5-1.第57次南極地域観測隊越冬隊活動報告

1.昭和基地の維持管理と越冬隊の運営
2016年2月1日~2017年1月31日の期間、越冬隊30名による昭和基地での観測設営活動を実施した。期間中大きな怪我や停電はなかったが、漏油事故が1件発生した。4月にはリュツォ・ホルム湾全域で大規模な海氷の流出が発生したため、野外行動は限定的なものとなった。

2.基本観測
電離層・気象・潮汐・測地部門の定常観測、及び宙空圏・気水圏・地殻圏・生態系変動、地球観測衛星データ受信を対象領域とするモニタリング観測を概ね順調に実施した。特記事項としては、大気中の二酸化炭素濃度が初めて400ppmを超えたことが観測された。

3.研究観測
重点研究観測及び一般研究観測を概ね順調に実施した。重点研究観測「南極域中層・超高層大気を通して探る地球環境変動」では、56次隊から引き継いだ大型大気レーダー55群のフルシステムによる1年間の連続観測を9月まで実施し、引き続き1月まで継続した。
越冬序盤の1-2月には、世界初の試みとなる国際的大型レーダーネットワーク観測が実施され、今後、そのデータ解析を通じて、各種大気波動の役割や南北半球大気間の相互作用の解明が期待される。

4.設営作業・野外行動
設営各部門が担当する昭和基地等における各種作業を当初の計画通り、概ね順調に実施した。4月に発生したリュツォ・ホルム湾全域での海氷流出に伴い、限定的なルートの設定のみとなったが、9月から12月までの間、野外行動を活発に行った。内陸域では10月に17日間にわたってS122地点までの往復旅行を実施し、気水圏変動のモニタリング観測(雪尺測定、積雪サンプリング)、宙空圏分野の一般研究観測(無人磁力計保守)、気象定常観測(移動中の気象観測)、ルート整備及び車両走行試験等を行った。

5.ドロンイングモードランド航空網(DROMLAN)への対応
大陸上航空拠点S17における滑走路整備、JET A-1航空用燃料デポ及び昭和基地における海氷上滑走路造成とJET A-1航空用燃料の提供、通信と気象情報提供を行った。1月18日に緊急物資空輸のためバスラー・ターボ機がS17に着陸した。

6.情報発信
インテルサット衛星通信設備による常時接続回線を利用したTV会議システムによる南極教室、及び国立極地研究所南極・北極科学館におけるライブトークをはじめとする国内の各種企画を39回実施した。うち1件は、国連パレスチナ難民救済事業機関を通じて依頼のあったもので、ガザの子ども達に向けて南極教室を実施した。ウェブページ「昭和基地NOW!!」他、テレビ・ラジオ番組への出演、地方紙・機関誌等への記事提供や寄稿を積極的に行った。


1.昭和基地の維持管理と越冬隊の運営

 57次の夏期オペレーションで「しらせ」が接岸し、予定通りすべての物資を輸送することができたため、2016年2月1日に56次隊より昭和基地の運営を引き継いだ後、2月27日に越冬成立式を行ない、越冬生活を開始した。越冬を通じて観測、設営作業は概ね順調に行なうことができた。4月にはリュツォ・ホルム湾全域で大規模な海氷の流出が発生したため、極夜前の海氷上の行動を制限した。極夜明け後も部分的に開放水面が広がったため、海氷上の行動は制約され、野外行動は限定的なものとなった。多雪傾向は継続し、ブリザードの回数も多かったため、ブリザード後の除雪には多大な労力を費やした。越冬期間中、漏油事故が発生したが、防油提内への漏出のみであったため漏油全量を回収することができ、環境への影響はなかった。入院加療を必要とするような大きな怪我、停電なく、施設の維持管理も順調に行なった。

2.基本観測

電離層・気象(地上気象、高層気象、オゾン、日射・放射、天気解析)・潮汐・測地部門の定常観測、および宙空圏(オーロラ、自然電磁波、地磁気)・気水圏(温室効果気体、雲・エアロゾル、氷床質量収支)・地殻圏(重力、地震、GPS、VLBI)・生態系変動(ペンギン個体数調査)、地球観測衛星データ受信を対象領域とするモニタリング観測を概ね順調に実施した。特記事項としては、5月14日に大気中の二酸化炭素濃度が初めて400ppmを超えたことが観測された。

