予測と意思決定の脳内計算機構の解明による人間理解と応用(銅谷 賢治)

研究領域名

予測と意思決定の脳内計算機構の解明による人間理解と応用

研究期間

平成23年度~平成27年度

領域代表者

銅谷 賢治(沖縄科学技術大学院大学・神経計算ユニット・教授)

研究領域の概要

 本領域の目的は、人の意思決定の原理と脳機構を、論理学や統計推論の理論、人の行動解析と脳活動計測、実験動物での神経活動の計測と操作、計算機シミュレーションとロボットによる再構成を通じて解明することである。意思決定には、直感的、習慣的なモデルフリーの機構と、予測的、計画的なモデルベースの機構が考えられるが、これらがいかに選択され統合されるのか、後者で必要な「脳内シミュレーション」による行動結果の予測がどのような神経回路の働きにより実現されているのか、またそれらが分子や遺伝子よりいかに制御されているのかを、最新の実験技術と数理手法を駆使して明らかにする。これによる思考、意識、意欲など心のしくみの新たな理解により、意思決定の障害をともなう精神疾患の解明と処方の導出、人の意思決定の特性にねざした教育プログラムの提案、人に親しみやすいロボットや情報技術の開発などの応用をめざす。

領域代表者からの報告

審査部会における所見

A (研究領域の設定目的に照らして、期待どおりの進展が認められる)

1.総合所見

 本研究領域は、人の意思決定の原理とその脳機能のメカニズムを、心理学、計算論、ロボット工学、精神医学、分子イメージング等の多彩なアプローチによって解明しようとする意欲的な領域である。異なる分野の専門家がうまく配置され、研究項目ごとに成果をあげつつある。様々な実験系で、モデルフリーとモデルベースの意思決定を比較対比させながら、脳内シミュレーションの神経回路網や分子レベルの実体と理論モデルが構築されており、研究の方向性は領域内において十分共有されていると思われ、領域の設定目的に照らして、期待どおりの進展が認められる。各研究項目内での成果は特筆すべきものが複数あがっている一方で、研究項目間・異分野間の連携が不十分な部分も見受けられる。今後の領域代表者のリーダーシップによる異分野間の連携の強化に期待する。

2.評価の着目点ごとの所見

(1)研究の進展状況

 意思決定に関わる要素の「モデルフリー」と「モデルベース」の計算方式を根幹に据えて、それらを使い分ける機構と「モデルベース」の予測的意思決定を可能とする諸条件を多面的(実験)アプローチから抽出することに前半は力点が置かれている。幾つかの計画研究においては領域の設定課題に沿う重要な成果が得られつつあり、順調に研究が進んでいる。個別の研究項目では方向性は見えているが、共同研究の展開も考慮すると、新興・融合領域創成の萌芽的段階と考えられる。その一方で、広い研究領域であり、焦点が絞られていない感もあるため、今後、領域代表者の積極的なリーダーシップにより、研究項目間での連携を図る必要がある。

(2)研究成果

 大変難しい研究領域にもかかわらず、ブレークスルーを図ろうとする情報科学と脳科学の若手研究者の意欲が感じられる。旧来の学術的枠組みを超えて新興融合領域としての活動を進める中で、各研究項目に具体的な成果が現れてきている。「サルの報酬予測における前頭前野外側部の推移的推論の発見」「モノアミン類による報酬予測の制御」は重要な成果であり、高く評価できる。また、「脳内イメージング」「疫学的研究のデータ収集」も成果を得つつある。研究項目内ではすでに連携が見られ、方向性はしっかりしている。研究項目を超えた連携の強化によるさらなる研究成果に期待する。

(3)研究組織

 共同研究や公開シンポジウム、若手研究者の育成、アウトリーチ活動が推進されており、研究組織として十分に機能していると評価できる。

(4)研究費の使用

 特に問題点はなかった。

(5)今後の研究領域の推進方策

 各研究項目内においては大変重要な成果が生み出され、それらが原著論文として取りまとめられていることから高く評価できる。今後は、項目間・異分野間の有機的な連携をはかり、焦点を絞りこんだ融合研究の推進が望まれる。

(6)各計画研究の継続に係る審査の必要性・経費の適切性

 いずれの計画研究も概ね順調に進行しており、継続に係る審査の必要はない。また、研究経費に関しても特に問題はない。

お問合せ先

研究振興局学術研究助成課

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-- 登録:平成25年11月 --