5-3.第58次南極地域観測隊越冬隊の現況(2月~5月)

1.気象・海氷状況

2月

月全体を通して比較的風の弱い好天が続いた。海氷状況は、オングル海峡側の開放水面が1月からさらに広がり、見晴らし岩前まで水面が見える状態になった。北の浦は依然として厚い海氷におおわれているが、西の瀬戸から南の瀬戸に至るまで開放水面が広がる状況になっており、今後の推移に注意が必要な状況となっている。

3月

岩島と見晴らし岩を結ぶ線の東側まで接近した開放水面は、北の瀬戸にむけ西側に広がる状況がみられた。西の浦方面の海氷は、おんどり島からめんどり島、わかどり島を結ぶ位置の西側まで開放水面となった。気象状況は、25・28日に外出注意令を発令した以外は好天が続き、ブリザードはなかった。

4月

月をとおして曇りがちの日が多かったが、積雪は比較的少なかった。強風の日にも視程悪化の時間が短く、外出注意令の発令は3回に留まり、全体的に平穏な気象条件であった。オングル海峡の開放水面は下旬に一時薄氷におおわれたが、その後の強風により再度、オングル海峡の大陸側が開放水面となった。西の瀬戸の開放水面は、おんどり島、めんどり島の西側まで広がる状況に変化はなかった。衛星画像により、リュツォ・ホルム湾内の海氷が下旬以降広範囲に湾外に流出する様子が確認された。オングル諸島南方の海域では、スカーレン氷河に至る海域の海氷が沿岸まで流出している。

5月

気象状況としては、上旬に1回、中旬に1回、外出禁止となる強風となった他は、大きな積雪を伴うブリザードには至らなかった。基地内の積雪は依然として少ない状態が続いている。海氷状況は、オングル海峡東側に開放水面が広がる状態が続き、全面的な結氷には至っておらず、4月末の時点から結氷が進んでいないようである。衛星画像によると、とっつき岬方面の海氷域は、強風でさらに多年氷帯が流される状況が見られており、岩島からとっつき岬につながる海氷が狭まる状態となっている。

2.基地活動

2月

2月1日に越冬交代式を行い、第57次越冬隊から昭和基地の管理・運営を引き継いだ。強風により同日夕刻より外出注意令を発令し、2日から吹雪となり、3日朝に注意令解除とした。この影響で、57次隊越冬隊の「しらせ」帰投は3日となった。15日に「しらせ」最終便により残留していた57次隊員、58次隊員全員が「しらせ」に帰投した。20日に越冬成立式、福島隊員慰霊祭を執り行い、正式に越冬生活に入った。21日よりオーロラ光学観測の一部を開始した。25日に防火訓練を開催した。28日に全体会議を行い、3月以後の計画等について隊員間の周知を図った。

3月

月をとおして比較的好天に恵まれ、野外行動および屋外作業ともに順調に進んだ。3月に入って、隊員の越冬生活も軌道に乗りつつある。上旬は、野外講習として東オングル島内を一周し危険個所の周知および安全確保の訓練を実施した。中旬は越冬に向けて各棟屋を隊長および設営主任が巡回し、燃料の保管状況、医薬品等の分散保管状況、建屋内の安全管理状況などの点検を実施した。下旬より、年間を通じた野外行動計画をまとめ、想定される今後の海氷状況の変化を考慮して、スケジュール調整とともにガソリン等燃料の消費量を見積もり、計画に反映するよう検討を行った。

4月

昼間が短くなり、オーロラ観測等の夜間観測の比重が増えるとともに、屋内業務に移行を図っている。外気温低下にしたがい、各棟屋の温度管理に配慮しつつ観測設営作業を実施している。基地付近での野外行動訓練および安全講習等を通じて、隊員の野外行動の技術向上を図るとともに、極夜期前に実施予定の野外行動の計画について、海氷状況並びに国内の準備状況等の情報をまとめ、検討を行った。

