ゲノム・遺伝子相関:新しい遺伝学分野の創成(高山 誠司)

研究領域名

ゲノム・遺伝子相関:新しい遺伝学分野の創成

研究期間

平成23年度~平成27年度

領域代表者

高山 誠司(奈良先端科学技術大学院大学・バイオサイエンス研究科・教授)

研究領域の概要

 生物の設計図であるゲノム情報は、均一化されたゲノムを持った扱い易いモデル生物において解読が進む一方で、自然界の生物集団における遺伝子やその制御エレメントには驚くほどの多様性が存在する。従って、高次の生命現象は複雑に絡み合う遺伝子産物の組合せによる相互作用(ゲノム・遺伝子相関)を通じて決定され、外的要因や相手方に対する頑健性、可塑性、多様性を生み出しているが、その分子メカニズムは明らかではない。本新学術領域では、このようなゲノム・遺伝子相関を対象とする先進的な遺伝学研究を集約し、様々な生命現象の根幹を支えるゲノム・遺伝子相関機構の普遍性、多様性を明らかにすることで、ポストゲノム時代の新たな学術領域を先導する。

領域代表者からの報告

審査部会における所見

A-(研究領域の設定目的に照らして、概ね期待どおりの進展が認められるが、一部に遅れが認められる)

1.総合所見

 本研究領域は、古典的遺伝学の枠を超えた新しい遺伝学分野の創成を目指すものである。様々な生物種を扱う遺伝学の専門家が集結し、各計画研究からは興味深い成果が順調に得られている。しかしながら、各計画研究の連携による研究成果に関しては、まだ十分顕在化しているとは言えず、従来のエピジェネティクスの枠にとどまっている感があるため、一部に遅れがあると判断した。種を超えた共通原理の解明、さらにはエピジェネティクスを超えた新学問分野の構築に向けて、「ゲノム・遺伝子相関」という概念をより明確化することが必要である。
 今後、異種生物間相互作用について、どのような範囲の相関を、どのように解明していくのか、新たな共同研究の方向性も含めて戦略を明確にするとともに、ゲノム相関関係の解析及びエピスタシスに関する研究の推進に当たっては、公募研究等による情報科学分野の研究者の強化が望まれる。

2.評価の着目点ごとの所見

(1)研究の進展状況

 個々の研究レベルは高く、連携も進んでいる点で評価できる。しかしながら、まだ生物種を超えた共通事項を模索している段階であり、異分野連携による新たな展開が生まれるまでには至っていない。当初より課題であった「ゲノム・遺伝子相関」という概念がまだ十分に明確になったとは言えない。
 新視点・新手法の共同研究については、多様な研究者のオリジナルな視点や手法が展開されている点は評価でき、概ね期待どおりの進展と言える。MutMap法などの新規技術による共同研究も積極的に行われているが、異種間の相互作用の解析を可能にする共同研究の成果の顕在化には一層の努力が必要と思われる。
 他領域への波及効果のポテンシャルは高いと考えられるが、現状では、領域を超えた交流を積極的に進めているという状況ではない。しかし、古くからの問題に対する解決の糸口をつかむなどの成果が得られており、今後の論文発表等により他の研究領域へも波及効果をもたらすことが大いに期待される。

(2)研究成果

 自家不和合性の分子機構、いもち病菌と宿主との相互作用におけるエフェクターの網羅解析など、領域の目的に合致する興味深い成果が各計画研究から順調にあがっている。一方、計画研究間での微生物・動物間、植物・動物間の連携研究が試みられたが、現時点での成果は必ずしも明瞭とは言えない。遺伝学の新しい学問分野の創成、共通原理の解明を目指すには、「ゲノム・遺伝子相関」の概念を明確化した上で、連携研究を進める方策について今後十分検討を重ねる必要がある。
 MutMap法などの生物種を超えて適用可能な手法が開発されてきている点は大いに評価できる。新規技術を駆使し、さらなる研究の加速、共同研究の拡大が期待される。「ゲノム・遺伝子相関」の姿を描き出す最適なモデル系を選定し、開発された新規手法の活用例を示すことが必要と思われる。
 遺伝学の新しい学問分野の創成を目指す本研究領域が、波及効果をもたらすポテンシャルは高いと考えられるが、現時点ではその効果は十分顕在化しているとは言えない。関連領域等と合同で情報交換の場を持つなど、今後の発展に期待したい。
 また、若手研究者の育成やアウトリーチ活動が非常に活発に行われている点は大いに評価できる。なお、アウトリーチ活動については、一部の計画研究に偏っており、今後は他の計画研究においてもより積極的に取り組んでいただきたい。

(3)研究組織

 様々な生物種を扱う遺伝学の専門家を集結して相乗効果を生み出す組織構成となっている。また、若手研究者を中心とした公募研究の採用や若手主催のシンポジウムなど、次世代育成の取組やアウトリーチ活動を積極的に行っている点は評価できる。今後、ゲノム相関関係の解析及びエピスタシスに関する研究の推進に向けた情報科学分野の研究者の強化が課題である。

(4)研究費の使用

 特に問題点はなかった。

(5)今後の研究領域の推進方策

 実績のある研究者が集結しているが、従来のエピジェネティクスの枠にとどまっている感があり、「ゲノム・遺伝子相関」で目指すべき新しい学問分野の創成には至っていない。互いに議論を深めて共有するとともに、計画研究間の連携の強化も行うことにより、エピジェネティクスを超える概念を導き出せるような戦略を打ち出すことを期待する。
 また、本研究領域内では多くの生物種を扱った研究が展開されており、生物種を超えた共通原理の解明において有効だと思われるが、より効率よく遺伝子相関の研究を進めるためには、生物種を絞って集中的に多くの情報を集めて解析を密にすべきではないかとの意見もあった。
 また、ゲノム相関関係の解析及びエピスタシスに関する研究の推進に関しては、情報科学の専門家の強化が望まれる。

(6)各計画研究の継続に係る審査の必要性・経費の適切性

 各計画研究の研究成果は順調に得られている。一方で、「ゲノム・遺伝子相関」で構築すべき新学問分野が必ずしも各計画研究で共有されているとは言えないため、領域内での議論を深め、本研究領域が目指す新しい遺伝学分野の創成に向けた個別の計画研究の位置付けを、より明確にする必要がある。そのため、一部の計画研究について継続の審査が必要である。研究経費については概ね妥当であり、特に問題点はなかった。

お問合せ先

研究振興局学術研究助成課

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-- 登録:平成25年11月 --