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生物多様性を規範とする革新的材料技術(下村 政嗣)

研究領域名

生物多様性を規範とする革新的材料技術

研究期間

平成24年度~平成28年度

領域代表者

下村 政嗣(千歳科学技術大学・総合光科学部・教授)

研究領域の概要

 生物が有する多様性は、長い進化の過程において環境に適応した結果であり、「生物の技術体系」とも言うべき、「人間の技術体系」とは異なる「生産プロセス」「作動原理」「システム制御」によって獲得されてきたものである。
 “サブセルラー・サイズ構造”とも言うべき昆虫や植物の体表面に形成されたナノ・マイクロ構造は特徴的な機能を有しており、その形成過程と機能発現機構をもたらした「生物の技術体系」を明らかにすることは、「人間の技術体系」が内包し解決すべき喫緊の課題である、環境・資源ならびにエネルギー問題の解決に寄与する「生物規範工学」とも言うべきパラダイムシフトをもたらす。
 本領域は、自然史学、生物学、農学、材料科学、機械工学、環境科学などの学際連携により、環境政策・包括的技術ガバナンスの観点から「生物多様性」に学び「人間の叡智」を組み合わせた技術体系を創出する。生物多様性と生物プロセスに学ぶ材料・デバイスの設計・製造を通して、技術革新と新産業育成のプラットフォームとなる「バイオミメティクス・データベース」を構築するとともに、生物学と工学に通じた人材を育成することを目的としている。

領域代表者からの報告

1.研究領域の目的及び意義

 本領域の目的は、「生物多様性」すなわち「高炭素世界の完全リサイクル型技術」に学んで新しい技術規範(パラダイム)を体系化した「生物規範工学」を創生することにある。生物多様性を軌範とする持続可能性へのパラダイムシフトを獲得するためのブレークスルーとして、博物学と工学を情報科学によって連携融合する戦略をとる。細胞内部や表面に形成される数百nm~数ミクロンの「サブセルラー・サイズ構造」が持つ機能の解明によって「生物の技術体系」を明らかにし、生物多様性と生物プロセスに学ぶ材料・デバイスの戦略的設計・製造を達成する。人類の自然認識体系として本来一体のものであるべき、自然史学、生物学、農学、材料科学、機械工学、情報学、環境政策学、社会学を再架橋して、オープン・イノベーションのプラットフォームたる「バイオミメティクス・データベース」を構築するとともに、生物学と工学に通じた人材を育成する。環境政策に基づくソシエタル・インプリケーション (社会的関与)の観点から、新たな「科学・技術体系」としての「生物規範工学」を確立し、「持続可能性社会」の実現に資する。総括班と3つの研究班を設け、班内ならびに班間の有機的な連携を図ることで目的を達成する。各班は原則として、生物系と工学系、数理系などの研究者が融合するように課題設定を行い、総括班においては研究協力者として企業研究者の積極的な参画を図る。

2.研究の進展状況及び成果の概要

 生物のSEM画像データベースを作成し、類似画像検索とオントロジーの組み合わせるで、技術革新の着想を得る発想支援型検索システムを設計した。「サブセルラー・サイズ構造」が持つ「構造」、「動き」、「制御」に着目することで、以下の成果を得た。サメ肌や指紋など生物の凹凸構造のモデル系とし、自己組織化によってシリコン表面に形成されるマイクロリンクル構造のトライボロジー特性と微細構造の相関を明らかにした。昆虫複眼のモスアイ構造、タマムシ・蝶の構造色などの光学的特性に焦点を当て、複眼表面の微細構造形成プロセスを発生生物学的手法で解明し、自己組織化によって形成された微細構造のロバストネスが生物模倣材料の利点である示唆を得た。ハムシが水中で歩行できることを見出し、ムシの足先に密集した撥水性の微細毛に保持された空気泡が接着剤として働く事を明らかにした。毛状接着機構の模倣により、水中での配線技術である“セルフアラインメント実装”が可能となる。昆虫ならびに植物の情報伝達に関する高感度性や高い識別性を解析することで、工学的なセンサー開発のアルゴリズムを提唱できる。蛾やハチドリの柔軟翼の変形が、効率的に空気力を発生させることを明らかにし、柔軟伸縮皺フィルムによる人工翼を使った羽ばたき型飛行ロボットを作製した。バイオミメティクスの国際標準化において、我が国から新しいワーキングアイテムを提案し、産業化促進の枠組みづくりを開始した。

