少数性生物学―個と多数の狭間が織りなす生命現象の探求―
平成23年度~平成27年度
永井 健治(大阪大学・産業科学研究所・教授)
生命現象の本質の一つとして、“数個から数10個程度”の少数の要素分子から構成されるナノシステムが“協同的”に動作することが挙げられる。このような小数の分子が協同的に反応することで、出力の安定化に寄与する一方、分子の少数性に起因する不安定な出力も起こり得る。この反応の曖昧さがひいては階層を超えたマクロな生命システムの動作安定性と一部の動作不安定性に結びつく可能性があり、生命の動作原理を理解する上で、極めて重要な観点といえよう。しかしながら、細胞内における少数の分子反応を扱う理論も技術も無かったため、これまでほとんどアプローチされてこなかった。そこで本研究領域では、超解像顕微光学、光分子制御技術、細胞生物学、数理科学などの諸分野を融合することで、個と多数の狭間が織りなす生命現象にアプローチする新学術領域を形成し、生命現象一般を説明しうる統一的動作原理の提出を目指す。
A-(研究領域の設定目的に照らして、概ね期待どおりの進展が認められるが、一部に遅れが認められる)
本研究領域は、一分子と多分子の狭間である少数個の分子が織りなす化学反応システムに依存する生命現象にアプローチするという新しい学問分野の創成を目指し、超解像顕微光学、光分子制御技術、細胞生物学、数理科学などの異分野融合研究が共同研究により積極的に行われている。また、多くの企業や企業研究者が参画しており、多くの産学共同研究が進んでいることは特筆に値する。
その一方で、計画研究の一部に本領域の主旨である「少数性生物学」との関連を汲みにくい課題も含まれており、全体としては概ね期待どおりに進展しているが、一部に遅れが認められると評価した。1分子生物学でもなく多分子生物学でもない「少数性生物学」という新しい概念の理解をまずは領域内で共有できるよう領域代表者のリーダーシップに期待したい。
「少数性生物学」という新興・融合領域の創成に向けて、領域の確構成員が高いモチベーションを持って尽力し、着実に進展している。本領域は、分子の観察、定量解析、理論など様々な分野に関わる研究者により組織されており、異分野連携の共同研究により実験科学だけでは解決できない問題を数理科学者とともに解決しつつある。また、産学共同研究も積極的に進められ、新しい方法論などの開発も行われている。
他領域への波及効果については、関連シンポジウムの開催や他領域との交流など、「少数性生物学」という新しい学問分野の浸透に向けた活動も評価できる。
発表された論文などの成果は、少数性生物学のための準備段階のものが多く、これらをベースに今後の発展が期待される。領域内での共同研究も順調に進んでおり、「少数性生物学」の進展に不可欠な技術の開発に繋がっている。一方で、これまでの成果や技術の中には必ずしも「少数性生物学」と直接結びつかないものや関連性が見えにくいものが含まれており、今後、これらが実質的な「少数性生物学」に展開していくことを期待する。
若手研究者を中心としたメンバー構成で活発に研究活動が行われているものの、「少数性生物学」という概念が必ずしも領域内で共有されておらず、今後、「少数性生物学」という新しい概念の共通理解を進めるべく、領域代表者のリーダーシップに期待したい。
特に問題点はなかった。
1分子生物学でもなく多分子生物学でもない「少数性生物学」の本質に迫るべく、明らかにすべき点を明確にし、領域内で目標を共有する必要がある。
本領域の主旨に沿った成果があがっていない一部の計画研究については、継続に係る審査が必要である。
研究振興局学術研究助成課
-- 登録:平成25年11月 --