2.第36回観測・設営計画委員会議事の記録(案)

日時

平成28年10月21日(金曜日)14時00分~16時00分

場所

文部科学省東館3階 3F2特別会議室

出席者

(委員)
江淵 直人 国立大学法人北海道大学低温科学研究所長
柴田 明穂 国立大学法人神戸大学大学院国際協力研究科 教授
中尾 正義 大学共同利用機関法人人間文化研究機構総合地球環境学研究所 名誉教授
原田 尚美 国立研究開発法人海洋研究開発機構戦略研究開発領域 地球環境観測研究開発
センター長代理
松山 優治 国立大学法人電気通信大学 監事
山口  一 国立大学法人東京大学大学院新領域創成科学研究科 教授
横山 祐典 国立大学法人東京大学大気海洋研究所高解像度環境解析研究センター 教授

(オブザーバー)
岩崎 敦志 外務省国際協力局地球環境課上席専門官
藤村 英範 国土地理院企画部 国際課長
荻原 裕之 気象庁観測部計画課 南極観測事務室長
松山 延人 海上保安庁海洋情報部技術・国際課 技術・国際官
木村 昌夫 総務省情報通信国際戦略局技術政策課 専門職
中野 彰子 環境省自然環境局自然環境計画課課長補佐
前野 英生 国立研究開発法人情報通信研究機構電磁波研究所宇宙環境研究室 主任研究員
白石 和行 国立極地研究所長
野木 義史 国立極地研究所 副所長
榎本 浩之 国立極地研究所 副所長
橋田   元 国立極地研究所 南極観測センター副センター長(観測担当)
本吉 洋一 第58次南極地域観測隊長(兼夏隊長)
岡田 雅樹 第58次南極地域観測隊副隊長(兼越冬隊長)

(事務局)
 林  孝浩 文部科学省研究開発局海洋地球課長
  小酒井克也 文部科学省研究開発局海洋地球課 極域科学企画官
 山口  茂 文部科学省研究開発局海洋地球課 課長補佐

議事

(1)事務局より、隊長交代の説明及び当日の議題・配付資料について確認があった。

(2)以下の議題について、各担当者より報告及び説明があった。

1.前々回議事について(事務局)
2.南極条約に関係する諸会議について(外務省、国立極地研究所)
3.第57次越冬隊の現況について(国立極地研究所)
4.第58次南極地域観測隊行動実施計画(案)について(国立極地研究所)
5.第58次南極地域観測隊公開利用研究・継続的国内外共同観測(案)について(国立極地研究所)
6.平成28年度外国基地派遣(案)について(国立極地研究所)
7.南極条約第7条5に基づく事前通告のための電子情報交換システム(EIES)(案)について(外務省)
8.その他(事務局)

主な意見は以下のとおり。

(議題2)

