3-4.第61次南極地域観測隊越冬隊の現況(令和2年2月~5月)

1.気象・海氷状況

2月

全体を通して降雪がほとんど無かった。晴れた日が多く、2月の日照時間としては歴代1位を記録した。月平均気温は平年よりやや低めであったが、日射によりオングル島内や海氷上の融雪(氷)が進みオングル海峡大陸縁の開放水面が拡大した。
 

3月

気圧の谷や低気圧接近の影響で、曇で風の強い日が多かった。12日夜から13日朝にかけて今次隊初となるブリザード(C級)があり、初めて外出注意令を発令した。海氷状況については、オングル海峡大陸縁の開放水面は吹雪のたびに拡大し、しらせの往路航跡 (接岸地点) まで海水面が広がった。南側はラングホブデ氷河まで海水面が続いており、テーブル氷山の漂流が見られた。弁天島から西側の定着氷にも依然開放水面が広がっており、またリュツォ・ホルム湾南西側の亀裂も拡大した。

4月

上中旬は、北海上を通過する低気圧の影響で、曇や雪の日が多く、気温も平年よりも高めで推移した。下旬は高気圧に覆われ晴れた日が多くなった一方で、気温は平年よりもかなり低くなった。中旬にB級、下旬にC級ブリザード1回ずつが認定されたが、下旬には大陸や海氷上にも雪がなくなり、視程はそれほど悪くならなかった。海氷状況については、3月に拡大したオングル海峡大陸縁の開放水面は徐々に凍結し始め、中旬には開放水面が無くなり、下旬には氷厚30cmまで成長した。弁天島から西側の定着氷の開放水面や亀裂は拡大・収縮を繰り返している。14日には昭和基地西方に開放水面とウォータースカイを視認した。その後、開放水面などは見られなくなった。

5月

周期的に低気圧が接近し、暖かい空気が流れ込む日が多かったことから、月平均気温が高くなり、5月の月平均気温の高い方から歴代5位タイとなった。2-4日、8-9日、19-21日に20m/sを超える強風のため外出注意喚起を行ったが、雪を伴わず視程が悪くなることはなかった。27-28日の荒天は、B級ブリザードとなり、外出注意令を発令した。海氷状況については、3月に拡大したオングル海峡の開放水面は氷厚60cm超になった。開放水面南側、長頭山周辺は乱氷帯となっている。衛星画像(SAR画像)によると、弁天島西方からリュツォ・ホルム湾の南側にかけて大きな割れ込みの存在が示唆される。氷状の現地調査の結果、昭和基地から弁天島までは十分な氷厚があるが、弁天島の周辺には結氷したばかりと思われる表面が湿った海氷域が存在する。弁天島からの視認では開放水面は確認できない。
 

2.基地活動

2月

1日に青木隊長、熊谷副隊長及び竹内艦長立ち会いのもと、第60次越冬隊との越冬交代式を執り行った。4日午前の最終便で、青木隊長らが「しらせ」に戻り、越冬隊30名での越冬生活を開始した。20日越冬成立を宣言し、福島慰霊祭を執り行い、越冬隊全員で1年間の観測・設営活動の安全を誓った。24日に管理棟から東地区の海氷側の一斉清掃、25日に第61次隊初の消防訓練を実施した。29日の第1回全体会議で、第61次越冬内規の改定案が承認され、正式決定した。

3月

7日に天測点周辺で一斉清掃を実施し、2トントラック5台分のゴミを回収した。越冬期間中の野外行動に備え、海氷安全講習、スノーモービル講習、南極安全講習を実施した。26-27日には、医療隊員による初めての定期健康診断が行われた。

4月

通常の観測・設営作業に加え、野外行動に向けた訓練や講習を実施した。中下旬から天候にも恵まれ、とっつき岬、西オングル、ラングホブデ方面へのルート工作を実施した。3月は荒天により実施できていなかった消火訓練を21日に実施した。
先月の健康診断時に疾病が判明した隊員を緊急搬送する方針が1日に決まった。マラジョージナヤ基地沖に停泊中のロシア観測船アカデミック・フェドロフ(AF) 号による早期帰国者 (当該隊員と同行する医療隊員) のピックアップ、南アフリカのケープタウンまでの搬送協力が得られ、9日にロシア隊のヘリが昭和基地Aヘリポートに飛来し、早期帰国者をAF号に収容した。以降、AF号がケープタウンに到着するまで、定時交信を通して航海のサポートを続けた。

