2-3.第59次南極地域観測隊夏隊活動報告

1.昭和基地接岸と輸送
ここ数年で最も早く接岸できたものの海氷が不安定で、接岸後の氷上輸送ができるか懸念されたが、停留点を移動するなど臨機応変な対応で、大型物資や燃料を含めた持ち込み物資すべてを輸送できた。


2.昭和基地夏期観測
南極昭和基地大型大気レーダー(PANSY)観測の保守作業やノイズ対策を行い、ミリ波分光計の定常観測を開始した。また、宇宙線観測やSLR 観測のための予備観測を開始した。


3.野外観測
先遣隊で早期に南極入りし、夏期ドーム旅行やペンギン調査、湖沼堆積物の掘削採取を実施したほか、ラングホブデ氷河の掘削観測、S17でナノエアロゾルや大気観測、沿岸露岩域での絶対重力測定やGNSS観測、UAVを用いた空撮を実施した。


4.昭和基地作業
建築チームが先遣隊で早期に南極入りし、基本観測棟の建設を完了したほか、宇宙線観測コンテナ設置、倉庫棟外壁補修工事、発電機オーバーホールなど計画通り実施した。


5.「しらせ」航路上やリュツォ・ホルム湾での海洋・海氷観測
航路上に加え、リュツォ・ホルム湾内の27か所で停船観測を実施したほか、ケープダンレー沖で係留系の揚収と設置、トッテン氷河沖6か所で海洋・海氷観測を行った。


6.南極航空網を利用した活動(先遣隊)
10月28日に成田空港を出発し、11月3日に昭和基地に到着して活動を開始した。1月末まで活動を行った後、予定より5日遅れたものの、2月11日にS17を発ち、2月17日に帰国した。


7.「海鷹丸」による海洋観測(別働隊)
東京海洋大学「海鷹丸」により、南極海において基本観測(海洋物理・化学、生態系モニタリング観測)、一般研究観測を実施した。


8.教員南極派遣プログラムによる南極授業
2名の教員(小学校と高等学校)による「南極授業」を2月上旬に合計4回実施した。


9.環境保全
過去の隊次で使用され、野外に放置されていた空ドラム缶の回収を、ラングホブデ・雪鳥沢と西オングル島で観測隊ヘリを用いて実施した。


1.昭和基地接岸と輸送

2017年11月27日に成田空港を出発した第59次観測隊本隊は、28日にフリーマントル港で「しらせ」に乗り込み、12月2日に南極に向けて出港した。
12月16日にリュツォ・ホルム湾沖定着氷縁に到着し、12月20日に昭和基地西方7.6マイルから第1便の空輸を実施した。優先物資空輸を実施した後、12月23日に昭和基地沖約500mの多年氷帯に接岸し、貨油輸送を開始した。接岸点が重量物の氷上輸送に適さない氷状であったため、2度停留点を移動し、持ち込み、持ち帰り氷上輸送を1月5日まで実施した。その後、立待岬の東方沖に停留点を移動し、1月6日から9日まで持ち込み物資の一般空輸を実施し、1月11日から13日まで持ち帰り物資の空輸を行った。第59次隊の持ち込み物資量は、優先物資空輸28トン、一般物資空輸228トン、氷上輸送291トン、貨油輸送435トン、合計982トン、第58次隊の持ち帰り物資量は412トンであった。
輸送終了後の1月24日からリュツォ・ホルム湾内での海洋・海氷観測を実施した後、2月14日から北上を開始し、2月16日に氷海を離脱した。なお、往路のラミング回数は昨年よりさらに少ない27回、復路のラミング回数は1回であった。

