5.第60次南極地域観測隊越冬隊の現況

1. 気象・海氷状況

7月

先月末まで続いた荒天傾向から晴天傾向に変わり、上中旬は概ね晴れ間が多く、半ばには穏やかに極夜明けを迎えた。下旬には荒天と晴天を繰り返す状況になり、4回の外出注意令を発令し、内、2回がブリザード認定(BおよびC級)された。4月末にリュツォ・ホルム(以下LH)湾で大きく進んだ海氷の割れに大きな変化は見られない。向岩付近は凍結が進んでいる。ウォータースカイは、次第に不明瞭になっている。

8月

月の前半は比較的穏やかだったが、後半は外出注意令を5回発令する悪天傾向となり、それぞれがブリザード認定(B級3回、C級2回)された。LH湾内海氷域はようやく再凍結するかと思われたが、中旬から下旬にかけて大きく南北に往復する様子が衛星画像から確認された。昭和基地から見えるウォータースカイ位置もそれに対応して南北に行き来した。なお、弁天島の西側海域の一部は再凍結が進んでいる様子である。

9月

月の前半、特に上旬は荒天気味で、外出注意令を3回発令し、内2回はC級ブリザード認定された。月後半は比較的穏やかに推移したが、月末に外出注意令を1度発令する荒天となり、B級ブリザード認定された。LH湾内で新たに大規模な割れ込みは起こっていない。昭和基地近傍での海開き域なども認められない。しかし、これまでに割れた氷盤は次第に細かく砕けてLH湾外に流出する傾向が続いている。

2.基地活動

7月

極夜明けを迎えて次第に屋外で作業できる時間が増えた。今後の野外行動に向けてレスキュー総合訓練を実施し、月末には海氷上のルート工作を再開した。また国内との連携訓練を18日に実施した。消火訓練を食堂で火災発生とのシナリオで23日に実施し、管理棟の消火設備の動作確認を兼ねた訓練とした。61次隊との定期的なTV会議(隊長・庶務・輸送は2週に1回、設営メンバーは月1回)を開始し、越冬明けの夏作業に向けた準備に着手した。

8月

海氷状況を常に注視しながらも、宿泊を含めた野外行動が活発化した。7-10日にはS16宿泊オペレーションを行い、ソリ・雪上車を掘り出して昭和基地に持ち帰り、整備作業を実施した。併行して大陸沿岸域の活動に向けたルート工作を開始した。10月に予定している内陸調査に向け、観測装置も含めた各種準備を進めた。また、61次隊到着に備え、見晴らし岩沖のしらせ接岸ポイントの調査に着手した。ラジオゾンデ作業終了後に放球棟からの落下・手首骨折事故が発生し、治療処置を行うと共に、再発防止策を講じた。消火訓練を20日に実施した。今後は野外行動に伴い基地不在者が多くなることを鑑みて、少ない人員での放水を伴う訓練とした。

9月

夏日課に移行した。朝食は1時間早く7時開始となり、観測系朝ミーティングは07:30から、設営事務室ミーティングは08:00から開始となった。消火訓練を17日に実施した。10月の内陸旅行に向けた最終的な準備を実施した。月末に観測系装置の制御PCにランサムウェアの感染がみつかり、国内と相談しながら10月にかけて対応を続けている。

3.観測

7月

各観測項目を前月に引き続き実施した。8月に予定しているカイトプレーンを使った観測およびラジオゾンデ集中観測に向けた最終的な準備を、隊内の協力者および国内関係者と頻繁に打ち合わせを行いながら実施した。10月に予定している内陸調査に向けた本格準備を開始した。

8月

各観測項目を前月に引き続き実施した。3月に続いて2回目となる重点研究サブテーマ1のラジオゾンデキャンペーン(2日から10日間)を実施した。また月末には南極域では稀な大気現象である成層圏突然昇温が発生し、追加のラジオゾンデ集中観測を9月にかけて実施中である。カイトプレーンを用いた大気観測は、観測装置の最終試験を行い、9月に本観測を行うこととした。13-14日にはVLBI観測を実施した。

9月

各観測項目を必要に応じて不具合対応を施しながら実施した。成層圏突然昇温現象は9月末段階において継続中であり、追加のラジオゾンデ観測は10月初めまで予定している。22日には、カイトプレーンによる大気乱流観測を実施した。また、10月の内陸調査に向け、最終的な観測機材の確認作業が行われた。 

4.設営

7月

継続して基地の維持活動、基本観測棟の内部工事、車両整備などを実施した。汚水処理装置の不具合は解消に至っておらず、担当隊員が時間をかけて対応する状態が続いている。荒金ダムへの水循環に関わるトラブルが複数個所で発生して都度対応したが、31日にはダム取水口のポンプが停止して配管の全凍結に至った。翌8月1日にかけて、大人数での予備配管(2月末に途中まで敷設済)への切り替え作業を行い、仮復旧した。

8月

継続して基地の維持作業を実施した。汚水処理装置は、国内側のサポートも受け次第に落ち着いた状態になって来たが、依然として根本的な対策の検討は必要である。荒金ダム取水口及び周辺を人力および重機により適宜除雪した。荒金ダムへの配管は仮復旧の状態であり、61次夏期間における追加工事が必須である。

9月

継続して基地の維持作業を実施した。10月の内陸旅行に向け、雪上車整備や野外活動を行った。月初めにとっつき岬への上陸ポイントの少し手前のクラックが大きく陥没し、雪上車の走行が困難となったが、ルートを安全なポイントにややシフトさせ、基地内で製作した4x4mの道板を設置した。注意しながら野外活動を継続している。26日には、夏期間にS16で故障して走行不能となった大型雪上車PB301をけん引して基地に持ち帰り、不具合を特定したのち修理がなされた。

5.その他

7月

アウトリーチ活動として南極教室5件および南極中継1件を実施した。6月までの荒天傾向から大きく変わって晴天が多くなり、また極夜期が終わったことも重なって、穏やかかつ明るい外環境となり、隊全体としても精神的により安定した雰囲気と
なった。

8月

南極中継を4回、極地研の夏休みライブトークを3回(内1回は極地研の一般公開日)実施した。また、60次越冬隊員の家族会を17日にインターネット回線で実施した。17日には、誕生日会(6、7、8月合同)を夕食に合わせて開催した。

9月

アウトリーチ活動として、南極教室を4回、南極中継を2回実施した。南極教室は9月をもって60次隊で予定していた17件が全て終了した。


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