4.第61次南極地域観測隊越冬隊の現況(令和2年6月~9月)

1.気象・海氷状況

6月

13~15日のA級ブリザード時には外出注意令に加え、今次隊初となる外出禁止令を発令した。このブリザードにより積雪が増えたため、20~22日の荒天時も地吹雪となり、21日の夕方から22日の朝にかけてC級ブリザードとなった。海氷状況については、中旬以降、表面が雪に覆われ裸氷が見られなくなった。これ以外に海氷の変化は認められなかった。

7月

上旬は高気圧に覆われ晴れて最低気温が-30度を下回る日が多く旬平均気温は平年よりもかなり低かった。一方、中下旬には低気圧の接近により、A級ブリザード1回、B級ブリザード2回 、C級ブリザード1回の計4回のブリザードが襲来し、外出禁止令1回、外出注意令4回を発令した。海氷状況については、4月に開放水面だった場所でも、7月下旬には海氷厚が1mを超えるまで順調に成長している。とっつきルートに関しては、SM100やPB300の通行も実施し、昭和基地周辺の海氷については安定していると判断している。

8月

上中旬は高気圧に覆われ晴れて低温になる日が多かった。逆に下旬は低気圧の影響により、風が強く気温が高い日が多かった。9~10日の低気圧はC級ブリザードになったが、それ以外は降雪が少なく、強風でも視程が悪くならなかった。海氷状況については、スカーレン氷河の北側までルート工作を実施しており、プレッシャーリッジやタイドクラックなどはあるものの、昭和基地周辺の海氷については安定している。

9月

外出注意令を3回発令し、そのうちB級ブリザード1回、C級ブリザード1回認定された。それ以外は穏やかで安定した日が続き、日照時間もかなり多かった。衛星写真などからも、リュツォ・ホルム湾の海氷状況は安定していると見ている。スカーレン大池までのルートも完成し、昭和基地周辺の海氷は野外活動に大きな支障は無いが、とっつき岬上陸点手前のタイドクラックだけは、幅が広く、道板を架けている状態であり、通行の度に大きく陥没するため、車両や橇の通行に苦労している。

2.基地活動

6月

6月の降雪の深さ日合計が歴代3位を記録するなど、基地内の積雪が急激に増えた。この影響により、ミッドウィンター祭を予定より2日遅らせて、21日に前夜祭、22~25日にミッドウィンター本祭を開催した。また、26日には抜打ちの消火訓練を実施した。スムーズに鎮火に至ったが、負傷者役が担当する班で人手が不足気味になったことから、一部役割・手順の見直しを行い、越冬内規付録「消火体制細則」ならびに「初期消火の行動手順」を改定し、30日の全体会議で承認を得た。

7月

極夜前に設定したルートの海氷調査を行い、雪上車が通行できる海氷厚に成長していることを確認した。これにより南方のルート工作や宿泊を伴うオペレーションを実施した。上旬にはレスキュー訓練2回目を実施し、17日には消火訓練を実施した。23日には通路棟と管理棟の消火設備の説明会も実施された。

8月

天候にも恵まれ、野外活動はスカーレン方面のルート工作などを含め、5件の宿泊を伴うオペレーションを実施した。基地での作業も含め、活動が活発化するのと比例して、ヒヤリハット事例が増えてきたことから、24日に野外安全講習、事故事例研究を行い、事故や怪我などへの注意を促した。その翌日、航空用燃料ドラム缶の移動作業中、漏油事故が発生した。迅速に汚染された雪と土砂を回収し、ミーティングにて再発防止に向け、燃料タンク・ドラム缶まわりの除雪指針について再確認した。

9月

日に日に夜が短くなるのが感じられ、野外での活動時間も長くなり、ラングホブデ、スカルブスネス、スカーレン、S16での宿泊を伴うオペレーション5件を実施した。中下旬は晴れた日が多く、また、昭和基地上空はオゾンホールに覆われていたこともあり、日焼けした隊員が多く見られるようになった。下旬に予定していたみずほ旅行は、基地作業や準備の関係で、10月初旬の出発に変更した。月末までにみずほ旅行に向けた車両・橇整備や最終的な準備を完了した。

3.観測

6月

概ね順調に基本観測、重点研究観測、一般研究観測を継続している。ブリザードにより、気象部門ではヘリウムガスフレキシブルホースに漏れが発生し、予備品と交換した。南極昭和基地大型大気レーダー観測では、輻射器19基(エレメント38本)、反射器60基(エレメント120本)の取り外しを実施した。また反射器21基 (エレメント42本) が埋設破損となった。15~18日に健康診断と併せて医学的研究の採尿と採血を実施した。宙空モニタリングの地磁気絶対観測について、磁気儀とセンサー間のケーブル断線が見つかり、国内と協議して対応中である。