【中尾委員】
SCARの予算が厳しいとのこと。構造を承知していないのでお伺いしたいが、現在どれぐらいのサイエンスプロジェクトが走っていて、新たにどのようなプロジェクトが立ち上がったのか。また、プロジェクト立ち上げに関してSCARはどのような役割を果たしているのか。最近、いろいろなところで予算が大型化しており、本当の意味での国際共同研究のニーズが非常に高まってきているが、SCARは十分な役割を果たしているのか。
【白石所長】  
SCARの日本の代表として参加したのでお答えする。走っているプロジェクトについてだが、常設のスタンディングコミッティで認められたアクションプランに沿って、多くのプランはSCARに予算、活動費を要求している。各国が分担してそれぞれの国で活動できる範囲内の調査活動を南極で実施し、その結果をそのグループとしてまとめてSCAR総会や学会で発表するというのが通常のやり方。
 今、SCARは財政問題で常に苦しんでいるが、財政的な話を先にすると、各国が会費を支払っている。会費額は、5段階に区分され、日本は上から2番目の区分で、300万円程度支払っている。会費については、今回、会費額が改定されたが、このような状況で、事務局を維持し、プロジェクトに資金を提供するということについて、非常に困難になっている現状。
 また、具体的にどのようなプロジェクトが走っているかについては、例えば、南極に地球上で一番古い氷が得られるのではないかというオールデスト・アイスの課題とのことで、100万年、あるいは80万年といった氷を見つけるための国際プロジェクトが一部開始されている。また、今年から、柴田委員も参加された社会科学関係、国際関係のセッションがオープン・サイエンス・コンファレンスで開かれ、今後どのように発展するかというところ。
 これらプロジェクトの基本になるのは、一昨年に発表された、SCARホライゾン・スキャンに挙げられた80のサイエンストピックス。一昨年の8月1日の『Nature』誌にその概要が掲載されている。
【中尾委員】
ご説明いただいたような、こういうことをやってはどうかという提言があり、あとは各自努力というようなものは、いわゆる本当の共同研究ではない。本当の意味の共同研究プロジェクトを立ち上げるためのSCARの役割というのはあるのか。建前上、あることになっているのかもしれないが、説明されたものだと、オールデスト・アイスの採集という話は、いろいろな国がいろいろなことをやろうとしている。主体者によってかなり違うので、昔から仲がいいとか、いろいろとあると思うが。各国横断的に、採集場所等を議論している形跡は余りない。SCARが、どれだけの役割を果たして、どれだけのコントロールの権限・能力があるのか、それとも、各自の活動に任せようという観点なのかをお伺いしたい。
【白石所長】
かなりコミットしていると思う。プロジェクトによって異なると思うが、例えば、全てのプロジェクトではないが、毎年、順番にSCARの中でのインターナルレビューを受けている。その結果によっては、もう予算配分は打ち切りというような決定もされるし、コミットしていることは事実。
【原田委員】
会議における審議内容・成果のところの2番に、「南極の生態系保護に関する議論の高まりを感じさせる局面が目立った」と記載されている。いろいろな海域で最近、マリーン・プロテクテッド・エリアというものを作っていこうという動きがあるかと思うが、サザンオーシャンに関して、特にこのSCARでは具体的に何か審議等をされたのか。
【白石所長】
マリーン・プロテクト・エリアについては審議していないと思う。これは、CCAMLRのマターではないかと思う。今、CCAMLRが開催中であり、極地研の担当者はそちらに出席しているのでこの場では正確にお答えできないが、ここでは、例えば外来種の侵入阻止とか、陸上の生態系の保護といったものがメインだったように記憶している。今回、新しいSCARの新会長にスティーブン・チョウン氏が選ばれたが、この方はその方面の専門家であり、今後、SCARとしての取組が強まるのではないかという予感はしている。
【柴田委員】
私は、国際法学者としては恐らく日本人として初めてではないかと思うが、SCARのオープン・サイエンス・コンファレンスに参加した。
 そこでの情報と、私の印象から質問させていただきたい。1つ目は、現地で、ある報告のパネリストから聞いた情報であるが、昨シーズン、日本船籍の観光船、恐らく「飛鳥」だと思うが、南極クルーズを行ったとのこと。南極クルーズの問題は大変話題になっていて、様々な管理ないし規制をしていかなければいけないという議論がある中で、一番大事なのは、その観光クルーズ船が南極海域に入っているということをしっかり認知されているということ。
 日本の場合は、上陸をしない船の航行については、南極条約第7条5項に基づく通告をしないという法律の解釈から、通告を行っていない。これに関する議論もあると思うが、より問題であると思ったのは、南極における観光業を束ねているIATTOというアソシーションにも、「飛鳥」は何らの情報も提供していなかったということで、国際的フレームワークの中に入らない形で日本の船籍の船が、上陸はしないにしても南極をクルーズしたということになり得る。私もその場で知って驚いたし、本来ならば日本人が、その場で状況等を説明すべきだったと思うが、それもできなかったということで、このあたり事実関係も含めて情報を頂きたい。
