重力波天体の多様な観測による宇宙物理学の新展開
平成24年度~平成28年度
中村 卓史(京都大学・大学院理学研究科・教授)
100年程前にアインシュタインは一般相対性理論に基づいて重力波の存在を予言したが、まだ直接には検出されていない。米国、欧州と日本は重力波を直接検出するために、各国で大型干渉計型重力波検出器を建設し、その高感度化を進めており、2016年にも重力波の初検出がなされる情勢である。強い重力波は星が重力崩壊してブラックホールになる現象や2つの中性子星が衝突合体する現象等の高密度で重力が極めて強い場合に発生し、強い重力場の未知の情報を人類に初めてもたらすと考えられる。重力波源は必然的に高密度であり、温度も極めて高いことが期待されるので、強い重力波を放出する重力波天体は必然的に強いガンマ線・X 線・光学・電波ならびにニュートリノの源でもある。重力波源からのガンマ線・X 線・光学・電波・ニュートリノ放射を日本の総力を挙げて同時検出する体制を確立し、1 アインシュタインの100年程前の予言は正しかったのか?2 我々人類・地球の起源となる物質は如何にして生まれたのか?等の長年の人類の大きな疑問に答えるのが本領域の主な目的である。
約100年前にアインシュタインは一般相対性理論に基づいて重力波の存在を予言したが、まだ直接には検出されていない。米国、欧州と日本は大型干渉計型重力波検出器の建設と高感度化を進めており、早ければ2015年にも重力波の初検出がなされる情勢である。強い重力波は、星の重力崩壊や、2つの中性子星またはブラックホールが衝突合体する現象等の高密度で重力が極めて強い場合に発生し、強い重力場の未知の情報を人類に初めてもたらすと考えられている。このような重力波源は必然的に高密度であり、温度も極めて高いことが期待されるので、重力波天体はガンマ線・X線・光学・電波ならびにニュートリノの源でもある。重力波源からのガンマ線・X線・光学・電波・ニュートリノ放射を日本の総力を挙げて同時検出する体制を確立し、相対性理論と天体についての長年の人類の大きな疑問に答えるのが本領域の主な目的である。
重力波天体の観測を確立するために、重力波そのものの観測と、補い合う関係にある天体観測が必要である。これらに、重力波天体の理論的な研究をあわせたものが本領域を成している。計画研究A01ではガンマ線・X線、A02は可視・赤外線・電波、A03はニュートリノについて、重力波天体探索に対応する装置の開発や観測(網)の整備をおこなう。一方、A04は重力波観測データを解析し、イベント検出の速報を目指す。またA05は重力波の源・波形の理論で、候補天体の研究や、新しい波源も考える。これらの計画研究は、相互の追観測や同時観測で連携し、重力波天体についての多様な情報を得、理論研究とつきあわせて、重力波天体の正体やその仔細なメカニズムの解明を目指す。
新しい水チェレンコフニュートリノ検出器であるEGADSが神岡鉱山内に於いて稼働を始めた。同じく神岡鉱山内にあるスーパーカミオカンデに比べて有効体積は小さいが、EGADSは反電子ニュートリノを検出し、電子ニュートリノと弁別可能である。これによって近傍での超新星爆発を検出できるだけでなく、中性子化バーストの同定も従来より有利になる。ニュートリノと重力波の相関解析から、超新星爆発の仕組みを解明しうる。
重力波源が我々の銀河の外の場合は、電磁波による追観測が必須である。光・赤外線では、夜間部を繋いで全世界的なネットワークを構築する必要があるが、我が国にはハワイ(すばる)、チリ(東大)、ニュージーランドと南アフリカ(名大)等に望遠鏡がある。さらに、新たに広島大学が中国に望遠鏡を設置する事により、いつどの方向から重力波が来ても対応出来る体制がほぼ出来上がった。
理論的にはガンマ線バーストは有望な重力波源である。我が国は、MAXI(国際宇宙ステーション搭載のX線観測装置)を始め、ガンマ線やX線放射を追観測できる体制が整っているが、さらに強化するWF-MAXI計画の準備を進めている。
どんな重力波が来ても対応できるデータ解析の体制確立が必須である。種々の重力波に対応するにはマンパワーが決め手であるが、本新学術領域のポスドク雇用が有効に機能している。
重力波を予言する理論の役割は重要である。本新学術領域でも、重力波がニュートリノのように振動する可能性や、大質量ブラックホール連星により宇宙で最初の星を確認可能であると言う、新しい可能性を指摘している。
早ければ2015年にも初検出があるかもしれない重力波に対する体制を順調に整えつつある。
A-(研究領域の設定目的に照らして、概ね期待どおりの進展が認められるが、一部に遅れが認められる)
本研究領域では、強い重力場での物理現象を理解することを目的とし、重力波、ガンマ線・X線、可視光・赤外線、ニュートリノという異なる対象分野の研究者グループの連携を行い、重力波を発する天体の同定とその詳細なメカニズムの解明を目指している。一部に遅れ等が認められるが、概ね期待通りの進展が認められる。海外のグループとの共同研究を開始することで、本研究領域の大きな研究目標のひとつである重力波と電磁波、ニュートリノとの同時観測開始時期を前倒し可能としたことは評価できる。研究項目A01、A02については、この国際共同研究に必要な時期にそれぞれの装置が定常運転となっていること、研究項目A03、A04に関しては、計画通りに観測の開始と速報体制の確立が実現することを期待する。
研究領域として上記の目標を達成するため、研究項目X00、A01、A02の計画を再度検討すべきである。
本研究領域では、重力波を発する天体の同定と物理の理解のために、ガンマ線・X線、可視光・赤外線、ニュートリノという異なる対象分野の研究者グループの連携を行い、重力波を発する天体の同定とその詳細なメカニズムの解明を目指している。一部に遅れ等が認められるが、概ね期待通りの進展が認められる。海外のグループとの共同研究を開始することで、本研究領域の大きな研究目標のひとつである重力波と電磁波、ニュートリノとの同時観測開始時期を前倒し可能としたことは評価できる。
X線および可視光赤外域の観測システムの構築に向けて、開発が順調に進んでいる。重力波解析システムの構築、理論研究に関しても順調に進展している。ニュートリノに関しても、若干の遅れがあるものの、同時観測の開始に間に合うスケジュールで進んでいる。KAGRAによる重力波観測開始に向けて、研究成果の積極的な公表・普及に一層力を入れるべきである。
研究項目A03、A04、A05内では研究者相互の連携がとられている様に見受けられる。今後、こうした連携が研究項目A01,A02との間にも発展してゆくことを期待する。計画研究と公募研究の調和や、若手研究者の育成に関して、現在の取り組みが実効的なものとなるよう注視しながら領域を運営していただきたい。
これまでの使用に関しては特に問題はなかった。研究項目X00、A01、A02について、計画見直しに伴い研究費の使用計画を見直すべきである。
研究項目A01については、主計画のWF-MAXIが国際宇宙ステーション搭載不採択となったため、計画の見直しが必要である。研究項目A02については、国際共同研究に必要とされる望遠鏡を確実に稼働させるように必要ならば選択と集中を行うなど、計画の再考を求める。研究項目X00は上記変更を踏まえた研究計画の再検討が必要である。
研究項目X00、A01、A02について、(5)で述べた計画変更のために3年目の審査が必要である。
研究振興局学術研究助成課
-- 登録:平成26年11月 --