精神機能の自己制御理解にもとづく思春期の人間形成支援学(笠井 清登)

研究領域名

精神機能の自己制御理解にもとづく思春期の人間形成支援学

研究期間

平成23年度~平成27年度

領域代表者

笠井 清登(東京大学・医学部附属病院・教授)

研究領域の概要

 人間の脳がつむぎ出す精神機能の最大の特長は、高度な言語能力と社会性の上に自我が成立し、その精神機能が再帰的に制御可能な点にある。これによって人間は自ら脳機能を制御し、意識的な自己発展を図ることができる。この「自己制御精神」は、進化の過程でヒト前頭葉が格段に発達した中で獲得されたもので、個体においても、前頭葉が成熟する思春期に確立する。思春期は、社会環境に適応した自己を形成するためのきわめて重要なライフステージであり、ここでの発達の歪みは、現代の若年層に見出される深刻なこころの問題や社会病理に多大な影響を及ぼす。本領域は、人間における自己制御精神の成立、思春期における発達過程を個人・集団レベルで解明し、分子から社会までの統合的・学際的アプローチで《思春期における自己制御精神の形成支援》を目指す新たな人間科学を確立する。

領域代表者からの報告

審査部会における所見

A (研究領域の設定目的に照らして、期待どおりの進展が認められる)

1.総合所見

 思春期における精神機能の自己制御性に注目することで総合的な人間科学の創出を目指した学際的な研究領域である。個々の研究成果は着実に蓄積されており、これまでのところは順調に進展している。融合研究の成果はこれからであるが、認知発達心理学や臨床医学等の分野への波及効果も期待できると考えられる。

2.評価の着目点ごとの所見

(1)研究の進展状況

 本研究領域は、思春期の時期に発達する自己制御性に注目することで、異なる学問分野の研究者が連携して行う共同研究等の推進により、既存の学問分野の枠に収まらない新興・融合領域の創成を目指すものである。これまでに、精神保健学、疫学、進化心理学、神経経済学の連携を目指した研究が進行しており、書籍出版の計画もあることから、研究は期待どおりに進展していると評価できる。ただし、個別の研究については順調に進展しているが、異分野連携の共同研究に関しては、いまだ十分な成果を示すに至っていないと思われる。今後、さらに各計画研究の融合させることが期待される。

(2)研究成果

 個々の分野の研究成果は十分に評価でき、特に、コホートや統合失調症の自己制御異常関連バイオマーカーの同定は特筆すべき成果と思われる。しかしながら、異分野連携の共同研究に関して、現時点では有機的に連携して展開されるまでには至っておらず、今後の進展に期待したい。
 他領域への波及効果に関しては、認知発達心理学や臨床医学などの分野への成果の波及が期待される。今後、より具体的な形で融合研究を進めることが求められる。

(3)研究組織

 研究組織はよく考えられた構成になっており、個々のグループのコンピテンシーは高い。一方で、連携の効果をより高めるための工夫が求められる。

(4)研究費の使用

 特に問題点はなかった。

(5)今後の研究領域の推進方策

 各計画研究の連携の部分がまだ十分に見えておらず、今後、個々の研究を融合させる具体的なプラットフォームの構築が期待される。
 また、大規模なコホート研究を行うにあたり、統計や調査の専門家からの助言を受ける体制を構築しているが、公募研究等により統計等の専門家を新たに加えることが円滑な研究の推進のために必要と思われる。

(6)各計画研究の継続に係る審査の必要性・経費の適切性

 各計画研究は順調に進められており、経費も適切であると考えられる。継続に係る審査は必要ない。

お問合せ先

研究振興局学術研究助成課

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-- 登録:平成25年11月 --