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シナプス・ニューロサーキットパソロジーの創成 (岡澤 均)

研究領域名

シナプス・ニューロサーキットパソロジーの創成

研究期間

平成22年度~平成26年度

領域代表者

岡澤 均(東京医科歯科大学・難治疾患研究所・教授)

領域代表者からの報告

1.研究領域の目的及び意義

 神経変性疾患においては、遺伝子変異から、タンパク構造異常、タンパク凝集、細胞機能障害、細胞死に至る変性の大筋が明らかになって来た。しかし、100年来の問いである『系統変性』すなわちニューロサーキット特異的病変の原因については全く明らかになっていない。さらに、変性疾患研究は治療開発の時代に突入したが、進行期に変性タンパクを除去しても症状は十分に改善しないことが明らかになり、シナプス初期病変の重要性が注目されている。一方、発達障害においても、細胞機能障害からシナプス異常に至る分子病態プロセスは症状進行の時間軸は異なるものの、変性疾患と共通する点が多いことが明らかになりつつある。さらに、精神疾患においても脳の各部位でのトランスミッターやシナプスの異常と表現型の関連が示唆されている。
 このような背景を踏まえ、種々の変性疾患・発達障害性疾患・精神疾患において、遺伝子異常が各種の細胞機能異常を介してシナプス異常に至る分子過程と、サーキット選択性をもたらす病態を明らかにし、各種疾患から得られた成果の比較統合から病態の相違と共通性を明確にし、新たな病態分類と疾患治療の基本戦略を探る。さらに、先端的分子イメージングを用いてシナプス分子病態ダイナミズムの可視化をはかり、iPSを含む幹細胞の病態からの回復・再生過程のシナプス形成について解析を進める。
 本領域の目的は、脳神経疾患研究において従来行われて来た、タンパク凝集あるいは細胞死を対象とする研究ではない。また、正常シナプス解析を基盤とするシナプスバイオロジーとも異なる。疾患そのもののシナプス・サーキット変調を、次世代型先端技術を駆使して様々な角度から解析することで、シナプス・サーキットパソロジーを切り開くことができる。翻ってシナプスの正常機能についても新たなブレークスルーをもたらす可能性を含み、その成果は我が国の脳神経疾患研究全体の学術水準の向上につながるものと考える。本領域に参画する領域代表者・計画研究代表者は特定領域病態脳などの支援を受けて、前述の変性の大筋を明らかにした。この成果を分子イメージング、幹細胞の先端技術研究者とともに、新たな脳疾患コンセプトへ止揚する。

2.研究の進展状況及び成果の概要

 本領域研究は、新しいイメージング技術、iPS細胞技術などを用いて、シナプスレベルあるいはサーキットレベルでの新たな切り口で脳神経疾患の病態解明を行い、このような観点での研究を進める若手研究者を育成し、新たな研究領域を形成することを目的としている。これまでに、2光子顕微鏡を用いて脳疾患モデルマウスの神経細胞をin vivoで観察することが可能になり、公募班員との共同研究4件を含め、発達障害と変性疾患の遺伝子組み換えモデルマウスの解析が多数進行中である。iPS細胞についても、アルツハイマー病患者からの細胞株を樹立した。また、神経細胞のCAMK II活性をin vivoで直接観察する新規技術も確立した。これらの技術革新は、多くの班員の研究に提供される予定である。変性病態とシナプス分子の関係についても、アミロイド産生に関わる細胞膜上の酵素ADAM10がneuroligin 1を切断することなど新たな知見が得られている。サーキット特異的なマーカータンパク質発現系も開発が進行しており、運動ニューロン変性に関わる新たな分子機構が明らかになった。さらに、採択時に指摘のあったグリア細胞機能障害と脳疾患の関連についても、バーグマングリアの変性に関わる新規分子Maxerの発見、グリア細胞と軸索再生をつなぐ新たな分子的基盤の発見など重要な成果を得ることが出来た。これらの多数の成果は、Nature Genetics、 Nature Medicine、 Lancet Neurology、 Nature Neuroscience、 Molecular Cell、 Am J Hum Genet、 EMBO Journal をはじめとして、282報の国際論文となり、インパクトファクターの総計は1430を上回る。このうち、13件はプレスリリースされ68件のマスコミ発表につながった。また、国際特許取得4件ならびに多数の特許申請につながっている。また、領域形成については、25件の共同研究が進行中であり、領域全体で16名の若手研究者の昇進があり、22件の若手研究者の受賞があった。これらのことから、本領域研究は領域形成および成果の面で順調に進行していると考えられる。

