4-2.第59次南極地域観測隊越冬隊活動報告

1.昭和基地の維持管理と越冬隊の運営
 2018年2月1日~2019年1月31日の期間、越冬隊32名による昭和基地での観測設営活動を実施した。3月まで開放水面だったオングル島周辺は、7月には全面的に結氷し、その後海氷は流れることはなかった。基地においては越冬後半に規模の大きいブリザードが集中したが、DROMLANや60次隊の受け入れ、2つの内陸旅行を含めた野外調査活動を精力的に実施した。


2.基本観測
 電離層・気象・潮汐・測地部門の定常観測、および宙空圏・気水圏・地圏・生態系変動、地球観測衛星データ受信を対象領域とするモニタリング観測を概ね順調に実施した。


3.研究観測
 重点研究観測及び一般・萌芽研究観測を概ね順調に実施した。重点研究観測サブテーマ1「南極大気精密観測から探る全球大気システム」において大型大気レーダーによるフルシステム連続観測を2015年より継続して実施した。波長可変共鳴散乱ライダーでは南極で初めてカリウム層の通年観測が行なわれたほか、極域で初めてカルシウムイオン層の検出に成功した。一般研究では中継点旅行での観測(自動気象装置の設置、ゾンデ・ライダー観測等)が成功し、極域予測年(YOPP-SH)などの国際協力に貢献した。


4.設営作業・野外行動
 設営各部門が担当する昭和基地等における各種作業を当初の計画通り、概ね順調に実施した。7月以降は精力的にルート工作を実施、8月には内陸旅行の準備で550本を越える燃料ドラムを大陸に移送した。南方の野外活動は乱氷帯に阻まれたため、行動範囲は限定されたが、12月初旬まで野外行動を実施した。


5.ドロンイングモードランド航空網(DROMLAN)への対応
 昭和基地滑走路及び大陸のS17滑走路を整備した。昭和基地滑走路は、しるべ島南の多年氷帯に、S17滑走路はS17航空拠点へのドリフトの影響のない場所に設定した。昭和基地滑走路には計7便、S17航空拠点に計1便を受け入れ、航空燃料補給、および通信と気象情報の提供を行った。


6.情報発信
 インテルサット衛星通信設備を使用した南極教室やライブトーク等の企画を43回実施した。うち2件は国連パレスチナ難民救済事業機関等との協力によるガザ地区及びヨルダンの子供たちとの南極中継であった。「昭和基地NOW!!」を40回掲載した他、地方紙・機関誌等への記事提供や寄稿を47回行った。


1.昭和基地の維持管理と越冬隊の運営

 2018年2月1日、58次隊より基地運営を交代し、59次越冬隊32名は越冬生活を開始した。越冬中は観測・設営とも概ね順調に経過するとともに老朽化の激しい小屋の撤去や観測倉庫の整理など、基地内施設の保全や美化に努めた。昭和基地周辺の海氷状況は越冬交代後も更に開放水面が広がり、3月末にはオングル島北部の多年氷帯を除いて全て開放水面となったため、極夜明けまで海氷上の行動は制限された。9月からの中継拠点旅行及び11月からのドームふじ基地旅行を実施するため、氷状が安定した7月からは海氷上のルート工作をはじめとした大陸への大量の燃料輸送や車両整備を積極的に行い、これら旅行を完遂した。11月にはDROMLAN用に海氷上やS17での滑走路を整備し、燃料補給や先遣隊輸送のための航空機を受け入れた。なお12月には治療のため隊員1名がDROMLANにより早期に帰国した。越冬後半の9月から12月にかけて荒金ダム循環ポンプ故障・配管凍結が繰り返し発生したが、水不足で隊員の生活が脅かされるようなことはなかった。9月から11月にかけては数度のブリザードに見舞われ、多くの積雪がもたらされたことから、通常よりも短期間での本格除雪を余儀なくされた。2019年1月18日には全停電が発生したが、大事には至らなかった。越冬後半は繁忙を極めたが、2019年1月31日までには全ての基地作業・観測・引き継ぎを終え、翌2月1日には基地運営を60次隊と交代して、同日には昭和基地にいる59次隊全隊員が「しらせ」に戻った。


