2-3.第61次南極地域観測隊夏隊活動報告

1.往復路におけるトッテン氷河域での海洋・地球物理観測
往路で11日間、復路で20日間の集中観測を実施した。「しらせ」および搭載ヘリコプターの機動的な運用により、海洋構造や地形分布等に数多くの新しい知見を得た。

2.昭和基地接岸と輸送
1月5日に接岸。60次越冬隊の詳細な氷上偵察、「しらせ」の充実した支援、61次隊の綿密な輸送計画の三者連携が功を奏し、持ち込み物資すべてを輸送できた。

3.昭和基地夏期観測
北極大気に発生した極渦強化に対する南極域の応答調査のため、全世界の大型大気レーダーによる連携観測を行った。その他、北の浦での海氷観測等を実施した。

4.野外観測
ラングホブデぬるめ池付近での掘削・地形調査を実施。沿岸露岩域での絶対重力測定やGNSS観測、S17での大気観測機器の保守、ヘリコプターを用いた海氷厚観測等を行った。

5.昭和基地作業
気象棟の解体と放球デッキ建設、荒金ダムの循環水配管工事、300kVA発電機関係工事、PANSY発電機の入替え、基本観測棟の上下水配管工事等、計画通り実施した。

6.「しらせ」航路上やリュツォ・ホルム湾及びケープダンレー沖での海洋・海氷観測
航路上・リュツォ・ホルム湾内で採水・プランクトン採取や採泥、ROVによる海氷下観測を実施した他、ケープダンレー沖で採泥や係留系の回収、東経110度付近で耐氷型GPSブイの漂流観測を実施。また船上でゾンデ観測、オーロラ・大気光観測等を実施した。

7.南極航空網を利用した活動(別動隊)
南極航空網DROMLANを用いて、セール・ロンダーネ山地における地質調査と生物学的調査、またあすか基地廃棄物調査とドームふじ基地へ向けた燃料輸送を実施した。

8.「海鷹丸」による海洋観測(別動隊)
東京海洋大「海鷹丸」により、南極海において基本観測(海洋物理化学、生態系モニタリング観測)、一般研究観測を実施した。

9.教員派遣プログラムによる南極授業
1名の教員(高校)による「南極授業」を1月末に計2回実施した。

10.その他のトピックス
新型コロナウィルスの急速な世界的流行を受け、61次夏隊と60次越冬隊のオーストラリアからの帰国が2日早まった。

 

1.往復路におけるトッテン氷河域での海洋・地球物理観測


第61次南極地域観測の柱の一つは、「しらせ」を機動的に活用したトッテン氷河沖における海洋・地球物理観測である。 2019年11月27日に成田空港を出発した観測隊本隊は、12月2日にフリーマントル港を出て南極に向けて出港し、海洋観測を実施しつつトッテン氷河沖海域へ向かった。
往路では12月10日から20日までの11日間にわたり観測を実施した。ダルトンポリニヤ内部でヘリコプターのブレード取り付けを行い、翌11日からヘリコプターによる水温・塩分プロファイル観測AXCTD/XBTを開始した。この観測により「しらせ」がアクセスできない場所や海氷密接度が高い場所でも海洋状態と水深の測定が可能となった。トッテン氷河前面の東端部を、「しらせ」が無理なく進出できる西端と定め、係留系を設置、採泥観測を実施した16日にはトッテン氷河上に氷厚観測用レーダーApRESを設置した。その後、水温・塩分プロファイル観測を実施しつつ東航し、海域を離脱後、昭和基地へ向かった。
復路では2月18日から3月8日までの20日間にわたり観測を実施した。当初、トッテン氷河前面を目指して南端から西航を開始するも進出できず、北方に設定した東西ラインの観測を実施した。2月27日、氷河前面を目指して再度船を南方に回すと、2月29日から風向きが変わって氷河前面の海氷が北上して西側に存在した定着氷も剥離し、同海域での観測が可能になった。3月にはさらに海氷が開き、係留系を設置、採泥観測を実施し、12月に設置した係留系も回収した。そののち東航し、ダルトンポリニヤでの観測をへて北方の大陸棚縁辺ラインでの観測を目指した。同ラインを3月7日に東経117度まで西航したところで変針・反転して、トッテン海域での集中観測を終了した。
今回の観測により本海域における海底地形と海洋水温構造の概略を捉えることに世界で初めて成功した。本観測は、「しらせ」側による計画実施へ向けた緻密なプランニングと天候・氷況の変化に応じた臨機応変な対応、搭載ヘリコプターによる未探査海域の効率的探査、「しらせ」の強靭さと観測能力の高さといった、艦側の優れた能力によって初めて可能になったものである。

