろしいと思います。
 ただし、私、最後に申し上げましたけれども、何らかの一定のルールをつくっていただかないと、各大学でも運用することとかは難しいんじゃないかというふうに思います。

○司会
 ありがとうございます。
 それでは、最終のとりまとめに入るまでにはまだ時間ちょっとございますね。どうしてもぜひご発言したいという方、いらっしゃれば。

○参加者
 初歩的な質問ですけれども、利益相反という言葉がよくないというふうに書かれている方もたしかどこかにおられたと思うんですけれども。この臨床試験における利益相反という言葉自体がなかなかちょっと理解しにくくて。例えば何を僕らはつくるのかという件ですけれども、赤林先生が言われた言葉が一番僕には適切かと思われたんですが。利益の追求と患者の治療が相反すると。そこをもう少し明確にここで討議していただいて、何と何が相反するのかということを決めていただきたい。
 赤林先生の最後の2枚目のスライドでは、「今、日本の医療学会に求められていることは」というクエスチョンですけれども、ヒト対象研究における個人の経済的利益を監視するためのガイドライン、これでいいのかどうかと。これでも私はちょっと不十分かなという気はするんですが。この辺に関してもしご意見をいただけたらと思います。

○平井先生
 難しいご質問だと思うんですけれども。これはあくまで利益相反のルールの中で考えるべきだと思うんですね。一般論の中で、まず。そうすると、利益相反の中で2つの利益が、インタレスト、これ利益じゃないですね、インタレストが問題になります。1つは、その研究者としての業務ですね。業務というと言葉がよくないかもしれません。研究行為。これが1つインタレストありますね、これをきちんとやる。もう1つは金銭的な利益、あるいは他の会社に対する責務ですね、これがまず相反するわけです。これはどんな場合でも一緒ですね。
 で、決して患者の生命とか身体の安全とかが利益にして乗っかるわけじゃないんですよ、基本的には。ただ、このコンフリクトが生じる中で、影響が出るところは何かというと、患者さんなんですよね。患者さん自体をインタレストに乗っけることは絶対、利益相反の話でいくと正しくない。もしそれをやったら、当たり前ですけれども、もうはかりは片方から落っこって戻らないですよ、全然、これは。当たり前ですよね。患者の生命より重いものなんてあり得ないですよ、世の中に。それ自体をはかりに乗っけるのはよくないと思うんですね。
 そうではなくて、お金をというとよくないかな、経済的なやはりメリットがこの世の中ではあるインセンティブとして仕組まれる中で、かたや、自分の研究行為もきちんとやらなきゃだめ。この2つが非常に拮抗している中で、影響を受けるのは患者さんであるということが問題になる。このフレームワークだけは絶対崩さない方がいいと思うんですね。まず、利益相反で考える以上はですね。

○司会
 難しい問題だと思います。利益相反という言葉を変えた方がいいのではないかというのはいろいろな方面で言われておりまして、コンフリクトオブインタレスト、インタレストというのは利害の衝突、相反でございます。利益というとどうも、お金を儲けなければ良いけれども、儲けた人間は悪い。多額になればなるほど悪いというような間違った印象を与えるということで、利益という言葉は余り適切でないんでないかという意見もあります。その意味は決して儲けるということではないということを、今日この会場にいらっしゃる方々はご認識をぜひ深めていただければと思っております。
 どうぞ。

○平井先生
 これ会場の方どなたかにお聞きしたいんですけれども。もし日本でゼロ・トレランス・ルールを採用した場合に、創薬って可能ですか。それをぜひ現場の方にお聞きしたいんですよ。

○司会
 いかがでございましょう。首を振られている方は不可能という意味みたいですが。ぜひどなたか。

○参加者
 治験の場合は例えば200例あるうちの5例を担当したからそれが影響あるかどうかと言われると、それはやってもいいしやらなくてもいい。トランスレーショナルリサーチ(新しい医療を開発し、臨床の場で試用してその有効性と安全性を確認し、日常医療へ応用していくまでの一連の研究過程)で、先ほどの動物からシーズを探していくところはゼロになると非常に落ちると思います。これは学問的な興味ももちろん医者にあるわけですから。そして、稀少症例に関しては、やはりそういうことがなくなるととても製薬会社からしか薬が出て来ないとなると、commondisease(臨床的に数が多く、その成因に遺伝素因と環境因子が複雑に関わり合っている病気、がんなども含まれる)しか出て来ないということになるので、やはりそれはかなりリスクが多いように思いますけれども。