2.基本観測

 電離層・気象(地上気象、高層気象、オゾン、日射・放射、天気解析等)・潮汐・測地部門の定常観測、および宙空圏(オーロラ、自然電磁波、地磁気)・気水圏(温室効果気体、雲・エアロゾル、氷床質量収支)・地圏(重力、地震、GPS、VLBI)・生態系変動(ペンギン個体数調査)、地球観測衛星データ受信を対象領域とするモニタリング観測を概ね順調に実施した。


3.研究観測

 重点研究観測テーマ「南極から迫る地球システム変動」サブテーマ1「南極大気精密観測から探る全球大気システム」として、南極昭和基地大型大気レーダー、波長可変共鳴散乱ライダー、近赤外大気光イメージャー、OH大気光回転温度計、MFレーダー、イメージングリオメーター、高速オーロライメージャー、プロトンオーロラスペクトログラフ、近赤外オーロラ・大気光分光計、気温基準ゾンデ(MTR)による観測を実施した。
 南極昭和基地大型大気レーダー(PANSY)については、52群フルシステムによる1年間の連続観測を実施した。また波長可変共鳴散乱ライダーでは南極で初めてカリウム層の通年観測が行なわれたほか、極域で初めてカルシウムイオン層の検出に成功した。
 一般・萌芽研究観測では、「南極昭和基地での宇宙線観測による宇宙天気研究の新展開」、「無人システムを利用したオーロラ現象の広域ネットワーク観測」、「SuperDARNレーダーを中心としたグランドミニマム期における極域超高層大気と内部磁気圏のダイナミクスの研究」、「電磁波・大気電場観測が明らかにする全球雷活動と大気変動」、「南極成層圏水蒸気の長期観測」、「全球生物地球化学的環境における東南極域エアロゾルの変動」、「東南極における氷床表面状態の変化と熱・水循環変動の機構」、「極限環境下における南極観測隊員の医学的研究」、及び「無人航空機による空撮が拓く極域観測」の各課題を実施した。
 「無人システムを利用したオーロラ現象の広域ネットワーク観測」では、世界最高の時間分解能(100fps)の高速カメラを使い、地磁気共役点のオーロラ観測を実施したほか、「東南極における氷床表面状態の変化と熱・水循環変動の機構」では、中継拠点旅行によりAWS(自動気象観測装置)の設置や移動中のゾンデ・ライダー観測を実施するなどした。


4.設営作業・野外行動

 設営各部門が担当する昭和基地等における各種作業は、当初の計画通り概ね順調に実施した。しかし9月に昭和基地の水源である荒金ダムに設置してあった循環ポンプが故障、配管が凍結したため循環ポンプの交換や配管の解凍といった作業が発生した。荒金ダムの配管については、10月及び12月にも積雪加重により配管がつぶされて配管内が凍結したため、解凍作業が必要となった。1月18日には全停電が発生したが、全隊員が迅速に対応したため約1時間後には復電した。
 野外行動について、59次隊の越冬当初はオングル海峡の北部域に多年氷帯が残る以外は全て4月までに海氷が流出していたため、海氷が十分成長した7月から「とっつき岬」へのルート工作を開始したが、8月は内陸旅行の準備で燃料や内陸観測に使用する機材の移送に加え、「とっつき岬」での大型雪上車の整備を実施したため、基地南方の大陸沿岸露岩域に設置されている無人観測装置の保守、露岩GPS観測、ペンギン個体数調査などを目的とした、基地南方の海氷ルート設定は9月以降となった。
 内陸旅行のための準備が整った9月13日には中継点旅行隊を送り出した。11月には60次先遣隊10名を昭和基地に受け入れ、60次先遣隊8名と59次隊員2名を加えたドーム旅行隊を送り出すとともに、60次本隊が合流する12月下旬まで60次先遣隊2名のオングル諸島の地質調査に協力した。


