3-2.第62次南極地域観測隊夏隊活動報告

1.行動計画変更とCOVID-19対応

実施計画や隊編成を見直し、出来うる限りの対策を講じたことにより、新型コロナウイルスを「しらせ」や昭和基地で発生させることなく、越冬交代を完了し、予定通りの活動をおこなうことができた。

2.昭和基地接岸と輸送

観測隊ならびに「しらせ」との周到な準備・調整に加え、良好な海氷状況や天候も幸いし、全量の持ち込み、および過去最大規模の廃棄物を含む持ち帰り輸送を行った。

3.昭和基地夏期観測

北極上空の成層圏突然昇温に対する全球ならびに南極の応答調査のため、国際連携による大型大気レーダー集中観測を行った。その他、降水レーダーによる観測等を実施した。

4.野外観測

沿岸露岩域での測地観測や大陸上に設置された各種無人観測機器の保守を、「しらせ」搭載ヘリコプターを用いて行った。

5.昭和基地作業

観測倉庫および環境科学棟の解体、荒金ダムの循環配管工事、300kVA発電機オーバーホール、PANSY発電機の入替え等をほぼ計画通り実施した。

6.「しらせ」船上での観測

航路上およびリュツォ・ホルム湾内で採水・プランクトン採取等の観測を実施した他、エアロゾルや大気光観測等を実施した。

 

1.行動計画変更とCOVID-19対応

新型コロナウイルスの世界的な感染拡大を受け、第156回南極地域観測本部総会(以下、「本部総会」という)(令和2年6月29日開催)では、事態の状況分析を踏まえて第62次計画の基本的な考え方を定めた。これにより、第154回本部総会(令和元年6月21日開催)で採択された第62次計画を見直し、昭和基地での観測、特に長期間に渡り高い品質のデータを取得し、広大な南極大陸に展開された国際観測網の一翼を担ってきた定常観測やモニタリング観測や、サブテーマ1「南極大気精密観測から探る全球大気システム」の先端的観測を継続すべく、観測継続に必要な人員の交代と物資輸送を最優先の活動とする計画が立てられた。その後の感染状況を踏まえ、第157回本部総会(令和2年11月2日)において、東京海洋大学練習船「海鷹丸」や南極航空網を用いた別動隊は編成せず、南極観測船「しらせ」を用いた本隊のみで、往復路ではどこへも寄港しない行動が決定された。
南極・昭和基地での感染拡大を防ぐためには、「しらせ」に持ち込まないことが必須であり、同時に、万一の感染発生に備え影響を最小限に留める必要がある。これらの状況を踏まえ、計画の縮小や隊員の絞り込み、交代要員の確保、越冬隊員は「しらせ」居室に1名とすること、出航前の2週間の隔離と複数回のPCR検査を行うことなどの対策を講じた。令和2年11月20日の横須賀出港から、令和3年2月22日の横須賀帰港までの間、「しらせ」船上および昭和基地で新型コロナウイルス感染者を一人も出すことなく、帰国することができた。

2.昭和基地接岸と輸送

「しらせ」はロンボク海峡を抜けてインド洋を南西にリュツォ・ホルム湾沖に向かった。この航路では、従来の南下航路に比べて暴風圏の航行日数を多く要するので、これを考慮した日程としたところ、大きな低気圧擾乱やうねりの影響を受けることなく、リュツォ・ホルム湾沖流氷縁には令和2年12月11日に到着した。流氷域は順調に航行し、当初予定より2日早く12月14日に定着氷縁に達した。積雪がやや多めで砕氷に時間を要したものの、氷上偵察を踏まえて、昭和基地の北約9kmの地点に停留し、当初予定通り12月19日に第一便、翌20日まで優先物資空輸を実施した後、明けて12月21日に昭和基地沖約350mの多年氷帯に接岸し、バルク輸送を23日まで行った。また、大型雪上車など自走車両3台、コンテナ等の大型物資の夜間氷上輸送を24日まで、持ち帰り氷上輸送を12月24日から28日まで実施した。その後、翌令和3年1月2日から7日まで持ち込み物資の一般空輸を実施し、1月8日から10日、17日から18日まで持ち帰り物資の空輸を行った。第62次隊の持ち込み物資量は1,042トン、第61次隊の持ち帰り物資量は467トンで、うち廃棄物は過去最大規模の354トンであった。越冬に必要な物資の持ち込み、並びに引継ぎ等を完了し、1月18日に越冬交代式を迎え、1月19日に最終便で隊員を収容し、同日「しらせ」は昭和基地沖を離岸した。リュツォ・ホルム湾内での海洋観測を実施して、1月24日にリュツォ・ホルム湾を離脱した。なお、往路のラミング回数は391回、復路169回と昨年より増加した。

