3-3.第62次南極地域観測隊越冬隊の現況(令和3年1~5月)

※1月は越冬交代後の18日~31日の期間についての記載

1. 気象・海氷状況

1月

20日~21日にかけて低気圧の接近による強風となった以外は、天候に恵まれ、気温も平年に比べて高めに経過した。基地前の北の浦は積雪も多く、パドルも目立たず安定しているように見える。

2月

強風の日があっても降雪を伴わず、悪天となる日が少なかった。総じて風が弱い日が多く、蜃気楼が見える日も数日あった。外出注意令の発令とブリザードが無いまま2月を終えた。見晴らし沖の「しらせ」航跡もきれいに残っており、オングル海峡は開いていない。

3月

前半は晴れる日が多かったが、風が強く吹雪となる日が多かった。A級1回、B級2回のブリザードがあった。海氷状況については、オングル海峡に開放水面を目視で確認できていない。「しらせ」航跡も、ブリザードでふさがれたため分かり難くなっている。

4月

総じて曇りがちの天気となった。ブリザードとなる日が多く、気温も高めに推移した。A級1回、B級2回、C級2回のブリザードがあった。オングル海峡に開放水面は確認できていない。海峡中央部の氷厚はおよそ80cm、北の瀬戸から西の浦の北側のパドルが凍結した部分では氷厚が薄くなって、50cm程度のところもあった。

5月

低気圧の影響を受け、曇りや雪となることが多く、6回のブリザード(A級2回、B級3回、C級1回)が発生し、月平均風速と中旬の旬平均風速はかなり高くなった。海氷上の積雪状況や裸氷となっている部分に顕著な変化はみられない。また、大陸への上陸路であるとっつき岬までのルート上、およびとっつき岬前の氷山帯のクラックの状況にも大きな変化は見られない。

2. 基地活動

1月

18日の越冬交代式において、青山越冬隊長率いる第61次越冬隊より昭和基地の施設管理と運営の一切を引継いだ。同日のうちに、橋田隊長ほか第62次夏隊及び第61次越冬隊の一部が、翌19日には残りの夏隊および第61次越冬隊全てが「しらせ」に戻り、帰路についた。例年より2週間以上早く、第62次越冬隊31人だけの越冬生活が始まり、翌20日に越冬が成立した。

2月

1日、福島ケルン前にて福島隊員の慰霊祭を執り行い、越冬隊全員で1年間の観測・設営活動の安全を誓った。18日に実施した発電機への切り替え作業において、冷却水温度の異常上昇によるエンジンの緊急停止により、昭和基地が停電となった。直ちに停電対応にあたり1時間程度で復電を完了した。

 3月

積雪が減少し、海沿いの地面も広がってきたことから6日に一斉清掃を実施し、約0.5tの廃棄物を回収した。医療隊員による初めての定期健康診断を実施し、その結果に基づいた健康指導も開始した。15日~27日には海氷安全講習を行い、実地訓練のほか、野外行動に関する座学講習を実施。23日には消火訓練を実施した。

4月

生活時間を冬日課に切り替え、土日を休日とした。通常の観測・設営作業に加え、野外行動に向けた訓練や講習を実施した。また、ルート工作を開始し、西オングル、向岩のルートが開通した。大陸への上陸路となるとっつき岬へのルートは氷山帯の前まで順調に進んでいる。

5月

ブリザードのため、外出制限とする日が多かった。8日から11日のA級ブリザードに続き、14日から21日にかけてB級2回、A級1回のブリザードが連続したため、基地内各地に巨大なスノードリフトが発達した。とっつき岬へのルートは開通し、大陸を結んだ活動は可能となった。しかしながら、ブリザード後の基地対応を鑑み、当初計画していた宿泊を伴う2度のS16・S17野外行動は見直しを行い、規模と内容を縮小して23~25日の2泊3日1回のみ実施した。

3. 観測

1月

概ね順調に各観測を開始した。定常気象では、放球棟から基本観測棟への機器等の移設が完了し、新放球デッキによる試験放球を行った。一方で、地学棟、電離層棟から基本観測棟への引っ越しも順次進められた。南極昭和基地大型大気レーダー観測(PANSY)では、12月30日~1月20日まで、国際大気観測キャンペーンICSOMが実施された。一般研究観測の降水量レーダー観測については、26日にレーダー装置の設置が完了し、その後機器調整を開始した。