5.ドロンイングモードランド航空網(DROMLAN)への対応

 2018/19シーズンのフライト計画に従って、昭和基地及び大陸上航空拠点(S17)滑走路造成と JETA-1航空用燃料の提供、通信と気象情報提供を行った。昭和基地滑走路は海氷厚が1m以上で滑走路としての広さを十分に有する、昭和基地から4kmほど北にある多年氷帯(初島としるべ島の間)に造成した。なお昭和基地滑走路は12月に入ると海氷状況の悪化によりフライトの離発着に適さなくなったので、12月7日のフライトをもって閉鎖した。S17滑走路については、1月に予定されている60次先遣隊の帰国に合わせて設置したが、昨年はエプロンの燃料ドラムのドリフトがS17拠点に悪影響を及ぼしたので、58次の滑走路から南西に300m平行移動した位置に造成した。
昭和基地滑走路には11月に5便(うち1便は60次先遣隊のフライト)、12月に2便(うち1便は59次隊1名の帰国)を受け入れ、航空用燃料(JetA-1)を提供したほか、S17滑走路では1月に1便(59次隊1名、60次隊7名の帰国フライト)の受け入れを行った。


6.情報発信

 南極観測による学術的成果や観測隊の活動状況を広く社会に発信するため、インテルサット衛星通信設備によるインターネット常時接続回線を利用したTV会議システムにより、国内外の小・中・高等学校等と昭和基地を結ぶ南極教室、および国立極地研究所南極・北極科学館におけるライブトークをはじめとする国内の各種企画を43回実施し、越冬活動の紹介や児童・生徒からの質問に答えるなど、アウトリーチや広報活動を通じて南極観測の意義や南極の自然について次世代を担う子ども達に伝えた。また、このうち、21件は、テレビ電話システム(FaceTime・ZOOM)を利用した簡易版として実施し、広報活動の簡便化と活発化を実現した。簡易版のうち2件は、国連パレスチナ難民救済事業機関ガザ事務所とヨルダン日本語補習校授業校から依頼のあったもので、ガザとヨルダンの子ども達に向けて南極中継を実施した。11月に開催された南極北極ジュニアフォーラム2018において、昭和基地で実施した「第14回中高生南極北極科学コンテスト」で選ばれた優秀提案1課題の実験結果を報告した。観測隊公式ホームページ「昭和基地NOW!!」には、日常的な話題から40件の原稿を作成して掲載した。その他、ラジオ番組への出演、地方紙・機関誌等への記事提供や寄稿を47回行なうなど、昭和基地から積極的に情報を発信した。


7.その他(「しらせ」への海氷情報の提供)

 越冬期間中、北の浦の多年氷帯は2018年3月いっぱいまで西側へ徐々に後退していった。近年、「しらせ」は多年氷帯に入って接岸及び氷上輸送を実施することが多いが、越冬中の北の浦の多年氷帯は水深が浅く、「しらせ」の接岸には適さなくなった。このため接岸候補エリアを「見晴らし岩」東方の海氷域(1年氷帯)に移してエリア内の15点において積雪や氷厚、フリーボード(水面位置)の調査を行なった。併せて氷上輸送を行なうため、昭和基地からなるべく近く、安定した多年氷帯で、水深が深い「しるべ島」東方を「しらせ」停泊候補エリアとしてエリア内の15点において積雪や氷厚、フリーボードの調査を行なった。2つのエリアでの調査は9月から12月まで4回実施し、結果は60次隊経由で「しらせ」に提供した。接岸候補エリア(みはらし岩東方氷状調査網)及び氷上輸送用停泊候補エリア(しるべ島東方氷状調査網)については、多年氷境線とともに下図に示す。2018年12月21日、「しらせ」が接岸する前に接岸予定点に終点旗及び誘導旗を設置した(「しらせ」接岸日は12月25日)。また28日には「しるべ島」東方の氷上輸送停泊予定点に終点旗及び誘導旗を設置した(「しらせ」は同日に停泊)。


「しらせ」接岸点・氷上輸送用停泊点用調査網

「しらせ」接岸点・氷上輸送用停泊点用調査網

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