9-2.第63次南極地域観測計画の概要(素案)

 第63次南極地域観測隊では、重点研究観測サブテーマ3「地球システム変動の解明を目指す南極古環境復元」による氷床深層コア掘削に向けて、内陸への燃料・物資輸送を実施する。併せて、往復路航空機による昭和基地へのアクセスを計画し、南極の夏期間を最大限に活用した機動的かつ広範囲に及ぶ観測を実施する。

 令和3年度の第63次南極地域観測隊の観測計画(以下「第63次計画」という)は、「南極地域観測第9期6か年計画(以下「第9期計画」という)」(平成27年11月9日決定)の最終年度の計画である。
 第9期計画では、地球システムにおける現在と過去の南極サブシステムの変動、サブシステム内の相互作用の解明及び南極域の変動と地球システム変動との関係を明らかにすることを目的に、第9期重点研究観測メインテーマ「南極から迫る地球システム変動」が決定され、本メインテーマを推進するため、サブテーマ1「南極大気精密観測から探る全球大気システム」、サブテーマ2「氷床・海氷縁辺域の総合観測から迫る大気‐氷床‐海洋の相互作用」、サブテーマ3「地球システム変動の解明を目指す南極古環境復元」の3つのサブテーマが設定された。これらのサブテーマのもとに、分野横断的な研究観測を展開する。
 特に、サブテーマ3においては、これまでの調査結果に基づいて氷床深層コアの掘削点を決定し、第64次計画(南極地域観測第10期6か年計画)以降の掘削開始に向けた拠点構築に着手するため、内陸への本格的な物資輸送を行う。また基本観測については、極域を観測の場とした地球環境観測の推進、データの取得・公開・利用などを通じて、「GEOSS新10年実施計画」に貢献する。
 第63次計画では南極観測船「しらせ」による往路・復路および昭和基地沿岸域での海洋観測に加え、別働隊として東京海洋大学練習船「海鷹丸」も加えた船上観測や、機動的かつ広範囲に及ぶ夏期観測活動を可能とするために、南極航空網を積極的に利用した昭和基地等へのアクセスを計画する。
 第63次計画は、第62次南極地域観測隊の観測計画(以下「第62次計画」という)が新型コロナウイルス感染拡大の影響により計画の変更・見直しを行うことを受け、計画の再編を機動的に行うこととする。計画の再編にあたっては、第62次計画の実績と国内および経由地の新型コロナウイルス感染症の動向を踏まえつつ、次期(南極地域観測第10期6か年計画)以降への円滑な移行の観点も考慮する。

1.観測計画

基本観測は、第9期計画のとおり定常観測とモニタリング観測に区分して実施する。定常観測については、担当機関による観測計画を継続して実施する。
モニタリング観測は、以下の五つの分野の観測を実施する。

①宙空圏変動のモニタリング、②気水圏変動のモニタリング、③地圏変動のモニタリング、④生態系変動のモニタリング、⑤地球観測衛星データによる環境変動のモニタリング

研究観測は、重点研究観測、一般研究観測及び萌芽研究観測の三つのカテゴリーに区分した観測から構成される。

・重点研究観測は、「南極から迫る地球システム変動」の最終年次の計画として、全球的視野を有し、社会的要請に応える総合的な研究観測を実施する。本メインテーマを推進するため設定された、サブテーマ1「南極大気精密観測から探る全球大気システム」、サブテーマ2「氷床・海氷縁辺域の総合観測から迫る大気‐氷床‐海洋の相互作用」、サブテーマ3「地球システム変動の解明を目指す南極古環境復元」のもと計画を立案した。サブテーマ1においては、南極昭和基地大型大気レーダー(PANSY)のフルシステムでの観測を中心として観測を継続し、極域大気が地球システムに与える影響の解明を目指す。サブテーマ2では、棚氷融解、海氷や氷河・氷床変動の実態等に関して生態系も含めた解明を目指し、リュツォ・ホルム湾及びトッテン氷河沖での海氷域での海洋観測等を継続実施する。更に、氷河接地域の底面環境を明らかにすべく、リュツォ・ホルム湾沿岸ラングホブデ氷河上にて熱水掘削観測を実施する。サブテーマ3では、これまでの調査結果に基づいて掘削地点を決定し、掘削拠点構築に着手すべく、内陸ドームふじ基地周辺への本格的な物資輸送を実施する。

・一般及び萌芽研究観測は、公募によってすでに採択された計画のなかから、実行可能な計画を選択して実施する。特に、重点研究観測メインテーマ及びサブテーマと関連の深い観測項目については、積極的に連携し重点研究観測メインテーマの推進を強化する。

公開利用研究については、公募のうえ、実行可能性の高い計画を実施する。継続的国内外共同観測については、関係機関と国立極地研究所との協定等に基づき、委託課題として実施する。

 

2.設営計画

第63次計画においては、昭和基地整備計画に基づき、発電機の更新に向け、給配電システムの基本設計を継続するとともに、電気設備の点検・更新、老朽化した建物の解体工事を第62次計画に引き続き実施する。また、夏期隊員宿舎の汚水処理設備の本格稼働、太陽光発電パネルの更新や埋立廃棄物の処理など、観測活動に起因する環境負荷の軽減に取り組む。更に、第3期ドームふじ深層掘削のための燃料・車両・重機等の大型物資、観測機材、設備資材等を可能な限り輸送する。

 

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