3-2.第60次南極地域観測隊夏隊活動報告

1.昭和基地接岸と輸送
12月25日に接岸。海氷は不安定で、貨油輸送と大型車両の輸送後、停留点を移動して中距離の氷上輸送を実施。59次越冬隊の詳細な氷上偵察、「しらせ」の充実した支援、60次隊の綿密な輸送計画の3者連携が功を奏し、持ち込み物資すべてを輸送できた。


2.昭和基地夏期観測
北極に発生した突然昇温に対する南極の応答を全世界の大型大気レーダーで連携観測するキャンペーンの開始を12月に「しらせ」船上から宣言。萌芽研究観測として、海氷に穴を開けてバイオロギングの手法を用いた魚類の行動・生態観測などを実施した。


3.野外観測
ドームふじ基地周辺のアイスレーダーを用いた掘削点探査や東西オングル島の地質調査を実施。S17で無人航空機を用いたバイオエアロゾル観測、沿岸露岩域での絶対重力測定やGNSS観測、湖沼での係留系回収や苔等の採取、ペンギンの生態計測を行った。


4.昭和基地作業
風力発電装置3号機の新設工事、自然エネルギー棟や重力計室の屋根補修工事、第2車庫兼ヘリ格納庫のヘリパッド建設工事、発電機オーバーホール等計画通り実施した。


5.「しらせ」航路上やリュツォ・ホルム湾及びケープダンレー沖での海洋・海氷観測
航路上、リュツォ・ホルム湾内で採水やプランクトン採取、ROVによる海氷下観測を実施したほか、ケープダンレー沖で流向・流速係留系の揚収、海洋酸性化など各種化学的分析のための自動採水装置係留系の設置を行った。


6.南極航空網を利用した活動(先遣隊)
10月31日に羽田空港を出発し、11月9日に昭和基地に到着して活動を開始。1月末まで活動を行った後、1月26日にS17を発ち、2月2日に帰国した。


7.「海鷹丸」による海洋観測(別働隊)
東京海洋大「海鷹丸」により、南極海において基本観測(海洋物理化学、生態系モニタリング観測)、一般研究観測を実施した。


8.教員派遣プログラムによる南極授業
2名の教員(中学校と高校)による「南極授業」を1月末?2月上旬に計4回実施した。


9.その他のトピックス
小学生時代に手紙をやり取りしたことがきっかけで南極にやってきたしらせ乗員が、当時手紙をやり取りした隊員の59次木津越冬隊長と17年ぶりに昭和基地で対面した。


1.昭和基地接岸と輸送

 2018年11月25日に成田空港を出発した第60次観測隊本隊は、26日にフリーマントル港で「しらせ」に乗り込み、11月30日に南極に向けて出港した。
12月16日にリュツォ・ホルム湾沖定着氷縁に到着し、12月22日に昭和基地西方9.3マイルからヘリコプター空輸第1便を実施した。引き続き優先物資空輸を実施した後、12月25日に昭和基地沖約500mの多年氷帯に接岸し、貨油輸送を開始した。また、雪上車など自走式の大型車両3台もここから氷上輸送した。接岸点がさらなる重量物の氷上輸送に適さない氷状であったため、停留点を移動し、中距離の持ち込み、持ち帰り氷上輸送を1月7日まで実施した。その後、立待岬の東方沖に停留点を再度移動し、途中悪天候のため2日実施できない日があったが、1月10日から14日まで持ち込み物資の一般空輸を実施し、1月15日から17日まで持ち帰り物資の空輸を行った。第60次隊の持ち込み物資量は、優先物資空輸27トン、一般物資空輸229トン、氷上輸送244トン、貨油輸送499トン、合計999トン、第59次隊の持ち帰り物資量は384.5トンであった。
 輸送終了後の1月24日からリュツォ・ホルム湾内での海洋・海氷観測を実施した後、2月12日から北上を開始し、2月23日に氷海を離脱した。なお、往路のラミング回数は344回、復路のラミング回数は1399回といずれも昨年より大幅に回数が増えた。


2.昭和基地夏期観測

 重点研究観測のサブテーマ1「南極大気精密観測から探る全球大気システム」として、南極昭和基地大型大気レーダー(PANSYレーダー)のフルシステムでの観測を実施するとともに、北極に発生した成層圏突然昇温に対する南極大気の応答を全世界で連携観測するキャンペーンの開始を12月に「しらせ」船上から宣言した。他にも電波・光学観測等の観測を継続実施し、極域大気が地球システムに与える影響の解明を目指す。定常観測の潮汐部門について、潮位観測装置の保守作業、水位計ケーブルの保守作業、測地部門の副標観測、水準測量、重力観測、レーザースキャナーを用いた精密地形測量、東オングル島内の簡易空中写真撮影用対空標識新設、電離層部門の衛星電波シンチレーション観測や電離層垂直観測の装置の保守・点検等を実施した。また、萌芽研究観測「海氷下における魚類の行動・生態の解明」では、海氷に穴を開けてバイオロギングの手法を用いた海氷下の魚類の行動・生態観測を行い、バイオエアロゾル採取等の大気観測や地衣類・蘚苔類の採取も行った。