○司会
 それでは、大変不慣れな司会のため十分議論が深められなかったという点はまずもってお詫びをします。また4先生方からいろいろ最初にご提言を頂戴しました。そして、会場の方ともかなり細かい部分も含めて皆さんがこれだけ真剣になっているということがよくわかった会だったと思っております。
 今日の議論で、大体コンセンサスを得られた部分と、引き続き議論していかなければいけない部分というのは当然あると思っております。例えばこの分野の特殊性というのは、当然その研究者と企業だけの関係ではなく、医師と被験者との関係ということで、被験者の保護という観点、この点をまず第一に考えなければいけないという点ですとか、データに対する後々治験に使われる場合の信頼性確保の問題。また、安全性確保という観点から、場合によってはその最適な人物は最初に研究を行ったその研究者自身であるというようなケースもあると。
 さらには、宮田先生の方からお話がございましたけれども、この分野ではごく少数の患者を対象にした少数の疾病に関しては、ベンチャーというかたちで、研究者自らそこをスタート、動かさなければ、大手製薬会社待ちでは患者の生命が確保できないというような特殊性もあると。
 もう一方、インフォームド・コンセントに関して、今日は十分議論できませんでしたが、インフォームド・コンセントという観点でも議論をしなければいけない問題だと。
 こういうような総合的な特殊性を踏まえて、最終的にはより透明性の高いマネジメントシステムというような部分と、透明性が高いだけではだめだと。実際に、では、どう回避する、マネジメントする方法があるのかということで第三者機関によるデータチェックですとか、大変難しい問題ですけれども、外部人材によるしっかりとした審査体制をきっちり築く、それを学内で議論をしていくような部分が考えられるのではないかと。
 いずれにしましても、IRBでいくのか、COIでいくのか、それは各大学ごとに無理なく実施できる体制を構築していくことが非常に重要であるというご意見だったのではないかと思っております。
 それと、最後に、これは最初に宮田さんからもありましたけれども、この問題は思考停止に陥らないように議論を続けることが大事だと。これは各大学にだけ言ってるわけではなくて、私ども国、文部科学省に対しても突きつけられた課題だと受けとめておりますし、同時にやはり大学ごとにご議論をしていただかなければいけないのかなと。
 今日、消化不良の皆さんたくさんいらっしゃるとは思いますが、その消化不良は大学に戻って解消していただければと思っております。
 一気にぐっと進める施策としては、国からの競争的資金はマネジメント体制ができてないところにはもう出さないんだというぐらいのことも考えるべきではないかというようなご提言もございまして、そういうさまざまなご提言を踏まえながら、私どもも、今後も引き続きこの問題について情報発信に努めていきたいと思っております。
 ということで、ちょっと最終的にさまざまなご意見があったのを全ては吸収できてないとは思いますけれども、まず第一歩として今日のセミナーという形にかえさせていただきたいと思っております。

3 全体会議2(司会:伊藤技術移転推進室長)

