3-2.第60次南極地域観測隊越冬隊活動報告

1.昭和基地の維持管理と越冬隊の運営
2019年2月1日~2020年1月31日の期間、越冬隊31名による昭和基地での観測設営活動を計画通り実施した。昭和基地においては越冬期間全体を通して中小規模のブリザードが多く到来し、特に極夜期の屋外行動は著しく制限された。近年の隊とは異なり、昭和基地近傍に開放水面は生じなかった。内陸旅行、DROMLANおよび61次隊の受け入れを計画通り実施した。

2.基本観測

電離層・気象・潮汐・測地部門の定常観測、および宙空圏・気水圏・地圏・生態系変動、地球観測衛星データ受信を対象領域とするモニタリング観測を概ね順調に実施した。気象棟から基本観測棟への気象業務移転作業は計画通り12月初めに完了した。

3.研究観測

重点研究観測及び一般・萌芽研究観測を概ね順調に実施した。重点研究観測サブテーマ1「南極大気精密観測から探る全球大気システム」において大型大気レーダーによるフルシステム連続観測を2015年より継続して実施した。冬期には南極域では稀な成層圏突然昇温現象が発生し、観測装置群による貴重なデータが取得された。一般研究では中継点旅行での観測(自動気象装置の設置、ゾンデ観測等)を実施した。

4.設営作業・野外行動

設営各部門が担当する昭和基地等における各種作業を、当初の計画通り概ね順調に実施した。年間通じて基本観測棟設備工事を行い、内部で職務可能な状態に仕上げて61次隊に引き継いだ。極夜期前よりルート工作を開始し、各種沿岸調査などを行い、10月には内陸旅行を実施した。一方、とっつき岬手前の大きな海氷上クラックが9月に発達した影響で重量物の輸送に大きな制約が生じ、9期後半に予定されているドーム旅行用の大量の燃料ドラムを昭和基地から移送することはできなかった。


5.ドロンイングモードランド航空網(DROMLAN)への対応

昭和基地滑走路及び大陸のS17滑走路を整備した。昭和基地滑走路では計6便を受け入れ、航空燃料補給、および通信と気象情報の提供を行った。S17航空拠点の利用はなかった。


6.情報発信
インテルサット衛星通信設備を使用した南極教室やライブトーク等の企画を実施した。うち1件はヨルダン日本語補習授業校と、もう1件は国連パレスチナ難民救済事業機関等との協力によるガザ地区の子供たちとの南極中継であった。「昭和基地NOW!!」を29回掲載した他、テレビ番組への出演、地方紙・機関誌・子供雑誌等への記事提供や寄稿を行った。


1.昭和基地の維持管理と越冬隊の運営


2019年2月1日、59次隊から基地運営を引き継いで60次越冬隊31名は越冬生活を開始した。越冬中は観測・設営とも概ね順調に作業を行うことができた。越冬を通じて中小規模のブリザードが計33回と多数到来し、特に極夜期は屋外行動が著しく制限されるなど、全体的に晴天は少なめの傾向にあった。昭和基地近傍の海氷は越冬期間を通じて過去数年のような大きな割れ込みは生じなかったが、4月下旬にリュツォ・ホルム湾内において弁天島西側までの海氷割れ込みが発生した。越冬期間終盤まで割れた氷盤が次第に細かく崩壊して北に流出する傾向が続いて完全に再凍結にいたることはなく、慎重に状況を見ながら野外行動計画を立案し実施した。
越冬序盤は、物資整理や残雪の除去作業など極夜期に向けた作業を精力的に実施した。また越冬期間を通じて基本観測棟内装および電気・設備工事を継続して進め、極夜明け後の気象棟から基本観測棟への気象業務移転および61次隊による気象棟解体工事に向けた準備を行った。一方、取水・造水・汚水処理などの水周り設備については老朽化や積年の整備不足のために前次隊から引き続き問題となっており、改善が必要である。
10月末から11月初めかけてDROMLAN用に昭和基地沖の海氷上やS17での滑走路を整備し、昭和基地沖滑走路において燃料補給のための計6機の航空機を受け入れた。
見晴らし岩周辺のしらせ接岸候補地点の調査は8月より開始し、定期的に氷厚や積雪量などを測定して南極観測センターおよび61次隊に情報を伝え、11~12月には特に頻繁に連絡をとって接岸位置を選定し、無事、1月初めに接岸となった。2020年1月31日までに全ての基地作業・観測・引き継ぎを終え、翌2月1日には基地運営を61次隊に引き継いだ。61次復路の海洋観測のため、通常よりも早めの最終便となる2月4日には、残作業に携わった60次越冬隊員もすべて「しらせ」に戻った。
なお、従来、設営系隊員は毎朝のミーティングを行って作業内容の打ち合わせや確認を行ってきているが、観測系隊員には特にそのような仕組みはなかった。60次隊では、観測系隊員間の連携を強めて設営系隊員とも作業相談がよりしやすい状況を作るため、まずは週1回の観測系ミーティングを隊長から提案した。次第にミーティングは活発化し、越冬途中からは毎朝のミーティングに自発的に発展し、協力体制が強化された。今後の越冬隊運営のテストケースになると思われる。