3.野外観測

 基本観測では、宗谷海岸やプリンスオラフ海岸の露岩域とS16などで、空撮用対空標識の設置や基準点新設、野外臨時験潮GNSS観測を行った。
重点研究観測サブテーマ3「地球システム変動の解明を目指す南極古環境復元」では、アメリカ、ノルウエーとの国際連携により、過去80万年を超える古い氷床コア採取を見据え、「夏期内陸ドーム旅行」として、2018年11月9日にドロンイングモードランド航空網(DROMLAN)にて60次隊8名が昭和基地に入り、59次越冬隊2名と合流して11月11日に雪上車計6台で昭和基地近傍の南極氷床上であるS16拠点を出発した。ルートの途中(ARP2地点)で、英国南極局(BAS)の Twin Otter機で到着したノルウエー極地研究所の研究者2名と合流した。ルート上では、無人気象観測装置の整備、表面雪サンプリング、高層気象ゾンデ観測、降雪観測、雪尺網・雪尺列観測を実施し、12月9日にドームふじ基地に到着した。59次隊での調査結果に基づいてドームふじ基地周辺の内陸域に調査対象域を絞り、深層掘削点選定のため、氷床内部と基盤のアイスレーダー探査を実施した。距離にして合計1,200km走破した。またドームふじ基地周辺では浅層掘削(約120m)、フィルンエアーサンプリング等を実施した。
 一般研究観測では、「無人システムを利用したオーロラ現象の広域ネットワーク観測」において、H68、スカーレン、インホブデ、「しらせ」復路のアムンゼン湾リーセルラルセン山で無人磁力計の保守を実施。「全球生物地球化学的環境における東南極域エアロゾルの変動」では、S17観測拠点でエンジン付きあるいは電動カイトプレーンなど無人航空機による大気観測、エアロゾルやバイオエアロゾル(大気中を漂う微粒子や微生物)の採取を行なった。「地震波・インフラサウンド計測による大気?海洋?雪氷?固体地球の物理相互作用解明」では宗谷海岸やプリンスオラフ海岸での地震計やインフラサウンド計による観測を行った。さらに、「極域の地殻進化の研究」ではラングホブデ、明るい岬、スカレビークハルセン、ボツンヌーテンなどの露岩域にて岩石採取、地質構造観察のために、小型UAVを用いて上空から撮影を行なった。「南極陸上生態系における生物多様性の起源と変遷」では、スカルブスネスやスカーレンの凍結湖沼での係留系の回収、「1年を通した生態計測で探る高次捕食動物の環境応答」では、ラングホブデ・袋浦や水くぐり浦、まめ島でペンギン調査を実施した。


4.昭和基地作業

 昭和基地夏作業期間は、12月22日から2月10日までの全51日間であった(作業日43日、休日8日、うちクレーン作業不能日4日)。この間に、風力発電装置新設工事、自然エネルギー棟屋根防水工事、重力計室屋根防水工事、基本観測棟の内外装工事や電気設備工事、300KVA発電装置1号機オーバーホール、南極昭和基地大型大気レーダーの新アンテナレーダー5基設置、太陽光パネル設置、コンクリートプラント運用、第2車庫兼ヘリ格納庫のヘリパッド建設工事、電離層30mアンテナ解体、調理、当直業務を実施した。それ以外の作業として糧食輸送、東オングル島内一斉清掃、調理などを行なった。夏期間を通じての総作業人日数は1656.5人日、うち「しらせ」支援は633.5人日であった。


