天然物ケミカルバイオロジー:分子標的と活性制御(上田 実)

研究領域名

天然物ケミカルバイオロジー:分子標的と活性制御

研究期間

平成23年度~平成27年度

領域代表者

上田 実(東北大学・大学院理学研究科・教授)

研究領域の概要

 本領域では、日本の分子科学領域の未踏分野である天然物リガンドの分子標的同定を中核として、「化学構造(化学)から作用機序(生物学)を経て、超活性単純化アナログ創成(化学)へ」至るケム・バイオ・ケミストリー=天然物ケミカルバイオロジーを切り拓く。領域の構成は、ケミカルバイオロジーのテクノロジーをベースとした天然物有機化学に、医学・生物学的活性評価を融合したものとなっている。分子標的同定に基づく作用機序解明は、天然物リガンドのラショナルな構造簡略化など合成的機能改変による自在な活性制御を可能とする。領域の基盤技術である新規天然物リガンドの探索を含む、組織的かつ包括的なアプローチによる学術的基盤の構築が今こそ必要である。

領域代表者からの報告

審査部会における所見

A (研究領域の設定目的に照らして、期待どおりの進展が認められる)

1.総合所見

 本研究領域は、我が国に定着しつつあるケミカルバイオロジーに伝統的な天然物有機化学を融合させることにより、日本の強みである豊富な天然物リガンドを活用した独自のケミカルバイオロジーを一気に発展させようとするものである。天然物リガンドの標的同定を中核に据えた研究戦略により、その生物学領域への波及効果を大幅に増強するとともに、膨大な試行錯誤をせざるを得なかった天然物リガンドからの有用アナログ開発を合理化することを目的としている。
 各計画研究では質・量ともに一定以上の水準の成果を得ており、当該分野の発展に大きく寄与していると判断できる。また、数多くの分野間連携とアウトリーチ活動も行なっており、本研究領域の目的に照らして期待どおりの進展が認められる。

2.評価の着目点ごとの所見

(1)研究の進展状況

 「異なる学問分野の研究者が連携して行う共同研究等の推進」の状況については、化学者と生物学者の連携、及び天然物化学者と生体機能関連化学者の連携など、異分野連携が力強く進められている。若手研究者の多くの交流があることも評価すべき点である。一方で、異分野連携に関しては、今後はインフォマティクス分野と材料科学分野の参入が期待される。さらに、ヒトの細胞、生物倫理の点には配慮が必要であり、この点についても今後注視したい。
 「多様な研究者による新たな視点や手法による共同研究等の推進」の状況については、天然物リガンドの標的決定と構造単純化リガンドの開発により、新たな観点から作用機序が見出され、また活性制御手法が考察されるなど、共同研究による領域の発展が示されている。ポストゲノムに横たわる、オーファンな遺伝子をフォワード手法で解明する大きな共同研究で、期待が持てる。

(2)研究成果

 「異なる学問分野の研究者が連携して行う共同研究等の推進」の成果としては、既に100件以上の共同研究がスタートしており、標的決定されたリガンドも25件以上と順調に業績が上がっている。論文及びシンポジウムなどによる研究成果の公表・普及も良好である。
 「多様な研究者による新たな視点や手法による共同研究等の推進」という観点では、半田ビーズの広がりが成果として評価できる。また、標的同定では副作用の原因となるオフターゲットも同定され、副作用を低減するリガンド設計に活かされつつある。リガンドの糖化による活性スイッチングなど、波及性の高い成果も上がっている。領域の推進により多くの新視点、手法の研究が萌芽されると期待できる。

(3)研究組織

 計画研究代表者の研究機関の異動に対しても柔軟に対応し、研究体制の維持に配慮するなど、領域代表者を中心としたマネジメントが十分になされており、本研究領域の推進に対して努力が認められる。

(4)研究費の使用

特に問題点はなかった。

(5)今後の研究領域の推進方策

 今後は、インフォマティクス分野及び材料科学分野の研究者が参入することで、より一層の研究の発展を期待したい。また、すでに市販されている半田ビーズに依存しすぎていると思われるため、他のリガンド選択法の開発にも期待したい。今後の研究の方向性が課題である。

(6)各計画研究の継続に係る審査の必要性・経費の適切性

 各計画研究は順調、あるいは概ね順調に進展しており、継続に係る審査は必要ない。領域全体の研究の方向性を意識して、研究を推進してほしい。

お問合せ先

研究振興局学術研究助成課

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-- 登録:平成25年11月 --