超低速ミュオン顕微鏡が拓く物質・生命・素粒子科学のフロンティア(鳥養 映子)

研究領域名

超低速ミュオン顕微鏡が拓く物質・生命・素粒子科学のフロンティア

研究期間

平成23年度~平成27年度

領域代表者

鳥養 映子(山梨大学・医学工学総合研究部・教授)

研究領域の概要

 「超低速ミュオン顕微鏡」によるイメージング法を確立し、スピン時空相関という概念に着目して、界面が関わる多様な物理・化学・生命現象の発現機構を理解する新しい学術領域を開拓する。深さ方向にナノメートル、横方向にサブミクロンの分解能で、局所的な電子状態とそのダイナミクスを明らかにすることにより、界面のスピン伝導や触媒反応、表面‐バルク境界領域のヘテロ電子相関など、表面・界面・薄膜・微小領域における基礎研究、応用研究を展開する。そのために 超低速ミュオン顕微法を確立し、さらに物質創成の原理に迫るミュオンの超冷却と尖鋭化に取り組む。これにより、大強度陽子加速器施設J-PARCの世界最強パルスミュオンを生かした、物質・生命・素粒子基礎物理研究の世界的研究拠点を構築する。

領域代表者からの報告

審査部会における所見

A (研究領域の設定目的に照らして、期待どおりの進展が認められる)

1.総合所見

 本研究領域は、原子核物理に応用されてきた加速器技術を基礎とし、原子物理学やレーザー物理学、さらにイオン光学を利用して、従来想像し得なかった高分解能の超低速ミュオン顕微鏡を開発するものであり、まさに新興・融合領域研究の好例である。超低速ミュオン顕微鏡を使って、固体物理のみならず、触媒化学や表面科学、さらに生命科学や素粒子科学にまで貢献するという研究構想は大変魅力的であり、大きな期待を抱かせる。J-PARCハドロン施設の事故による中断にもかかわらず、現在、ほぼ予定通りに研究が進展していることは高く評価できる。
 ほぼ完成し設置も完了した超低速ミュオン顕微鏡については、中心部となるミュオニウムのレーザーイオン化に用いるレーザーの高強度安定運転の達成が今後のポイントであり、一層の努力を期待する。また、超低速ミュオン顕微鏡を利用する様々な実験研究は、研究期間のかなり後半にずれ込むことが予想されるため、モチベーションを高く持ち続け、J-PARCの状況に応じて柔軟な対応を図る努力が求められる。

2.評価の着目点ごとの所見

(1)研究の進展状況

 超低速ミュオン顕微鏡の開発という目標に対して、研究項目A01及びA04に参画している研究者を中心に基幹部の熱ミュオニウム発生装置の開発と設置が順調に行われている。また、研究項目A02及びA03に参加して顕微鏡を用いた物性実験を実施する予定の研究者も関連する様々な実験や理論開発を進めてきている。J-PARCの事故によりビームの高度化を図る計画が中断しているにもかかわらず、準備研究が各計画研究で着実に進められている点は高く評価できる。さらに、様々な研究会を通じたプロジェクトの普及や異分野の学会などへのアウトリーチ活動に努めながら、応用展開を積極的にアピールしている点も評価できる。

(2)研究成果

 低速ミュオンビーム開発は、日本が長年の間、研究開発を担ってきた実績があり、J-PARCにおける大強度ミュオンビームの供給を得て、研究期間の前半はビームラインとレーザー整備を中心に研究開発が進んだ。特に、研究項目A01及びA04における集中的な開発により、J-PARCにおけるミュオンビームライン、熱ミュオニュウム発生、レーザーイオン化、ビーム輸送系、SR実験用分光器などの整備が、短期間で完成したことは特筆に値する。さらに、イオン化用のレーザーが全固体結晶レーザーを使って発振に成功したことも高く評価できる。現段階で、超低速ミュオン顕微鏡はほぼ完成し設置されている。また新たなターゲット材料の開発も順調に進められている。

(3)研究組織

 本研究領域の推進に向けて、加速器物理、レーザー物理、物性研究者が一丸となって研究開発を実施しており、ミュオンビームの最適化のほか、研究項目A01とA04に参加するメンバーによるレーザーシステムの構築や研究項目A01、A02、A03に参加するメンバーによる分光器の構築など異分野連携の共同研究が多彩に行われている。
 また、若手研究者の自由な発想による自立した研究活動を促すために所属機関の協力を得てエフォート15%分の裁量研究を保証するなど、若手研究者育成に向けた取組も評価できる。

(4)研究費の使用

 特に問題点はなかった。

(5)今後の研究領域の推進方策

 本研究領域において鍵を握るのは、超低速ミュオン顕微鏡の中心部であるミュオニュウムのレーザーイオン化であり、その成功がなければ後に続く研究展開にも困難が生じる。現在は、必要な光の生成に一応の目途がついたという段階であり、今後、セラミック材料の採用による高出力化と高安定化という挑戦的な取組を成功させるための一層の努力が必要であろう。
 さらに、超低速ミュオン顕微鏡を利用する立場の研究者(すなわち、研究項目A02及びA03に参画している研究者)の活躍は、顕微鏡が計画通りに完成しても研究期間のかなり後半にずれ込むなることが予想されるため、それまでの間モチベーションをいかに高められるかが大切であり、J-PARCの今後の運転状況に応じて柔軟に計画変更する必要も予想される。

(6)各計画研究の継続に係る審査の必要性・経費の適切性

 各計画研究共に、開発研究(研究項目A01及びA04)や準備研究(研究項目A02及びA03)が着実に進められている。本研究領域の重要な舵取りを担う総括班においても、様々に連携する仕組みを強化する取組がなされている。今後、超低速ミュオン顕微鏡の本格運用に向けて、総括班を中心に各計画研究代表者は、研究の進展に応じて優先度の再検討や推進計画の修正を加えられる多面的な研究計画を準備しておく必要はあるものの、いずれも現時点で継続に係る審査の必要はない。また、研究経費は妥当であると認められる。

お問合せ先

研究振興局学術研究助成課

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-- 登録:平成25年11月 --