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電磁メタマテリアル (萩行 正憲)

研究領域名

電磁メタマテリアル

研究期間

平成22年度~平成26年度

領域代表者

萩行 正憲(大阪大学・レーザーエネルギー学研究センター・教授)

領域代表者からの報告

1.研究領域の目的及び意義

 電磁気学に関するマクスウェルの方程式には、物質を特徴づける物理量として誘電率と透磁率が現れる。これらの量は物質に含まれる原子の種類やその配列から決定される量であるが、光領域ではスピンが光の高周波数に応答できないため自然界に存在する物質は真空と同じ透磁率となり、さらに、誘電率がとりうる値の範囲も限られている。しかし、1960年代末にロシアの Veselago が誘電率と透磁率が両方とも負 (ダブルネガティブと呼ばれる) の場合に何が起こるかを考察し、光が界面で「く」の字に曲がる負の屈折や、平板が集光レンズになるなどの極めて異常な性質が現れることを理論的に予言した。しかし、このような物質が自然界に存在しなかったことから、Veselagoの研究は永らく忘れ去られていたが、今世紀初めに、英国の Pendryや米国のSmithらにより、波長よりも小さな金属要素 (メタ原子と呼ばれる) をうまくデザインして配列すれば、このような奇妙な物質が作製できることが示された。ダブルネガティブに限らず、有効誘電率や有効透磁率が自然界ではありえないような値をとる人工物質をメタマテリアルと呼んでいる。
 本研究領域では、メタマテリアルの概念が基本的には電磁波の波長によらずに共通であることを積極的に利用し、マイクロ波、テラヘルツ波、光波までの研究者が密接に連携して、1. 3次元メタマテリアルの作製、2. 偏光制御メタマテリアルの作製と電磁波伝搬特性解明、3. 新奇現象の探索、の研究を行う。

2.研究の進展状況及び成果の概要

 マイクロ波領域では、設計・作製法が進展し、3次元メタマテリアルが作製されるとともに、極めてコンパクトな通信用実用デバイスへの応用がなされつつある。また、メタマテリアルの巧みな設計により、電磁誘起透明化による群速度の制御や第2高調波の発生効率の増強などが実現された。テラヘルツ波領域では、超微細インクジェットプリンタを用いる作製法などが進展し、テラヘルツ波放射用デバイスなどに応用されつつある。光領域では、トップダウンとボトムアップの両方のアプローチで、様々な形状のメタ原子構造が作製されている。また、トレンチ型金属/絶縁体/金属構造共振器を有するメタ表面を創製し、ナノ共振器内の希土類イオンの磁気双極子遷移強度が磁場分布により大きく影響されることを実験的に明らかにした。
 マイクロ波領域で開発された右手/左手系混合伝送線路型メタマテリアルの概念が、フォトニック結晶における群論的な考察により一般化され、ディラックコーン型のバンドが現れるための条件が明らかとなった。磁性体を含む非相反メタマテリアルについても、マイクロ波と光領域の研究者の連携も進みつつある。
 気体プラズマを用いたマイクロ波用メタマテリアルでは、放電状態により屈折率がダイナミックに制御できることを実証するとともに、高強度のマイクロ波入射により非線形な屈折率変化が起こり、マイクロ波の透過率が上昇する興味深い現象を見出した。

審査部会における所見

 A-(研究領域の設定目的に照らして、概ね期待どおりの進展が認められるが、一部に遅れが認められる)

1.総合所見

 電磁メタマテリアルを新しい電磁・光学機能性材料と捉え、マイクロ波から光波までの電磁波に対して、新概念の創出、設計手法・数値計算・作製技術の開発、新規物理現象の解明を有機的に統合し、世界を主導する新分野を確立するとの挑戦的課題を掲げた領域である。植物由来のらせん状器官を利用したメタマテリアル作製に成功し、メタマテリアルの大量合成に道を拓いたこと、メタマテリアルでフラットバンドやディラックコーンを実現したことなど、個々の研究では優れた研究成果が出ており、高く評価できる。今後、領域全体として新しい知見を獲得して学術基盤を構築するとともに、この分野で先行している欧米諸国に対しての優位性を明らかにするため、最終的なターゲットをより明確にして、研究グループ間及び海外との連携を推進することが強く求められる。

2.評価の着目点毎の所見

(1)研究の進展状況

 「既存の学問分野の枠に収まらない新興・融合領域の創成等を目指すもの」としては、当初、米国などに比べて遅れている部分もあった電磁メタマテリアルの分野であるが、電気工学、光学、物理学、電波通信工学、材料科学、合成化学、プラズマ、ナノテクノロジー、計算科学など幅広い分野の研究者が連携して研究を進めたことで、全体として新興の融合領域が形成しつつある。また、「異なる学問分野の研究者が連携して行う共同研究等の推進により、当該研究領域の発展を目指すもの」としては、マルチフェロイックやグラフェン・ベリーフェイズなどの分野が刺激し合い、新しい研究分野が生まれつつある。さらに、「当該領域の研究の発展が他の研究領域の研究の発展に大きな波及効果をもたらすもの」としては、メタマテリアルを用いた非線形光学効果の増大など、他の分野へ波及効果のある成果が出始めている。また、公開講演会やワーキング研究会などを積極的に開催し、若手研究者や企業研究者に対する普及活動を行うほか、化学分野、マイクロマシン(MEMS)分野など他領域の研究者に対してメタマテリアル研究の裾野を広げる活動を行っている。

(2)研究成果

 「新興・融合領域の創成等を目指すもの」の点では、植物由来のらせん状器官を利用したメタマテリアル作製など、日本が強い材料研究、特に、物性研究およびナノテクノロジーの融合により新興の融合領域を形成しつつある。また、マイクロ波・テラヘルツ波領域では、独自のアイデアで負の屈折率物質が作製されており、光領域では、ボトムアップによる各種手法による要素技術を開発して成果を上げている。このように水準の高い興味深い成果が出ているものの、国内及び国際的な場で主導的な役割を担うまでには至っていない。また、「異分野連携の共同研究」としては、マルチフェロイックやグラフェン・ベリーフェイズなどの分野が刺激し合い、フラットバンドやディラックコーンの実現など、新しい成果が得られている。また、卍型要素の研究を光領域とテラヘルツ領域間で展開し、注目される成果を出すなど、様々な異分野連携が行われている。一方で、海外との連携は十分ではない。さらに、「他の研究領域の研究の発展に大きな波及効果をもたらすもの」としては、メタマテリアルを用いてマイクロ波領域において非線形光学効果を増大させることに成功するなど、他分野への波及効果をもつ成果も出始めている。

(3)研究組織

 特に問題点はなかった。

(4)研究費の使用

 特に問題点はなかった。

(5)今後の研究領域の推進方策

 要素技術の開発は概ね順調であり、新学術領域の創成に繋がるような大きな成果はこれからという段階である。海外でも大きく進展している研究分野であり、世界の中での本研究領域の位置付けをしっかり行い、領域代表者のリーダーシップにより研究領域としての方向性を明確にし、最終的なターゲットをより具体的に示して研究を推進することが求められる。また、メタマテリアルの設計問題は、人工物の新たな設計論としても関心の高いところであり、要求機能の定式化、構造の仮説と最適化アルゴリズム開発、必要情報の不完備性といった想定される難問題をどのように解決しているのかなど、デザインの方法論としての独自性や課題があれば示してほしい。なお、評価資料の大幅な提出遅延があった。領域代表者には今後の適切な領域運営を強く求めたい。

お問合せ先

研究振興局学術研究助成課

-- 登録:平成24年12月 --