2.昭和基地夏期観測

重点研究観測サブテーマ1「南極大気精密観測から探る全球大気システム」では、「南極昭和基地大型大気レーダー(PANSY)観測」の夏期の保守作業として、除雪や引継、ノイズ対策などを行った。また、「光・電波協同観測」では、ミリ波分光計の調整作業を行い、定常観測を開始した。また、近赤外オーロラ分光計の動作確認やイメージングリオメーター、アレキサンドライトレーザーの調整、OH大気光分光計の自動観測立ち上げも行った。
一般研究観測「南極昭和基地での宇宙線観測による宇宙天気研究の新展開」では、宇宙線観測コンテナを設置し、観測を開始した。「絶対重力測定とGNSS観測による南極氷床変動とGIAの研究」では、調整作業を行ったのち、1月13-16日に重力計室重力基準点A点で絶対重力計FG-5による絶対重力測定を行った。萌芽研究観測「南極仕様 SLR 観測システム開発」では、設置場所の選定をしたのち、全天カメラや雲量計を設置し、観測効率評価のための連続データ取得を開始した。
電離層定常において、デルタアンテナ、FMCW、HNC等の現状調査や保守作業を行い、10C撤収作業を実施した。測地定常観測では、GNSS連続観測局の保守、地上レーザスキャナ計測を実施した。潮汐定常観測では、1月19日に西の浦に水位計設置を設置し、1月19日、20日に副標観測を実施した。

3.野外観測

重点研究観測サブテーマ2「氷床・海氷縁辺域の総合観測から迫る大気―氷床―海洋の相互作用」では、「ラングホブデ氷河観測」において、ラングホブデ氷河上の4か所で熱水掘削を実施し、孔内や氷河底の撮影、係留系や水圧温度センサーの設置を行ったほか、GPSによる氷河流動速度の測定やUAVによる空撮を行った。また、「GNSS氷上多点展開による流動観測」では、白瀬氷河でGNSS観測やアイスレーダー(ApRES)観測を行った。
重点研究観測サブテーマ3「地球システム変動の解明を目指す南極古環境復元」では、「夏期ドーム旅行」として、11月13日にS16を出発し、ルート上で積雪サンプリング、レーダー観測、雪尺観測などを行い、12月9日にドームふじ基地に到着した。その後、掘削地の候補となるエリア付近で、浅層コア掘削、レーダー観測等を行った後、ドームふじ基地に残置されていたアイスコアを搬出して、持ち帰った。また、「宗谷海岸での地形地質調査に基づく氷床後退史の解明」では、宗谷海岸やプリンスオラフ海岸において、地形地質調査や岩石サンプリング、UAVを用いた地形調査を実施した。
一般研究観測では、H68、スカーレン、西オングル、インホブデで無人磁力計の保守、S17でナノエアロゾル組成観測やAWS観測、雪面レーザースキャン観測を実施した。また、宗谷海岸やプリンスオラフ海岸での絶対重力測定、地形標高モデル作成のためUAVによる空撮、地震計やインフラサウンド計による観測を行った。さらに、スカルブスネスやスカーレンの凍結湖沼での湖底コアの掘削採取、湖沼の潜水調査やROVを用いた湖底調査、魚探による湖盆調査、ラングホブデ・袋浦や水くぐり浦、まめ島でペンギン調査を実施した。
基本観測では、宗谷海岸やプリンスオラフ海岸の露岩域とS16などで空撮用対空標識の設置や基準点新設、野外臨時験潮GNSS観測を行った。

4.昭和基地作業

夏作業期間は、先遣隊が作業を開始した11月4日から2月9日までの99日(作業日79日、休日9日、作業不可日11日)であった。
先遣隊の建築チームが11月上旬から、基本観測棟周りの除雪や12フィートコンテナからの資材の搬出、足場組みなど、2階部分の建設に向けた準備を実施した後、12月から建設を始め、柱・梁の施工、壁の施工、3階床の施工と順調に作業が進められた。そして、12月15日には屋根の施工や防水が完了し、基本観測棟の建設をほぼ終了した。
本隊が12月20日に昭和基地入りし、建築関係に加えて、機械・電気関係、車両関係などの基地作業が実施された。建築関係では、基本観測棟の外階段の取り付けや屋上デッキの設置、宇宙線観測コンテナ用基礎工事およびコンテナ設置、倉庫棟外壁補修工事、風力発電機基礎工事、HFアンテナ基礎工事、コンテナヤードへのクレーンマット敷設などが行われた。機械・電気関係では、300kVA発電装置2号機オーバーホール、宇宙線観測コンテナ電源工事、太陽光発電モジュールの交換、基本観測棟弱電幹線敷設などが行われ、1月24日には計画停電が実施された。車両関係では、PB100に加えて、新たに持ち込んだPB300の整備が行われた。そのほかにも、夏期隊員宿舎の汚水処理施設の改造作業や宇宙線観測小屋とラングホブデ袋浦のLAN環境の整備、越冬に向けたリーファーコンテナから倉庫棟冷蔵庫、冷凍庫への食材の搬入などが実施された。
第59次隊の夏期間の総作業人日数は1204.5人日、「しらせ」支援は451人日であった。

