3-1.第61次南極地域観測隊越冬隊活動報告

1. 昭和基地の維持管理と越冬隊の運営

第61次越冬隊は隊員29名、同行者1名で令和2年2月1日に越冬を開始し、令和3年1月17日までの期間、昭和基地での観測設営活動を計画通り進めた。4月初旬まで開放水面が広がったオングル海峡は、順調に結氷し、極夜明けの野外活動は問題なく行えた。越冬後半に規模の大きいブリザードが集中したが、当初予定通り第62次隊を迎え入れ、感染症対策を行いつつ、基地の観測や運営の引き継ぎを実施した。

2.基本観測

電離層・気象・潮汐・測地部門の定常観測、および宙空圏・気水圏・地圏・生態系変動、極域衛星データ受信を対象領域とするモニタリング観測を概ね順調に実施した。基本観測棟での気象観測を通年で行い、消滅日が平成20年に並び最も遅い消滅日となるなど過去5年間で最大級のオゾンホールの出現を観測した。

3.研究観測

重点研究観測および一般・萌芽研究観測を概ね順調に実施した。重点研究観測サブテーマ1「南極大気精密観測から探る全球大気システム」において4K超伝導を活用した4周波ミリ波分光計を新たに設置し、成層圏から下部熱圏のオゾン、一酸化窒素、一酸化炭素を同時かつ連続的に観測できるようにした。

4.設営作業・野外行動

設営各部門が担当する昭和基地等における各種作業を当初の計画通り、概ね順調に実施した。第3期ドームふじ氷床深層掘削計画を見据えて、公開利用研究「極地における居住ユニットの実証研究」、シート橇の走行試験を行うとともに、入念な雪上車整備や既存の木製橇54台の修理や整備を実施した。
7月以降は精力的にルート工作を進め、9月にはスカーレンでの野外調査旅行を実施した。10月の内陸旅行では、180本の燃料ドラム缶をみずほ基地に移送した。

5.ドロンイングモードランド航空網(DROMLAN)への対応

昭和基地滑走路の調査および大陸のS17滑走路を整備したが、新型コロナウイルスの影響により、運用が限定的となり、利用はなかった。

6.情報発信

インテルサット衛星通信設備を使用した南極教室やライブトーク等の企画は新型コロナウイルスの影響で当初計画を大幅に縮小して実施した。代替として、YouTubeLiveや観測隊紹介などのYouTube動画公開を行った。観測隊ブログを39回掲載した他、テレビ番組への出演、地方紙・機関誌・子ども雑誌等への記事提供や寄稿を行った。また越冬期間中、同行記者の取材にも協力した。

 

1.昭和基地の維持管理と越冬隊の運営

令和2年2月1日、第60次隊から基地運営を引き継ぎ、第61次越冬隊30名(隊員29名、同行者1名)は越冬生活を開始した。越冬中は第60次隊の方針を踏襲し、観測系、設営系とも毎日ミーティングを実施し、情報共有を密にして協力することで、観測・設営とも概ね順調に作業を行うことができた。2月の日照時間としては歴代1位を記録したこともあり、気温は低かったものの日射により昭和基地内の融雪が進み、雪に埋もれていた色々なゴミを回収することができ、大量の廃棄物の持ち帰りにつながった。ブリザードは計19回と少なかったが、10月と11月末に大規模のブリザードが集中し、本格除雪や第62次隊受入れ作業の大きな試練となった。残業や夜勤の導入、また、観測・設営隊員問わず協力して作業を行ったことで、当初予定通り12月19日に第62次隊を迎え入れ、感染症対策を行いつつ、基地の観測や運営の引き継ぎを実施することができた。
昭和基地周辺の海氷状況は、4月初旬までオングル海峡に開放水面が広がっていたが、その後順調に結氷した。衛星写真などからも、極夜明けのリュツォ・ホルム湾の海氷状況は安定しており、野外活動は問題なく行えた。越冬後半に襲来した規模の大きいブリザードにより、「しらせ」接岸地点付近の海氷が固く締まった雪に覆われたことで、融氷が防がれ、「しらせ」接岸後1月中旬くらいまでパドル化することもなく、第62次隊の物資輸送が問題なく行えた。
4月9日、隊員2名が日本に早期帰国するため、ロシア観測船アカデミック・フェドロフ(AF) 号にピックアップされ、南アフリカのケープタウンに向かった。新型コロナウイルスの影響もあったが、各方面から支援いただき、5月22日に無事日本に帰国することができた。以降、隊員27名、同行者1名で、観測、基地管理を行い、停電などの設備トラブルもなく令和3年1月18日に基地運営を第62次隊に交代し、「しらせ」に乗船して2月22日に全員無事に日本に帰国した。