7月

ヘリウムガスカードルが雪に埋まったため、重機を使った除雪を行った。その作業中の21日、地上気象観測用のケーブルの上に重機が乗り断線し、観測に欠測が生じた。南極昭和基地大型大気レーダー観測では、積雪増加により、輻射器11基(エレメント22本)、反射器52基(エレメント104本)の取り外しを実施した。ブリザードによりHFレーダーのエレメントにも欠損が発生したが30日に修理を行った。また6月18日に発生した第2HFレーダー小屋(第2HF小屋)の通信回線不具合について、Cヘリ待機小屋から第2HF小屋間の光ケーブルの断線が確認された。6月に発生した地磁気絶対観測用センサーの不具合は、センサーケーブルの断線が原因であった。ケーブルの補修を行い、動作することが確認された。

8月

南極昭和基地大型大気レーダー観測では、積雪増加により、輻射器2基(エレメント4本)、反射器19基(エレメント38本)の取り外しを実施した。宙空モニタリングでは、7月に修理したセンサーを使い地磁気絶対観測を実施し、適正な観測結果が得られた。気水圏モニタリングでは、液体窒素が製造不能になっていたが、液体窒素製造装置のコールドヘッドとアドゾーバーを交換後、無事液化するようになった。また、今年持ち込んだスカイラジオメータは正常動作しないため、国内で調整するため持ち帰りとなった。25日にノイズ対策後の20kW風力発電装置3号機のノイズ調査を実施した。スペアナで測定したところ、広帯域で30kHz毎の周期的なノイズが発生し、風発から15~20m離れた空間ではノイズは減衰していたが、風発から延びる電源ラインには風発から離れてもノイズが検出された。MFレーダ (2.4MHz)観測への影響について国内で調査中である。また、地学棟の地震波形のアナログチャート記録にも影響がでていることがわかった。

9月

南極昭和基地大型大気レーダー観測では、積雪増加により、輻射器2基(エレメント4本)、反射器63基(エレメント126本)の取り外しを実施した。また流星風および電離圏観測モードにおいて途中で観測が停止するトラブルが発生しており、その対応を続けている。ミリ波分光観測は、2号機への移行作業が概ね完了し、新システムでの多チャンネル観測を開始した。SuperDARN短波レーダー観測では、いくつかのケーブルで異常が見つかり、随時補修作業を行っている。

4.設営

6月

見晴らし金属タンク3基の内部清掃を実施した。基本観測棟周辺での電波ノイズが問題になっていたが、調査の結果、基本観測棟階段に試験設置したLoRa受信機が原因であったため、6月中旬に基本観測棟から撤去した。また、汚水第二中継槽(19広場向け)監視カメラ用給電・通信ケーブル(PoEケーブル)からも電波ノイズが発生しており、30日に運用を停止した。今後の野外活動に備え、3~5日、3班に分けての第1回目レスキューリーダ訓練を屋内で実施した。

7月

除雪に労力を割かれながらも、とっつき岬やS16に保管していたSM100や橇を持ち帰えるとともに、雪上車の整備や橇の修理を進めた。今次隊で改良を加えたPANSY用発電機は、小型発電機小屋の管理も含めて、機械隊員の尽力によりこれまで安定して運用してきたが、今月遂に不調となりインジェクターの交換を行った。ブリザードのたびに、灰色の防水シートが飛散しており、管理棟屋上の状態を確認したところ、防水シートの剥がれが著しいことが確認された。各部門、業務の合間を縫って、調達参考意見の提出を行っている。

8月

14日に多目的大型アンテナの6ヶ月点検を実施した。24日の発電機の電源切替えでは並列運転中に負荷分担が不安定になったが、適切な対応により停電には至らなかった。その後、綿密な調査を行ったものの原因特定に至らなかったが、切替え後、問題なく電源供給が行われている。27-28日にシート橇の走行試験を行った。28、30日に汚水処理装置の放流配管の凍結が発生した。配管にはリボンヒータが巻かれていたが、電源は供給されていなかったことが原因であった。

9月

みずほ旅行に備え、大型雪上車SM100の整備を進め、整備が終わった5台をとっつき岬に移送した。10日にPANSY用発電機のインジェクターを交換した。11日に汚水処理装置の処理水放流配管が再び凍結した。原因と思われる放流口付近に形成された処理水が凍結した氷盤を破砕し、除氷したところ処理水が流れるようになった。12日に女子風呂の循環装置に不具合が発生した。予備部品の交換など行ったが改善しなかった。27日に従来の3割程度まで復旧し、女子風呂の使用が再開したが、予備器の備蓄が望まれる。21~23日、居住モジュール (南極移動基地ユニット) の実証試験を終了し、解体作業を行った。

5.その他

6月2日に今次隊初となる南極教室を実施し、以降、7月7日に南極教室、7月21日に科学技術週間対応、8月1日に稚内市との南極中継を実施した。また6月10日に2度目のYouTubeライブ配信を行った。8月には、越冬隊の家族向けに、越冬隊の仕事、基地・建物紹介用のYouTube動画を期間限定で公開した。
6月1日は休日日課とし、「気象記念日」・「電波の日」・「61次観測隊の日」を祝した式典を、見晴らしの南極移動基地ユニット内で実施した。7月7日はかまくらで七夕祭りを開催し、気分転換を図った。
 

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