  • パネリストの西澤昭夫氏及び平井昭光氏より、各分科会の報告があった。その内容は以下のとおり。

○西澤先生
 第1分科会は、富士通総研の西尾先生、名古屋大学の渡辺先生、あずさ監査法人所属で、岩手大学のケースをお作りになられた石原先生、そして私、西澤の4人が、最初にプレゼンテーションさせていただき、その後それぞれのプレゼンテーションに関する質問を受け、参加者の方々との意見交換を行うという形で進めてまいりました。全体を通じて、3点ほどの論点について、第1分科会での議論の取り纏めを行いたいと思います。
 まず第1は、利益相反マネジメント制度を構築する目的であります。その前提として、利益相反自体はごくごく当然に発生することであって、このこと自体が何か問題であるということはないということ。また、産学官連携に意欲を持って取り組んでいらっしゃる教職員に対して、大学がきちんと責任を持って、この方たちの活動を支援すること、これが非常に大きなポイントです。
 そして、もし大学が適切な対応をしない場合、大学として社会から期待されている信頼感の喪失、及びその結果として、大学は国を通じて研究費の供与という形で研究を促進する負託を社会から受けているわけですが、そういう大学の存在基盤自体を喪失してしまうだろうということです。
 ですから、利益相反マネジメント制度構築の目的といたしましては、産学官連携を進める教職員と大学自体を守りつつ、産学官連携を推進するために不可欠な制度であるということであります。
 第2は、具体的な制度構築の進め方であります。これがなかなか難しいとの議論が出されました。ここでも、改めて、責務相反・利益相反に対する正確な理解を深めていただく必要性、言い換えれば、教職員が正確な知識を共有して、必要性をきちんと認識する重要性が提起されました。ただし、その場合、まずトップがきちんと認識をして、積極的にこれをバックアップする、そういうリーダーシップが必要であること。実際、利益相反マネジメント制度構築には、いろいろな苦労や障害が出てまいります。これに対してトップは積極的にバックアップすることです。そのためにも、トップ自らが、責務相反・利益相反マネジメント制度が大学にとって、いかに必要なものであるかという認識をきちんと持っていただくことが不可欠であります。
 その上で、教職員全員がこの必要性を共有する必要があるのですが、これがなかなか難しいわけです。そのためにも、まずは責任者を決めて、制度の構築に速やかに着手をする。そして、学内でベンチャー企業を起こされている方、積極的に技術移転等されている方、あるいは企業に対して積極的なコンサルティング活動をされている方のなかで、「これはどうかな?」と思ってらっしゃる方たちに対して、その不安を受け止め、それにきちんと対処をしていく。そういう活動を通じて、「なるほど、これは新しい規制を加えているんじゃないんだな」と正しく理解していただき、産学官連携に関わる方々の活動に対して、大学がきちんと対応してくれているのだな、ということを認識していただいて、責務相反・利益相反マネジメント制度に対するシンパサイザー(共感者)を広げていくという、地道な努力が必要だろうということであります。
 その際、責務相反・利益相反はごく日常的に生じており、そのこと自体が問題ではない、言い換えれば、責務相反・利益相反そのことが悪いのではない、ということを認識していただくことが基本になるということです。
 第3に、具体的な制度作りの進め方でありますが、ポリシー、規程等を整備し、情報発信をしていくことが必要です。その場合に、報告や相談を受け、どういう形でこれを審査していくのかということを明確にして、それを学内外に対して、きちんと発信していくことが不可欠であります。
 それから、これに専門的に対応する委員会を設置して、きちんとした対応をしていく。次に、先生方がどういう外部的な関係、その結果生じる利益相反を継続的に開示していただいて、それを把握した上で、必要な対処をしていくということです。継続性を持った、しかも個人情報でありますので、そういう情報がみだりに外部に出ないというようなきちんとした部署をつくり、蓄積し、処理していくことが必要になります。
 では、具体的にどこで対応するかということに関していえば、これは恐らく各大学での考え方に違いが生じるとは思うのですが、最初から、従来型の人事・総務部門に任せますと、恐らく規制を強化する方向に動いたり、またそういう懸念をお持ちになる向きもあろうかと思います。ですから、まずは、積極的に産学官連携を進めるような部署、例えば知財本部とか、そういうところが事務局になるほうが望ましい。ただし、これは必ず人事等に関わってまいりますから、そういう部署と常に密接な関係を持った組織をきちんとつくっていくことが必要ではないか、こういう議論がありました。
 具体的な制度構築の例として、名古屋大学と岩手大学の例が挙げられました。まずはディスクローズ(情報開示)ですね。具体的に、教職員の方たちから、どういう対外的な関係があり、結果としてどのような経済的利害関係をお持ちなのかということを、定期的に報告していただくということです。これがまずベースになろうかと思います。これを年1回やるのか2回にするのか、それぞれの大学の考え方によるだろうと思います。
 その上で、さらに教職員から、もし不安があったときには随時相談を受けて、これに対してきちんとしたアドバイスをしていく必要がある。その際、個別に相談ができるような利益相反アドバイザーを設け、事実関係をきちんと調査し、検討していく必要がある。
 その上で個別の事象、例えば共同研究や受託研究、または兼業や技術移転、あるいはベンチャー企業創業や物品購入、そういう事象が起こったときに、利益相反委員会できちんと審議し、判断を下す。その結果を当該教職員に伝え、これに従っていただく。また、その後どうなっているかをフォローアップしていく。そうした制度を作っていくことが不可欠であります。
 まとめでございますが、責務相反・利益相反に対する正確な理解をまず持っていただく。次に、なぜこれをマネジメントする制度が必要なのかということを、一部だけではなくて、大学全体として認識することが重要だということです。といいますのは、このマネジメント制度にはいろいろな意味で弱点があるからです。まずもって自己申告である。しなかった人はどうするのかとか、または従ってもらえないような場合にどうするのかなど、実施上の問題点が多々あるからです。責務相反・利益相反のマネジメントでは、その実施に際して、明確な線が引けるものではありませんから、強制するのは難しい。だからこそ、教職員が必要性を理解した上で、その弊害を認識して、相互理解の溝を埋められるようなレベルに達しない限り、ほとんど機能しないからです。ですから、教職員の間で、責務相反・利益相反マネジメントの必要性をきちんと共有していただくことが、まずもって大前提になるということであります。
 その上で、個別事例に応じて適切な対応をきちんと採り、外に向けても内に向けても透明性の高い制度を早急に構築し、動かしていくことが必要になります。何かできあがったものを前提にして、「さあ、これが規程です」と言ってみても、恐らくは動かないのではないかということであります。大学全体を巻き込んだ制度作りと、不完全ではあれ、それを動かしていくことが必要だろうということです。
 最後に、第一部の全体会議で平井先生から言及がありましたが、旧来型の倫理規程や兼業規定が、現在も各大学に引き継がれている。これが、責務相反・利益相反のマネジメント制度が動きだしたときにも、同じような厳しさが必要なのかどうか、という問題提起がございました。これについては、責務相反・利益相反マネジメント制度を実施しながら、緩和できるものであれば、緩和していくべきではないかというご意見もありました。ただし、これは法律問題ですので、個別の制度論だけで収まらない論点ですから、制度の構築と実施状況を見たうえで、改めて全体として検討することも必要ではないか、というような議論をしてまいりました。

