3次元構造を再構築する再生原理の解明 (阿形 清和)

研究領域名

3次元構造を再構築する再生原理の解明

研究期間

平成22年度~平成26年度

領域代表者

阿形 清和(京都大学・大学院理学研究科・教授)

領域代表者からの報告

1.研究領域の目的及び意義

 近年、<再生医療>が新しい医療として期待されているものの、多くが幹細胞移植の範囲におさまるものが多く、失った指をはやす- といった挑戦的な研究が少ないのが現状である。そこで、本研究では、日本の看板研究の一つであった<再生研究>の成果をもとに、3次元構造をもった指や器官の再生を目指す- 新しい再生医療をめざす研究領域を作るのが本領域研究の目的である。
 日本の<基礎的な再生研究>は、遺伝子操作の困難だった再生能力の高い動物での遺伝子操作に成功し、世界的にも高い研究成果を蓄積し、飛躍の時を迎えている。そこで、本研究では、新学術領域研究にふさわしい形で、分子レベルで高い研究成果を出している再生研究者をコアとして、再生できない動物を研究対象に加え、基礎研究と再生医療研究とをつなぐ新しい学問潮流を作ることを目指す。具体的には、(1) 3次元的な形のある再生を可能にしている分子メカニズムを解明し、(2) 再生できないものがどのステップで止まっているかを明らかにし、その知見をマウスへと展開させ、(3) それらの成果を受けて3次元構造をもった指や器官の再生を目指す- 新しい再生医療の研究領域を作る─の3点を目的として研究を展開する。

2.研究の進展状況及び成果の概要

 再生の普遍原理の探索においては、再生初期に入るシグナルが普遍的にERKであることが、プラナリア・網膜・四肢の再生で証明され、論文として出版された。また、ERKシグナルがその後にディスタリゼーション・シグナルとしても機能していることがプラナリア・四肢再生の系で証明された。さらに、プラナリアにおいては、引き続いて活性化されるβcateninシグナルが、ERKシグナルと拮抗作用することでインターカレーションが引き起こされることがわかり、インターカレーションの分子実体が初めて明らかにされた。
 初期のERKの活性化が起きないことが再生不能の原因になっていることが示唆されるとともに、カエルでは変態後においてShhの四肢特異的エンハンサーがエピジェネティカルに不活化されることがトランスジェニック・カエルを用いて明らかにされた。ERKの活性化やエピデェネティックな操作をすることで、再生不能動物でどこまで再生を誘導できるようになるかが今後の焦点となった。次世代シークエンサーを用いて様々な再生過程の遺伝子プロファィルのデータベースの構築も行った。
 <再生研究>と<再生医療>をつなぐ共通プラットフォームを構築するために、<再生研究>のトレーニングコースや世界のトップの再生医療研究者と再生生物学者を呼んでの国際交流シンポジウムを開催した。われわれが目指す<再生研究>と<再生医療>の融合による<次世代の再生医療>について、積極的なアウトリーチ活動を行った。

審査部会における所見

 A (研究領域の設定目的に照らして、期待どおりの進展が認められる)

1.総合所見

 本研究領域は、生物学的視点から3次元的構造を持った器官の再生を目指すものである。様々なモデル動物を用いて、3次元レベルでの臓器形成に関する共通原理を導き出すことを目標としている。中間評価までの目標と当初設定したプラナリアの再生も世界に先駆けて成功するなど、実績を上げている。また、領域代表者の提唱する、再生の新たなパラダイム”distalization&intercalation”は世界的にも注目されており、先駆的な研究領域と考えられる。今後、臨床的な視点を持った研究者の参画を実現することができれば、本領域のさらなる発展も期待できる。

2.評価の着目点毎の所見

(1)研究の進展状況

 本研究領域は、細胞から臓器・器官を構築して再生医療に応用する可能性を秘めている。プラナリアの再生に成功するなど着実な研究成果が得られ、今後の発展も期待できる。「多様な研究者による新たな視点や手法による共同研究等の推進により、当該研究領域の新たな展開を目指すもの」としては、再生医療関係の研究者向けトレーニングコースやジョイントセミナーを開催し、知的レベルの共有を推進していることは評価できる。
 しかしながら、全体として研究計画の設定目標が高いため、研究成果での研究期間内の目標達成は遺伝子改変マウスにおける再生医療についてのさらなるブレークスルーが必要と考えられる。また、理論生物学者の参画が予定よりも少なく、理論から実験へのより緊密なフィードバックが望まれる。

(2)研究成果

 「多様な研究者による新たな視点や手法による共同研究等の推進により、当該研究領域の新たな展開を目指すもの」としては、それぞれの研究項目については概ね順調な成果を上げており、論文発表による成果公表についても評価できる。特に再生の普遍原理解明における成果は順調である。哺乳動物の四肢が再生しない理由については未だに不明であるが、これを解決すべく努力している。また、アウトリーチ活動や情報発信などによる、研究成果の普及については高く評価できる。一方で、「当該領域の研究の発展が他の研究領域の研究の発展に大きな波及効果をもたらすもの」としては、再生医学への出口を模索しているが、現状では本領域への参加研究者が少ないため、今後、心臓・肝臓等の各臓器の再生という概念を含めれば参画する研究者が増えると考えられる。

(3)研究組織

 領域代表者の強力なリーダーシップのもと、異分野の研究者が互いに理解し、相互発展につなげようとしている点は高く評価できる。

(4)研究費の使用

 特に問題点はなかった。

(5)今後の研究領域の推進方策

 領域内の連携に向けた取組は高く評価でき、引き続き推進することが期待される。今後は、数理学者や臨床研究者との連携を通じて、再生の普遍原理の理解、臨床応用を図ることが望まれる。

お問合せ先

研究振興局学術研究助成課

-- 登録:平成24年12月 --