9.南極地域観測第10期6か年計画に向けて

【南極地域観測第9期6か年計画(抜粋)】(平成27年11月9日南極地域観測統合推進本部)

2.基本的な考え方【ポイント】(P6)

○ 地球規模の気候変動システムの理解と、気候の将来予測は大きな社会的要請であり、これに応えるべく、全球気候変動の鍵である南極域の総合的な精密観測を通して、進行している環境変動シグナル及びその影響の検出を目指す。地球システムにおける現在と過去の南極サブシステムの変動、サブシステム内の相互作用の解明及び南極域の変動と地球システム変動との関係を明らかにすることを目的に、重点研究観測メインテーマ「南極から迫る地球システム変動」及びその3つのサブテーマを一般研究観測や基本観測と連携しつつ推進する。
○ 「重点研究観測」、「一般研究観測」、「萌芽研究観測」の3種類の研究観測及び「定常観測」、「モニタリング観測」の2種類の基本観測は、国家事業たる南極地域観測事業として実施。「公開利用研究」も継続する。
○ 上記の各種観測を支える設営活動においては、昭和基地における再生可能エネルギー利用の促進、環境保全対策、老朽化設備の更新、建物・施設の再配置、内陸への輸送能力向上の検討などを計画。同時に、安全で効率的な観測支援体制を充実する。
○ 観測・設営両面において国際連携の強化を主導的に進め、南極地域観測事業の成果や活動について利害関係者等へ分かり易い情報を発信するとともに、教育関係者・大学院学生の観測隊への参加を通じ、学校教育との協力や次世代人材育成を図る。


3.観測計画の概要【ポイント】(P9)

○ 測計画は、「研究観測」と「基本観測」の2分野に分けて策定。
○ 研究観測は、「重点研究観測」、「一般研究観測」、「萌芽研究観測」の三つのカテゴリーに区分。
○ 重点研究観測策定は、科学的意義や国際的役割が高い課題を重視し、「南極から迫る地球システム変動」をメインテーマとして、以下の三つのサブテーマを軸に分野横断的な研究観測を実施。
 1.南極大気精密観測から探る全球大気システム
 2.氷床・海氷縁辺域の総合観測から迫る大気?氷床?海洋の相互作用
 3.地球システム変動の解明を目指す南極古環境復元
○ 一般研究観測や萌芽研究観測については、公募提案に基づき科学的意義や研究の新規性・独創性等を評価して研究課題を抽出し、実行可能性を勘案して実施計画を決定。
○ 基本観測は、国際的・社会的要請が高い科学的データを継続的に取得し公開するものであり、定常官庁が担当し国の責務として実施する「定常観測」と、国立極地研究所が研究者のニーズに基づいて実施する「モニタリング観測」に区分して実施。


5.設営計画の概要【ポイント】(P17)

○ 再生可能エネルギーの利用促進と環境保全対策
○ 老朽化した基地設備の更新と集約
○ 安全で効率的な基地維持と隊員の負担軽減
○ 内陸での観測活動の展開に備えた輸送能力向上の検討


6.観測支援体制の充実【ポイント】(P19)

○ 安全で効率的な観測の推進に向けた、施設・設備面の計画的整備と運用の効率化、及び国内準備段階における安全対策訓練の充実。
○ 国際連携を図りつつ、航空機利用を拡充して推進する観測の広域化・多様化。
○ 国内外の連携関係にもとづく海洋観測プラットフォームの効果的利用の継続と発展。


11.次期(第10期)以降の中期計画の展望(P24)

第Ⅷ期計画に続き、第9期計画では、全球的視野、国際貢献などの観点から、必要性の高い研究観測を重点研究観測として選定した。急速に顕在化する温暖化の影響において、東南極域はそのシグナルはまだ多いとは言えない。しかし、ひとたび変化が起これば地球環境に多大な影響を及ぼす事は間違いなく、現時点では温暖化を抑制する最後の砦となっているとも言える。SCAR が平成26年に公表した長期構想プラン「SCAR Horizon Scan」では、重要課題が絞り込まれたとはいえ、その対象は極めて多様である。次期(第10期)計画以降においてもこれら課題に挑むためには、昭和基地の運営を効率化するとともに国際連携を最大限に推し進め、他地域への観測展開を図ることが求められる。また、観測計画の選定、実施、評価を迅速に行い、優れた観測計画に設営リソースを重点的に投入することも重要である。
 なお、「SCAR Horizon Scan」でも課題として取り上げられているように、地球環境問題等を通じて、人類社会における極域の重要性が増しつつある現在、人文・社会学系の研究の必要性も考慮する。