3.昭和基地夏期観測

1か月で越冬観測の観測装置入れ替え、保守、引継ぎ作業を完了させることは今次越冬交代の条件であった。重点研究観測のサブテーマ1「南極大気精密観測から探る全球大気システム」として、南極昭和基地大型大気レーダー(PANSYレーダー)のフルシステムでの観測を第61次の越冬期間から継続して実施するとともに、北極上空の成層圏突然昇温に対する全球ならびに南極の応答調査のため、日本が主導する大型大気レーダーによる第6回国際連携観測(ICSOM-6)を行った。定常観測の潮汐部門について、潮位観測装置の保守作業、副標観測、基本観測棟への収録装置の新設作業、測地部門の水準測量、重力観測、GNSS連続観測点保守、東オングル島内の空中写真撮影、電離層部門の衛星電波シンチレーション観測や電離層垂直観測の装置の保守・点検、ならびに新サーバーの基本観測棟への設置作業を行った。一般研究観測では、「降水レーダーを用いた昭和基地付近の降水量の通年観測」において、レーダーの用レドームの建設と合わせて、レーダーの搬入を完了させた。

4.野外観測

基本観測では、宗谷海岸やプリンスオラフ海岸の露岩域と氷床上で、空撮用対空標識の設置や基準点測量、基準点の新設を行った。一般研究観測では、「無人システムを利用したオーロラ現象の広域ネットワーク観測」において、内陸H68地点、スカーレン、インホブデで無人磁力計の保守を実施。「全球生物地球化学的環境における東南極域エアロゾルの変動」では、内陸H128地点及びS17観測拠点での観測機材保守を行った。「地震波・インフラサウンド計測による大気-海洋-雪氷-固体地球の物理相互作用解明」では宗谷海岸やプリンスオラフ海岸での地震計やインフラサウンド計による観測を行った。

5.昭和基地作業

昭和基地夏作業期間は、12月20日から1月18日までの30日間において、作業日29日、全休1日(休日日課は4日)であり、荒天による作業不可日はなかった。この間、観測倉庫棟および環境科学棟(床および基礎部分は除く)の解体、降水レーダー基礎工事、管理棟防水補修工事、荒金ダム循環配管更新工事、300kVA発電機2号機オーバーホール、PANSY発電機の入替え、管理棟空調機器更新工事、電気設備更新および調査、廃棄物埋め立て処理等を実施した。それ以外の作業として糧食輸送、解体現場近辺の一斉清掃、調理、当直業務などを行なった。夏期間を通じての総作業人日数は1408人/日、うち「しらせ」支援は442人/日であった。

6.「しらせ」船上での観測

往復路とも、インド洋では海底地形調査、ならびに水温、塩分、クロロフィル等の生物圏モニタリングの航走観測を行ったほか、萌芽研究観測「しらせ」船舶搭載全天イメージャーによるオーロラ・大気光の観測空白域の解消」等、一部の観測は横須賀出港後から実施した。
復路では、昭和基地離脱後に氷海域停船観測、リュツォ・ホルム湾沖において定常観測に基づく海底地形調査、St.BPにおける地圏モニタリングとして海底圧力計に係る作業を行った。

 

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