南極地域観測第Ⅹ期は、第64次から第69次までの6か年とする。
第Ⅹ期では、現在進行中の南極地域観測第Ⅸ期計画の中間評価結果、国際的な研究動向および長期的な構想等を踏まえつつ、学術研究の基礎となる観測や社会的要請の高い観測に幅広く取り組み、人類の知的好奇心の刺激と社会的課題の解決の双方に貢献することを目指して、観測計画を立案する。また、観測計画を支える着実な設営計画の遂行と観測推進基盤の効率的な運用を重視するとともに、社会と共に創る観測事業を目指し社会との連携強化を推進する。
なお、これら計画推進に当たっては、南極地域観測事業が南極条約体制という国際的な枠組みのもと進められていることを重視し、国際連携と国際貢献の観点を念頭に置く。
観測計画は、学術研究に不可欠で国際的または社会的要請の高い科学観測データを継続的に取得することを目的とする基本観測と、独創的・先駆的な研究を行うことを目的に時限を定めて実施する研究観測からなり、それぞれ以下のような区分とする。
(1) 基本観測は、国の機関(情報通信研究機構、気象庁、海上保安庁、国土地理院及び文部科学省)が責任を持って実施する定常観測と、国立極地研究所が長期的視野に立って研究コミュニティの意向を踏まえつつ実施するモニタリング観測とに区分して実施する。
(2) 研究観測は、社会的要請や国際的な研究動向を踏まえ特に今日的価値が高いテーマに研究分野を越えて集中的に取り組む重点研究観測、研究者の自由な発想を基に実施する一般研究観測、将来の研究観測の新たな発展に向けた萌芽研究観測の3区分で実施する。
(3) 重点研究観測ではメインテーマ「過去と現在の南極から探る将来の地球環境システム」のもと、以下の3つのサブテーマを設定するとともに、サブテーマが一体となりメインテーマを推進する体制とする。
サブテーマ1:最古級のアイスコア採取を軸とした古環境研究観測から探る南極氷床と全球環境の変動
サブテーマ2:氷床―海氷―海洋結合システムの統合研究観測から探る東南極氷床融解メカニズムと物質循環変動
サブテーマ3:大型大気レーダーを中心とした観測展開から探る大気大循環変動と宇宙の影響
(4) 一般研究観測・萌芽研究観測の実施にあたっては、研究者の自由な発想を重視する観点から研究ニーズに合わせて実施期間等を見直すとともに、新規参入の拡大を目指して毎年公募を実施し、機動的な観測開始を可能とする。
観測事業が研究者にとって良質な研究基盤として機能するためには、着実な設営計画の遂行が欠かせない。第Ⅹ期の設営計画では、継続性に加え、ポストコロナ時代を見据えた基地運営のリモート化等を視野にデジタルトランスフォーメーションを推進しつつ、特に以下の3点に重点的に取り組む。
(1) 老朽施設の更新を着実に進め、昭和基地機能の強靭化を図る。
(2) 第3期ドームふじ氷床深層掘削計画を遂行するための内陸観測拠点を整備する。
(3) 環境負荷低減の観点から、再生可能エネルギーの有効利用と過去の廃棄物に対する対策を進める。
観測を推進する重要な基盤としての船舶及び航空機の運用に当たっては、以下の2点を踏まえつつ、観測計画に応じて最適な運用を目指す。
(1) 南極観測船「しらせ」は昭和基地への輸送を基礎としつつ、各年の観測目的に応じ柔軟かつ機動的な運用を行う。また、「しらせ」では実施できない観測のために別の観測船を運用する。
(2) 夏期活動期間の延長、隊員出張期間の短縮、観測域の広域化や緊急時の備えとしての航空機の運用を、国際連携により拡大する。
南極で科学的価値の高い観測を継続していくためには、観測事業が魅力にあふれ、社会から求められるものであり続けなければならない。そのため、以下のような社会との連携を積極的に進め、社会と共に創る観測事業を目指す。
(1) 観測事業のオープンサイエンス化を進め、データ・成果公開等の社会還元を強化する。
(2) 昭和基地等の観測事業のプラットフォームを開放する等により、民間とのパートナーシップ拡大を図る。
(3) 学校教育現場と観測現場の連携を深化するとともに、大学院生参加数拡大の方策を講じる。
(4) 社会との対話・協働を進めるため、多様なメディア・イベントを通じて国民との双方向コミュニケーションを図る。
極域研究振興係
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