5.「しらせ」航路上やリュツォ・ホルム湾、トッテン氷河沖での海洋・海氷観測

輸送終了後の1月24日から、重点研究観測サブテーマ2「氷床・海氷縁辺域の総合観測から迫る大気―氷床―海洋の相互作用」の「リュツォ・ホルム湾海洋観測」が実施され、CTDなどの停船観測を27か所で実施したほか、海氷上にPOPSという係留系の設置、ROVによる海中撮影、XCTD観測などが行われた。また、海底地形測量や氷海性能試験も同時に実施された。復路において、アムンゼン湾方面でのオペレーション終了後、ケープダンレー沖に移動し、2月26日に係留系2系の揚収と1系設置および停船観測を行った。さらに、3月5日にトッテン氷河沖に移動し、5日から8日にかけてトッテン氷河近傍の6か所で停船観測を行うとともに、海底地形測量やXCTDなどの海洋観測を実施した。

6.南極航空網を利用した活動(先遣隊)

先遣隊は、2017年10月28日に成田空港を出発し、翌日に南アフリカ・ケープタウンに到着した。当初、先遣隊が搭乗する大陸間フライト(D02便)は11月2日に予定されていたが、その前のフライト(D01便)が既にキャンセルされており、D02便も大幅に遅れることが予想されたため、通常の南極航空網(DROMLAN)を利用したフライトではなく、Norwegian Polar Institute(NPI)が提供する航空路を用いて、2017年11月3日にケープタウンを出発し、トロール基地とノボ基地を経由して、同日21時頃に昭和基地北側海氷上滑走路へ到達した。
先遣隊はドームふじ旅行隊、ペンギン調査チーム、湖沼・地形調査チーム、建築チームから成り、11月3日に昭和基地入りした後、建築チーム以外は、11月上旬から1月末まで、それぞれの調査地域で活動した。
帰路については、当初 2月6日のフィーダーフライトでS17からノボ基地に移動し、2月8日にケープタウンに到着する予定であったが、悪天候などのため5日遅れ、2月11日にS17を発ち、2月12日の夜にケープタウンに到着した。ケープタウンでは、人員・物資の確認などを行い、2月16日にケープタウン空港を出発し、 2月17日に帰国した。

7.「海鷹丸」による海洋観測(別働隊)

「海鷹丸」による海洋観測では、基本観測(海洋物理・化学、生態系モニタリング観測)、一般研究観測「南大洋インド洋セクターにおける海洋生態系の統合的研究プログラム」、「南極底層水昇温・低塩化期における深層循環の変貌解明」を実施した。
隊員・同行者他の研究者は、2017年12月26日、羽田空港を出発し、27日に「海鷹丸」へ乗船した。フリーマントルにおいて、機器の設営やキャリブレーション等の準備を行い、31日にフリーマントル港を出港した。2018年1月2日に最初の基本観測点に到着し、暴風圏での観測が始まり、CPRを曳航しつつ南下し、基本観測、係留系回収、ポリニヤ域での観測を実施した。1月16日に南極海を離脱し、ホバートまでの区間でマイクロプラスティクスのネット採集を行い、22日にホバート港に入港した。機器片付け資料整理を行い、25日に「海鷹丸」を下船し、26日に帰国した。

8.教員南極派遣プログラムによる南極授業

南極観測による学術的成果や活動状況を広く社会に発信するため、第51次隊より始まり、今回で9回目となる「教員南極派遣プログラム」で同行する小学校及び高等学校の教員2名による「南極授業」を夏期間に実施した。第59次隊では、大仙市立西仙北小学校(2月5日)、川崎市立菅小学校(2月8日)、秋田県立大曲工業高校(2月9日)、川崎市立百合丘小学校(2月10日)との間で行われた。

9.環境保全

過去の隊次で使用され、野外に放置されている空ドラム缶の回収を、1月19日にラングホブデ・雪鳥沢で、2月11日に西オングル島で、観測隊ヘリを利用して実施した。

お問合せ先

研究開発局海洋地球課

極域研究振興係
電話番号:03-5253-4111(内線4144,4451)