第58次南極地域観測隊越冬隊の現況(6月~9月)

1.気象・海氷状況

6月

気象状況は、いたって平穏な状態が続いており、中旬以後に2回外出注意令を発令するブリザードとなったが、大きな積雪にはならず、基地内において積雪による基地活動に影響がでる状況ではなかった。海氷状況は、3日前後にオングル海峡東側の結氷が確認されたのち、順調に結氷状態が継続していると思われる。気温は、3日から17日前後まで最低気温が‐25℃に下がる日が続いたが、それ以後は、再び‐20℃を上回る気温となった。

7月

月内に外出注意令を4回、うち外出禁止令を2回発令する気象状況となった。1日に最低気温‐32.2℃を記録したが、その後は平年を上回る気温の日が多くみられた。積雪は例年に比べ少な目の状況に変化はない。オングル海峡の海氷は、6月初旬に結氷を始めた模様でその後開放水面は見られておらず、順調に結氷が進んでいるとみられる。リュツォ・ホルム湾内の海氷は、25日に最大瞬間風速38.3m/sを記録した際、オングルカルベン島付近からラングホブデ北岬付近まで再度海氷が割れる状況になった。

8月

上旬から中旬にかけて気温は平年並みに推移した。下旬は、比較的好天に恵まれ、気温は平年を下回る日が多くみられた。10日から13日にかけて継続したブリザードでは、最大風速が40m/sに迫り、今季最も激しいブリザードになった。ブリザード後の衛星画像及び無人航空機による偵察の結果、ラングホブデ沿岸近くまで海氷が流されている状況が確認された。開放水面の状況の変化を観察するため、オングルガルテン以南のルート工作を延期することとした。

9月

月を通して平年並みの気温で推移した。ブリザード後には、数日間最低気温が‐25℃を下回る日があったが、おおむね‐15℃から‐20℃の気温で推移した。12日にはリュツォ・ホルム湾内南緯68度45分近辺まで海氷の割れ込みが衛星画像により確認され、沿岸の野外行動を中断せざるを得ない状況となった。その後、昭和基地での海氷状況の監視方法として目視及びドローンによる偵察を可能な限り頻繁に実施する等体制を強化し、状況を注視することとした。下旬以後は、比較的好天に恵まれたため、昭和基地南方の沿岸ルートを使った野外行動を実施することができた。

2.基地活動

6月

極夜に入り屋内での作業及び観測が中心になり、活動量が減っているようであるが、体調不良を訴える隊員はなく、落ち着いた状況で推移している。初旬から中旬にかけてやや低温の日が続いたが、降雪は少なく、除雪を行う必要はない状況であった。20日から23日までの期間にミッドウインター祭を行い、越冬後半に向けて英気を養った。

7月

月前半は、極夜期間で屋外活動の制約が大きく、行動範囲が限られるため、生活面においてゆとりを持たしつつ、屋内活動を中心に進める状況である。13日に極夜が明け、観測・設営活動においては昼間の活動時間を確保できるようになりつつある。極夜前にほとんど実施することができなかった海氷上のルート工作を徐々に開始した。基地内の積雪は、例年に比べ少な目に推移している。
8月:初旬にとっつき岬へのルート工作を重点的に行い、大陸へのルート確保に至った。その後、とっつき岬からS16までのルート整備を実施した。S16拠点までのルートが完成したことにより、S16/S17拠点における雪上車及び橇の整備を進めることができた。中旬に今季最大と思われるブリザードに見舞われ、数日野外行動を中止せざるを得ない状況となったため、海氷等の状況を確認しながら9月から10月にかけての野外行動計画の見直しを行った。

9月

ほぼ毎週ブリザードとなる気象状況のなかで、短い好天日にルート工作と野外行動を実施した。月後半よりラングホブデ雪鳥沢小屋までのルートが完成し、向岩、オングルガルテンなどへの野外行動及びラングホブデ湖沼調査を実施することができた。基地内ではブリザードの影響で、例年並みの積雪があり、ブリザード後の点検作業と除雪に追われた。

3.観測

6月

基地観測は全般的に順調に進んでいる。極夜に入り基地内の灯火管制は午後3時から翌日午前9時前後まで継続している。

7月

基地観測は全般的に順調に進んでいる。月内に訪れた二度の25m/sを超える強風の影響で、屋外に設置されたアンテナ設備に一部損傷が見られたが、即日復旧可能な範囲であった。基地の最大消費電力は200kWを超える状況が見られるが、夜間の観測等に影響がでるほどの電力消費には至らなかった。

8月

基地観測は全般的に順調に進んでいる。灯火制限が必要となる宙空関連観測が、夕食後開始、翌日朝食前に終了するようになったため、昼間の作業との重複がなくなり、時間調整が容易になった。

9月

基地観測は全般的に順調に進み、灯火制限が屋外作業と重複する時間帯がほぼなくなった。

4.設営作業

6月

基地内の電力需要に一層注意を払っており、大容量の電力を使用する機器の立ち上げ時には可能な限り基地内の電力負荷状況を確認しながら起動する等の対応を実施している。最大電力は200kWを超える状況であるが、電源切り替えはほぼ計画通り実施できた。毎週月曜日の夕食後の空き時間を利用して、安全講習の一環として事故例集の読み合わせを行った。

7月

野外行動の準備作業として、海氷上のルート工作を開始しているが、多年氷帯に沿ったとっつき岬ルートを優先し、細心の注意を払ってルートの延長を行っている。状況を見ながらマルチコプターによる事前調査を行い、予定ルートの選定を行う等の対策を行っている。

8月

10日から13日にかけて発生したブリザードの強風により、基地内数か所で軽微な被害がみられたが、数日中に修復作業を実施し復旧した。S16拠点から大型雪上車4台をとっつき岬に移送、そのうちSM111とSM109を昭和基地まで移送し本格的な整備を実施した。

9月

10日にラングホブデ雪鳥沢小屋まで、22日にスカルブスネスきざはし浜小屋までのルートが完成し、順次湖沼調査を実施した。22日から好天が続き、スカルブスネス湖沼調査を実施することができた。内陸調査旅行の準備として大型雪上車SM100の整備を進め、昭和基地からとっつき岬またはS16拠点へ車両の回送を行った。

5.その他

6月内の南極教室は、週1回から2回程度実施しており、屋外からの中継及び室内での質疑等、実施支援隊員の技術レベルも向上している。Facetimeを使用した簡易版南極教室もこれまでに3回実施することができ、学校側との事前調整、コンテンツの送付等についても手順が確立されてきた。
7月内の南極教室は4回実施に加え、簡易版2回を実施した。極夜特有のコンテンツ作成が功を奏し、学校からの反応も上々の模様である。59次隊の隊員室開設に伴い、引継及び先遣隊に関連する事前調整のためのテレビ会議を随時開催している。
8月内は情報発信として極地研究所一般公開及び南極・北極科学館ライブトーク2回、南極教室簡易版1回に対応した。20日に立川で開催された58次隊員家族会にテレビ会議により参加し、近況を報告した。
9月内は情報発信として南極教室9回(うち簡易版5回、他主催中継1回)を実施した。次隊の受け入れ準備として、航空機対応のための昭和基地前滑走路及びしらせ接岸予定地点の適地調査を実施した。

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