シンクロ型LPSO構造の材料科学 ―次世代軽量構造材料への革新的展開―(河村 能人)

研究領域名

シンクロ型LPSO構造の材料科学 ―次世代軽量構造材料への革新的展開―

研究期間

平成23年度~平成27年度

領域代表者

河村 能人(熊本大学・先進マグネシウム国際研究センター・教授)

研究領域の概要

 我が国で見出された、濃度変調と構造変調が同期した新奇なシンクロ型LPSO構造に関する新たな材料科学の学術領域を打ち立てる。そのために、学理探究に必要不可欠な物理、化学、材料、機械分野の実験と理論・計算科学に関連する最先端の知的・技術的資源を結集した組織的な連携研究により、シンクロ型LPSO構造に関する構造科学の構築、濃度・構造変調設計原理の確立、変形ダイナミクスの解明、さらにはキンクバンド強化という新しい材料強化原理・理論の構築を行い、我が国で開発された超高強度LPSO型Mg合金のみならず、次世代軽量構造材料への革新的展開に繋げる。

領域代表者からの報告

審査部会における所見

A+(研究領域の設定目的に照らして、期待以上の進展が認められる)

1.総合所見

 マグネシウムは資源が豊富で比強度比剛性の高い材料であり、今後の低炭素社会においても期待される。この分野で従来の常識を覆すシンクロ型LPSO構造を有する合金が、我が国で発見された。現実の応用に向けて極めて有望であるがメカニズムの本質が解明されていないこの革新的な構造について、計測、計算及び材料プロセスの研究者が融合し、新しい材料の創製原理を検討する研究領域である。実用を見据えた応用研究との切り分けがよくできており、メカニズムの本質を対象とした基礎的研究に絞った本領域の目的は明確である。領域運営については、領域代表者の強力なリーダーシップのもと、6つの部会と事務局を設置して研究支援活動を組織的に進めるなど、工夫されている。異なる学問分野の研究者の連携のもと、多数の成果が出ており、特に、Mg-Al-RE系LPSO相については、STEMの直接観察によりREの濃縮が積層欠陥部の2層のみでなく4層にわたって起きていることを見出すなど当初予想していなかった成果もあげており、期待以上の進展が認められる。量子線や放射光を用いた精密構造解析も、まだ初期的なデータが出た段階であるが、既に本研究課題に対する有用性が見出されており、今後の成果が期待できる。
 我が国発の新素材として発展が期待されるものであり、引き続き集中的にLPSO構造の解明を目指してほしい。将来の実用化に向けて、異なる分野間でより踏み込んだ融合が加速されることを期待する。

2.評価の着目点ごとの所見

(1)研究の進展状況

 総括班は、本領域研究を戦略的かつ効果的に推進することを目的に、6つの部会と事務局を設置して領域運営と研究支援活動を組織的に進めている。代表者の強力なリーダーシップと優れた研究者の集団によって、研究は順調に進展していると思われる。領域内の共同・融合研究も活発に行われている。
 熊本大学と大阪大学を試料の供給拠点と位置付けて、早くから整備したことで、共通試料の配布を効率よく行うことにより、異分野の研究者の密な連携が実質的に行われている点は、高く評価できる。

(2)研究成果

 LPSOという一つの目標のために、多くの研究者の異なった研究手段が結集されており成果が上がっている。研究期間前半の成果は順調で、400件余の優れた論文が発表されているほか、若手研究者を中心として92件の受賞がある。 特に、原子レベルの構造解析は当初予想しなかった結果を得るなど、その存在意義を示している。それに対して、第一原理計算が単なる後からの説明以上の貢献をいかにできるかが期待される。量子線を用いた研究では、まだ初期的なデータが出た段階であるが、既に本研究課題に対する量子線及びその場測定の有用性が見出されており、高く評価できる。力学特性発現機構の解明では、新強化原理の確立を目指して、回位など新しい方向も検討されており、評価できる。

(3)研究組織

領域代表者のリーダーシップのもと、研究項目間で連携が良くとれている。

(4)研究費の使用

特に問題点はなかった。

(5)今後の研究領域の推進方策

 将来の実用化に向けて応用研究のプロジェクトも別途進められており、実用化へのビジョンと学理の探求をバランスよく推進していくことが期待される。そのために、異なる分野間でのより踏み込んだ融合が期待される。LPSOの機能のメカニズム解明が、より優れた新材料の開発の基礎となるように知識を体系化していただきたい。
 また、実用化にあたっては、破壊力学特性、疲労やクリープなど機械設計の観点からの力学特性の基礎的研究に力点を置くことも検討することが期待される。

(6)各計画研究の継続に係る審査の必要性・経費の適切性

 各計画研究はいずれも順調に進展しており、継続に係る審査は必要ない。ただし、一部の計画研究で、成果としての論文発表が見えにくいため、今後の積極的な発表を期待する。研究経費は、全ての研究項目について適切である。

お問合せ先

研究振興局学術研究助成課

Adobe Readerのダウンロード(別ウィンドウで開きます。)

PDF形式のファイルを御覧いただく場合には、Adobe Readerが必要です。
Adobe Readerをお持ちでない方は、まずダウンロードして、インストールしてください。

-- 登録:平成25年11月 --