超高速バイオアセンブラ(新井 健生)

研究領域名

超高速バイオアセンブラ

研究期間

平成23年度~平成27年度

領域代表者

新井 健生(大阪大学・基礎工学研究科・教授)

研究領域の概要

 マイクロ・ナノロボティクスを基盤として、in vitro環境で機能する3次元細胞システムを構築する「バイオアセンブラ」の超高速計測操作手法と組織機能発現の原理を解明する。生体から取り出した細胞の物理的特性を超高速で計測し、細胞システム構築に有用な活性細胞を分離する「細胞特性計測制御」、複雑な形状の3次元細胞システムを成型し組み立てる「3次元細胞システム構築」、作製された3次元細胞システムの増殖・分化誘導・形態形成制御と移植応答を解明し、in vitro での機能解明と比較検証を行い再生医療への応用を図る「3次元細胞システム機能解明」の3つの研究項目を有機的に連携させ、医工学的に有用な形態と働きを持つ人工的な3次元細胞システムを創生する。

領域代表者からの報告

審査部会における所見

A (研究領域の設定目的に照らして、期待どおりの進展が認められる)

1.総合所見

 本研究領域は、公募研究を含めた研究組織全体がよく構成されており、一つのモデルケースである。領域内にユニークなアイデアが結集することで、細胞ソートによる3次元構築や、医工連携による動物臨床実験など、本領域内で急速に展開している新しい研究がいくつか見られる。それらは新学術領域を形成することで初めて実施可能な研究であり、新しい学術領域の創成に向けて期待どおりの進展が認められる。また、各計画研究からも着実に成果が出てきており、血管形成に関する研究成果等計画以上の進展も見られると評価できる。
 一方で、現時点での各計画研究の成果は、その多くが本新学術領域発足前に行われていた個人研究の延長線上にある。今後はそれらの成果を本領域の共通基盤として、領域内での連携を一層強化し、グループ研究としての成果を目指さなければならない。また、各計画研究は、現状では工学的アプローチによるツール開発に重点が置かれている。「超高速バイオアセンブラ」の基礎となる3つの学問を構築するためには、それら学問の指導原理や支配法則を明らかにすることが不可欠であり、学問的に深みある基礎研究も遂行していく必要がある。

2.評価の着目点ごとの所見

(1)研究の進展状況

 「異分野連携の共同研究」という点については、工学系の計画研究間で共同研究が精力的に進められているほか、工学系とバイオ・医学系の間で医工連携が進展しており、具体的には、ロボット、マイクロ・ナノシステム、幹細胞生物学、生物化学、骨再生という異なる研究分野の間で共同研究が見られる。ただ、この医工連携については、細胞シートなどの提供により医学系から工学系へ向かう連携は活発である一方、工学系から医学系へ向かう連携は端緒に就いた段階と言える。また、計画研究と公募研究間、さらには公募研究間でも多様な共同研究が開始されているが、異分野連携の度合いについては、工学系計画研究間での共同研究を除くと、現時点ではそれほど強くない。
 「多様な研究者による新たな視点や手法による共同研究等の推進」という点については、工学系計画研究から新視点や手法が多数提案されており、医歯学系計画研究でそれら手法の採用が始まりつつあるほか、工学系と医学系の間で、試作された試料やデバイスの相互提供などが行われている。また、計画研究と公募研究の間でも新しい視点での共同研究が進められている。
 「他領域への波及効果」という点については、「バイオアセンブラ」の名前を冠したシンポジウムやワークショップの開催、国際学術雑誌での特集号の発行などが10回以上実施されており、これらを通じて、ロボット工学や再生医療などへの波及効果が期待できる。また、サイエンスカフェやプレス発表も積極的に行われている。若手研究者の育成についても、国際会議発表や人的交流を支援するだけでなく、本領域内外との交流を積極的に推奨している。さらには、工学系中心の新学術領域らしく、製薬会社や化学メーカーとの産学連携や、再生医療機器の製品化なども進められており、これらは経済的波及効果を生む可能性を有している。

(2)研究成果

 「異分野連携の共同研究」という点については、フローサイトメトリーと工学系の連携により、良好な試験結果が得られている。今後のさらなる発展が望まれる成果である。研究項目A01とA02の領域内共同研究からも成果が出されており、マウス細胞を用いた実験により、細胞腫に関係なく細胞径と通過時間の間に線型関係が存在することを見出すとともに、腫瘍細胞と正常細胞を効率よく分離できることを示している。その他、iPS細胞分化の血小板産出過程の可視化と産出量の増加を実現している。これらも今後の展開が期待できる成果である。
 多様な研究者による新たな視点や手法による共同研究の成果として、マイクロ流体チップ方式による赤血球の粘性効果を排除した硬さ評価法の確立、二本指マイクロハンドによる自動化システムの開発、そのシステムを用いた細胞ファイバー、環状スフェロイド、細胞シート形成が実証されている。また、ハイドロゲルファイバー足場への自動集積技術を提案し高速集積と細胞生育を確認しているほか、細胞含有パーツの生成と自律的構造体の形成に成功しチューブ型構造の高速形成方法を提案するなど、具体的な成果が出されている。
 さらに、ヒト由来細胞シートの作成により、角膜、中耳、食道組織再生などのヒト臨床応用に向けた展開が行われており、これらはライフサイエンス分野への波及効果を持つと評価できる。

(3)研究組織

 研究組織はよく構成されており、領域内の共同研究も進んでいる。今後、総括班に設置される予定のタスクフォースにより、一層異分野連携等が進むことを期待する。また、生体システムにおける自己組織化現象に関する研究者の追加を検討すべきと思われる。

(4)研究費の使用

 特に問題点はなかった。

(5)今後の研究領域の推進方策

 フローサイトメトリーと骨再生に関する連携を強化すべきであるが、これらについては総括班に設置予定のタスクフォースに期待する。なお、タスクフォースは、領域内連携や、具体的な軟組織や硬組織として何を選択し集中するかというような戦略を議論するだけでなく、領域内融合を一層活性化させるために、軟組織研究と硬組織研究の間を橋渡しする役割も同時に担うことが望まれる。
 学理の構築という点では、本領域が構築を目指している3つの学問「細胞ソート工学・3次元細胞システム設計論・細胞社会学」について、それらに含まれる個々のツールを開発するだけでは不十分であり、各学問に含まれる支配法則の提示や、指導原理の確立が望まれる。
 また、組織を作るための自己組織化のみならず、作られた組織が生体内に置かれたときに起きる生体の自己組織化現象との相互作用についての知見が、特に臨床応用を行う場合に必要となるであろう。これについては4年目からの新たな公募研究で補うなど、領域内での検討が必要である。
 最後に、本領域から出される研究成果が普遍的な学術成果となっていくように、今後の研究の方向性に対する領域代表者の明確なビジョンと力強いリーダーシップが求められる。

(6)各計画研究の継続に係る審査の必要性・経費の適切性

 いずれの計画研究も順調、あるいは概ね順調に進行しており、継続に係る審査の必要はない。

お問合せ先

研究振興局学術研究助成課

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-- 登録:平成25年11月 --