5月

極夜期に向けた準備作業が大方完了し、屋外作業に区切りがついた。一部建屋の温度管理の不具合を修正する追加工事等を実施したが、観測に支障はきたしていない。夏期間に撤去された旧汚水処理棟跡のドリフトは、まだ目立つほどに大きくはなっていない。降雪後の基地内の除雪作業は、順調に進んでおり、数日で完了している。

3.観測

2月

2月より越冬期間の観測活動を開始し、宙空部門のオーロラ光学観測の一部を20日から開始した。重点研究観測の大型大気レーダー観測は、フルシステムによる対流圏、成層圏及び中間圏の観測を継続し、28日の国際共同キャンペーン観測終了まで観測停止時間が最小限となるように運用を行なった。

3月

観測・設営・生活関連を含め月間29件の野外行動を実施し、順調に経過した。極夜期間の観測に向けて、電力需要の調査を前月に引き続き実施し、大電力を消費するとみられる機器を使用する際には電力消費の特徴を制御担当隊員が可能な限り把握できるように調査を実施した。

4月

基地観測は全般的に順調に進んでいる。オーロラ観測等夜間の観測もほぼ計画どおり実施している。野外観測は、海氷が比較的安定している基地近辺の北の浦および西オングル島に限定して実施した。

5月

基地観測は全般的に順調に進んでいる。外気温が-20℃近く下がる日が出るに従い、居住棟並びに各観測棟の温度管理に注意を払っている。夜間の観測時間が長くなるに従い、基地内の灯火管制の時間が長くなり、夕方15:00前後から翌朝09:00前後までオーロラ光学観測を実施している。基地内の電力需要についても、可能な限り詳細な需給状況を見ながら観測を行っている。

4.設営作業

2月

23日に作業工作棟前から見晴らし岩橇置き場までの海氷上ルート工作を実施した。生物部門の野外行動として西オングル大池の湖沼調査および北の浦におけるアザラシ調査のためのルート工作を実施した。野外調査を開始したことにともない、スノーモービル等で使用するガソリンの必要量について、年間を通した利用計画を策定し、野外調査を計画的に実施することができるよう作業部会を設けることとした。無人航空機による積雪調査、コンテナヤードの現状記録等を実施した。

3月

野外行動については、ガソリンの消費を抑制する手段として、スノーモービル運搬橇の導入を検討している。隊員には、野外行動訓練および国内から送られる衛星画像をもとに昭和基地周辺の現況および過去の隊次における海氷状況等に関する理解を深めるよう検討会を実施した。

4月

海氷状況を確認しながら野外行動を実施しているが、月を通して海氷状況を注視しており、新規ルート工作を控え、基地近傍での観測行動および訓練を実施している。下旬には、観測に関係する国内の研究代表者および南極観測センターと連携し、極夜明け以後の野外行動および基地運営について、テレビ会議による打合せを実施した。

5月

極夜前に予定していたルート工作および野外調査について海氷状況により7月に実施を一部延期することとした。5月中に野外行動のレスキュー訓練、医療訓練を実施し、7月以後の計画を迅速に進めることができるよう準備を進めた。

5.その他

越冬交代以降、日出から日入までの時間が短くなるに従い、生活リズムおよび気温変化への対応に注意しながら、生活全般に配慮している。3月下旬より南極大学を開始し、毎週隊員による講義を行なっている。南極安全講習や南極医療講習、また消火訓練や緊急時対応についても訓練を実施することにより、隊員相互の連携を確認するようにしている。情報発信については、衛星回線の帯域利用状況を確認しながら、簡易版南極教室を実施するとともに、テレビ電話の試験運用を行った。また、南極教室等の実施回数が5月、6月に多数予定されており、担当隊員および支援隊員を含めた打合せ、リハーサル、接続試験等の準備作業を進めている。
5月から冬期間の生活日課(週2日の休日日課)を設定したこと、積雪量が比較的少なく、除雪作業に大幅な時間を取られていないことで、隊員の基地生活については安定しているといえる。

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研究開発局海洋地球課