 第二に、オープン・サイエンス・コンフェレンスに参加し、新しいサイエンスプロジェクトの一つとして、ヒューマニティーズ・アンド・ソーシャルサイエンス・エキスパートグループというのがある。これは、まだ専門委員会であり、今回正式に、人文社会科学及び歴史学の新たなスタンディングコミッティにしてほしいという提案をさせていただいた。これは、持ち越しになり、2年後のダボスでの審議に委ねられたが、こうしたヒューマニティーズ・アンド・ソーシャルサイエンスのSCARの中における研究活動に対する日本としてのサポートの在り方について、極地研の方からお伺いしたい。
 まずは、このスタンディングコミッティになるということについてどのようにお考えかということと、この南極に関わる人文社会科学及び歴史学の日本におけるネットワークが今、ほとんどなく、極地研の中にもそういうことを担当する方がいない。そういう中で、このSCARでこうした大きな動きになっているときに、日本としての貢献を行っていく上で、南極に関する人文社会科学及び歴史学の関心の高まりを踏まえ、今後、日本として、特にネットワーク、日本にいる研究者のネットワークという観点から何か方策はないのかというあたりをお聞きしたい。
 第三に、オープン・サイエンス・コンフェレンスで南極の生態系保護に対する関心が高まっているということであるが、実は議論はもう一歩先に行っており、南極における生態系保護という科学、サイエンスの観点からの関心を更にその先、つまり、そうした生態系への影響を踏まえて、それを南極に関する政策にどのように活かしていくかという議論が活発に行われていた。私もオープン・サイエンス・コンファレンスに行って初めて聞いた言葉だが、ポリシー・レレバント・サイエンス、政策的に意義ある科学というのがキーワードになっており、南極で行われている様々な自然科学の知見をどのように、今、南極で政策的に議論されているものに貢献していくか、そういう自然科学と社会科学の接点のようなところが大変盛んに議論されていたというのを見てきた。
 そういうことも踏まえて、日本における、南極に関する人文社会科学及び歴史学の研究の高まりをどういうふうにしていくかというようなことについて、御意見をおうかがいしたい。
【白石所長】
私たちは、今までずっと自然科学ばかりで、社会科学という立脚点がなかったが、今回、SCARで初めてそのセッションが開かれた。北極は以前からそういう専門家もいらっしゃったが、南極の探検の歴史などが、歴史学の対象になるのだということを再認識した。
 それから、社会学あるいは国際関係という面で、かなり興味深い発表があり、相当デリケートな問題なのだろうという印象を持った。今後、日本がどういうふうに進めていくのかというのは、1つは、研究者の方々が関心を持たれる、例えば、柴田委員のような方々の中でネットワークづくりをされるのだと思うが、そういうところからスタートして、組織として極地研究所が対応するのが妥当かどうかも含めて、組織として動くというのは、まだこれからだろうというのが私の個人的な感想。
【中野環境省自然環境計画課課長補佐】
柴田先生から御指摘があった点について、承知している限りで情報提供させていただきたい。
 昨年、春から夏にかけて、郵船クルーズから環境省に「飛鳥2」を航行させたいという相談があった。クルーズの内容については先方からの確認・届け出等、必要な手続きを環境省から説明したところ。外務省と認識は一緒にしていると思うが、航行については条約事務局に通報するものではないという整理ではあるが、環境省から郵船クルーズには、関係する国際的な観光業界には通報したほうがいいのではないかとお伝えはした。それ以降のことについては、今の段階では情報はない。
【柴田委員】
日本の観測事業と関係のないところではあるが、日本の船が南極に行っているということで、今回のような議題が上がってきている。南極条約協議国会議で採択されている南極観測船の規制に関する措置があり、日本は実はこれを承認している。まだ発効はしていないが、観光船等についての規制をするという新たなルールが作られている。これを実施するためには、上陸をしない観光船も何らかの形で日本の法律に乗せていかなければいけないという時期に来ている。この措置が発効するのがいつか分からないが、少なくとも日本としては、この内容を実施できるということで承認をしている。
 観光船については、そろそろ何らかの形で日本の法律に乗せていくということを具体的に検討される時期に来ているかと思うので、余り原則論に固執せずに柔軟に国際的なスキームの中で日本として適切な行動がとれるように、是非、善処いただきたい。
【松山主査】
この委員会で議論できるものではないので、事務局と外務省、あるいは環境省との間で詰めていただけるとありがたい。
【林海洋地球課長】
本委員会は、あくまでも観測事業のことを所掌するので、今のことは南極条約一般に関することと思うので、外務省、環境省と相談してどのように進めていくのがよいか考えたい。