3.研究観測

重点研究観測では、「南極域から探る地球温暖化」サブテーマ(1)「南極域中層・超高層大気を通して探る地球環境変動」として、大型大気レーダー(PANSYレーダー)観測、レイリー/ラマンライダー観測、ミリ波分光観測、MFレーダー観測、OH大気光観測、全天大気光イメージャ観測、オゾンゾンデ・ラジオゾンデ観測を昭和基地で実施した。特に、大型大気レーダーについては、55群のフルシステムによる1年間の連続観測を56次隊から引き継いで9月まで実施し、その後1月まで継続した。
越冬序盤の1-2月には、PANSYレーダー責任者が呼びかけ人となって、世界的にも初の試みとなる国際的な全球大気観測キャンペーン(ICSOM: Interhemispheric Coupling Study by Observations and Modeling)が実施された。南北極域を含む各国の大型大気レーダー観測を軸に、小型レーダーや光学観測も加わった観測が行われた。キャンペーン期間中には北極域で成層圏突然昇温現象が起こり、今後、そのデータ解析を通じて、各種大気波動の役割や南北半球大気間の相互作用の解明が期待される。
一般研究観測では、「極域から監視する全球雷・電流系活動と気候変動に関する研究」、「太陽活動極大期から下降期におけるオーロラ活動の南北共役性の研究」、「SuperDARNレーダーとオーロラ多点観測から探る磁気圏・電離圏結合過程」、「昭和基地におけるVLF帯送信電波を用いた下部電離層擾乱に関する研究」、「小電力無人オーロラ観測システムによる共役オーロラの経度移動特性の研究」、「南極昭和基地における極成層圏雲・極中間圏雲の微細構造観測」、「エアロゾルから見た南大洋・南極沿岸域の物質循環過程」、「南極昭和基地におけるFTIR赤外分光観測によるオゾン破壊物質及び成層圏水蒸気・エアロゾルのモニタリングと衛星データ検証」、「極限環境下の南極観測隊における医学生物学的研究」、「GPSを活用した氷河・氷床流動の高精度計測」を実施した。
公開利用研究では、「南極の紫外線が生物に及ぼす影響と南極由来のセルロースに関する研究」を実施した。

4.設営作業・野外行動

設営各部門が担当する昭和基地等における各種作業を当初の計画通り、概ね順調に実施した。昭和基地以外の大陸沿岸露岩域に設置されている無人観測装置の保守、露岩GPS観測、ペンギン個体数調査及び内陸旅行準備などを目的として、海氷上ルートを設定した。4月に発生したリュツォ・ホルム湾全域での海氷流出に伴い、西オングル島を含めた昭和基地周辺、昭和基地からラングホブデと昭和基地からとっつき岬までの限定的なルートの設定のみとなったが、9月から12月までの間、野外行動を活発に行った。内陸域では10月8日から24日の17日間にわたって、人員8名でS122地点までの往復調査旅行を実施した。当初はみずほ基地を往復する予定だったものの、予想外の悪天に見舞われたためやむなくS122で引き返すことになったが、気水圏変動のモニタリング観測(雪尺測定、積雪サンプリング)、宙空圏分野の一般研究観測(無人磁力計保守)、気象定常観測(移動中の気象観測)、ルート整備及び車両走行試験等を行った。

5.ドロンイングモードランド航空網(DROMLAN)への対応

2016/17シーズンのフライト計画に従って、大陸上航空拠点S17における滑走路整備、JET A-1航空用燃料デポおよび昭和基地における海氷上滑走路造成とJET A-1航空用燃料の提供、通信と気象情報提供を行った。10月下旬に岩島東方のオングル海峡上に幅40m、長さ800mの滑走路を造成し、フライトの前日に整備を行った。この滑走路には11月5日(給油ドラム数10本)、12日(同8本)、24日(同7本)、12月6日(同8本)、7日(同10本)の計5回、ノボラザレフスカヤ基地とプログレス基地間を移動するバスラー・ターボ機が給油のため立ち寄った。また、10月22日、12月5日、1月15日にS17滑走路の整備を行ない、1月18日に緊急物資空輸のためバスラー・ターボ機が着陸した。給油ドラム本数は6本であった。当初の予定では、S17滑走路を利用する便はもっと多かったが、人が常駐して整備の行き届いているベルギーのプリンセスエリザベス基地に給油場所を振り替えて運用された。
なお、オングル海峡の滑走路については、例年設置するとっつき岬ルートの東かつ向い岩ルートの北側の場所が4月の海氷流出によって不安定な状態であったため、岩島の東側に設置した。

6.情報発信

南極観測による学術的成果や観測隊の活動状況を広く社会に発信するため、インテルサット衛星通信設備によるインターネット常時接続回線を利用したTV会議システムにより、国内外の小・中・高等学校等と昭和基地を結ぶ南極教室、および国立極地研究所南極・北極科学館におけるライブトークをはじめとする国内の各種企画を39回実施し、越冬活動の紹介や児童・生徒からの質問に答えるなど、アウトリーチや広報活動を通じて南極観測の意義や南極の自然について次世代を担う子ども達に伝えた。また、このうち、15 件は、テレビ電話システム(FaceTime・Skype)を利用した簡易版として実施し、広報活動の簡便化と活発化を実現した。簡易版のうち1件は、国連パレスチナ難民救済事業機関を通じて依頼のあったもので、ガザの子ども達に向けて南極教室を実施した。11月に開催された南極北極ジュニアフォーラム2016において、昭和基地で実施した「第12回中高生南極北極科学コンテスト」で選ばれた優秀提案1課題の実験結果を報告した。観測隊公式ホームページ「昭和基地NOW!!」には、日常的な話題から33件の原稿を作成して掲載した。その他、テレビ・ラジオ番組への出演、地方紙・機関誌等への記事提供や寄稿を積極的に行った。

7.「しらせ」への海氷情報の提供

58次隊が「しらせ」側と打ち合わせを行なう実務者会合と五者連絡会議の際に昭和基地周辺の海氷状況の情報提供を行なった。また、4月以降の海氷流出に伴い、例年と比較して海氷が薄いことから、「しらせ」接岸点周辺の氷厚測定結果と「しらせ」航路近傍の海氷上ルートの氷厚データを58次隊経由で「しらせ」に提供した。

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研究開発局海洋地球課