5.「しらせ」航路上やリュツォ・ホルム湾及びケープダンレー沖での海洋・海氷観測

 2019年1月24日、サブテーマ2 「氷床・海氷縁辺域の総合観測から迫る大気?氷床?海洋の相互作用」に関して、棚氷融解、海氷や氷河・氷床変動の実態等に関して生態系も含めた解明を目指し、リュツォ・ホルム湾でのROV(有索型無人探査機)による海氷下画像取得観測を実施した。27日には定着氷内のSt.Aへ移動し、CTD・採水、ハイブリッドpH・pCO2観測、プランクトンネットなどの各種海洋観測を実施した。2月3日に昭和基地立待岬沖を離岸し、4日に次の海洋観測点St.Bに到着し、St.Aと同じメニューを実施した。続いて5日に第61次で実施予定のグラビティコアラーによる採泥観測のための事前海底地質調査(サブボトムプロファイラー観測)を実施した。6日には流氷域の観測点St.Cに到着し、St.Aと同じメニューを実施した。23日に流氷域最後の観測点St.Dにて海洋観測を実施し、24日には開放水面域St.Eでの海洋観測、St.BPでの海底圧力計の揚収を行なった。その後ケープダンレー沖に移動し、3月3日に水温・塩分等各種センサー付きの昇降式ウインチが搭載されたSeasaw係留系、時系列海水採取装置やハイブリッドpHセンサーなど海洋酸性化のモニタリング用センサーを搭載したRAS係留計など2系の設置と昨年設置した流向流速計や濁度、溶存酸素センサーなどが搭載された1系の揚収を行なった。以後は東経150度ライン上にてCTD・採水等の海洋観測を実施した。


6.南極航空網を利用した活動(先遣隊)

 先遣隊は、2018年10月31日に羽田空港を出発し、翌日11月1日に南アフリカ・ケープタウンに到着した。11月8日にケープタウンを出発し、ノボラザレフスカヤ基地を経由して、9日20時頃に昭和基地北側海氷上滑走路へ到達した。先遣隊はドームふじ内陸旅行隊(夏隊員6名)、地質チーム(夏隊員1名、同行者1名)から成り、昭和基地到着後、前者は59次越冬隊員2名を加えて11月11日から1月23日まで、後者は11月11日から2月1日まで、それぞれの調査地域で活動した。
 帰路については悪天候が予想されたため、当初予定より1日前倒しの日程での出発となった。1月26日のフィーダーフライトで第60次夏隊7名と第59次越冬隊1名が、S17からプリンセスエリザベス基地に到着。30日にノボラザレフスカヤ基地に移動し、31日にケープタウンに到着した。翌2月1日にケープタウンを出発し、2月2日シンガポール経由で夕方に帰国した。


7.「海鷹丸」による海洋観測(別働隊)

 隊員5名・同行者6名の研究者で構成される別動隊は、東京海洋大学「海鷹丸」に乗船し南大洋にて海洋観測を実施した。基本観測(海洋物理・化学、生態系変動モニタリング観測)、一般研究観測「南大洋インド洋セクターにおける海洋生態系の統合的研究プログラム」、「南大洋・南極大陸斜面接合海域における循環流場の観測」に資する観測を実施した。
 2018年12月28日、羽田空港を出発し、29日にフリーマントルにて「海鷹丸」へ乗船した。フリーマントル到着後、機器の設営やキャリブレーション等の準備を行い、2019年1月2日にフリーマントル港を出港した。1月4日に最初の基本観測点に到着して暴風圏での観測を開始し、1月8日に南緯55度を通過した。連続プランクトンレコーダーを曳航しつつ南下し、表層海洋モニタリング、CTD・採水、ノルパック、がま口、VMPSなど各種プランクトンネット、XCTDなど基本観測を実施し、アルゴフロートの投入、係留系や漂流型係留系の投入および揚収、海氷の採取観測を実施した。1月16日に南極海を離脱し、24日に再び南緯55度を通過北上し、28日にホバート港に入港した。機器片付け資料整理を行い、2月1日までに全員「海鷹丸」を下船し、2月3日までに帰国した。


8.教員派遣プログラムによる南極授業

 南極観測による学術的成果や活動状況を広く社会に発信するため、第51次隊より今回で10 回目となる「教員派遣プログラム」で、観測隊に同行した教員2名がテレビ会議システムを利用した「南極授業」を実施した。1月29日に相模女子大学付属高等部をはじめ、神奈川と東京の公私立小・中・高校計9校、2月3日には国立極地研究所大会議室、南極・北極科学館、8日に調布市立第七中学校、および9日に神奈川県逗子市にある理科ハウス(主に高校生が参加)に集まった児童・生徒向けて実施した。


9.その他のトピックス

 「しらせ」乗員に小学生の頃の夏休みの研究で当時の南極地域観測隊からいろいろな質問に答えてもらった人がいた。南極と日本の小学生の間の書簡のやり取りが当時、地元紙に取り上げられ、「いつか仕事で南極に行く」ことがご本人の夢となっていた。それを第60次行動の今年実現し、南極にやってきた。実は、当時質問に答えてくれた隊員は第59次の木津越冬隊長で、2人は17年ぶりに昭和基地で対面を果たした。南極地域観測隊の活動は、子どもたちに夢を届ける仕事でもあることを改めて感じさせる出来事であった。

お問合せ先

研究開発局海洋地球課

極域研究振興係
電話番号:03-5253-4111(内線4144)・03-6734-4144(直通)