資料2 我が国で実施すべき幅広いアプローチのプロジェクトについて(案)

平成17年9月28日
ITER(イーター)計画推進検討会

1.経緯

  6月28日、モスクワで開催されたITER(イーター)サイト決定のための6極閣僚級会合において、我が国で幅広いアプローチを実施することとされた。幅広いアプローチは、核融合の実現のためにITER(イーター)と並行して補完的に取り組むべき研究開発プロジェクトを日欧の協力で実施(研究活動へは他の極の参加もオープン)するものである。どのようなプロジェクトを実施するかについては、これまでの6極の専門家及び日欧の専門家による検討を通じて候補として挙げられている以下のプロジェクトのうちから、我が国が選定することとされている。

  • 国際核融合材料照射施設(設計活動及び/又は施設)
  • ITER(イーター)研究センター(以下の施設を含む)
    • - 核融合科学のための計算機シミュレーションセンター
    • - 遠隔実験センター
  • 核融合発電技術調整センター(デモ炉の国際設計活動センターを含む)
  • 新たなプラズマ実験装置(サテライトトカマク装置)
      こうした状況を受けて、本検討会では、文部科学省における幅広いアプローチのプロジェクトの選定に資するため、専門家からのヒアリングも行いながら候補となっているプロジェクトの概要等をとりまとめるとともに、選定に係る基本的な考え方を明らかにし、それに基づき各候補プロジェクトに対する意見をとりまとめた。

2.各候補プロジェクトの概要等について

  各候補プロジェクトの概要及び主なスペックについて、本検討会において専門家から意見を聴取したところ、以下のような提案があった。

(1)国際核融合エネルギー研究センター

  • 国際核融合エネルギー研究センターは、原型炉設計・研究開発調整センター、ITER(イーター)遠隔実験センター及び核融合計算センターから構成され、これらのセンターが連携を図りながら、核融合エネルギーの実現に向けた研究開発を効果的・効率的に実施する研究センター。
  • 原型炉設計・研究開発調整センターは、各国で検討されている次世代核融合炉(原型炉)の概念設計を評価し、統一的な概念設計を確立するとともに、その設計をもとに原型炉の実現に向けて必要な物理的・工学的な研究開発課題を抽出し、予備的な研究開発を実施する。
  • ITER(イーター)遠隔実験センターは、ITER(イーター)本体と高速ネットワークで結ばれ、我が国においてITER(イーター)の実験条件の設定、データ収集、解析等が行えるようにする施設。カダラッシュとの8時間の時差(夏時間期間は7時間)を利用して効率的にITER(イーター)で実験をすることが可能となる。
  • 核融合計算センターは、スーパーコンピュータを用いて、燃焼プラズマの挙動やプラントの安全性等に関連する計算・解析を行い、その成果をITER(イーター)の運転シナリオの最適化や次世代炉の設計等に反映させる。
  • また、核融合計算センターのスーパーコンピュータは開発済みのものを調達することを想定。
  • タイムスケジュールについては、当初の2年で研究棟の整備を行い、その後、核融合計算センターと原型炉設計・研究開発調整センターは活動を開始。遠隔実験センターはITER(イーター)完成の2年前から整備を開始し、ITER(イーター)運転開始と同時期に運用を開始する。
  • 必要な経費としては、核融合計算センターの性能等により大きく変わりうるが、数百億円規模を想定。

(2)サテライトトカマク装置

  • 日本原子力研究所が有する臨界プラズマ実験装置JT60を活用し、ITER(イーター)の運転シナリオの最適化等のITER(イーター)支援研究や原型炉に向けてITER(イーター)を補完する研究を国際枠組みで実施する。
  • また、サテライトトカマクの役割を適切に果たすために、プラズマの長時間維持やITER(イーター)を模擬したプラズマ配置等が可能となるよう、JT60のコイルの超伝導化等の改修を行う。
  • 改修により高ベータプラズマを保持することを目指すとともに、プラズマアスペクト比、断面形状制御性等において機動性と自由度を最大限確保できるものとする。
  • スケジュールとしては、本体改修に約6年、機器調整・整備に約6年を予定。経費としては、本体改修及び機器調整・整備等に数百億円を見込んでいる。

(3)国際核融合材料照射施設(設計活動及び/又は施設)

  • 本プロジェクトは、核融合炉の材料開発に不可欠である14MeV(メガ電子ボルト)中性子の重照射(80dpa(ディスプレイスメントパーアトム)(注)程度以上)に関する照射データを取得するために、中性子照射施設の工学設計活動・建設を行うもの。
      (注)dpa(ディスプレイスメントパーアトム): 中性子照射によって材料の構成原子が格子点からはじき出される割合を示す単位
  • これまでの国際核融合材料照射施設の概念設計活動の結果、施設の主な要求性能としては、はじき出し損傷速度は最大50dpa(ディスプレイスメントパーアトム)毎年、中性子スペクトルは核融合炉の第1壁環境を模擬したものとされている。
  • 工学設計活動は、建設判断に必要な十分に統合された工学設計とその裏付けになる技術データの整備を目的とし、そのために必要となる、加速器プロトタイプ、リチウムモデルループ等の製作・試験も実施。
  • 本プロジェクトは、現在OECD/IEA(国際エネルギー機関)の下で日欧露米の協力により実施している国際核融合材料照射施設の概念設計活動の延長上に位置付けられる。
  • 必要な経費としては、施設の建設を行う場合は総額約1,000億円。また、工学設計のみについては、加速器のプロトタイプの試験まで含めるか否かにより変わるが、約100億円~約200億円。
  • 工学設計活動は(1)の国際核融合研究センター活動の一環として実施することが効果的・効率的。スケジュールとしては、同センターの研究棟が完成しだい開始し、5年程度の期間を見込む。