2.昭和基地接岸と輸送

11月に日照時間が長く基地周辺の海氷上雪面の融解状態に懸念があったため、トッテン沖の予定を2日間早めて昭和基地に向かった。12月29日にリュツォ・ホルム湾沖定着氷縁に到着し、12月30日に昭和基地西方約10マイルからヘリコプター空輸第1便を実施した。明けて1月2、3日と優先物資空輸を実施した後、1月5日に昭和基地沖約400mの多年氷帯に接岸し、貨油輸送を開始した。また、大型雪上車1台など自走式の車両も氷上輸送した。持ち帰り氷上輸送を1月7日まで実施した。その後、1月15日から18日まで持ち込み物資の一般空輸を実施し、1月19日から21日まで持ち帰り物資の空輸を行った。第61次隊の持ち込み物資量は973トン、第60次隊の持ち帰り物資量は382トンであった。
輸送終了後の1月30日からリュツォ・ホルム湾内での海洋・海氷観測を実施しつつ、最終便を2月4日に実施、2月5日にリュツォ・ホルム湾を離脱した。なお、往路のラミング回数は159回と昨年より大幅に少ない。

3.昭和基地夏期観測

重点研究観測のサブテーマ1「南極大気精密観測から探る全球大気システム」として、南極昭和基地大型大気レーダー(PANSYレーダー)のフルシステムでの観測を実施するとともに、北極に発生した極渦強化に対する南極の応答調査のため、全世界の大型大気レーダーによる連携観測を行った。他にもミリ波分光計の多チャンネル化を実施するなど、極域大気が地球システムに与える影響の解明を目指した。定常観測の潮汐部門について、潮位観測装置の保守作業、副標観測、基本観測棟への機能移転を見据えた水位計ケーブルの敷設作業、測地部門の水準測量、重力観測、GNSS連続観測点保守、東オングル島内の空中写真撮影、電離層部門の衛星電波シンチレーション観測や電離層垂直観測の装置の保守・点検等を実施した。モニタリング観測では北の浦において定着氷の定線観測を実施した。また、萌芽研究観測「リスク対応の実践知の把握に基づくフィールド安全教育プログラムの開発」では、野外活動に同行してビデオ撮影やコメント収集、面接、質問紙等を用いて、各隊員の活動に伴うリスクの理解と対応した行動について分析した。

4.野外観測


基本観測では、宗谷海岸やプリンスオラフ海岸の露岩域と氷床上で、空撮用対空標識の設置や基準点測量、基準点の新設を行った。気水圏モニタリング観測では、ヘリコプター搭載電磁誘導氷厚計EM birdによりリュツォ・ホルム湾内の定着氷域における氷厚の空間分布データを取得した。「しらせ」発着のオペレーションに初めて成功した。
重点研究観測サブテーマ3「地球システム変動の解明を目指す南極古環境復元」では、過去の南極氷床変動史の復元を目的として、ラングホブデおよび西オングル島において湖沼・浅海域・陸上調査を実施した。本研究計画では、観測隊史上初めてゾディアック型ボートを用いて浅海域の調査を行い、さらに堆積物の採取と地中探査レーダーを利用した調査を行った。
一般研究観測では、「無人システムを利用したオーロラ現象の広域ネットワーク観測」において、H68、スカーレン、インホブデで無人磁力計の保守を実施。「全球生物地球化学的環境における東南極域エアロゾルの変動」では、S17観測拠点での観測機材保守を行なった。「地震波・インフラサウンド計測による大気−海洋−雪氷−固体地球の物理相互作用解明」では宗谷海岸やプリンスオラフ海岸での地震計やインフラサウンド計による観測を行った。

5.昭和基地作業


昭和基地夏作業期間は、12月30日から2月3日までの全36日間であった(作業日32日、休日2日、作業不能日2日)。この間に、気象棟の解体と基本観測棟への放球デッキ建設、荒金ダムの循環水配管工事、300kVA発電機関係工事、PANSY発電機の入替え、風力発電機1号機の補強工事と3号機のフィルター調整、基本観測棟の上下水配管工事、廃棄物埋め立て地試掘等を実施した。それ以外の作業として糧食輸送、第一車庫近傍の一斉清掃、調理、当直業務などを行なった。夏期間を通じての総作業人日数は1423.5人日、うち「しらせ」支援は458人日であった。
 

6.「しらせ」航路上やリュツォ・ホルム湾及びケープダンレー沖での海洋・海氷観測


フリーマントル出港後、東経110度ライン上において、生物圏モニタリングにもとづく水温・塩分プロファイル観測CTD・採水等の海洋観測を実施しつつ南下した。東経116.0度、南緯64.3度において、耐氷型GPS漂流ブイを投入し、海氷融解期における生態系連続観測を開始した。
リュツォ・ホルム湾では、2020年1月29日に立待ち岬沖を離岸、サブテーマ2 「氷床・海氷縁辺域の総合観測から迫る大気−氷床—海洋の相互作用」および生物圏モニタリングに関する海洋観測および採泥観測を実施した。それに先立つ1月28日に、昭和基地沖でROV(有索型無人探査機)による海氷下光学観測および画像取得観測を実施した。またリュツォ・ホルム湾内および湾沖において定常観測に基づく海底地形調査を実施した。湾沖St.BPでは地圏モニタリングとして海底圧力計に係る作業を行った。その後ケープダンレー沖に移動し、2月9-10日に採泥観測、2月11日に昇降式ウインチが搭載されたSeasaw係留系を回収、12日まで時系列海水採取装置を搭載したRAS係留系に係る作業を実施した。東航して2月16日にはGPS漂流ブイを揚収し、トッテン氷河沖海域に向かった。トッテン氷河沖集中観測終了後は、東経150度ライン上にてCTD・採水等の海洋観測を実施した。