(議題4)

【中尾委員】
資料4-4で、下の表の一番右と真ん中でお聞きしたいが、この違いは、氷上輸送ができるか、できないかである。そのときに、氷上輸送でなければ運べないものがあるのか。それとも、単なる時間とヘリの重量のせいだけで減っているのか。
【本吉第58次隊長】
かなりの重量物、例えば車両などは氷上輸送でないと昭和基地に下ろせない。
【中尾委員】
その分が減っているということか。
【本吉第58次隊長】
そのとおり。
【松山主査】
それでは、行動実施計画(案)については、本委員会として承認し、11月10日の本部総会にお諮りしたいと思う。
(委員了承)

(議題5) 
それでは、公開利用研究・継続的国内外共同観測(案)については、本委員会として承認し、11月10日の本部総会にお諮りしたいと思う。
(委員了承)

(議題6) 

それでは、外国基地派遣(案)については、本委員会として承認し、11月10日の本部総会にお諮りしたいと思う。
(委員了承)

(議題7) 

【柴田委員】
資料4ページの一番下、Operational Information-Non Government Expeditions-Vessels-Based Operationsと、ここに通常であれば各国は観光船なども含めている国もある。そのあたりは国際法の解釈がまだ統一されていないところであるが、こういうところに乗らないものについては、IATTOという業界への通報によって国際的なスキームに乗せておくと、そういう理解でいる。
 それから、もう一つは、このForward Plansの英文だが、これは外務省が訳されて通報されているのか。若干、ミススペル等がある。
【橋田副センター長】
本案につきましては、外務省のシステムから通報するようにはなっているが、内容に関しては極地研究所で作成している。
【柴田委員】
まだ訂正は可能か。
【橋田副センター長】
書類自体の修正は本部総会の方では可能かと思うが、通報システムの中身の修正ができないのであれば、齟齬が生じてしまうことになるので、それを含めて確認させていただく。

【松山主査】
それでは、南極条約第7条5に基づく事前通告については、スペル修正を事務局と私にお任せいただき、本部総会にお諮りするということでよろしいか。
(委員了承)

(議題8) 

【中尾委員】
観測部門経費が増えている理由は。
【小酒井極域科学企画官】
国土地理院からのUAVの要求が800万円ほどあり、それが1,100万円の大部分を占めている。
【柴田委員】
日本が南極地域観測事業に掛けている予算は、各国に比しても決して劣らない額であると思っている。したがって、それが日本の南極観測の科学の面での優位性につながっていると思っていたが、実は、この事業費の中で実際にサイエンスに使用される金額は、少ないということがわかってきた。
 その部分で比較をすると、各国、南極に基地を置いているような国と比較をして、例えば、韓国などと比べて、このサイエンスの部分のお金というのは、どれぐらい日本として、世界的なレベルの中で位置付けられているのか。恐らく、観測部門経費と観測隊の経費の金額がまさにサイエンスに行っているところだと思うが、もし、各国との比較ができるようであれば、もしくは、日本としてどのようにお考えになっているか、少し情報を頂きたい。
【小酒井極域科学企画官】
御指摘のとおり、南極地域観測事業費のうち、海上輸送部門の「しらせ」の運航やヘリの整備に要する経費等が、一般会計の南極地域観測事業費の約9割を占めているという状況であり、御指摘のとおり輸送に係る経費が多い。
【白石所長】
2年前にCOMNAPで調査をしたが、総額しか分からない。総額だけで言うと、日本の約60億円というのは、トップ6位か7位ぐらいで、グルーピングで言うと、トップランナーの最後尾というところ。アメリカは抜群に多く日本の10倍。あとは、ドイツ、ロシア。ロシアは数字が余りよく分からないが、そのあたりが常連。フランスと比べては、日本は決して引けをとっていないところ。
 ただ、予算の組み方が各国非常にまちまち。各国輸送費が大半を占めていることは事実だが、最近、ドイツなどがそうであるが、航空機での人員輸送が常識になりつつある。そういうことで、ロジスティックスの費用は増額する傾向にある。ネットでの研究費というところでは、日本はそれほど多くないと認識している。
【松山主査】
我々研究者がもっと応援ができればよい。
【横山(祐)委員】
アメリカ、イギリス、フランス等の科学研究のプロポーザルのレビューを何回もしたことがあるが、それらを見てみると、枠組みが違う。サイエンス部分の経費は、競争的資金でNSFのPOLAプログラムに申請し、それをその時の6か年とか10か年計画に併せてレビューするみたいなところがあるので、その辺も併せてレビューしてもらえると資料としてよいと思う。
【白石所長】
もう一つ外国との大きな違いは、外国は今の話のようにプロジェクトでやるので、スタートからアウトプットまでトータルで1つのプロジェクト。つまり、現地の観測から国内での研究、フォローアップ、そこまでが1つのプロジェクトで完結しているが、日本の場合は、現地の観測のための経費であり、帰国後の国内での研究の費用は入っていない。そこは構造上、非常に特殊と感じている。
【中尾委員】
この一番下の極地研の特別経費というのは、南極観測事業だけの額がここには書いてあり、極地研の研究の部分が別にあるということか。
【白石所長】
そのとおり。極地研究所は共同利用研究機関であり、共同研究という枠組みを持っており、それは別の運営費交付金でやっている。
ただ、国内の共同利用研究費、一般共同研究費は非常に少額であり、かつ、この何十年間、金額はほとんど変わっていない。

(3)事務局から次回の会議日程については、委員の都合を確認の上、連絡する旨の説明があった。

―― 了 ――


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