審査部会における所見

B (研究領域の設定目的に照らして研究が遅れており、今後一層の努力が必要である)

1.総合所見

 本研究領域は、博物学と工学を情報科学によって連携融合することで、総合的な工学体系としての「生物規範工学」を創成し、持続可能性社会の実現に資することを目的としている。バイオミメティクス推進の観点から、ニーズオリエンテッドなテクノロジーを創出する方法論の実践を行っている点で評価できる。しかしながら、3つの研究項目が集約せず、領域の最終目標が明確でない。一部の計画研究組織は成果を上げているが、研究領域全体として期待された成果を挙げているとは言えない。領域代表のみに一任することなく、計画研究代表者全員が大きな責任を感じて本研究領域を成功させるための一層の努力が必須である。総括班が中心となり領域計画の方向性を再考し、本研究領域の中心的研究を確立させた領域計画書の再提出、およびそれに基づいた計画研究の再編成が必要であり、次年度における進捗状況の確認を要する。

2.評価の着目点ごとの所見

(1)研究の進展状況

 バイオミメティクス推進のみならず、社会におけるテクノロジー創出そのものにも言及し、方法論を構築している。しかしながら、一部の材料開発については興味深い成果が得られてはいるものの、従来の学術領域の範囲内における成果が多く、テクノロジー創出を実現するための各計画研究組織間における双方向の議論と実践が必要である。また、中間報告内容は、計画段階にとどまっているものが多く含まれ、本研究領域発足後2年間の成果としての進歩性が明確でない。テクノロジー創出にかかわるモチベーション維持や開発にかかわる実際の手続き、コミュニケーション、目利きなどを補助する人材の確保が必要である。

(2)研究成果

 一部の計画研究組織は、ニーズオリエンテッドなテクノロジーを創出する方法論の実践を行っている点もあるなど、期待された成果を挙げていると評価できる。しかしながら、高効率太陽電池開発、核酸の分子認識に基づくバイオミメティックな実装技術、生物マルチスケールメカニクス、などエビデンスや学理が明確ではない例が見られ、提示されている新規機能性技術の優位性が必ずしも明らかではなく、本研究領域全体としては期待された成果を挙げたとは言い難い。学術成果のみならず、創造のためのシステムの充実が急務である。

(3)研究組織

 テクノロジー創出を実現するための各計画研究組織間の有機的な連携体制にはなっていない。また、各計画研究組織が非常に多くのメンバーから構成されているが、組織として機能しているのか明確でないため、分担者を含め各組織のスリム化を期待する。また、中間報告では公募研究に関する資料がほとんど見られなかったため、公募研究の役割が評価できない。以上をふまえ、総括班を中心とした強いリーダーシップにより本研究領域全体の有機的な連携が推進されることを望む。

(4)研究費の使用

 概ね問題はない。

(5)今後の研究領域の推進方策

 生命の自己組織的な機構を応用する学理には未だ程遠い。具体的な成果を求められる時期ではあるが、本プロジェクトにおける成功と失敗を鑑み、新たなるバイオミメティクスの概念の見直しと再構築を行うことも重要である。さらに、生物のサブセルラー構造が優れた産業の源となることは明白であるが、そのための全ての研究は困難であるため、焦点をいくつかに絞り込み、研究方法を更に明確にすることが必要である。また、研究助成が終了した後にも、開発されたテクノロジー創生システムを多くの人が利用できる環境作りも重要である。加えて、より広い公募や研究組織の変更等を含めた新たな研究計画の策定が望まれる。総括班も含めて、3年目の審査および進捗状況の確認が必要である。

(6)各計画研究の継続に係る審査の必要性・経費の適切性

 一部の計画研究は成果を出しつつあるものの、本研究領域全体としての目的および研究手法の明確化、研究体制の再構築を含めた領域計画書の再提出が必要と判断する。このため、すべての計画研究について継続に係る3年目の審査が必要である。

お問合せ先

研究振興局学術研究助成課

-- 登録:平成26年11月 --