7.南極航空網を利用した活動(別動隊)


東南極ドロンイングモードランド航空網(略称DROMLAN)を利用して内陸で活動する別動隊を組織し、セール・ロンダーネ山地における地質調査チーム(夏隊員5名)と生物学的調査チーム(夏隊員3名)、またあすか基地廃棄物調査とドームふじ基地へ向けた燃料輸送を担当するチーム(夏隊員2名)に分かれ活動した。3チームは、南アフリカのケープタウンからプリンセス・エリザベス基地(ベルギー)にはいり、そこを拠点に調査、設営作業を実施した。
地質調査チームは、2019年11月8日に成田空港を、11月12日にケープタウンをそれぞれ発ち、ノボラザレフスカヤ基地を経由して同12日プリンセス・エリザベス基地に到着した。地殻流体の活動履歴を読み取れる岩石試料2トンの採取を含む地質学調査を実施した後、2020年1月10日にプリンセス・エリザベス基地を出発した。1月15日にケープタウンに到着、1月17日に成田空港に帰国した。生物調査チームは2020年1月4日に成田空港を、1月14日にケープタウンをそれぞれ発ち、ノボラザレフスカヤ基地を経由して翌15日にプリンセス・エリザベス基地に到着した。地衣類・細菌類を中心とした陸上生物多様性調査を実施した後、2月12日に活動を終了しペルセウス滑走路を出発した。2月13日にケープタウンに到着、2月17日に成田空港に帰国した。ドームふじ輸送チームは2019年11月23日に成田空港を、11月28日にケープタウンをそれぞれ発ち、ノボラザレフスカヤ基地を経由して同28日にプリンセス・エリザベス基地に到着した。あすか基地の残置物調査およびドームふじに向けてナンセン氷原までの燃料ドラム輸送を実施した後、1月13日にプリンセス・エリザベス基地を出発した。1月15日にケープタウンに到着、1月17日に成田空港に帰国した。


8.「海鷹丸」による海洋観測(別動隊)


隊員5名・同行者6名の研究者で構成される別動隊は、東京海洋大学「海鷹丸」に乗船し南大洋にて海洋観測を実施した。基本観測(海洋物理・化学、生態系変動モニタリング観測)、一般研究観測「南大洋インド洋セクターにおける海洋生態系の統合的研究プログラム」、「南大洋・南極大陸斜面接合海域における循環流場の観測」に資する観測を実施した。
2020年1月3日、羽田空港を出発し、4日にフリーマントルにて「海鷹丸」へ乗船した。フリーマントル到着後、機器の設営やキャリブレーション等の準備を行い、1月8日にフリーマントル港を出港した。1月10日に最初の基本観測点に到着して暴風圏での観測を開始し、1月13日に南緯55度を通過した。連続プランクトンレコーダーを曳航しつつ南下し、表層海洋モニタリング、CTD・採水、ノルパック、がま口、VMPSなど各種プランクトンネット、XCTDなど基本観測を実施し、アルゴフロートの投入、係留系の投入および揚収等を実施した。1月29日に南極海を離脱し、31日に再び南緯55度を通過、2月4日にホバート港に入港した。機器片付けと資料整理を行い、2月8日までに帰国した。
 

9.教員派遣プログラムによる南極授業


南極観測による学術的成果や活動状況を広く社会に発信するため、第51次隊より今回で11回目となる「教員派遣プログラム」で、観測隊に同行した教員1名がテレビ会議システムを利用した「南極授業」を実施した。1月25日に茨城県自然博物館、27日には茨城県立守谷高等学校において、児童・生徒・保護者等を対象として実施した。

10.その他のトピックス


新型コロナウィルスの急速な世界的流行を受け、61次夏隊と60次越冬隊のオーストラリアからの帰国が2日早まった。「しらせ」は3月19日にシドニー港に入港し、観測隊は3月20日早朝に下船してシドニー空港へ直行、同日中に成田空港に無事到着した。オーストラリア政府は同日午後7時から外国人の入国禁止措置を発動しており、振り返るとオーストラリア経由での帰国には日程的な余裕がほとんどない状況であった。観測隊の早期帰国を実現して頂いた関係各所のご尽力に深く感謝する。
 

お問合せ先

研究開発局海洋地球課

極域研究振興係
電話番号:03-5253-4111(内線4144)・03-6734-4144(直通)