運動超分子マシナリーが織りなす調和と多様性(宮田 真人)

研究領域名

運動超分子マシナリーが織りなす調和と多様性

研究期間

平成24年度~平成28年度

領域代表者

宮田 真人(大阪市立大学・理学研究科・教授)

研究領域の概要

 “コンベンショナルなモータータンパク質”(以下、“モータータンパク質”という)、すなわち、ミオシン、キネシン、ダイニンについてはこれまでに多くの優れた研究が行われ、分子レベルの力発生メカニズムには一定の理解が得られるようになった。しかし生体運動の中には、細菌や原生生物の表面運動や遊泳運動などのように、“モータータンパク質”のみでは説明できないメカニズムが多数存在している。それらの動きは、運動超分子マシナリーとも言える高度に組織化された構造が内部の調和を保ちながら大きく動くことで生じ、その多様性には地球生命進化の歴史が刻まれている。本領域では、生体運動のメカニズムの中でこれまでにあまり理解の得られていないものを、最新の解析技術を駆使した原子レベルから超分子複合体レベルの研究により解明する。

領域代表者からの報告

1.研究領域の目的及び意義

 “コンベンショナルなモータータンパク質”(以下、“モータータンパク質”という)、すなわち、ミオシン、キネシン、ダイニンについてはこれまでに多くの優れた研究が行われ、分子レベルの力発生メカニズムには一定の理解が得られるようになった。しかし生体運動の中には、細菌や原生生物の表面運動や遊泳運動などのように、“モータータンパク質”のみでは説明できないメカニズムが多数存在している。それらの動きは、運動超分子マシナリーとも言える高度に組織化された構造が内部の調和を保ちながら大きく動くことで生じ、その多様性には地球生命進化の歴史が刻まれている。本領域では、生体運動のメカニズムの中でこれまでにあまり理解の得られていないものを、最新の解析技術を駆使した原子レベルから超分子複合体レベルの研究により解明する。これまでそれぞれ全く別の分野で活躍していた運動超分子マシナリーの研究者が一堂に会し、微生物学、遺伝学、生化学、生物物理学、構造生物学などで用いられる技術をマルチスケールに用いて、研究を展開する。これまでにあまり注目されたことのない運動マシナリーを萌芽研究として育てる一方で、モータータンパク質研究エキスパートの本分野への参入を推進する。様々な生体運動メカニズムの存在を具体的に示すことで、生体運動の発生とその進化に対する理解が飛躍的に進むことが期待される。また、多数の運動マシナリーを比較することで、モータータンパク質を含めた運動マシナリーの本質が理解できることが期待される。

2.研究の進展状況及び成果の概要

 研究テーマは、運動超分子マシナリーの動きパターンから、3つの項目に分かれている。それぞれの成果を以下に示す。【A01反復マシナリー】最小の生物や病原菌などとして知られるマイコプラズマは、ユニークなメカニズムで滑走運動を行う。このメカニズムを明らかにすべく、遺伝子操作法を開発し、滑走装置を構成するタンパク質を特定した。さらに、反応の素過程を直接観察することに成功した。また、細菌において膜の外部にタンパク質を送り出す“輸送装置”が他の因子や基質と結合する部位を化学修飾により決定し、輸送のメカニズムを明らかにした。【A02回転マシナリー】バクテリアのべん毛モーターは固定子の中をイオンが通過することによって生じる構造変化が回転子に伝わることで回転する。この過程を明らかにすべく、イオン選択にかかわる部分と固定子と回転子の相互作用にかかわる部分を特定した。また、固定子のおおまかな形状を明らかにした。【A03複雑系マシナリー】複雑な動きを行うためにそのメカニズムが全く分かっていなかった一群のバクテリアの動きが、菌体表面に存在するループ状の動きによって起こることを明らかにした。磁気感応バクテリアの磁気感応メカニズムに迫るために、感応器官形成の過程を明らかにした。アメーバ運動を推進する細胞極性の形成を行うアクチンの構造変化を直接的な方法でとらえることに成功した。以上を主とする本領域の成果が、総数155編の科学論文として発表された。