2月

南極昭和基地大型大気レーダー観測(PANSY)では、信号に混入するノイズについて検討を重ねているほか、前次隊が越冬中に取り外した輻射器及び反射器の取り付けを進めた。一般研究観測の降水量レーダー観測については、垂直レーダー側の送受信機の不良が確認されたため、62次隊では、水平レーダーのアンテナを調整して鉛直方向の降水観測を実施することとなった。

3月

気象部門において、気温基準ゾンデとの比較観測を2回(昼夜)実施している。地圏モニタリングのDORIS観測と超伝導重力計に障害が発生しており、国内と連絡・指示を受け対応を進めている。降水レーダーは11日、鉛直方向の連続運用を開始した。

4月

気象部門のS17気象ロボットがバッテリー電圧低下により、9日から昭和基地への無線伝送が停止している(観測データは現地ロガーに蓄積)。気水部門では、悪天時のゾンデ観測を8回実施している他、北の浦にカイトプレーン用滑走路を設定し、飛行テストに向けた準備を進めている。

5月

地圏部門のコーナーリフレクタ1基が雪に埋没しメンテナンス不能となったほか、基本観測棟の放球室シャッターの動作不良のため、高層気象観測(ゾンデ放球)を旧放球棟での実施に戻すこととなるなど、ブリザードの影響を各部門が受けており、国内の担当と情報を共有しつつ対応に取り組んでいる。

4. 設営

1月

概ね順調に作業を実施した。18日00:00LTより基地発電機運転時間数のリセット式を実施し、第61次隊から第62次隊へ運用を引き継いだ。夏の残作業として、水源となっている荒金ダム循環配管のルート変更と配管の交換、循環ポンプ架台の新設等を手空き総員で行い、月末をもってほぼ作業を完了している。

2月

越冬準備作業が行われ、18日の電源切り替え時に停電(既述)となった他は、概ね順調かつ適切に実施している。

3月

見晴らし岩のコンテナヤード付近で保管している南極モジュール2台のシートが、ブリザードによって相次いで剥がされた。また、基本観測棟の放球室でシャッターが巻込まれる障害が発生し、引き出す復旧作業が行われたが根本的な解決には至っておらず、自動操作を取りやめ手動操作で使用を継続している。

4月

定例業務に加え、ブリザード後の点検や除雪の頻度が多くなっており、負担増となっている。見晴らしに置いていた雪上車を管理棟前に移送し、重機に加えて雪上車も除雪に加わるようになった。
10日の強風時に風力発電2号機の羽根の付け根に破断箇所を発見、14日に羽根をロープで固定して飛散防止としたが、26日のブリザード後点検において、羽根の一部が折れて地上に落下していたため、回収した。

5月

A級ブリザード中の10日03時すぎに、小型発電機小屋内の温度が急上昇し、火災報知器が発報した。対策を協議していたところ、稼働中の発電機が水温上昇により緊急停止し、その後室内温度が下降した。風速が外出注意令基準まで下がったところで現場を確認し、小型発電機小屋に雪が吹込み換気口をふさいだことが室温上昇の原因と判明した。担当部門において、室温が設定値を越えると担当者にメールで報知する仕組みを構築したため、今後は火災報知器が発報する前に対応が可能となっている。

5. その他

新型コロナウイルスの影響から、観測隊史上初の無寄港・無補給での昭和基地入りとなったことに伴い、例年よりも短い夏期間となったが、計画していた作業を終え、無事に越冬交代を迎えることが出来た。例年よりも早く越冬交代・成立となったため、越冬開始直後は夏期間の片付け等を少々行う必要があったが、現在、基地生活は落ち着いた状態である。また、各生活係の活動も早く開始することができ、イベントの開催など精力的な活動が越冬生活に彩を添えている。
情報発信としては、3月~4月にかけて4件の南極中継を実施したほか、4月30日には62次隊として初となる南極教室も実施した。また、定期的に観測隊ブログ、極地研公式SNSへの投稿を行っている。

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