2.基本観測

電離層・気象(地上気象、高層気象、オゾン、日射・放射、天気解析等)・潮汐・測地部門の定常観測、および宙空圏(オーロラ、地磁気)・気水圏(温室効果気体、エアロゾル・雲、氷床質量収支)・地圏(統合測地観測、地震、インフラサウンド)・生態系変動(ペンギン個体数調査)、極域衛星データ受信を対象領域とするモニタリング観測を概ね順調に実施した。基本観測棟での気象観測を通年で行い、また第61次隊で作った放球デッキからも気球観測を試行した。過去5年間で最大級のオゾンホールが出現し、11月の月平均オゾン全量が統計開始以来1番小さい値を記録した。

3.研究観測

重点研究観測テーマ「南極から迫る地球システム変動」サブテーマ 1「南極大気精密観測から探る全球大気システム」として、南極昭和基地大型大気レーダー (PANSYレーダー)、ミリ波分光計、大気光イメージング、特殊ゾンデ、MFレーダー、電子オーロラの高速撮像、プロトンオーロラの分光、イメージングリオメータによる観測を実施した。PANSY レーダーは、フルシステムによる1年間の連続観測を実施した。ミリ波分光計観測は、4K超伝導を活用した4周波ミリ波分光計を新たに設置し、成層圏から下部熱圏のオゾン、一酸化窒素、一酸化炭素を同時かつ連続的に観測できるようにした。
一般・萌芽研究観測では、「昭和基地での宇宙線観測による第24/25 周期の太陽活動極小期の宇宙天気研究」、「無人システムを利用したオーロラ現象の広域ネットワーク観測」、「SuperDARNレーダーを中心としたグランドミニマム期における極域超高層大気と内部磁気圏のダイナミクスの研究」、「電磁波・大気電場観測が明らかにする全球雷活動と大気変動」、「南極上部対流圏・下部成層圏における先進的気球観測」、「全球生物地球化学的環境における東南極域エアロゾルの変動」、「東南極の大気・氷床表面に現れる温暖化の影響の検出とメカニズムの解明」、「極限環境下における南極観測隊員の医学的研究」、および「リスク対応の実践知の把握に基づくフィールド安全教育プログラムの開発」の各課題を実施した。また、公開利用研究として、「極地における居住ユニットの実証研究」を実施した。

4. 設営作業・野外行動

設営各部門が担当する昭和基地等における各種作業を当初の計画通り、概ね順調に実施した。
ここ数年問題が多発している取水・造水・汚水処理の各設備に関して、4月以降人数が少なかったこともあり、装置に対する負荷は例年よりも小さかった。2月に荒金ダムの取水口を更新し、古い取水口や配管などを全て撤去した。新しい取水口、水循環配管は越冬期間中、大きな問題や保守は不要であった。ただし、新設した取水口は雪の重みで架台の変形や破損が生じ、1年間の使用で改修が必要となった。造水に関しては、越冬期間中、造水能力が低下して造水ポンプの交換を行ったが、総じて大きな問題は発生しなかった。汚水処理装置に関しては、2月に処理膜50枚を交換し、また消泡剤散布装置を設置したことで処理能力は回復した。
第61次隊では約600kLのW軽油を持ち込んだ。しかし1年間の使用実績(主に発電機エンジン)は約630kLとなり備蓄燃料を30kL程度消費したことになる。仮に62次で燃料補給ができなかった場合、62次隊に引き継ぐ貯油量は300kL程度となったため、今後備蓄燃料を増やすことが必要かもしれない。
公開利用研究「極地における居住ユニットの実証研究」では橇に載せられた2つの居住モジュールを連結して1つの基地ユニットとし、第3期ドームふじ氷床深層掘削計画の居住空間として利用すべく、各種試験や環境モニタリングを行った。また、基地やS16などにデポされていた木製橇 (2t橇) などを昭和基地で修理、整備し54台使用可能状態にした。同時に2t橇にかわる新たなシート橇の走行試験も行った。これまでの内陸旅行で酷使されメンテナンスを必要とする大型雪上車7台を昭和基地に持ち帰り、入念な整備を実施し、今後の内陸旅行に備えた。10月の内陸旅行では、180本の燃料ドラム缶をみずほ基地に移送した。
オングル海峡の結氷が進み、十分な海氷厚になった7月以降は精力的にルート工作を実施し、9月にはスカーレンでの野外調査旅行を2回実施した。海氷状況は概ね良好であったが、ラングホブデ北部の風下側の海氷だけが、砂汚れのため融解が進み、11月中旬以降、ラングホブデざくろ池以南の海氷上での雪上車の通行を禁止した。ここ数年問題になっているとっつき岬手前の大きなタイドクラックは、9月以降、大型雪上車の通行や重量物の輸送に大きな障害となった。そのため、12月18日、向岩からS16ルート上のP40までのルート工作を行い、向岩―S16ルートを約30年ぶりに復活させた。このルートは氷床上のクレバスなども無く安全に通行でき、S17滑走路への緊急搬送などにも有効利用できそうである。