5月

先月に引き続きラングホブデ方面、弁天島へのルート工作を行った。また、気象・気水部門合同で、S16/17地点に宿泊を伴う野外観測を実施した。22日に消火訓練を実施した。早期帰国者は22日に無事に日本に到着、昭和基地からは帰国まで行動をサポートした。

3.観測

2月

各観測を概ね順調に継続している。4-5日にVLBI観測を実施した他、28日より宙空圏モニタリングのオーロラ光学観測が始まった。重点研究観測のミリ波分光計観測装置も着々と立上げ作業が進んでいる。第61次隊で設置したハイボリュームサンプラー観測も順調である。

3月

医療部門の健康診断に併せて、極限環境下における南極観測隊員の医学的研究の検体採集を行う等観測計画を着々と進めている。10-11日にVLBI観測を実施した。

4月

7日には先月実施できなかった地磁気絶対観測を行った。16日に実施した重点研究の特殊ゾンデ観測は機器トラブルによりデータ取得ができなかったため、今後の実施に向け原因の特定と対策を続けている。24日に大型大気レーダーPANSY観測にノイズ異常が発生したが、すぐに原因調査と対処を行い、欠測を最小限に抑えた。とっつきルートの開通により、雪尺測定を実施した。

5月

太陽高度が低くなったことに伴い、気象部門のオゾン分光観測、気水圏部門のスカイラジオメータなどは、月光観測に切り替わった。また、気象部門のエーロゾル観測、気水圏部門の全天カメラ観測は19日に極夜期間の休止に入った。11-13日の宿泊を伴うS16/17気象・気水圏部門合同オペレーションで、自動気象測器の保守、ルート上の積雪サンプリングや雪尺測定を実施した。12-13日にVLBI観測を実施した。公開利用研究の南極移動基地ユニットは、コンテナヤード横の雪面上に移動したのち、組立てに必要な精度での雪面整地を実施して、設置、連結施工、外装及び内装施工 (実証試験含む)が完了した。来月からユニット内の環境計測を開始する。

4.設営

2月

1月末までに気象棟の解体・撤去、放球デッキ新設作業などが完了し、その後は荒金ダム循環配管のルート変更と配管支持の補強、循環ポンプ架台の新設、現在使用不能の配管や架台の撤去工事を実施した。また、観測倉庫の脇にあった2つのカブース倉庫を撤去した。5日に汚水処理膜交換作業、8日に厨房機器の更新作業を行った。

3月

消火ポンプの更新、それに付随した管理棟給水ポンプの移設作業、3日に壊れた発電棟の第2冷凍庫の外扉の修理を実施した。見晴らし岩からCヘリポート間の燃料配管付近で、雪に埋もれた足場材などを回収した。観測倉庫の屋根、床などの穴開き部を補修したが、床の腐食が進んでいて危険であることから、立入りを制限することとした。

4月

先月から見晴らし岩付近の海岸線に残置されていた橇を引き出し、ほとんどを回収した。使用できない橇は解体やコンテナヤードに残置した。とっつきルートの開通により、とっつき岬にデポされている燃料橇などの引き出しを行った。

5月

とっつき岬にデポされていた空橇、観測橇、幌橇など計13基を昭和基地に持ち帰り、順次修理を行っている。

5.その他

越冬交代式後から最終便までの期間が短かったこともあり、交代後も残留する第60次越冬隊の一部ならびに第61次夏隊すべてが居住棟の部屋を使って寝泊まりする体制とした。結果として最終便まで一体感を持って作業にあたることができ、各種作業・生活の効率化が図れた。
情報発信としては、2月2日にはインスタグラムライブ中継を実施した。また、定期的に観測隊ブログを公開している。3月に予定していた南極中継は、国内状況により中止または延期となった。また、5月までに予定されていた南極教室(学校との交信イベント)は、国内状況により実施できなかった。その代替として南極教室対象校向けに5月27日に朝日新聞共催のYoutubeライブ配信を行った。
4月末にミッドウィンター祭実行委員会が立ち上がり、6月の開催に備えて委員会主導で企画立案や準備作業が進められている。
 なお、この間の傷病者数は延べ55人であった(歯科3、内科12、外科7、整形外科21、眼科2、皮膚科8、精神科2)。うち、整形外科の1件は右上腕骨近位端骨折であり、ケーブル伝送用の支柱の足場に上って作業をしていたところ、受傷した。現在もリハビリテーション継続中である。また、内科の1件は、前述の早期帰国のケースであり、現地で治療が困難な疾病に罹患している可能性が高いと判断されたものである。

お問合せ先

研究開発局海洋地球課

極域研究振興係
電話番号:03-5253-4111(内線4144)・03-6734-4144(直通)