脳内環境:恒常性維持機構とその破綻(高橋 良輔)

研究領域名

脳内環境:恒常性維持機構とその破綻

研究期間

平成23年度~平成27年度

領域代表者

高橋 良輔(京都大学・大学院医学研究科・教授)

研究領域の概要

 脳は多彩な細胞群からなるコミュニティーであり、神経細胞の健全性は周囲のグリア細胞等の保護機能や細胞間分子の授受など、「脳内環境」の恒常性によって維持されている。脳病態形成においては神経細胞そのものの変調のみならず、グリア細胞による炎症や異常タンパク放出を介した病巣の伝播など、脳内環境の破綻も大きな役割を果たすことが最近の研究でわかってきた。本領域では、従来の脳疾患研究が注目してこなかった「脳内環境」に着目し、様々な分野の研究者を交えた融合研究領域を創出する。具体的には、神経細胞変調の分子機構、ならびに多様な神経細胞死、損傷がもたらす脳内の生体応答機構の理解を通じて、脳内環境の恒常性維持機構とその破綻により生ずる病態の解明を目指す。

領域代表者からの報告

審査部会における所見

A (研究領域の設定目的に照らして、期待どおりの進展が認められる)

1.総合所見

本研究領域は、脳を神経細胞と周囲のさまざまな非神経細胞(グリア細胞)などの多細胞から形成されるコミュニティとして捉え直し、神経疾患の病因として細胞内だけでなく、これらの細胞から放出されるメディエータを介する応答の場を含めた「脳内環境」の破たんに着目し、その恒常性維持及び破綻に至るメカニズムを、イメージング技術なども駆使して、分子病態を明らかにしようとする意欲的な領域である。
基礎研究と臨床医学、形態学と生理・薬理などの機能学、さらには、脳における細胞内環境-細胞外環境、それら相互の影響などを有機的に連携した「脳内環境学」が順調に進展している。すでに異分野連携による共同研究も生まれており、また、ヒトに限らず新たな生体機能分子のイメージング手法を得意とする研究者を集結し、新規PET用製剤によるイメージング等の新手法を開発するなど、研究は概ね順調に進展している。
一方、公募研究が多数になった結果として、領域の目指す方向性とはいささか異なる研究も散見されることから、2回目の公募研究選定の際は、応募内容をより精査する必要があると思われる。また、研究成果の多くは既存の神経科学の範疇にとどまっているため、領域として掲げる「脳内環境」に合致した研究のさらなる推進が望まれるとの意見もあった。

2.評価の着目点ごとの所見

(1)研究の進展状況

本研究領域は、神経系を構成する主体である神経細胞自体の異常だけではなく、グリア細胞やそれが放出する様々なメディエータによって細胞外環境が保護的環境から毒性環境に転換する、という新しい観点から神経疾患を捉えようというものである。研究計画は概ね順調に進展していると考えられる。
臨床神経科学者を主体としながら、神経解剖学、細胞生物学、神経生理学、遺伝学、行動神経科学等、広範な研究バックグラウンドを持つ研究者により研究領域を組織しており、着実に異分野連携が進展している。一方、研究成果はあがっているものの、連携が十分に見えない公募研究もある。
また、イメージングを専門とする研究者の新たな知見をもとに、領域内での共同研究を推進している点も評価できる。

(2)研究成果

脳内環境からさらに全身環境の調節、全身からの影響までを視野に入れ、領域内の多くの研究者へのリソース提供、イメージング技術・プローブ提供など計画研究と公募研究の有機的な連携から、異なるアプローチ、異なるスケールの研究が着実に進展し、既に多くの成果が得られており、論文発表数及びその質も申し分ない。
また、イメージングについては、毒性タンパク凝集体や障害性ミクログリアのPETイメージング、in vivo、 ex vivoでの酸化ストレスイメージング技術などに優れた新手法の開発があり、今後の発展も期待される。

(3)研究組織

基礎から臨床までの幅広い背景を持つ計画研究代表者に、特徴ある研究を推進している若手研究者を多く公募研究代表者として加え、バランスのよい研究組織が構築されている。また、人材育成、アウトリーチ活動も熱心に行われている。一方、公募研究の数がやや多くなった結果、各研究項目における目標が絞り切れていないとの意見もあった。

(4)研究費の使用

特に問題点はなかった。

(5)今後の研究領域の推進方策

基礎から臨床、形態と機能、分子-細胞-細胞外環境-個体機能など、異なるアプローチ、異なるスケールをシームレスにつなぎ、脳内環境学ともいうべき領域を形成しつつある。公募研究代表者の多くが30代から40代前半であることから、自ずと異分野共同研究と若手育成が実現できるようなプラットフォームが出来上がっていることは評価でき、実際に多くの共同研究が生まれている。
一方、領域代表者のリーダーシップのもとで公募研究をある程度絞り込み、領域全体としての目標達成に向け、効率的に研究を進めていく必要もあると思われる。また、一層の若手研究者育成を図るためにも、領域班会議だけでなく、若手中心の勉強会や分科会の開催も考慮されたい。

(6)各計画研究の継続に係る審査の必要性・経費の適切性

いずれの計画研究も順調に進行しており、継続に係る特段の審査の必要はない。

お問合せ先

研究振興局学術研究助成課

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-- 登録:平成25年11月 --