ユビキチンネオバイオロジー:拡大するタンパク質制御システム(岩井 一宏)

研究領域名

ユビキチンネオバイオロジー:拡大するタンパク質制御システム

研究期間

平成24年度~平成28年度

領域代表者

岩井 一宏(京都大学・医学研究科・教授)

研究領域の概要

 ユビキチン修飾系はタンパク質分解系の一部として発見された経緯から「ユビキチン」=「分解」として研究が発展してきた。しかしながら現在では、分解に留まらず、多様な役割を果たすことが明確となっている。細胞内には「ユビキチンコード」と呼称できる如くに多様なユビキチン修飾が存在しており、それぞれの修飾により異なる様式でタンパク質を制御することが示されつつある。加えて、ユビキチン研究に必要な研究手法は多様化し、高度な解析手法が要求されつつある。したがって、もはや1つの研究室でその全てに対応するのは不可能な状況にある。そこで、本領域ではユビキチン研究者、ユビキチンが関連する多様な生命現象の研究者を結集してユビキチン研究を遂行するとともに、今後のユビキチン研究に不可欠な実験手技の開発を進める。

領域代表者からの報告

1.研究領域の目的及び意義

 ユビキチン修飾系が他の翻訳後修飾系と大きく異なる特徴の1つは、ユビキチンのポリマーであるポリユビキチン鎖などの多様な修飾様式でタンパク質に結合することでその機能を制御することである。分解のみならず、多彩な生命現象の制御に関与すること、ユビキチン系の異常が種々の疾患に関与することはが明確となり、生命科学におけるユビキチン修飾系の重要性は近年益々拡大している。今や、ユビキチン修飾系の研究手法はライフサイエンスの広汎な領域の研究者にとっても不可欠となりつつあるが、エポックの大きなユビキチン研究の発信には個々の研究室では対応できないほどの多くの高度な解析が要求されるに至っている。そこで、本領域ではユビキチン研究、関連研究に従事してきた研究者を結集し、我が国のライフサイエンス、ユビキチン研究の発展に不可欠である定量的なポリユビキチン鎖検出法、ポリユビキチン化基質の効率的同定法等の最先端の手法の開発を進めるとともに、それらを用いてユビキチン修飾系による新たな生命機能制御メカニズムの解析を進める。本領域の終了時には、領域で確立した我が国のライフサイエンス研究に不可欠な世界レベルのユビキチン解析手法を用いて、生命科学の多くの領域の研究者がそれを活用してユビキチンによる新たな生体制御機構を解明すること、それらの成果を背景に病気の発症・増悪を阻止して健康社会を実現することに貢献することを目指している。

2.研究の進展状況及び成果の概要

 研究項目A01「ユビキチン修飾系による生体制御機構」とA02「ユビキチン修飾の識別、検出法の開発とその応用」を設け、A01では主に種々のユビキチン修飾が制御する生命現象を、A02では主にユビキチン解析ツールの開発研究を推進している。初年度に樹立した世界トップレベルの高感度なポリユビキチン鎖の絶対定量法、ポリユビキチン化基質の効率的同定法を利用して、数多くの領域内共同研究が進行中である。顕著な成果の一例として、ユビキチンのリン酸化がParkinのユビキチンリガーゼ活性を活性化することがパーキンソン病の発症を防ぐプロセスの一端であることを解明し、世界で初めてユビキチンのリン酸化の生理的意義を明らかにしている。また、X線構造解析、NMRを用いた相互作用解析の研究者とユビキチンが関与する生命現象の研究者間の共同研究も数多く展開されており、X線構造解析を用いて直鎖(M1)状ポリユビキチン鎖が刺激依存的にNF-κB活性化の分子メカニズムを解明したのに加え、M1鎖がERKの活性化に関与すること、B細胞リンパ腫の発症に関与することを示す等の成果を挙げている。さらに、領域内共同研究の推進、領域内で見出された研究成果の新規研究手法の開発への応用を弾力的に進めるために、研究情報交換窓口を設け、総計300件のユビキチン関連の研究試料、実験、受託解析を領域で共有するなど、ユビキチン研究のインフラ作りにも取り組んでいる。

審査部会における所見

A (研究領域の設定目的に照らして、期待どおりの進展が認められる)

1.総合所見

 本研究領域は、ユビキチンシステムを従来からの細胞内タンパク質分解という視点のみならず、細胞内シグナル伝達やDNA修飾等への関与という新しい視点を持って生命現象制御に関わる仕組みの理解を目指すものである。計画研究は実績のある研究者で構成され、高感度質量分析による新たなユビキチン鎖の解析技術の構築とともに新規知見の報告もなされ、着実に研究成果を上げている。計画研究、公募研究がうまく嚙み合い概ね領域内での連携も良好である。今後、質量分析技術の有効活用を継続し、さらなる領域研究の推進が期待される。一方、1つの計画研究を減額し、その減額額の9割程度を1つの計画研究に増額するという研究計画の変更申請があったが、研究領域推進にあたっての当該計画の位置づけを明確にした上で、公募研究による補強も視野に入れ、十分な検討が望まれる。 

2.評価の着目点ごとの所見

(1)研究の進展状況

 各計画研究間で領域内連携は十分とられ、概ね計画は順調に進展しており評価出来る。高感度質量分析の導入による新たなユビキチン鎖の解析技術が導入され、今後の研究の展開および他の研究領域への波及効果も期待される。さらに、ユビキチン関連疾患の分子病態についても注目すべき研究の進展があり、ますます進捗著しいユビキチンバイオロジーのメインストリームを牽引する役割を十分に果たしている。一方、一部の計画研究に研究進展の遅れがみられる。

(2)研究成果

 各計画研究の連携により順調に研究が進展し、「新たなユビキチン鎖の解析技術の導入」「PINK1、PARKINの活性制御機構の発見」など全体として着実に研究成果を上げている。また、USP8のガン化への関与など新規知見が蓄積しており、他の研究領域への波及効果も期待される。これら研究の推進を支える高度な質量分析技術のさらなる活用による今後の展開が期待される。

(3)研究組織

 規模の異なる計画研究で構成されているが、研究費の配分も含めてうまく組織され、研究の情報や分析方法の共有が図られるなど各計画研究の連携も十分行われており評価できる。公募研究のバランスもよく、若手の育成も十分配慮されている。

(4)研究費の使用

 高度な質量分析が領域全体で使用可能となっており有効に活用されている。その他、特に問題点はなかった。

(5)今後の研究領域の推進方策

 領域内連携も図られ、高度な解析技術の共有による研究の展開は評価でき、引き続き推進されることを期待する。

(6)各計画研究の継続に係る審査の必要性・経費の適切性

 研究協力者の変更に伴う研究費の減額申請、および高感度質量分析による解析技術のさらなる強化を進めるための研究費の増額申請があった。そのため、これらの計画研究については継続にあたっての3年目の審査が必要である。

お問合せ先

研究振興局学術研究助成課

-- 登録:平成26年11月 --