○平井先生
 第2分科会の方は4人のパネリストの方にまずプレゼンテーションをいただきました。まず最初に、千葉大学の大学院医学研究院長、医学部長であられる福田先生、次に東京大学医学部教授であられる赤林先生、それから日経BP先端技術情報センター長である宮田先生にプレゼンテーションをいただきました。私もプレゼンテーションをさせていただきました。以上のプレゼンテーション及び会場において行われました意見交換を前提に、概要ですが、第2分科会のご報告をいたしたいと思います。
 まず最初に申し上げたいことがあります。これは宮田先生から非常に痛烈に指摘があったことですが、なぜ思考停止をしていたのかと、痛烈な批判を受けました。利益相反ワーキンググループは平成14年11月に報告書を出しております。その中で、臨床研究・臨床試験における利益相反の重要性については触れておるんですね。それにも関わらず、現在に至るまで非常に動きが少ないということで、これは思考停止であったのではないかという批判を受けました。
 これは、こちらサイドの弁明を申せば、決して停止はしていないで、一生懸命水面下で努力を続けてはおったんですが、水面上に浮かび上がることはできずに今日に至っているということになります。けれど、本日こうやってたくさんの方に来ていただいて議論する機会を得ました。これを機会に、ぜひ水面の上に上がってどんどん議論を進めていきたいと、そのために皆さんのお力をお借りしたいと考えております。まず、これを最初に申し上げたいと思います。
 議論のまとめですが、臨床研究・臨床試験に関する利益相反にはマネジメント上の特性が非常にあります。研究者と企業、通常は研究者と企業が当事者ですが、その関係のみならず、医師と被験者との関係が発生するという意味で、通常の利益相反マネジメントとは若干異なってまいります。もちろん、利益相反というものは日常的に生じるものであり、無くすことはできない。適切に管理すべきであるということは、既に西澤先生からお話があったとおりでございます。
 これに加えて、臨床試験・臨床研究の場合には、さらに被験者の保護、人間、「人」である被験者の保護という観点から高度の倫理が求められるというところに特性が出てまいります。
 次の特性ですが、臨床試験・臨床研究で得られるデータは、その後に治験の審査などに用いられることが多い。データに対する信頼性、実施の透明性の確保がより求められると。データに対する信頼性という問題は、これは非常に取扱いの難しい問題で、切り口をどうするかによって全く議論が変わるのですが、それはここではさて置くとすれば、確かにデータというものは算出して、それに対する信頼性というものが一般国民の目から見て要求される。その意味で何らかの透明性の確保、あるいはそれ以外の何らかの手段をとらなければならないというふうになっております。
 3番目ですが、最先端の医療研究分野では、研究自体が疾病の治療に向けられることが多い。これは、遺伝子治療、あるいはこれからはES細胞等の問題も起きてくるかもしれません。こういった最先端の医療研究分野では、まさしく治療とは研究である、ということがあるのです。従来型の治療に加えて、こういう特殊事情がある。したがって、この場合に被験者の安全確保の観点から、最適な実施者は研究者自身であるケースも多い。というのは、最先端の医療研究分野ですから、これを行っている先生はそう数は多くありません。したがって、ベストな先生、ベストな実施者を求めれば、これが研究者自身ということがままあるわけです。この辺にも特殊性がございます。
 4番目ですが、バイオの分野は事業化までの期間が長く、リスクも高いため、既存の企業、特に大企業への技術移転だけでは対応が困難な場合もある。研究成果の社会還元のために、研究者が関与するベンチャーの果たす役割も大きい。これはいわずもがなですが、やはりベンチャーの最大の特徴はスピードです。シーズを早い段階でどんどん開発して、研究フェーズ、そしてそれを応用開発フェーズ、そして創薬、そちらへ結びつける。そういう意味でベンチャーの果たす役割は非常に大きいのです。
 次に5番目ですが、インフォームド・コンセントという問題がございます。これは臨床試験の倫理指針にも書いてございますが、きちんとしたインフォームド・コンセントをする必要がございます。被験者に対してできる限り多くの情報を提供するわけです。それは利害関係の情報であり、その他必要な情報を提供するわけです。しかしながら、現時点において倫理指針を見ても、あるいはその基礎となるヘルシンキ宣言を見ても、インフォームド・コンセントについては完全に明確に全てが記されているわけではありません。これから議論検討していく部分は非常にたくさんございます。
