4.第31回南極観測実施責任者評議会(COMNAP)の概要

会議の概要

南極観測実施責任者評議会(COMNAP)は、南極条約体制のもとで、国家事業として南極観測を実施する機関の責任者の合同会議として、1988年に結成された。30か国で構成され、うち29か国(ペルーが欠席)とオブザーバー国(カナダ、ポルトガル、マレーシア、スイス、トルコ)、オブザーバー機関の南極条約協議国会議(ATCM)、ATCM環境保護委員会(CEP)、南極科学委員会(SCAR)、国際南極観光業協会(IATTO)等が出席し、ブルガリア・プロブディフにおいて、同国南極研究所および教育科学省がホストを務め、2019年7月29日~7月31日に開催された。参加者は240名を超え過去最大規模となった。日本からは、中村卓司(国立極地研究所所長)、橋田元(同研究所・南極観測センター・副センター長)、牛尾収輝(同センター・オペレーション支援室長)、樋口和生(同センター・設営グループマネージャー)、大野義一朗(同研究所客員教授、SCAR/COMNAP連合医学医療専門部会副議長)が参加した。


主なトピックス

1.総会

・冒頭、ブルガリア教育科学省副大臣Karina Angelievaからの挨拶の後、定例議題として、前回(第30回年次総会)報告書の採択、議長報告、事務局報告、ATCM/CEP、SCAR報告等があった。
・現在進められているプロジェクト等の報告が行われた。南極半島地域活動する5か国(チリ、韓国、トルコ、ポーランド、スペイン)が航空機・船舶・基地設備の費用負担を含むシェア方式を検討中であるとの報告や、2020年年次総会に合わせた航空安全に関するワークショップを企画することの他、各国が進めている基地近代化計画における防災対策、高度化する衛星データ受信などの必要性について発言があった。
・中期計画、2018/19決算、2019/20予算を承認した。
・Kelly Falkner(NSF Polar Program Director/米)が継続して議長を務める(3年任期の3年目)。副議長は、空席となっていた1名、任期満了を迎えたJaved Beg (NCPOR/印) およびJohn Guldahl(NPI/ノルウェー)分の計3ポストについて推薦が行われ、3名が推薦されて信任を得た。Ho Il Yoon(KOPRI/韓国)およびSergio Guida (ブラジル南極プログラムPROANTAR /ブラジル)の2名が新たに就任し、John Guldahlは2020年の航空安全にかかわるシンポジウム等への準備に備えて1年任期を延長することとなった。Agnieszka Kruszewska (IBB PAS/ポーランド)、Uwe Nixdorf (AWI/独)、は引き続き副議長を務める。
・次回(第32回年次総会)は、AAD(豪州南極局)がホストとなり、2020年8月2日~6日にホバートで開催される。4月にAAD所長に就任したKim Ellisが概要の紹介を行った。
・2021年は日本、2022年はSCAR/OSCと合わせてインドでの開催が決定した。2023年はベラルーシが招致の意向を表明した。


2.地域別グループ分科会

・東南極分科会
日本、印、豪、ベラルーシ、仏、中、英、露、NZ、米、伊が参加し、2018/19シーズンの活動報告と2019/20シーズンの活動計画(船舶、航空機、基地活動、内陸トラバース等)の情報提供を行った。中国は、就航した雪龍ⅡとⅠとの2隻体制で、アムンゼン海観測、物資補給、新基地建設などのオペレーションを実施する。ロシアは3か年をかけてヴォストーク基地の改修に着手し、ミルヌイ基地からのトラバースで物資を輸送する。豪州はドームC周辺での深層掘削の準備のためにケーシー基地からの内陸トラバースを行う。ベラルーシは2021年3月からの越冬開始に向けて、タラヒルズ拠点(ロシア・マラジョージナヤ基地近傍)の居住区、発電機、造水、衛星設備、医療設備の整備を行う。英国はロゼラ基地の改修作業を実施中で、シーズン終盤の航空機の離発着に影響が出る可能性がある。
・ドロンイングモードランド分科会
日本、独、ノルウェー、スウェーデン、フィンランド、中、米、露、英、南ア、ベルギー、印、オランダ、ベラルーシが出席し、2018/19シーズンの活動報告、2019/20シーズンのフライト・船舶運航予定、観測計画概要に関する情報提供と意見交換を行った。議長(Uwe Nixdorf・ドイツ)からATCMにおける航空機安全にかかわる議論の紹介があった。観光業者White Desert社から2018/19シーズンにガルフストリームで23回の大陸間フライト実施したこと、2019/20シーズンにはバスラー機を2機導入予定であるとの報告があった。
・その他の地域会合のトピック
ロス海分科会議長(米国)、南極半島分科会議長(ポーランド)から分科会の議論の概要が報告された。新砕氷船の就航が相次いでおり、長期間の運航計画と、複数国の共同利用についての検討が必要ではないかとの提案があった。


3.専門家グループ分科会

・安全/航空オペレーション専門家グループ合同分科会
2019年4月に開かれた第3回COMNAP SARワークショップ、およびATCMにおける航空安全に関する議論のレビュー、雪龍号の氷山衝突事故およびマクマード基地での死亡事故紹介、アークティックトラック社が行ったGPRワークショップの報告、ロゼラ基地およびスコット基地の改修計画の紹介があった。
・先端技術/海洋プラットフォーム専門家グループ専門家グループ合同分科会
リチウムイオン電池の専門家による招待講演、マイクロタービン発電機の導入(BAS/英)、カーボンフットプリントの導入アイディア(IPEV/仏)、Polar Codeにおける音響ノイズ対策(IMO)、衛星画像ポータルPolar View(BAS)、衛星受信アプリIce Pad(Polar Service)、海洋観測用グライダー、UAV、マルチビームUSVなどの紹介があった。


4.教育・アウトリーチワークショップ

ブルガリア南極研究所が主催する半日間のワークショップが行われた。仏、日本、伊、葡、米、英、西、トルコ、ブルガリアの9か国が口頭発表を行った。橋田は極地研が主導する広報活動(一般公開、南極教室・授業、南極・北極コンテスト、ジュニアフォーラム、広報誌、南極・北極科学館等)を紹介し、その多様さや規模の大きさを評価するコメントが多数寄せられた。


5.SCAR/CCOMNAP連合医学医療専門部会 JEG-HBM(joint meeting Expert Group of Human Biology & Medicine)

・日本、英、仏、独、フィンランド、豪、ブルガリア、露、中、米が参加して、南極高所行動、ヒョウアザラシ対策、潜水病治療などの指針案など、医療医学の報告と議論が行なわれた。
・出発前の健康判定では約1割が不適判定になっていることが報告された。
・緊急搬出は全体で13件が示され、現地での医療、搬送の方法などを議論した。これら
重症例では遠隔医療が有用だった。搬送の航空機手配や、南極半島における基地間医療連携など緊急時の国際的医療協力が現実に進行している。
・日本からは越冬中の医療状況、遠隔医療および緊急搬出の事例報告と極地研で例年開催している医学医療ワークショップの報告を行い、その規模、内容、国際性が評価された。特に、ドーム旅行隊の生理学的検査は高所における人体の変化を的確に示し注目された。
・2020年は、高所医学・医療に関するシンポジウムを開催する。


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