2.基本観測


電離層・気象(地上気象、高層気象、オゾン、日射・放射、天気解析等)・潮汐・測地部門の定常観測、および宙空圏(オーロラ、自然電磁波、地磁気)・気水圏(温室効果気体、雲・エアロゾル、氷床質量収支)・地圏(重力、地震、GPS、VLBI)・生態系変動(ペンギン個体数調査)、地球観測衛星データ受信を対象領域とするモニタリング観測を概ね順調に実施した。
 

3.研究観測


重点研究観測テーマ「南極から迫る地球システム変動」サブテーマ1「南極大気精密観測から探る全球大気システム」として、南極昭和基地大型大気レーダー(PANSYレーダー)、近赤外大気光イメージャー、OH大気光回転温度計、MFレーダー、イメージングリオメーター、高速オーロライメージャー、プロトンオーロラスペクトログラフ、近赤外オーロラ・大気光分光計、各種ゾンデによる観測を実施した。PANSYレーダーは、フルシステムによる1年間の連続観測を実施した。9月には、南極域では非常に稀な成層圏突然昇温現象が発生し、PANSYレーダーを軸とした各種装置による複合観測を実施して、貴重なデータが得られた。
一般・萌芽研究観測では、「南極昭和基地での宇宙線観測による宇宙天気研究の新展開」、「無人システムを利用したオーロラ現象の広域ネットワーク観測」、「SuperDARNレーダーを中心としたグランドミニマム期における極域超高層大気と内部磁気圏のダイナミクスの研究」、「電磁波・大気電場観測が明らかにする全球雷活動と大気変動」、「全球生物地球化学的環境における東南極域エアロゾルの変動」、「東南極における氷床表面状態の変化と熱・水循環変動の機構」、「地震波・インフラサウンド計測による大気-海洋-雪氷-固体地球の物理相互作用解明」、「極限環境下における南極観測隊員の医学的研究」、及び「無人航空機による空撮が拓く極域観測」の各課題を実施した。「東南極における氷床表面状態の変化と熱・水循環変動の機構」においては、10~11月に内陸旅行を実施してMD78にAWS(自動気象観測装置)を設置し、移動中にはゾンデ観測や雪尺観測などを併せ行った。
また、公開利用研究として、「吹雪の広域自動観測と時空間構造の解明による南極氷床の質量収支の定量的評価」、「南極環境における光合成生物の光応答と適応プロセスの解明」、「木星の極域ヘイズの偏光観測」を実施した。

4. 設営作業・野外行動


計画されていた各種設営作業を、当初の計画に従い実施した。基本観測棟については、越冬期間を通じて内装工事および電気・空調・水周りの設備工事を進め、12月初めには気象棟から気象業務を移転した。気象棟は配電を止め、可能な限り什器なども搬出し、61次による気象棟解体の準備を整えた。11~12月には60次夏期間に実施できなかった倉庫棟屋根の防水工事を行った。なお、60次隊では圧雪車(ゲレンデ整備車)の操作に長けた機械隊員が参加したため、荒天の度に効率よく除雪作業を行い、基地全体が越冬期間を通して積雪の少ない状態を維持した。そのため上記の夏初期の気象業務移転および倉庫棟工事の準備も効率よく進んだ。
一方、取水・造水・汚水処理の各設備には、老朽化や積年の整備不足により問題が多い。荒金ダム域は、積雪の多い近年の状況のために、前次隊から引き続いて雪による埋没が深刻であった。3月に予備配管を設置して水循環配管の凍結に備え、越冬序盤より取水口エリアの人力による除雪を繰り返し精力的に行った。設備の老朽化の影響もあり、残念ながら7月末に既設配管が全面凍結して予備配管への切り替え作業を余儀なくされたが、定常的な除雪作業が功を奏して比較的速やかに水循環を復旧することができた。今後、配管設備の全面的な更新と東部地区除雪計画の見直しなどが必要である。また、汚水処理設備は当初計画通りの性能が出ておらず、担当隊員の努力にも拘わらず処理が間に合わなくなる事態が頻発した。夏隊員も利用する夏期には明らかに処理能力が足りておらず、設備全体の見直しや再整備が避けられない状態である。
ルート工作は4月から開始し、S16にも4月中に宿泊するなど比較的順調に進めた。しかし、4月末にリュツォ・ホルム湾の海氷の大きな割れ込みが生じた後は、海氷状況を慎重に見極めながら行動することとした。続く5~6月は荒天傾向が強かったこともあり、野外行動は基地の近傍にとどめ、レスキュー訓練など極夜明け後の準備に努めた。7月からはルート工作と各種野外観測を再開し、10月にはMD78にいたる内陸旅行を実施した。一方、とっつき岬手前の大きな海氷上クラックが9月に発達した影響で重量物の輸送に大きな制約が生じ、9期後半に予定されているドーム旅行用の大量の燃料ドラムを昭和基地から移送することはできなかった。また11月は気温が高い傾向が続いて沿岸ルートの海氷状況の悪化が進み、月末には野外宿泊オペは終了とし、12月上旬の基地近くの日帰りオペをもって基本的に野外オペは終了とした。