 こういう特性を前提に、利益相反マネジメントの基本的な考え方というのは、次のようになるのではないかと考えられます。臨床試験・臨床研究の実施が、実施者の経済的状況によって何ら影響を受けてないことを常に説明できる状態にしておくことが求められる。そのために、まず、より透明性の高い利益相反マネジメントの構築が必要である。透明性、これは1つの大きなキーワードです。それから、利益相反が生じた場合に、専門的な観点から判断できるシステムをつくることも必要である。専門性ですね。
 具体的には、まず、開示です。これは全ての利益相反システムの根幹をなす問題ですが、開示が非常に重要です。開示によって初めて透明性がもたらされます。なかなか日本の社会では開示、透明性によるアカウンタビリティは比較的新しい考え方ですから難しい側面もあります。さらに言うと、アメリカでも開示で苦しんでいるところはあります。しかし、やはりこれだけ重要なマネジメントですから、まず全てを開示させる、そして透明性を保つということがまず大事だと思います。
 次に、利益相反が生じている場合には、第三者機関を用いても結構です、データの信頼性の確保を考えましょう。
 さらには、利益相反の審査の中に医療の専門家、それから外部の人材を入れたりして専門性を高めるということも必要かと思います。第2分科会ではIRB、すなわち倫理審査委員会との関係も非常に議論されました。IRBと利益相反の委員会がどう協力していくのか、どう外部人材を入れていくのかというのは非常に重要な問題かと思われます。
 総論から言えば、以上ご説明したような体制をつくる必要がある。しかしながら、それぞれの大学にはそれぞれの事情がおありでしょう。全てが同じではございません。まず、「無理なく継続できる体制」を構築することが必要だと考えます。大学によればIRBが強いところもおありでしょう。あるいは利益相反委員会に任せたいというところもおありでしょう。あるいはポリシーそのものが大分違う大学もあるでしょう。例えば研究を重視する大学と、産業に目を向けた大学では大分違うかもしれません。問題は、いずれの大学でも無理なく継続できる体制をまずつくることが大事であるというふうに考えております。
 そして、全学的な利益相反マネジメント体制と倫理審査委員会の間に適切な連携をぜひつくってください。この連携がなければ、この分野での利益相反マネジメントは余りうまくいかないと思います。
 そして、やはり不断の検証・見直し議論の継続、先ほど冒頭に申しましたが、思考停止はできません。今日の段階での議論は1年後には通用しないかもしれません。正直言って、アメリカの議論を念頭に置いて議論はしておりますが、やはり今の日本を前提に今の体制をつくることがまず大事だと思います。さらに日本の社会が成熟し、各大学のマネジメントが成熟すれば、次のステップは必ずあります。みんなで次のステップにいこうと、そこが大事だと思います。
 まずは利益相反ポリシーの作成、公開。この辺はまず第1分科会の方でも同じところですね。そして、とにかく継続的に必要な情報の収集。これは国の課題ですね、国は継続して必要な情報の収集、発信を行うべきです。ぜひ国は頑張ってください。これはひとり文科省だけの問題ではないと思いますので、他省庁と協力の上、ぜひ国全体としてバックアップしてもらいたいと思います。
 また、マネジメント体制構築を促進するため、国からの競争的資金はマネジメント体制の構築を前提に交付するということも、場合によっては検討してもよいかもしれません。アメリカではこういうことが行われています。これによって利益相反体制がさらに推進されるということはアメリカでは検証されております。日本でうまくいくかどうかは、これからやってみるしかないのですけれども。
 以上、こういった議論をいたしました。会場からも非常に活発なご意見があり、新たな観点、問題点が見つかりました。この報告では全てをご紹介できませんでしたが、ぜひ議論を重ねていきたいと考えております。

  • 事務局より、閉会の挨拶があった。

お問合せ先

研究振興局研究環境・産業連携課技術移転推進室

(研究振興局研究環境・産業連携課技術移転推進室)

-- 登録:平成21年以前 --