5. ドロンイングモードランド航空網(DROMLAN)への対応

2020/2021 シーズンのフライト計画は新型コロナウイルスの影響によりかなり縮小されており、昭和基地沖滑走路用の海氷調査、および大陸上航空拠点 (S17) 滑走路造成とJetA-1 航空用燃料の準備を行ったが、使用されることはなかった。

6. 情報発信

南極観測事業や観測隊の活動を広く社会に発信するため、インテルサット衛星通信設備によるインターネット常時接続回線を利用した動画中継により、国内外の小・中・高等学校等と昭和基地を結ぶ南極教室やライブトーク等の企画は、当初、南極教室19件、極地研開催イベント6件、他機関主催3件、朝日新聞主催6件、フロンターレ企画1件の計35件が予定されていた。しかし、新型コロナウイルスの影響により、当初計画を大幅に縮小しての実施となった。その代替として、南極観測の意義や南極の自然について次世代を担う子ども達に伝えるべく、YouTubeLiveや観測隊紹介などのYouTube動画の公開を行った。
10月にオンライン (YouTubeLive) で開催された「南極北極ジュニアフォーラム2020」では、前年の「第 16回中高生南極北極科学コンテスト」で南極北極科学賞に選出された2 課題の実験報告を行った。観測隊ブログを39回掲載した他、テレビ番組への出演、地方紙・機関誌・子ども雑誌等への記事提供や寄稿を行った。また越冬期間中、同行記者の取材にも協力した。

7.その他

「しらせ」接岸候補地点調査は4、7、11、12月に実施し、調査情報を国内に伝えた。接岸候補域である見晴らし岩周辺で、第60次隊の調査地点に前年の接岸点を加え面的に積雪・氷厚・フリーボード(海水の沁みあがり)を測定した。10-11月に襲来したブリザードによる積雪と12月は気温の低い日が続いたため、海氷状況は非常に良好であった。「しらせ」は、無事12月21日に接岸し、バルク輸送や氷上輸送が実施された。
11月19日に未開封ドラム缶からの漏油を発見した。漏れたのは橇の上であり、環境への影響はなかった。原因究明のため当該ドラム缶を持ち帰り、専門機関で調査を行った結果、ドラム缶底部の折り返し部の破損により漏油したことが判明した。折り返し部からも漏油の可能性があることから、ドラム缶を橇に搭載する等取り扱う際には、底面を地面等で擦り傷つけることのないよう、細心の注意を払うことを徹底した。
また、12月27日には解体作業中の観測倉庫の床に水銀があるのを発見した。溜まっていた水銀はすべて回収したため、環境への影響はない。その後適切な備品管理の徹底と再発防止に努め、それらを62次越冬隊へ引き継いだ。

お問合せ先

研究開発局海洋地球課

極域研究振興係
電話番号:03-5253-4111(内線4144)・03-6734-4144(直通)