審査部会における所見

 A (研究領域の設定目的に照らして、期待どおりの進展が認められる)

1.総合所見

 本研究領域は、機能的な神経回路の障害や変化が、精神・神経疾患の基盤に存在する、という発想に基づいた学問分野の創成を目指したものである。研究進捗状況及び研究成果について、「既存の学問分野の枠に収まらない新興・融合領域の創成を目指すもの」、「異なる学問分野の研究者が連携して行う共同研究等の推進により、当該研究領域の発展を目指すもの」、「多様な研究者による新たな視点や手法による共同研究等の推進により、当該研究領域の新たな展開を目指すもの」、「当該領域の研究の発展が他の研究領域の研究の発展に大きな波及効果をもたらすもの」のいずれの観点からも高く評価できる内容である。領域代表者のリーダーシップにより、研究者間の共同研究の推進や若手研究者の育成活動も活発に行われている。

2.評価の着目点毎の所見

(1)研究の進展状況

 「既存の学問分野の枠に収まらない新興・融合領域の創成を目指すもの」としては、神経変性疾患や精神疾患の病態理解に関して、基礎と臨床の融合が図られていると評価できる。「異なる学問分野の研究者が連携して行う共同研究等の推進により、当該研究領域の発展を目指すもの」、「多様な研究者による新たな視点や手法による共同研究等の推進により、当該研究領域の新たな展開を目指すもの」としては、従来の神経変性疾患、精神疾患の研究者と、イメージング研究者、幹細胞研究者の間での連携がうまく機能しており、個体イメージングや疾患iPSの樹立などの共同研究も順調に行われていると評価できる。「当該領域の研究の発展が他の研究領域の研究の発展に大きな波及効果をもたらすもの」としては、本研究領域の研究の進展により、脳の病態に関連したシナプス・神経回路レベルでの変化の実体が解明される事で、他の脳科学研究分野にも大きな影響を与えることが可能であると考えられる。疾患に関連した分子がシナプス機能に与える影響を解析した論文がこの研究領域より公表されつつあり、脳の生理機能を理解する上でもこれらの成果は大きな影響力を持つと考えられる。また、他の脳科学研究関連の新学術領域研究との連携も緊密である点も評価できる。

(2)研究成果

 「既存の学問分野の枠に収まらない新興・融合領域の創成を目指すもの」としては、精神・神経疾患の基盤には、機能的な神経回路の障害や変化が存在するという考え方を裏付ける成果が出ており、十分な成果が上がっていると評価できる。
 「異なる学問分野の研究者が連携して行う共同研究等の推進により、当該研究領域の発展を目指すもの」及び「多様な研究者による新たな視点や手法による共同研究等の推進により、当該研究領域の新たな展開を目指すもの」としては、神経変成疾患・精神疾患研究者とイメージング研究者の共同研究により、神経細胞内キナーゼ活性を大脳皮質視覚野において観察した論文は技術的なレベルとしても極めて高いものであり、今後の脳疾患研究への応用も期待できると評価できる。
 「当該領域の研究の発展が他の研究領域の研究の発展に大きな波及効果をもたらすもの」としては、脳病態に関する研究から、逆に脳の生理機能についての理解が深まることを示した点において、他の研究領域への波及効果は大きいと考えられる。

(3)研究組織

 領域代表者のリーダーシップのもと、総括班が中心となり新しいイメージング技術やiPS細胞を利用した共同研究、若手研究者の育成活動も積極的に行われている点は高く評価できる。

(4)研究費の使用

 特に問題点はなかった。

(5)今後の研究領域の推進方策

 今後、個別に得られた研究成果を結び付け、シナプスやサーキットの障害と精神神経疾患の発症メカニズムを直接結び付けることができる成果を期待したい。また、これまでは神経疾患を対象とした研究が中心となっているため、精神疾患を対象とした研究についても注力が望まれる。

お問合せ先

研究振興局学術研究助成課

-- 登録:平成24年12月 --