○ 第10期計画では、昭和基地における大型大気レーダー(PANSYレーダー)観測を安定的に継続実施することに加え、氷床深層掘削を中心とするドームふじ基地周辺などの内陸域での観測や、プリンセスエリザベス基地などドロンイングモードランド沿岸部に展開する広域的な調査・観測が見込まれる。第10期計画における昭和基地の観測と運営、ドームふじ基地への物資輸送及び広範囲に展開する野外活動を効率的に実施するために、第Ⅷ期計画の評価結果の積極的活用及び第9期計画の実施状況を勘案した緻密な第10期計画の策定を行う。また、内陸への輸送や東南極域の広域な展開を目指す無人観測ネットワークの構築などにおいては、国際連携を積極的に活用して、合理的運営を第10期計画に反映させる。

○ 観測隊の活動規模は増加し、活動内容は多様化し続けているが、隊員と同行者という参加者区分による構成が観測隊の運営の効率化を図る観点から妥当であるか、多面的な検討を行う。

○ 国際的な要請も高い基本観測については、質の高いデータを安定して長期的に蓄積していくことが引き続き求められる。顕著に進歩している計測技術を南極という過酷な環境下でも最大限に生かすべく、観測環境の整備・点検を進める。また基本観測の成果が、将来の新たな研究計画の立案、実施に結びつくよう、データ公開と利用促進のための取組はますます重要となっている。このため、積極的に有用な最先端技術を取り入れ、情報通信体制を活用した現地と国内の連携も強化させるとともに、国際的に活用されるデータベースを充実させる。

○ 第Ⅷ期計画では、「しらせ」接岸不能時に生ずる輸送量の制限から、基本観測及び重点研究観測などに活動の重点を絞り込んだ複数の輸送計画策定と越冬観測設営計画の見直しを繰り返し行った。これにより、一定の観測を維持継続するために必要な越冬隊の規模に関する基本的な情報が得られた。これらを踏まえて、越冬隊の活動の一層の効率化を進めるとともに、航空機の効果的な利用や、「しらせ」の接岸可否に左右されない輸送戦略の検討など、隊員の移動や物資輸送の多角化の方策を探る。また、内陸への物資輸送拠点として、昭和基地以外に適切な場所があるかを調査した上で、内陸活動計画に応じた新たな内陸輸送ルートを設定する。さらに、氷床深層掘削拠点となる内陸新基地の建設を行う。

○ 現地活動を継続する中で、環境保全に対する取組を一層強化するとともに、南極地域における観測活動が自然に与える影響をモニタリングする累進的環境影響評価を具体的に実施する。フィールドサイエンスの最前線である南極地域観測を国家事業として継続、発展させることの重要性の認識を堅持し、観測事業を通じて我が国のプレゼンスの向上を図る。

スケジュール(イメージ)

【2019(令和元)年10月 外部評価委員会】
  ・第9期計画中間評価案の審議


【2019(令和元)年10月 観測・設営計画委員会】
・第10期計画に向けた意見交換


【2019(令和元)年11月 本部総会】
  ・第9期計画中間評価の決定
  ・第10期計画に係るスケジュールの決定
  ・第10期計画(案)策定を観測・設営計画委員会に付託

 〔極域科学シンポジウム〕


【2020(令和2)年3~6月 観測・設営計画委員会】
  ・第10期計画メインテーマ(案)の決定


【2020(令和2)年6月 本部総会】
  ・第10期計画メインテーマの決定


【2020(令和2)年10~11月 観測・設営計画委員会】
  ・重点研究観測の内容を含む第10期計画(骨子案)の決定


【2020(令和2)年11月 本部総会】
  ・第10期計画(骨子)の決定

 〔2021(令和3)年4月 観測・設営計画委員会委員の改選〕


【2021(令和3)年4~6月 観測・設営計画委員会】
  ・第10期計画(1次案)の決定


【2021(令和3)年6月 本部総会】
  ・第10期計画(1次案)の確認


【2021(令和3)年10~11月 観測・設営計画委員会】
  ・第10期計画(最終案)の決定


【2021(令和3)年11月 本部総会】
  ・第10期計画の決定

 〔2022(令和4)年4月 第10期計画の開始〕

お問合せ先

研究開発局海洋地球課

極域研究振興係
電話番号:03-5253-4111(内線4144)・03-6734-4144(直通)