「新学術領域研究(研究領域提案型)」生命科学系3分野支援活動の進捗評価に係る所見(がん支援活動)

1.研究課題名

がん研究分野の特性等を踏まえた支援活動

2.研究期間

平成22年度~平成26年度

3.研究代表者

今井 浩三(東京大学・医科学研究所・病院長)

4.研究代表者からの報告

(1)研究領域の目的及び意義

 がん研究の目的は、がんという病気の克服を目指すことである。1981年以降がんは我が国の死亡原因の1位を占める疾患であり、現在がんに罹患する生涯リスクは、男性では2人に1人、女性では3人に1人で2010年には約35万人ががんによって死亡している。約15年後には、我が国の死因の50%ががんであると予測されており、がんという病気の予防・早期診断・個別化治療・新規の画期的治療法の開発などへ寄せる国民の期待は大きい。我が国におけるこれまでのがん研究組織は、国際的なレベルで評価される研究成果をあげてきただけでなく、生命科学研究を牽引する機関車的な役割を担ってきた。また、がん研究を意識した異分野研究者との連携も図ってきた。 若手研究者、次世代の研究者を育成するための育成事業(若手ワークショップや若手間の共同研究の支援)や国際交流なども積極的に行ってきた。本支援活動は、これまでがん特別研究・がん特定領域研究が果たしてきた国内のがん研究者の連携と交流を推進するとともに、共通基盤的な分野での支援を行うバーチャルな研究所という理念を掲げる。がんに関連の深い新学術領域や、腫瘍学分野で申請された基盤研究・若手研究・挑戦的萌芽研究の採択課題を有する研究者を支援対象として、研究者間の連携を図る。さらに、この枠に留まらず、一般科研費で採択された課題についても積極的に支援を行う。この結果、個別研究として国際的な研究成果を生み出すための支援の仕組みを構築する。また、ボトムアップの研究成果を予防・診断・治療へと社会に還元するためのバックアップを行う。

 (2)研究の進展状況及び成果の概要

 生命科学系3分野では、連絡会を開いて支援活動全体の現状と今後のあり方について意見を交換し、各分野の活動に相互参加し班員間の交流を深めた。モデル動物支援では共有リソースとして一元的管理の具体案を検討し、支援活動の効率化や生命科学系分野全体への波及効果の拡大促進を確認した。がん支援分野では、6つの支援班において次のような進展・成果があった。総括支援活動では、公開シンポジウム(6回)、若手ワークショップ(4回)、若手共同研究支援(19課題)、2国間ワークショップ(日韓・日仏・日独・日中で計7回)、研究者国際派遣(12名)、青少年市民公開講座(3回)、ホームページ運営、研究紹介記事の公開、がん研究読本のネット出版等の活動を行った。個体レベル支援活動では、遺伝子導入マウス(42件)、遺伝子破壊マウス(153件)等の作製支援に加えて、CRISPR/Cas9法のような新しい手法の導入、微生物・遺伝モニタリング、凍結保存とクリーニング等も行った。また、病理形態学支援や個体レベルのがん研究ワークショップ(3回)等きめ細かい支援を行った。がん疫学・予防支援活動では、多施設共同コーホートにおいて94,815名の研究参加者を得ている。その結果DNAや血清等の生体試料を研究者に供給して支援している。また、試料の大規模保管管理システムの構築や研究倫理の整備も支援した。HTLV-I研究支援では、感染者登録システムと試料バンクの効率的な運営が維持され、基礎・臨床研究者への供給が行われてATLの発症予防と治療法開発が進んだ。臨床診断研究支援活動では、30種類以上のがんについてがん組織や血液、DNAを収集し研究者に提供している。特に4,000症例からなる組織マイクロアレイは重要で、バイオマーカーを用いた検証研究支援も行った。化学療法基盤支援活動では、新規標的薬候補である化合物評価で273件が効果ありと判定し、腫瘍型特異的な阻害剤を見出すための標準阻害剤キット配布(280件)の他、寄託化合物ライブラリーの提供等を行って、新規治療薬の開発支援を行った。

 5.審査部会における所見

総合所見

 A (支援活動の設定目的に照らして、期待どおりの進展が認められる) 