審査部会における所見

A-(研究領域の設定目的に照らして、概ね期待どおりの進展が認められるが、一部に遅れが認められる)

1.総合所見

 本研究領域は、細菌のべん毛モーターやマイコプラズマ滑走運動、アメーバ運動における仮足の伸長などにおける、ミオシンやダイニンなどの既知のモータータンパク質に依存しない新規の生体運動メカニズムに着目し、その動きを制御する分子装置「運動超分子マシナリー」の解析により、これらのメカニズムの解明を目指すものである。計画研究はそれぞれの分野で中心的な研究を展開している研究者で構成され、共同研究を含めて着実に成果を上げている。領域代表者を中心とする研究組織による異分野連携促進のための努力も有効に機能しており、評価できる。今後はさらに領域内での連携を推進し、設定目的に合致した領域研究の推進が期待される。一方、1つの計画研究課題から計画研究組織の変更申請があったが、その妥当性については十分な検討が望まれる。

2.評価の着目点ごとの所見

(1)研究の進展状況

 従来研究されてきたモータータンパク質では説明できない運動を担う様々な生体分子モーターの構造、組成、作動原理を解明しつつあり、概ね期待通りの進展を見せている。異なる学問分野の研究者が連携して行う共同研究を含め、計画研究と公募研究が概ね順調に進捗している。研究領域内の分野毎の成熟度には歴史的な経緯に基づく差があり、成熟した研究分野については大きなブレークスルーがより困難であると思われる一方、萌芽期にある分野は成熟分野からのフィードバックをうまく活用することが必要である。個別研究の進展と比較して異分野の連携には改善の余地があり、今後は異分野連携の強化により、それぞれの運動超分子マシナリーの共通性と独自性などの関係性をより明確にし、新しい概念の創出につなげるなど、さらなる成果を上げることを期待する。

(2)研究成果

 関連業績が155編の論文として発表されており、着実に順調な成果を上げつつある。また領域組織によるシンポジウムも多数開催されており、成果の公表、普及に尽力している点も評価できる。一方、特筆すべき成果という点では疑問が残り、残りの2年間でのさらなる成果を期待する。

(3)研究組織

 領域組織での研究情報の交換がよくできており、共同研究も発展している。また総括班が「電子線クライオトモグラフィー」「急速凍結レプリカ電子顕微鏡法」「高速原子間力顕微鏡」「質量分析」などの技術を領域組織の誰でも使用できるような仕組みを作っている点は高く評価できる。今後はさらに3つの研究項目の連携による相乗効果を期待する。

(4)研究費の使用

 研究費は有効に使用されており、質量分析器等の大型機器は、領域全体の研究推進に大きく役立っている。また急速凍結レプリカ電子顕微鏡法に必要な液体ヘリウムの世界的な不足の問題などの障害に対してもよく対処しており、このままの進展が期待できる。その他、研究費の使用について、特に問題点はなかった。

(5)今後の研究領域の推進方策

 本研究領域では、全般的に今後さらなる成果が期待できるが、特にマイコプラズマの滑走運動や磁気感応運動マシナリーなどの比較的歴史の浅い研究については、より大きな成果が期待できる。一方、べん毛運動やアクチンダイナミクスの研究はかなり成熟しているが、今後の新機軸への展開を期待する。

(6)各計画研究の継続に係る審査の必要性・経費の適切性

 1つの計画研究課題については、研究を発展させるために計画研究組織を変更し、そこに所属している連携研究者を独立させて新たな計画研究課題を設置する計画が申請され、また、別の計画研究課題に関しては、より発展が期待できるよう今後の研究計画の見直しが求められた。そのためこれらの2つの計画研究課題に関しては、継続に係る3年目の審査が必要である。

お問合せ先

研究振興局学術研究助成課

-- 登録:平成26年11月 --