5. ドロンイングモードランド航空網(DROMLAN)への対応


2019/2020シーズンのフライト計画に従って、昭和基地及び大陸上航空拠点(S17)滑走路造成と JetA-1航空用燃料の提供、通信と気象情報提供を行った。昭和基地滑走路は海氷厚が1m以上で滑走路としての広さを十分に有する、昭和基地の北北東にある多年氷帯(58次隊整備箇所とほぼ同じ)に造成した。
昭和基地滑走路には11月3~13日にかけて計6便(すべて外国基地間の輸送に伴う燃料補給便)を受け入れ、航空用燃料(JetA-1)を提供した。3日には、連続して2機が飛来する、昭和基地においてはおそらく初めてとなる運用が行われた。S17滑走路については、61次隊同行者の一部の帰国のために使用が見込まれていたが計画変更に伴いフライトキャンセルとなり、また非常時利用の要請も無く、2019/2020シーズンには使用されなかった。


6. 情報発信


南極観測による学術的成果や観測隊の活動状況を広く社会に発信するため、インテルサット衛星通信設備によるインターネット常時接続回線を利用した動画中継により、国内外の小・中・高等学校等と昭和基地を結ぶ南極教室、および国立極地研究所南極・北極科学館におけるライブトークをはじめとする国内の各種企画を実施し、越冬活動の紹介や児童・生徒からの質問に答えるなど、アウトリーチや広報活動を通じて南極観測の意義や南極の自然について次世代を担う子ども達に伝えた。使用装置は、契約更改に伴い従来のTV会議システムからZOOMに切り替えて実施した。やや急な切り替え措置で予備装置の不足が心配されたが、幸い越冬期間を通じて大きなトラブルも無く運用できた。中継のうちの2件は、国連パレスチナ難民救済事業機関ガザ事務所とヨルダン日本語補習授業校から依頼のあったもので、ガザとヨルダンの子ども達に向けて南極中継を英語にて実施した。11月に開催された南極北極ジュニアフォーラム2019において、前年の「第15回中高生南極北極科学コンテスト」で南極北極科学賞に選出された2課題のデータ取得報告を行った。観測隊公式ホームページ「昭和基地NOW!!」には、日常的な話題から29件の原稿を作成して掲載した。その他、TV番組への出演、地方紙・機 関誌・子供向け雑誌等への記事提供や寄稿を行なうなど、昭和基地から積極的に情報を発信した。た
 

7.その他


4月末に発生した弁天島西側に迫るリュツォ・ホルム湾の海氷割れ込みについては、越冬期間を通じて昭和基地上空からのドローン撮影や、弁天島に赴いての偵察などを行ってワッチを続けた。しらせ接岸候補地点調査は8月より開始し、1ヶ月ごとに調査情報を国内に伝えた。接岸候補域である見晴らし岩周辺の海氷は59次隊の越冬明けとよく似た状態で推移していたため、59次隊による調査方法に倣い、見晴らし岩の東および北側の2年氷域を中心に15点を選定して面的に積雪・氷厚・フリーボードを測定した。11~12月にかけては日照時間が長くかつ気温の高い期間が続いたため、海氷上の積雪が大幅に融け、その後の再凍結を経て青氷化が進んだ。61次隊および南極観測センターと頻繁に情報交換して、しらせ接岸ポイントを接岸直前まで慎重に選定した。無事1月初めに接岸し、引き続いて各種観測および設営作業が実施された。
なお、昭和基地で使用せずに期限切れとなった医薬品(医療用麻薬)を「しらせ」船上で誤廃棄する事案が起きた。帰国後、速やかに東京都に連絡し、国立極地研究所の管理体制等の調査を受けた後、更なる管理体制の改善策を盛り込んだ報告書を提出した。

お問合せ先

研究開発局海洋地球課

極域研究振興係
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