 本支援活動は、がんの制圧という目標を達成するために、個々の研究者が国際的な研究成果を生み出すための支援の仕組みを構築するとともに、ボトムアップの研究成果を予防・診断・治療へと社会に還元するためのバックアップを行うことを目的としている。公開シンポジウムの開催や研究者の海外派遣を含む国際交流活動、若手研究者の育成等の積極的な取組、リソース・技術支援によるボトムアップの個別研究支援を通じて、世界をリードする「がん」研究の成果が数多く発表されていることから、当初の目的達成に向け、着実に進捗していると評価できる。また、遺伝子組換え動物の支援について、3分野間で標的遺伝子の情報交換を行うことにより重複した作製を避けるなど、3分野間の連携を図る取組を始めた点は評価できる。
 一方で、支援活動と個別研究の切り分けが不明瞭な課題が未だに見受けられる点については、改善が求められる。また、コホート研究については、集積した検体や情報は貴重なリソースであることから、がんに限定せず他の疾患も合わせて実施するなど、長期的な展望を基盤に据えた支援を可能とするため、所管省庁とも相談しつつ、将来的には支援活動とは別の枠組みとすることも含めて十分に検討していただきたい。

評価に当たっての着目点ごとの所見

 マネジメントの適切性については、中間評価結果を踏まえ、領域構成員全員が参加する全体会議を開催して、支援活動の主旨を構成員に徹底させるなど、領域の適切な運営に努めている。
 支援活動の有効性については、リソース・技術支援を通じて最先端のがん研究を支える支援が実施され、支援を受けた研究者から世界をリードする成果が数多く発表されていることから、支援の効果は着実に上がっていると評価できる。特に、臨床試料の支援は極めて有用であり、基礎研究者の研究効率を高めている。
 若手研究者の育成については、二国間がんワークショップへの派遣や若手ワークショップの開催、若手共同研究支援を通し、効果的に行われている。特に、毎年開催している若手ワークショップについては、異分野連携の場を設けることにより若手研究者間の共同研究が生まれているほか、参加者のうち数年後に研究職に就いている者も多いことから高く評価できる。なお、若手研究者の国際性を増すための取組については、国際学会におけるわが国の若手研究者の表現力育成にも留意していただきたい。
 ライフサイエンス分野における各種施策との関係については、支援対象を科研費採択課題とすることで差別化を図ってはいるものの、他の施策との違いが不明瞭な部分もある。
 中間評価結果を踏まえた支援活動の見直し状況については、遺伝子組み換え動物の支援について、3分野支援活動間で標的遺伝子の情報交換を行い、重複した作製を避けるなどの取組を実施するとともに、相互にサイトビジットを行うことにより異分野連携を促進するなど具体的な対応がなされており評価できる。引き続き、がん分野特有の支援と脳、ゲノム支援活動と共通で行い得る支援について検討、整理した上で、最終的には広く生命科学分野全体を発展させるという視点での支援の在り方を3分野支援活動間で検討していただきたい。一方で、本支援活動としての意義が不明瞭な個別研究の切り分けの明確化については、未だ不明瞭な課題が見受けられることから、改善が求められる。
 支援活動の当初目的の達成見込みについては、ボトムアップの個別研究支援、研究者交流、がん研究者のネットワークを通じた情報交換等の支援をすることで、我が国のがん研究者から世界をリードする成果が数多く発表されていること、また、若手研究者育成支援により次世代のがん研究者養成に貢献していることなどから、設定目標は概ね達成できると思われる。
 今後の方向性については、科研費の腫瘍学以外の細目で採択されているがんを対象とした研究課題にも、支援の裾野を広げるべきではないか。また、モデル動物作成については、3分野支援活動間での連携を始めたところだが、支援内容のオプションを同様にして、一体化できるところは一体化していくことが望ましい。一方、コホート研究の今後のあり方については、議論は重ねられているものの方向性は示されていない。コホート研究により集積した検体や情報は貴重なリソースであり、長期的な展望に基づいた支援が必要であるため、がんに限定せず他の疾患(糖尿病・高血圧・痛風・リウマチなど)も合わせて実施することや、省庁の枠を超えた連携や政策の下、他省庁で実施されているコホートとの連携・統合等も視野に入れ、将来的には支援活動とは別の枠組みとすることも含めて十分に検討していただきたい。

 なお、個々の支援活動における進展状況については、個体レベルでのがん研究支援、がん疫学・予防支援、がん疫学・予防支援 HTL-V分野、臨床診断研究支援、化学療法基盤支援に加えて、平成25年度から、ゲノム・エピゲノム解析支援活動を開始し、一定の成果を得るなど各支援活動は着実に進展している。ただし、HTLV-Iについては、アジア特異的であるため需要が少なく、個別研究との境界が明確でない。それでも支援に値するかを議論すべきである。テロメラーゼ研究も同様であり、支援のための研究と支援活動をどのように整理するかが問われるところである。
 広報活動の一つとしてホームページ上で公開している「がん研究読本」は、誰もが読めるわかりやすい内容で、ダウンロード数も多く、効果的な普及活動ができていると評価できる。

お問合せ先

研究振興局学術研究助成課

-- 登録:平成26年04月 --