3.我が国で実施すべきプロジェクトについて

(1)選定に係る基本的考え方

  我が国として幅広いアプローチのプロジェクトを選定するに当たっては、1)核融合エネルギーの早期実現の視点、2)我が国で幅広いアプローチを実施することにより、ITER(イーター)を通して、かつ原型炉に向けて我が国の実力と存在感が一層向上するという視点、3)国内のみならず海外の研究者にとっても魅力のあるものかという視点、4)複数のプロジェクトの連携により相乗的な効果が発生することや長期にわたる人材育成の観点から、あるプロジェクトに特化するのではなくバランスよく実施するという視点、といった4つの視点が重要である。
  また、我が国と欧州の間で、幅広いアプローチの実施期間がITER(イーター)の建設期間(2006年~2016年(予定))に概ね合致する期間とする旨合意されていることや、必要な資金は日欧の双方がそれぞれ460億円程度を負担することとされていることを踏まえ、どのようなプロジェクトをどの時期に行うことが効果的か、また総額920億円程度という資金の中でどのプロジェクトを実施することが先の4つの視点に照らし合わせて効果的かという点を十分考慮する必要がある。

(2)各プロジェクトに対する考え方

  この基本的考え方を踏まえて、各候補プロジェクトに対する本検討会としての意見を以下のとおりとりまとめた。これを踏まえて、文部科学省において我が国として実施すべき候補プロジェクトを選定し、極めて厳しい財政状況にあることを十分踏まえながら、費用対効果、プロジェクト間の連携、実施スケジュール等も勘案し、欧州との間で計画の具体化に向けて協議を進めていくことを期待する。その際、国内の核融合研究者等からの意見も聴取し反映に努めるとともに、日欧以外のITER(イーター)関係極の理解を得ながら進めていくことが重要である。
  なお、幅広いアプローチの実施に当たっては、我が国の研究者・機関が連携協力するとともに、専任の研究スタッフ及び支援スタッフの採用形態やポスドクの採用方策を明確化するなど、オールジャパンで活用できるような体制を構築することが重要である。
  さらに、遠隔実験センターとITER(イーター)機構との関係など、プロジェクトを実施していく上での責任管理主体を明確化することも必要である。

1.国際核融合エネルギー研究センター

  • センターを構成する遠隔実験センター、計算機センター及び原型炉設計・研究開発調整センターのそれぞれが、核融合エネルギーの早期実現や我が国の実力や存在感の向上といった視点から意義があるとともに、これらの施設を一つのセンターとすることにより大きな相乗効果が見込まれ、アジアのセンターとして国内外からの研究者の集積が期待できる。
  • また、これらの対象とする研究分野も、プラズマ物理から炉工学R&Dまで広範にわたっており、人材育成の観点からも効果があると考える。
  • 以上のことから、本センターの整備を幅広いアプローチのプロジェクトとして実施することは意義があると考える。
  • なお、研究センターの規模、調整センターで実施する炉工学に関する研究開発の内容、整備するスーパーコンピュータについてスカラ型かベクトル型かも含めたスペックに関して更なる検討を加える必要がある。

2.サテライトトカマク装置

  • サテライトトカマク装置は、ITER(イーター)における試験研究を効果的・効率的に行い核融合エネルギーの早期実現を図るという視点から意義がある。
  • また、韓国や中国が新しく超伝導プラズマ装置を建設している中で、JT60の超伝導化等により臨界プラズマ条件下でそのスペックを向上させることは、我が国の実力や存在感の向上に資するとともに、国内外の研究者の集積並びにITER(イーター)運転期に活躍する人材育成という観点からも意義があると考える。
  • 以上のことから、サテライトカマク装置の整備を幅広いアプローチのプロジェクトとして実施することは意義があると考える。その際、国際核融合エネルギー研究センターとの連携を図り、より効果的・効率的な研究開発が行えるように工夫することが重要である。
  • なお、本施設の整備に当たっては、運転段階において、我が国のこれまでの投資を踏まえた国内プロジェクトと国際協力プロジェクトの運転時間の適切な配分や運転経費の負担の在り方について、さらなる検討が必要と考える。

3.国際核融合材料照射施設

  • 核融合材料の開発は核融合エネルギーの実現に向けた重要な課題の一つであり、そのためには実際の核融合炉条件下での材料の照射データが不可欠であることから、この施設の意義・重要性は小さくはないと考えられる。
  • しかしながら、施設本体の建設については、
    • 技術的に現時点で建設の可否を判断できる状況ではなく、まずは工学設計や要素技術開発を行い、その結果を評価し建設への移行を判断すべきこと、
    • 幅広いアプローチの枠組みで当該施設の建設を行うことにより他のプロジェクトが実施できなくなること
         等から、幅広いアプローチで実施することは適当ではないと考える。
  • ただし、他の主体により本体施設の建設が行われる十分な見通しがあり、かつ、我が国が工学設計活動に貢献することにより本体での照射試験に一定の参加ができるということが確保されるのであれば、工学設計活動への貢献を幅広いアプローチの枠組みで実施することは意義があると考える。

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研究開発局原子力計画課核融合開発室

(研究開発局原子力計画課核融合開発室)

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